科学的助言のパラダイム・シフト ~ 岩波『科学』掲載論考の公開

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超々久々のブログ更新。
岩波書店の許諾を得て、「科学的助言」に関する拙論を公開いたします。
平川秀幸 「科学的助言のパラダイム・シフト──責任あるイノベーション,ポスト・ノーマルサイエンス,エコシステム」『科学』2014年2月号(Vol.84 No.2,特集「科学的助言:科学と行政のあいだ」),195-201頁.

ポイントは、これからの政策形成における「科学的助言」は、次の3つの要件を満たすべきだということにあります。

1.「責任あるイノベーション(Responsible Innovation)」への拡張
イノベーションがもたらす負のインパクトを考慮したり、正のインパクトにしても、それは誰にとってどういう意味があるのか、負の外部性は存在しないか、それを目指すことにはどれだけの社会的正統性があるか、また、科学技術や関連する政策が取り組むべき社会的課題やニーズは何かなどを、科学者・技術者、政策決定者、企業だけでなく、多様なアクター/ステークホルダーとのコミュニケーションや、インパクトについての人文・社会科学も交えた予見的・探索的な調査・分析を通じて行うのが「責任あるイノベーション(Responsible Innovation)」または「責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation: RRI)」と近年呼ばれているもの。政策に助言する科学的助言は、単なる科学技術振興ほ超えて、こうした社会的で反省的(reflexive)な視野の中に位置づけられなければならない。

参考: Jack Stilgoe, Richard Owen, Phil Macnaghten. “Developing a framework for responsible innovation”, Research Policy, Volume 42, Issue 9, November 2013, Pages 1568-1580.

2.「実証主義」から「ポスト・ノーマルサイエンス」へ
科学的助言が、現実の問題処理に有効に働くためには、①科学による事実の認識は、社会や政治の利害関係や価値判断とは独立して価値中立的に行うことができ、②政治的な意思決定や合意は、そのような科学的事実に関する客観的で確実な知識によって可能になるといった、およそ空想的な「実証主義的」科学観を超えて、科学知の不確実性や価値対立の問題を視野に入れた「ポスト・ノーマルサイエンス」の科学観と方法論に依拠する必要がある。

3.「英雄モデル」から「エコシステムモデル」へ
科学的助言にはしばしば、傑出した専門性と学識、公明正大、中立公正な人柄など卓越した個人的資質によって科学的助言の有効性と信頼性が担保されるといった「英雄モデル」(あるいは「達人モデル」と呼んでもいいかもしれない)が付きまとう。しかしそれは非現実的であり、組織的対応や、さらには社会全体として、科学的情報について独立の組織や個人が相互に検証しあう「エコシステム」が必要である。

参考:R. Doubleday and J. Wilsdon (eds.) Future Directions for Scientific Advice in Whitehall (PDF), CSaP/Alliance for Useful Evidence, 2013.
現在、日本でも「主席科学顧問」や「総合科学技術会議の司令塔機能強化」というかたちで科学的助言の整備・強化が進められようとしているのだけれど、果たしてそれは、ここに挙げたような方向性を向いているのかどうか、大いに要注目です。

あとは本文を読んでいただければ。

◆あわせて読みたい◆
同じ号に掲載の尾内隆之さん(政治学)の御論考。
尾内隆之「『科学的助言』の政治学」,『科学』2014年2月号,pp185-190

 

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