ナノ粒子の毒性調査

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うちのプロジェクトでも、特に社会的影響やガバナンスのあり方について扱うことになってるナノテクノロジーの毒性に関する大規模調査プロジェクトがスタートしたというニュース。

超微細なナノ粒子、文科省が健康・毒性調査に着手
 次世代の産業基幹技術として期待される「ナノテクノロジー」(ナノは10億分の1)で扱うナノ粒子が、健康に与える影響について、文部科学省は7月から、大規模な調査研究プロジェクトを開始した。
 超微細なナノ粒子が体内に入ると肺などに蓄積し、アスベストのような健康被害が起こりうるのではないかと、海外で議論されており、日本でもこの問題に取り組む必要があると判断した。
 プロジェクトには、独立行政法人・産業技術総合研究所(産総研)を中核機関に研究者約70人が参加。国内外の研究データの収集・評価などナノ粒子の毒性の検証を予定。来年3月までに政策提言をまとめる。・・・(読売新聞) – 8月16日5時34分更新


欧米では、ナノ毒性学(nanotoxicology)という呼び名ですでに研究が行われているが、日本でもようやく本格スタートのようだ。
とはいえ、記事中にも関連した記述があるが、世界的に見てもまだナノ毒性学は、基本的な方法論さえ未確立の分野である。先日、研究者の人から伺った話によれば、フラーレンなどナノ粒子の製造技術の標準化自体がまだ十分成熟しておらず、ロットによって化学的性質が微妙に異なっていたりするのだという。このため、毒性学の基本である用量反応関係を調べても、結果にばらつきが生じてしまうのだそうだ。
ちなみに上記記事によれば、米国ではこんな結果が報告されているという。

・・・米サザンメソジスト大は、ナノ粒子の一種、フラーレンを含んだ水で魚を48時間飼育すると、フラーレンが脳に蓄積し、脳細胞に損傷が見つかったと報告。また、米航空宇宙局の研究で、極細の針状物質であるナノチューブはアスベストと形状が似ており、大量に吸い込むと肺を傷つけるとの実験結果もある。

他にも、ナノ粒子は非常に小さいので、通常の化学物質よりも反応性が(良くも悪くも)高いのではないかということも指摘されてるらしい。
もう一つ、ナノテク研究者から伺った話で興味深かったのは、環境修復への応用や医療・医薬への応用など、さまざまなフロンティアの「夢」がぶち上げられている一方で、現在のナノテク技術はまだまだ未成熟であるため、短中期的な実用化・商業化の目処が立つ応用がなかなか見つからないというのも、ナノテク研究の悩みの一つらしい。医療応用にしても、いま何か特許をとったとしても、実用化される頃には失効してしまい、投資回収が難しくなるため、製薬会社としても研究開発になかなか乗り出せないのだそうだ。
以前にも書いたことがあるが、ガバナンス問題も含めたナノテクの研究開発は、欧米では、遺伝子組換え作物の成功と失敗の「教訓」を下敷きにしている部分が大きい。日本では、いったいどういうふうに進められていくのだろうか。(って、他人事のように書いているが、自分もその一部に関わり始めているから、責任あるんだよな。。)

 

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4件のコメント

  1. 先日はお疲れ様でした。
    そうですか、やはり始まるのですか。それにしても先は長そうですね。先日の会合でも申しましたCIR(Cosmetic ingredient review)では、1物質あたり数年かけて、レビュー調査しています。もちろん、レビューの対象となる、個別の安全性に関する研究結果が大量にある、という前提にたちますから、実際には20年単位で時間がかかるのではないでしょうか。
    特許の問題も悩ましいですね。とはいえ、そもそもニーズの無いところなのかも知れません。ナノテクは第二のGMOというより、第二のリニアモーターカーになってしまいそうですね・・・あれよりも応用範囲は広そうですけど。

  2. 宗像さんも、先日はお疲れ様でした。
    確かに長くかかるでしょうねー。今のところはナノ粒子の種類もそんなに多くないので、少しはマシなんでしょうけど。
    実用化に関しては、「第二のリニアモーターカー」ほどにはならないんでしょうけど、今のところは「夢」先行の部分がほとんどなんでしょうね。

  3. ふっふっふっ。
    日本ではナノテクの「リスク」について語るのはまだまだタブーなのさっ。
    海外のナノテクELSIは「やばい結果が出たらやめます」ということを前提にしているみたいだけど、いまだに「GMOの失敗はくりかえさないように、国民に「ご理解」願います」のスタンスだもんね。
    いや、日本における遺伝子解析研究のELSIもひどいんだけどね。頭が痛いよ。

  4. kurakuraさん(いちおうHNで)、コメントどうもです。
    「タブー」については、若い世代はだいぶ意識が変わってきてるのかなと思いますが、お金の動かし方にかかわってるエライ人たちは、アレですよねぇ。。
    学術会議も、Royal Societyといろいろナノテク・リスクや社会的影響についてやろうとしてますが、どこまで「本気」なんでしょうね~?(やっぱり「ご理解願います」ですかね?)

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