たまには専門関係のことも書かなきゃ・・・

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ということで一つ話題を。
昨日参加したグローバル・ガバナンス研究会での次の二つの報告について。(この研究会も、小生の科学技術ガバナンス研究会と同じく、日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業」のプロジェクトの一つ。)
 脇村孝平氏(大阪市立大教授)
   「「帝国医療」史研究の動向」
 加来義浩氏(国立感染症研究所研究員)
   「グローバル化と感染症防疫」


どちらもとても面白く、エキサイティングな報告だった。経済学が専門の脇村さんのは、インドの植民地時代におけるイギリスの「帝国医療」の変化を追ったもので、医療研究(とくに感染経路に関して)のフォーカスが、媒介生物から人的ファクターへ、そのなかでも感染リスクを高める栄養摂取の低下の要因である社会経済的要因へと移り変わっていった経緯を描いたもの。疾病の蔓延が栄養摂取の低下を招く、という図式ではなく、社会経済的要因により栄養状態が悪化し、疾病リスクが高まることで疾病が広がるという図式が興味深い。アマルティア・センの開発経済学の枠組みなどにも触れつつ、理論的にも大変面白いお話でした。
獣医学が専門で、これまで一貫して行政系の国研で、国内の動物感染症、海外の動物感染症、そして現在は人獣共通感染症の研究を行っている加来さんのお話は、研究者であると同時に行政における感染症対策のアドヴァイザー的役割もこなすという立場ならではのもの。特に、新興・再興感染症(Emergent Disieases)対策において必須の早期・迅速かつ精確な情報交換のためのProMED(メーリングリストを利用した新興感染症モニタリング・情報交換のシステム: 紹介)と、そこでの平時および危機発生時の情報の品質管理のやり方についての話が、小生の関心では特に面白かった。ちなみに貿易における動植物検疫については、WTO(世界貿易機関)のSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)では、OIE(国際獣疫事務局)が定める「衛生コード」に記載された疾病リストが、各国の検疫措置発動のために求められる科学的根拠の国際基準となっている。このコードは、OIE加盟国の専門家等によって毎年アップデートされているが、とはいえ、常に不確実性の多い新興・再興感染症への対応では、不十分なところが多い。これをある意味で補完し支えているといえるものが、ProMEDのような研究者間の国際的な情報交換と情報・知識の品質管理システムであるというあたりが、リスクガバナンス論としては特に面白い。

 

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