【最終情報】NHKクローズアップ現代紹介の「遺伝子組み換え猫」について(追記11/29あり)

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最終的な情報
本記事について、最終的な情報をNHKクローズアップ現代制作者よりいただきました。要点は次の通りです。

  • 低アレルゲン猫を開発した会社(Lifestyle Pets社、旧Allerca社)は、アレルゲンのたんぱく質を作る遺伝子Fel d1を特定するなどの段階では、当初の本記事で指摘した方法を利用している。
  • しかしながら、低アレルゲン性の猫を増産する段階では、同社の研究者による特許“METHOD OF GENETICALLY ALTERING AND PRODUCING ALLERGY FREE CATS”に示された技術などを用いており、この部分がカルタヘナ議定書および日本の国内法であるカルタヘナ法の規制対象となっている。
  • この意味で、同社の低アレルゲン猫は、カルタヘナ議定書/法が対象とする意味での「遺伝子組み換え猫」であり、本来は輸入前の審査を必要とするものであった。
  • 以上の事実について、クローズアップ現代制作側では、放送前の取材で把握しており、それを根拠に同猫を「遺伝子組み換え猫」として紹介した。その後、本記事の指摘があり、改めて、使用している技術の詳細についてLifestyle Pets社に確認し、さらにカルタヘナ議定書/法との関係について環境省にも確認を行った。

以上により、本記事で当初指摘した「低アレルゲン猫は遺伝子組み換え猫ではない」という指摘は、「Lifestyle Pets社が使用している技術が、同社のホームページ(正確にはAllerca社当時のホームページ)に説明されている通りのものであった場合には」という前提が成り立っていないということになりましたので、撤回させていただきます。

本記事を閲覧された皆様ならびにNHKクローズアップ現代制作者の皆様には、当方の記事により、混乱を招き、大変ご迷惑をおかけしました。謹んでお詫び申し上げます。またクローズアップ現代制作者の皆様には、本記事で浮上した疑問点について、改めて再確認の調査を行っていただき、大変ありがとうございました。

なお、当初の本記事で、Lifestyle Pets社の技術について説明し、それを根拠に「低アレルゲン猫は遺伝子組み換え猫ではないのではないか」と判断した箇所については、経緯の記録として残しておきます。(その他、筆者の憶測に基づいた記述、またさらなる憶測や誤解を招きそうな記述については削除してあります。)

2010年11月29日13:22

重要な追加情報(11/27 17:22)

一昨日書いた本記事への重要な追加情報です。

下記の記述について、その後、追加の情報が入りつつあり、「低アレルゲン猫は遺伝子組み換え品種ではない」とはいえない――つまりクローズアップ現代が、あの猫を「遺伝子組み換え動物」の例として取り上げたことは間違ってはいない――という可能性が高まってまいりました。

クローズアップ現代の制作スタッフによると、確かに低アレルゲン猫を開発した会社(ライフスタイル・ペッツ社)は、下記に記した技術(とくにアレルゲンの遺伝子を特定するところに関して)を使っているのは確かだが、大量生産をするところでは、遺伝子を加工する「別の技術」を使っているとのことです。そのことがあり、番組では「遺伝子組み換え動物」の例として取り上げたということです。

「別の技術」というのが、具体的にどのようなものなのか、それがカルタヘナ議定書・カルタヘナ法で規制対象になっているものに該当するのかどうかは、現在、クローズアップ現代の制作スタッフの側で、ライフスタイル・ペッツ社に対して文書での確認を行うなど、さらなる事実確認をしているとのことです。最終的な事実関係がわかりましたら、ここでもお知らせできると思います。

一応、下記の記事では、「ライフスタイル・ペッツ社の方法が、同社のホームページで説明されている通りとするなら」という条件付きで、「組み換えではない」との判断を示しましたが、この前提条件が成り立たないようです。

なお、下記記事を削除したうえで、追加情報を公開することも考えましたが、すでに多くのところからリンクが張られていますので、元記事に追加情報を掲載したほうが、情報が周知されやすいだろうと考え、クローズアップ現代制作者の了解のもと、元記事を残したうえで、記事タイトルを修正、この前書きを加えることにいたしました。

2010年11月27日17:22

元の記事(2010/11/25 23:25:18)

昨日、本ブログでも予告しましたように、今日はNHKクローズアップ現代「広がる波紋 遺伝子組み換え動物」に出演いたしました。初の生放送出演で、緊張しまくりでしたが、それはいいとして、大事な訂正情報です。番組を観られた方が、ここを訪れる可能性は高いので、書いておきます。

番組の中で、米国企業産の低アレルゲンの遺伝子組み換えネコが紹介され、それが日本でも5匹輸入されていることが指摘されました。

それに対して、私のコメントとして、「これはカルタヘナ議定書、それに基づく国内法に違反している可能性がある。いや違反している」ということを述べました。議定書およびそれに基づく国内法(カルタヘナ法)では、組み換え生物を輸入する場合には、事前にリスク評価を行い、国の承認を得なければならないからです。

しかし、帰宅後、ネコと、その飼い主の方たちのことがどうしても気になって調べてみたら、あのネコは、議定書対象外のものであり、違反でもなんでもない可能性が見えてまいりました。

実際に飼ってらっしゃる方もいる話ですので、ご本人たちが無用な心配をされたり、何らかの迷惑をこうむってしまうのは大変不味いことですので、以下、「違法ではない」と考える理由について説明します。

主たる情報源は、件の「組み換えネコ」を生産・販売しているLIFESTYLE PETS社(旧Allerca社)のホームページにある次のページの説明です。

Developping True Hypoallergenic Pets
http://www.allerca.com/html/development.html

まだ正確につかめてないのですが、同社が低アレルゲン猫を生み出した方法は、おおよそ次のようなもののようです。

  1. アレルゲンのたんぱく質(glycoproteins)を生成する遺伝子(Fel d1 gene)を、独自の遺伝子診断技術で特定。
  2. また、この診断技術は、低確率(rare)だが自然発生的に起きる遺伝子分化(genetic divergences)を特定できる。
  3. そこで、この技術を使って、遺伝子分化で、通常のglycoproteinsとは異なる構造をもったタンパクを作るタイプのFel d1遺伝子をもった猫を特定する。
  4. あとは、この診断技術などバイオインフォマティクス(バイオ情報学)の技術を駆使して、この特殊なタイプの遺伝子をもった猫を、通常の交配を繰り返して増やす。

このような方法ですと、「遺伝子技術」を使っていると言っても、診断技術の部分だけで、DNAに他の生物由来の遺伝子を挿入する、いわゆる「遺伝子組み換え」技術は使っていません。遺伝子レベルでおきている変化は、自然発生的に起きているものです。要するに、従来は、性質(性格)とか外見を見て育種していたのに対し、遺伝子配列のレベルまで見る目を細かくして選別をしているだけで、育種そのものは通常の交配を通じたブリーディング法そのものです。

他方、カルタヘナ議定書(およびそれに基づく国内の「カルタヘナ法」)で対象としているのは、「現代のバイオテクノロジーによって改変された生物」ですが、議定書第三条(i)によれば、

(i )「現代のバイオテクノロジー」とは、自然界における生理学上の生殖又は組換えの障壁を克服する技術であって伝統的な育種及び選抜において用いられない次のものを適用することをいう。
a 生体外における核酸加工の技術(組換えデオキシリボ核酸(組換えD N A )の技術及び細胞又は細胞小器官に核酸を直接注入することを含む。)
b 異なる分類学上の科に属する生物の細胞の融合

またカルタヘナ法第二条によれば、

第二条 この法律において「生物」とは、一の細胞(細胞群を構成しているものを除く。)又は細胞群であって核酸を移転し又は複製する能力を有するものとして主務省令で定めるもの、ウイルス及びウイロイドをいう。
2 この法律において「遺伝子組換え生物等」とは、次に掲げる技術の利用により得られた核酸又はその複製物を有する生物をいう。
 一 細胞外において核酸を加工する技術であって主務省令で定めるもの
 二 異なる分類学上の科に属する生物の細胞を融合する技術であって主務省令で定めるもの

となっています。したがって、ライフスタイル・ペッツ社のやり方が、ホームページに説明されている通りだとするならば、議定書およびカルタヘナ法の適用外であり、輸入をしても何の問題もないということになります。

(中略)

もちろん、もしも会社の主張とは違って、実際にはカルタヘナ対象の技術を使って低アレルゲン猫を生み出したとすれば、ルールに従っていないことになります。その可能性はゼロではありませんが、いくらカルタヘナ議定書を批准していない米国の企業だからといって、万が一真相が発覚すれば、輸出先の議定書加盟国から訴えられるリスクを冒すとは思えません。(念のため、さらに調べて見ますが。)

(中略)

<追記 2010/11/26 22:15>

本エントリーのはてなブックマークのページで、e-domonさんの次のコメントを発見。感謝です!

e-domon 米国の特許公報では、アレルゲン抑制遺伝子組換えネコの作出方法についての同社役員の特許が登録済なのでいずれは作出されるかもしれない。交雑で作るよりも相当きコスト高になる可能性はある。http://www.wipo.int/pctdb/en/wo.jsp?WO=2009059078

こちらは、WIPOではなく米国特許庁(USPTO)のサイトで調べてみたのですが、うまく見つけられませんでした。

<追記 2010/11/27 19:47>

本記事冒頭に「重要な追加情報」としてお知らせしましたように、上記の内容とは違って、実際には「低アレルゲン猫」は、何らかの遺伝子組み換え技術――その詳細とカルタヘナ議定書・法との関係は現在は未確認――を使っている可能性がでてきました。

この可能性については、本記事を最初に公開した後も、筆者としてもいろいろ調べておりました。ライフスタイル・ペッツ社(旧Allecra社)が、組み換え技術(genetic modification/manipulation)を使っているかどうかについて、「使っていない」ことを指摘したものはいくつかありましたが、「使っている」ことを指摘した情報(たとえば動物愛護団体による批判も含めて)は、少なくともネット上(ただし英語で書かれたもの)では今のところ見つかっていません。たとえば、明らかに同社に批判的な次のブログ記事でも、同社が遺伝子操作(genetic manipulation)を使っていないことを前提に、「通常の交配技術を使っているとすれば、低確率(1/50000匹と同記事は指摘している)でしか発生しないgenetic divergencesでは、いったいどれだけの猫が犠牲になってるのだ?」という倫理的な批判をしているのみです。

“Dodgy Allerca and Dishonest CBS Join Forces to Market an Allergy-Free Cat Named Joshua to a Gullible Public” (Cat Defender: Tuesday, October 10, 2006)

またBBCにも次の記事がありました。

Sunday, 24 September 2006, 14:31 GMT 15:31 UK
‘Hypoallergenic cats’ go on sale

この中では、以下のように同社のSteve May氏の言葉を引用して、「遺伝子操作ではない」という点を強調しています。

No genetic modification
It tested huge numbers of cats trying to find the tiny fraction that do not carry the glycoprotein Fel d1 – contained in an animal’s saliva, fur and skin – which often prompts an allergic reaction in humans.

Those cats were then selectively bred to produce the hypoallergenic kittens now on sale, the company says.

The company’s Steve May told the BBC that it was a natural, if time consuming, method.

“This is a natural gene divergence within the cat DNA – one out of 50,000 cats will have this natural divergence,” he said.

“So candidates – natural divergent cats – were found and then bred so there is really no modification of the gene.”

さらに、この記事に先立つ2006年7月のEUの欧州委員会共同研究所IPTSの報告書“Working document – The Biotechnology for Europe Study – Consequences, opportunities and challenges of modern biotechnology for Europe: Emerging biotechnology applications in healthcare and agro-food”の28頁には次のように、やはり同社の技術が組み換え技術ではない(”not genetic modification”)ことを指摘する文章(とくに下線部)があります。

GM ornamental fish have been available commercially in the US since late 2003, and these are essentially unregulated. Research is reportedly also being conducted to produce GM cats with reduced allergenicity for humans. Import of such animals into the EU would be covered under existing GMO regulation. However, in 2006 hypoallergenic cats were produced by Allerca (San Diego, US) through the use of a patented technology based on directed evolution and not genetic modification.

ただしこれは、低アレルゲン猫が発売された当初のものなので、実態を把握できていなかっただけなのかもしれません。しかし、低アレルゲン猫は、カルタヘナ議定書加盟国であるEU諸国(たとえばデンマークなど)にも輸出されていますので、それらの国(またはEUレベル)で、議定書との関係が問題になった可能性もありましたので、その点に関する情報も探してみましたが、これまた英語で書かれたものの範囲では見つかりませんでした。

他方で、クローズアップ現代制作側では、事前の取材で、ライフスタイル・ペッツ社が遺伝子操作的な技術を使っていることを聞いたということですので、これは、NHKのスクープ的な情報となるかもしれません。同社の情報公開が不十分(BBCでの主張を見ると「嘘」ということにもなるかもしれません)であるため、これまでカルタヘナ関連で問題となることがなかったのか、それとも、使用している技術は、仮に遺伝子操作的なものであっても、カルタヘナの規制対象にはならないものなのか、あるいは当初はホームページの説明やBBCの記事どおりだったが、その後技術を変更したのか、真相はまだまったく不明です。そこについては、これ以上憶測をせず、NHKによる調査の結果を待ちたいと思います。

 

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