ベネマン前米国農務長官がユニセフ事務局長に!?

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トラックバックを頂いたProust Cafeさんのエントリー"人間が失った「予知能力」"で知ったのだが、あの前米国農務長官アン・ベネマン氏が、5月に、UNICEF(国連児童基金)の次期事務局長に就任するという。
この前も書いたが、彼女は、「フレーバー・セイバー・トマト」という世界初の遺伝子組換え作物を商品化し、その後世界最大の組換え作物メーカー、モンサント社に買収されたカルジーン社の元・重役でもあるし、また輸出拡大のための「貿易自由化」の推進役としても有名な人物。農務長官という肩書きは、ほとんど米国アグリビジネスの利益代表と変わらない(参考:「USDAは「アグリビジネス産業省」、デタラメな米国BSE対策の根源 新レポート」)。そんな彼女が今度は、飢餓や貧困にあえぐ世界の子どもたちを支援するUNICEFの事務局長とは。。冗談にしてもキツすぎ。


世界の飢餓の原因には、もちろん自然環境の悪化や紛争による混乱などもあるが、他方で大きいのは先進国と途上国の関係である。たとえば、以前に"「あいのり」が飢餓問題の本質に迫る"でも書いたような植民地的な関係。先進国向けの輸出換金作物を好条件の土地でせっせと作る一方で、国内の自給食糧の生産が、条件の悪い土地に追いやられ、結果として「農業輸出大国でありながらも飢餓大国」という飢餓輸出の構造がある。また、「貿易自由化」の推進役というベネマン氏の経歴に直結するものとしては、輸出補助金によるダンピング輸出問題がある。補助金によってべらぼうに安くなった米国や欧州の農産物が途上国市場に輸出され、途上国内の農業が価格競争で打ち負かされ、農家が貧困に陥り、飢餓にもさらされてしまうのだ。もちろん先進国産の食料の提供が必要なこともあるが、長期的には、途上国内の食料を公正な価格で買い上げ、それを安価もしくは無償で配るほうが、農民の経済条件も改善され、国内農業を活発にするため、適切なのである。(ちなみに慢性的な「輸入超過」に苛まれている農業以外の分野では、米国にとって貿易自由化政策は国内産業の空洞化、衰退を招き、自国民の多くから収入や職を奪っている。参考記事:「地上管制センターからブッシュに告ぐ」暗いニュースリンクさん)
加えて、遺伝子組換え(GM)作物メーカー重役というベネマン氏のもうひとつの経歴に関係するところでも、途上国の問題は大きい。たとえば数年前にアフリカの飢餓大国の一つザンビアが、安全性への疑いを理由に、米国からのGMトウモロコシ等の援助食糧の受け入れを拒否するという事件があった。もちろんその裏には、食料用で入ってきた種子が栽培されたり、あるいは輸送中にこぼれ落ちて自生したりすることによって、在来の非GM品種と交雑し、とくに輸出向けの在来種がGM化してしまうことにより、主要な輸出先である欧州諸国に買ってもらえなくなるという経済上の危惧がある。あるいは、飢餓・貧困問題に取り組む世界のNGOが指摘するように、そうやって途上国でGM作物が広まったあとで、作物の特許をもつ先進国のメーカーが、「栽培するなら特許料を払え」と徴収にやってきて、国民の大多数を占める貧しい小規模農家の首をしめるかもしれないという恐れもあるだろう。実際、カナダや米国では、交雑でいわば汚染された側の農家が、メーカーに「特許のある商品の無断使用」だとして裁判に訴えられ、多額の賠償金を支払うということが頻繁に起きているという。なかでもベネマン氏と深い関わりのあるモンサントは、この点で最も悪名高く、そのあこぎさがGM作物の評判を不当に落としていると見ることもできる(参考記事:カナダ農家、モンサントに破れる遺伝子組換え作物問題に関するNGO報告書~なぜアフリカはGM食糧援助を拒否するのか?)。
またNGOや途上国がGM作物の受け入れを拒否する理由には、現状のGM作物は途上国のニーズに対応していないという問題もある。たとえば第三世界ネットワーク・アフリカというNGOは、世界で最も飢餓がひどいサハラ以南アフリカの小規模農家にとって、茎食い虫用害虫耐性Btトウモロコシ、ゾウムシ用害虫耐性Bt綿、ウィルス耐性サツマイモ の3つの遺伝子組換え作物がもつ効果について、需要主導性(demand-led,)、地域密着性(site-specific)、貧困緩和重視(poverty-focused)、費用対効果(cost-effective)、制度的持続可能性(institutionally sustainable)、環境的持続可能性(environmentally sustainable)の6つの規準を用いて、次のような評価を下している。

ウィルス耐性サツマイモは、大きな需要があるわけでも、地域密着的でも、貧困緩和に焦点を当てたものでも、費用対効果が高いものでも、制度的に持続可能なものでもない。組換えサツマイモの環境的持続可能性はあいまい(両義的)だが、大きくはない。Bt綿は、需要主導性、地域密着性、制度的持続可能性の点で低得点であり、貧困緩和性と費用対効果については両義的な結果となった。環境的持続可能性は、現在のところ際立ったものではないが、潜在的にはより向上する可能性がある。Btトウモロコシについては、需要主導性、費用対効果、制度的持続可能性の点で評価は低かった。地域密着性と貧困緩和性についてはっきりとした結果を得るにはまだ早すぎる。環境的持続可能性は現在は低いか穏健なレベルだが、潜在的には向上する可能性がある。
 適合性が低いにもかかわらず、これらの新しい組換え作物に対する大きな興奮が続いている。遺伝子組換えからの利得は、最大のものでも小さなものであり、従来の育種やアグロエコロジー的手法よりもずっと小さい。広く世界に知られているのは、遺伝子組換え作物についての政治化した国際的論争のせいである。特に、バイオテクノロジー企業は、盛んにアフリカの人道的援助計画を宣伝目的で使おうとしてきた。そうした社会的正統性をまとうことは、貿易制限やバイオセイフティ管理、独占禁止規制を減らそうというそれら企業の企てにとっては必要なことなのかもしれない。

他にも、メリットのなさが、よりはっきり分りやすいものに、ビタミンAのもととなるβカロチンを多く含む「ゴールデンライス」がある。開発途上国でビタミンA不足による失明などで苦しむ人々を救う米として喧伝されているが、さまざまな批判がある。一つには、この米を食べることで摂取できるビタミンAの量は非常に少なく、一日に必要な量を摂るためには、なんとご飯を7kg(!)も食べなきゃいけないという指摘があるが、より本質的なのは、その「視野の狭さ」である。というのも、そもそも途上国でビタミンAが不足しているのは、必ずしも干ばつなどの自然災害や耕作に適さない土地が多いせいではないからだ。コメ、コムギ、あるいは花やコーヒーなど輸出換金作物栽培に特化したモノカルチャー(単作栽培)や、上述の輸出補助金による先進国のダンピング輸出によって、国内農業が衰退し、ビタミンが豊富な緑黄色野菜を自給できなくなっているというところも多いのである。また、ビタミンAが不足している地域というのは、そもそも栄養素全般が不足しており、ゴールデンライスが供給するβカロチンを体内でビタミンAに変換するのに必要な栄養素も足りないのである。仮にゴールデンライスが改良されて、十分なビタミンAを供給できるようになったとしても、バランスの取れた全般的な食糧供給が同時に実現されなければ、何の意味もないのである。
ちなみに、以前、とある会議で、日本モンサントのお偉いさんが、「ゴールデンライスがあれば、お腹をすかせ、失明に怯えている子どもたちも、楽しい食事ができるようになる」とのたまわったことがあった。ベネマンUNICEF新事務局長も、同じようなことを言うのかな?
日本ユニセフ協会のHPに邦訳されているUNICEFのプレスリリース(原文はこちら)には、「ベネマンさんが行政府で培ってきたキャリアと国際関係分野での豊かな経験は、ユニセフでも十分に発揮されることでしょう」 というユニセフ勤務32年のベテラン、クル・ゴータム事務局次長の賛辞が紹介されているが、下記のとおり、経歴紹介にはアグリビジネスとのつきあいは触れてない。

ベネマンさんはアメリカ農務省やカリフォルニア州の食糧農業省にも勤務し、20年のキャリアを誇るベテラン。カリフォルニア大学デービス校で政治学学士号、カリフォルニア大学バークレイ校で公共政策学修士号を取得。また、カリフォルニア大学ヘイスティング校で法学博士号を取得しています。

上記の賛辞は、「ベネマンさんがアグリビジネス代表として行政府で培ってきたキャリアと貿易自由化分野での豊かな経験は、世界の子どもたちをより深い飢餓と貧困に追い込むために十分に発揮されることでしょう」と言いかえるべきではないのだろうか?

 

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2件のコメント

  1. hirakawaさん、こんにちは。
    遺伝子組み換え食品をめぐって、先進国と途上国の間にこんな複雑且つ大きな問題が山積していたとは、はずかしながら知りませんでした。大変勉強になりました。
    またちょくちょく拝見させて頂きます!

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