国連総会―この差は大きすぎる

投稿者:

PPFVさんの昨日のエントリー「国連演説~もっとも喝采を浴びたのはスペイン首相」より、引用。(元ソースはNHKニュースだが、ソースページは消えている。)

国連総会は、21日から、各国首脳や外相の演説が始まりました。この中で、小泉総理大臣やブッシュ大統領、アナン事務総長らをしのいで、最もかっさいを浴びたのは、今年4月、スペイン軍のイラクからの撤退を訴えて新しいスペインの首相に就任したサパテーロ氏(43歳)でした。演説でサパテーロ首相は、今年3月におよそ200人の死者を出したスペインの同時爆破テロについて触れたうえで、「我々が長い間のテロとの戦いで学んだことは、テロと戦うことと引き換えに、民衆の自由を奪い、民主主義をゆがめ、先制攻撃の名のもとに軍事行動を行うことこそが、テロリスト達にとっての勝利だということだ」と述べ、先制攻撃の考えに基づいて、イラク戦争に踏み切ったアメリカを痛烈に批判しました。そのうえで、サパテーロ首相は、「人類の歴史は悲観的なことばかりだ。多くの国は未だ民主主義ではなく、拷問も行われ、500万人がエイズ感染者だ。しかし、この現実を何とか変えていこう」と呼びかけて、演説を締めくくりますと、議場は大きな拍手に包まれていました。


一昨日のエントリーでも紹介したように、サパテーロ首相は、20日にはフランス、ブラジル、チリの大統領らとともに「貧困・飢餓撲滅行動のための世界首脳会議(World Leaders’ Meeting on Action Against Hunger and Poverty)」を開催している。
これに対して日本のコイズミ首相はどうだったか?
伝えてるマスコミがほとんどないのだけど、昨日の朝見たニュースでは、ちょうど演説の時間が午後6時で、ディナータイムに重なっていたため、客席は閑散としていたのだとか。演説を伝えたテレビのカメラも、客席が映らないよう、正面や横からのカットを多用したのだそうだ。おまけに、22日の毎日新聞の記事「クローズアップ2004:小泉首相、国連総会で常任理入り表明へ(その1)」によれば、23日午後だったのを、外務省の国連担当者らが、パラオに経済援助を持ちかけて演説時間を交代してもらったのだという。そこ(われわれの税金を使って)までしてゲットした順番が、閑古鳥タイムとは、なんともマヌケである。
天木直人さんの22日のエントリーで紹介されている話(ソースは日刊ゲンダイ)は、もっと情けない。まるごと引用させていただきます。

「ヤンキースタジアムで行われた小泉首相の始球式はブーイングの嵐であった。・・・そもそも日本サイドのたっての願いで実現したもので、グラウンドには小泉と松井の二人だけという異様な光景だった・・・カメラマンがいない時は誰とも口を聞こうともしない小泉首相だが「カメラ、こっち、こっち」とわざわざ呼び寄せ「俺が着ているジャンパーはマツイからもらったものだ。このグラブはブッシュからのプレゼントなんだ」と喋りまくる。小泉の大はしゃぎはまだまだ続く。始球式のためマウンドに向かう途中、360度まわって観衆に手を振る。・・・ダッグアウトに引き揚げる途中にわざわざホームベースに戻り審判団ひとりひとりに握手、近くにいたポサダ捕手のところまでいって握手をせがむ始末だ。はやく練習を始めたいポサダは、グラウンドから去ろうとしない小泉に不快そうな表情をしていた。
 小泉同様随行記者団も顰蹙を買った。早くからグラウンドにでて「ウォォ、芝がきれいじゃん」と警備員の制止を振り切って記念撮影。始球式が終わってもまた記念撮影で、試合予定が9分も遅れてしまった。「・・・始球式が終わったらすぐ退場するのが礼儀だ。未練がましくグラウンドにとどまっていたのにはびっくりした。ダッグアウトの貴賓席にいたジュリアーニ元ニューヨーク市長に挨拶もせず引き揚げていったのには驚かされた。失礼だ。自分のパフォーマンスだけしか考えていないのだろう」(地元記者)。ヤンキースファンにとっては優勝がかかった大事なレッドソックス戦の開始を遅らせた迷惑な政治家としか映らなかったのだ。別の米人記者が不思議そうな口調で聞いてきた。「お前の国の首相の名前を英語で書いてくれ。本当にプライムミニスターなのか?あの小泉という男は。」

「馬鹿じゃなかろうか、この男は。お前のすることは他にあるだろう」とは天木さんの弁だが、ここまでくると、かえってコイズミが哀れで可哀相になってくるな(苦笑)。こんな生き恥をさらすために生まれてきたんじゃないだろうに。。(ま、同情はしないが。)
しかし、こういうコイズミ・パフォーマンスの情けない(惨めな)な現実や、それとは対極をなす「貧困・飢餓撲滅行動のための世界首脳会議」やサパテーロ首相演説をほとんど伝えることなく、姑息なカメラ・ワークまでして首相をヨイショするマスゴミってのは、ひたすら首領様を褒め称える某国とちっとも変わらないな。
ちなみに、サパテーロ首相が演説で訴えた「テロと戦うことと引き換えに、民衆の自由を奪い、民主主義をゆがめ、先制攻撃の名のもとに軍事行動を行うことこそが、テロリスト達にとっての勝利だ」ということについては、以前に、このブログにも転載したが、9.11のあとに「タナトクラシー:安全保障とテロリズムの秘密の共犯関係」という文章を書いたことがある。そのなかで引用したジョルジォ・アガンベンという人の「秘密の共犯関係—-安全保障とテロリズムについて」から、一部ここでも引用しておこう(強調筆者)。要するに、「テロとの戦い」というのは、”War against terrorism”ではなく”War with terrorism”だということだ。

第二次世界大戦の後に誕生した最初の大規模なテロ組織は、フランスの将軍が設立した秘密警察組織(OAS)で、この将軍は愛国者をきどって、アルジェリアとインドシナ半島におけるゲリラ活動にたいする唯一の対策は、テロだと確信していたことを思い出そう。十八世紀の国家学(ポリツァイ学)の理論家たちが主張していたように、政治を警察(ポリス)に還元してしまうと、国家とテロリズムを分かつ境界線が消失してしまう恐れがあるのである。そして最後には、安全保障とテロリズムが単一の死のシステムを作り出し、このシステムのうちでたがいに相手と自分の行動を正当化し、正統なものと主張するようになりかねない。
 これによって、国家とテロリズムという本来は対立するはずのものが、こっそりと手を結んで共犯となる危険が生まれてくる。それだけではない。安全保障を求めるあまり世界的な内戦へと突入し、すべての人々が市民として共存することが不可能となるおそれがあるのである。主権国家の間の戦争という古典的な形式の戦争が終焉している現在の新しい状況においては、安全保障はグローバリゼーションを最終的な目標とすることが明らかになっている。グローバリゼーションは地球という惑星レベルで新しい秩序を確立するという理想を暗黙のうちにかかえているが、これは実際にはすべての無秩序のうちでも最悪なものなのである。

これは現在のアメリカ、そしてプーチン大統領のロシア、あるいは日本の近い将来――あるいは今現在――の姿ではあるまいか?
その一方で、200人もの死者を出した同時列車爆破テロの被害にあいながらも、こういう危険を正確に見つめ、「共犯関係」に陥るまいと踏みとどまるスペイン首相と、そのテロの数日後に行われた選挙で彼の党を与党に押し上げたスペイン国民の姿は、世界にはまだ希望があることを物語っているのかもしれない。

 

1つ星 (まだ評価がありません)
読み込み中...

6件のコメント

  1. hirakawaさん、こんばんは。
    TBありがとうございました。TypeKeyも早速登録しました。
    わが国の首相に対してはため息とともに恥ずかしさを感じながら・・・スペインの首相から将来への希望をもらう・・・まったく皮肉な話です。
    しかし、首相、国民ともに確固とした信念を感じる明解な演説だったと思います。

  2. はじめまして、うめチキと申します。
    トラックバックありがとうございました。
    >要するに、「テロとの戦い」というのは、”War against terrorism”ではなく”War with terrorism”だということだ。
    この言葉はとても印象的です。
    本質を捉えていると思います。
    スペインの国民はこれに早々に気づいたんでしょうね。
    でも日本だって、多くの人は気づいている。
    それなのに日本代表の小泉さんがアレでは…。
    今は選択肢の一つとしての対米追従かもしれませんが、近いうちに対米追従しか選択肢がなくなってしまうような気がします。

  3. 恥さらしの演説

    小泉首相、常任理事国入り目指す決意表明 (アサヒ・コム)
    首相、国連演説で常任理事国入り表明(中日新聞)
    各国の代表は、どのような印象を持ったでしょうか。
    記事のみからの判断なので確たることは言えませんが、結局言いたかったのは「オレも常任理事国に入…

  4. もっとも喝采を浴びたのはスペイン首相?
    よく知らないのですがスペイン軍はイラクから撤退してしまったのでしょうか?
    スペイン国民の民意を尊重してアメリカとは一線を引くのはしかたないとしても
    テロが起きてしまった以上、テロリストの要求どおりイラクより
    撤退してしまってはテロリストに間違ったメッセージを送ってしまう事に
    なってしまうのではないでしょうか。
    政策を覆したい時は選挙前に大規模なテロを起こせばよい
    こんなメッセージをテロリストに送るわけにはいけません。
    スペイン軍はアメリカ軍とは一線を引くとしてもテロに屈しない為にも
    イラクに残り復旧活動などに尽くすべきです。
    それがスペイン含め世界のためです。
    政治問題は「イラク」だけではないのだから。

  5. PPFVさん、うめチキさん、こんにちは。
    うちの国の首相にも、喝采されるような演説をしてもらいたいですねー。
    たろうさん、こんにちは。
    >よく知らないのですがスペイン軍はイラクから撤退してしまったのでしょうか?
    5月21日に撤退を完了していますね。
    >撤退してしまってはテロリストに間違ったメッセージを送ってしまう事に
    それは私も危惧するところですね。7月の参院選とか、けっこう心配しちゃいました。
    でも、スペインのように反応する国がある一方で、テロられると逆に強硬姿勢に燃え上がる国もあるでしょうし、そのへんはテロリスト側も判断しかねるんじゃないかとも思います。
    あと、スペイン政府の選択は、イラク復興について、米国主導ではなく国連主導の枠組みへの転換を求めるものでもあったはずです。それにイラク国内での「テロ」には、「レジスタンス」という面もあるでしょうから、一概に「テロリスト」と呼んだり、「テロとの戦い」というのは、アメリカ側の視点に引きづられており、余計にレジスタンスを過激化(テロリスト化)させたり、レジスタンス/テロに身を投じる人を増やしたりする危険もありますよね。
    でも、「誤ったメッセージ」の危険もあるのは確かだと思います。小生も、4月のイラク邦人拉致事件の時は、別の機会に別のかたちで「引き際」を考えるならともかく、拉致犯たちの要求に応えるかたちでの自衛隊撤退は絶対に不味いと考えましたし(今でもそう考えてますが)。何がより良い選択なのか、あるいは、悪い選択にしても、何がより悪くない選択なのか、ちゃんと見通して決断するのは難しいですね。(良い悪いをはかる物差し自体が錯綜としてます。)
    まぁ、それでも、スペインがブラジルなどとともに、途上国支援・飢餓貧困撲滅のための提案を行い、国連演説でもその重要性を訴えるというメッセージは、即効性はなくとも、テロリズムに身を投げたり支持したりする人たちをこれ以上増やさない、未来への希望を与えることでテロリズムへの衝動を断つ――テロリストはテロリストになるために生まれてきたわけではないのですから――という意味で、良いメッセージなんじゃないでしょうか?(逆に、即効性のある方法があるかといえば、いまアメリカがやってるような軍事力中心のものも含めて、???ですし。)

  6. 小泉首相の国連演説と日本の国際貢献

    ここ数日、国連総会や飢餓貧困撲滅会議の話題をめぐって、日本政府の態度に批判的なエントリーを書いてきたが、それだけだと一面的なので、自分自身の考察のためにも、日本政府の国際貢献、とくに途上国支援に関する外務省の「外交政策」のページにある情報へのリンクを記…

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください