いよいよ帰国

一週間のブリュッセル滞在も今日で終了。12:55発のタリス号でパリのシャルル・ド・ゴール空港に戻り、夕方6時半のANAで成田、そして伊丹に帰る予定。

珍しく朝からずっといい天気だった昨日（18日）は、今回のもう一つの用件である共同研究の打ち合わせ。Square de Meeusにある欧州委員会研究総局（DG Research）で10:00から16:30までみっちり。参加者は、共同研究メンバーの５人に、欧州委員会のスタッフが二人。

この研究では、リスク評価で科学者たちに何をどのように評価してもらうのかを決める「リスク評価方針（risk assessment policy）」が、英国、ドイツ、米国、アルゼンチン、日本、コーデックス委員会の間でどのように違い、その結果、どのような評価結果の違いが現れるかを比較することになっている。科学者に「質問」する内容が変われば、「答え」も変わってくるからだ。コーデックス委員会の推奨するモデルによればリスク評価方針とは、「リスク評価の過程の科学的な完全性（integrity）を維持するための、リスク評価における適切な意思決定ポイントで行われる選択肢の選択とその適用に関連する諸判断についての文書化されたガイドライン」であり、リスク評価が系統的で、完全で、偏りがなく、透明性のあるものになるよう保証するために、「リスク評価に先立って、リスク評価者や他のすべての利害関係者と協議した上で、リスク管理者がリスク評価方針を策定するべきである」とされている。
しかし実際にはこの策定は、外部からは見えない形で行われることが多い。リスク評価方針には、たとえば「そもそも何を社会にとって重大なリスクとみなし、リスク評価・管理の対象とすべきなのか」といった社会的価値判断が関わるような要素がたくさん含まれている。これをリスク評価という科学的作業から切り離し、利害関係者を含む協議のもとで決定せよ、というのがコーデックス委員会の考え方なのだが、実際には、そういう価値判断まで「科学」の装いのもとで科学者たちが行ってしまっていることが多い。あるいは科学者たちに質問が渡される（審議会に諮問される）以前の段階で、その質問（諮問）を作るリスク管理者（具体的には省庁の役人）の側で、公共的協議を経ることなく決めてしまうことも多い。またもう一つ大事なのは、しばしば貿易摩擦にもつながる国家間でのリスク評価結果の食い違いは、必ずしもどちらかが科学的にまずいことをやっているというわけではなく、各国それぞれの社会的事情や環境の違いを反映したリスク評価方針の違いによることが多いということだ。この点については、今回の研究メンバーのうち３人がすでに行った“Science in Trade Disputes Related to Potential Risks: Comparative Case Studies”という研究がある。
今回の研究では、このリスク評価方針の各国間の違いを、「遺伝子組換え作物の食品としてのリスク」、「遺伝子組換え作物の環境影響」、「閾値がありADI（一日耐容摂取量）などを定めることができる食品中化学物質のリスク」、「遺伝毒性のような閾値のない性質を持つ食品中化学物質のリスク」の四分野で行うことになっている。会合では、まず、それぞれ具体的に何を案件として取り上げるかを議論し、さらに、調査のためのリサーチ・クエスチョンを具体的に決定するという作業を行った。
ちなみに今回の研究は、当初は22ヶ月くらいでやる予定だったのだが、スポンサーである欧州委員会の都合で思いっきり短縮され、なんと来年６月末には最終報告書を出さねばならない。そのため、４月と６月にもまたブリュッセルで会合が開かれることになっている。来年度は５月にはスウェーデン、６月か７月にはボストン、８月にはスイスに学会などで行く予定だから、８月までは毎月、計５回も海外出張があることになる。体力その他も気になるが、費用もあれこれ工夫しないといけないかもしれない。（このプロジェクトには日本側からは独自予算で参加することになっている。）今年申請した科研費がうまく当たってくれるとだいぶ助かるのだが。。

４時半に会合が終わったあとは、てくてく歩いてグランプラスに移動。夕食にはまだ早いので、Mannekkenというカフェ（日本に同名のワッフル店チェーンがある）でビールを一杯。その後ホテルに戻り、夕食は魚が食べたいなぁと思い、聖カトリーヌ教会の裏にあるFrancoisという店に行った。半身のオマールエビと、舌平目のムニエルを注文。案の定、舌平目は巨大でちょっと辛かったが、なんとか食べつくす。
その後は１０時頃にホテルに戻り、荷造りをして、早めに就寝。６時前に目が覚めて、シャワーを浴び、今これを書いているところ。出発までまだ時間があるので、どこかでまたビールでも飲んでこようかと思っている。