分野変われば文化も変わる

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今日の午後は、京大にて、科学技術コミュニケーションの連携会議。去年くらいから科学技術コミュニケーションに対する各方面の関心が(それぞれの事情から)高まり、春に阪大には小生の次の就職先であるコミュニケーションデザイン・センター(CSCD)が発足したほか、今年秋からは北大東大早稲田で大学院での人材養成プログラムが動き出した。来年からスタートする第三期科学技術基本計画でも、推進分野の一つになっていることから、国からのお金もどーんと降ってくるようになってきている。


とはいえ、まだまだ担い手は圧倒的に少なく、周囲の理解も必ずしも好意的なものばかりではない。「コミュニケーション」というだけで嫌悪感を持つお偉方(だいたい60歳以上)も少なくない。「素人にリスクについて話したりして、寝た子を起こすつもりか」とか、「そんなヒマがあったら研究に専念しろ」とか――その裏には「素人はつべこべいわず、俺たちが一所懸命やったものを黙って受け入れてればいいんだ」的な考えもチラホラある――そういう意識は相当に根強い。
そんなわけで、あちこちでバラバラにやってたら孤立して消耗戦を強いられるのがオチなので、それぞれやりたいことは大なり小なり違えども、ここは一緒にスクラム組んでやってきましょうというのが、今日の会議の主旨だ。
で、会議の一次会も、アルコールの入った二次会も、あれこれ大いに盛り上がったのだが、酒席で飛び出した話題でとても面白かったのが「教授夫人会」というものの存在。
医学部ならいかにもありそうなイメージ(白い巨塔のあれ)のこの会は、工学部の一部の分野に存在するという。少なくともT大にはあるんだそうだ。「夫」が専任講師以上の職位ならば、自動的に妻は会員にされて、あれこれの集まりに召集されるらしい。「名誉教授夫人」を筆頭に、夫の職位に応じて夫人会にもヒエラルキーがあるのだそうだ。
で、その場にいた誰の脳裏にもすぐに浮かんだのが「女性が教授だった場合はどうすんの?」という疑問。夫が入会するのか、本人が入会するのか?どっちにしても変な感じ。T大で実際にあった例では、夫人会から会員にアンケートが回ってきて、どうするのか問われたそうなのだが、それからもう幾年経った今もなお、結論は出ていないらしい。(結論が出ない、ってのもすごいな。)
あと「ヒエラルキー」という点では、T大工学部のある学科では、授業の最初に「起立!礼!」があるのだそうだ。今日の参加者で、その学科でゲスト講師をやったことのある方の話では、助教授が一人ついてきて、号令をかけたという。また、その人自身も工学系出身なのだが、あるとき物理学会(つまり理学系)に行ったとき、大学院生と教授クラスの人が対等に熱く論戦してるのを見て大変驚いたという。工学系の学会ではまずお目にかかれない光景らしい。「理工系」と世間ではひとくくりにされるが、理学と工学ではかなり「文化」が違うのだ。
こういう違いはおそらく、実業との距離に関係しているのだろう。工学系のように、企業とつきあいがあったりすれば、上下関係に厳しい企業文化に近いものになるのが自然だろう。また、仮に同じ理学系でも、理論系か実験系かによって違うだろう。実験系は、教授をいわば「親方」として、助教授、講師、助手、ポスドク、大学院生、卒論生まできれいにヒエラルキーがあり、上のものが下のものの面倒をしっかり見るのが慣わしだが、それはやはり、実験や研究開発というチームワークが必要な仕事をしているからだ。逆に、理論系は個人プレーが基本なので、研究室に毎日朝から晩まで張り付いていなければならないということもないし、研究室に顔を出さないからといって、博士課程やポスドクの先輩から「どうして来ないんだ?」と電話がかかってくることもない。同じことは、きっと文科系でもいえるだろう。
自分の場合、理学系と思想系という、研究室の連帯関係がとってもユルーイ分野の出身なので、こういう工学系文化の話はいつも新鮮に聞こえる。これは、どっちがいい悪いという問題ではない。それぞれの分野にはそれぞれの文化がある。そして、研究の世界と世間――これ自体、途方もなく多様な文化の集まりだ――との間も文化は大きく違う。まずはその違いを楽しむというのが、科学/技術コミュニケーションの基本かもしれない。(教授夫人会は御免こうむりたいが。。)

 

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2件のコメント

  1. NPOサイエンス・コミュニケーションの榎木と申します。はじめまして。
    起立、礼は医学部でもあるみたいです。私は経験したことないですが…熊本大学教授だった小川道雄氏(研修医ななこの教授のモデル)の講義では、必ず起立礼着席の号令があったそうです。
    礼は重要かも知れませんが、自由な議論はありえないですよね。そういう雰囲気では。

  2. 榎木さん、こんにちは
    医学部だと、なんだかイメージどおり、という感じですね。権威主義的という面と、やはり命に向かう仕事という厳粛さのイメージがあります。
    そういえば、学会の記念賞受賞おめでとうございます。今後は、阪大CSCDのほうで、サイコムにもいろいろお世話になると思いますので、よろしくお願いします。

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