1000通の意見書を食品安全委員は本当に読んだのか?

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連休中、PCのハードディスクがオシャカ寸前に至るトラブルがあったりして、メモし損ねていたのだけど、こんなニュースがあった(強調筆者)。疑問がイパーイである。

<BSE>国内検査緩和答申案 食品安全委、6日了承へ
 食品安全委員会は2日、下部組織のプリオン専門調査会がまとめたBSE(牛海綿状脳症)国内検査基準の緩和答申案について、6日の次回定例委員会で了承する方針を固めた。早ければ同日中に農林水産、厚生労働省に「生後20カ月以下の牛の検査除外」の容認を答申する見込み。
 同委は先月27日までの4週間、答申案に対する国民の意見を募集していた。寄せられた約1000通の意見をプリオン調査会の吉川泰弘座長が検討した結果、同調査会としては答申案の修正は必要ないと判断した。・・・(毎日新聞) – 5月3日3時7分更新

気になるのは太字のところ。


えーと、締め切りが4月27日、先週の水曜日で、その一週間後の今月2日に食品安全委員会は「国内検査基準の緩和答申案について、6日の次回定例委員会で了承する方針を固めた」って、エラク早過ぎないですか?(ついでにいうと、答申案は「国内検査基準の緩和」だけがトピックではないし。←ディテール端折りすぎ、毎日新聞!)締め切り以前から、届いたものから読んでいたのかもしれないけど、「1000通の意見」を本当に読んだのだろうかという疑問が沸々湧いてくるぞ。しかも「吉川泰弘座長が検討した結果」って、吉川さんだけで読んだんですか?他の委員は?たとえば、答申案にも盛り込まれていた「新しい検査技術の有効性の検証のためにも全頭検査継続は必要」という「批判的意見」を述べていた山内委員をはじめとする他の委員は検討に加わらなかったのか?だとすれば「同調査会としては答申案の修正は必要ないと判断した」なんてことにはなりえないはずなんだけど。前回の調査会(3月28日)は傍聴していたけど、パブコメの検討を「座長に一任」なんてことは、一言も言われてなかったぞ。
そもそも、パブコメ、もしくはリスクコミュニケーションをまともに扱うとすれば、まず寄せられた意見の内容・概要と、それに対する専門調査会からの回答をまとめた「意見募集の結果」を、調査会に提出すると同時に公開し、これをふまえて調査会で審議した後で、はじめて本委員会――16の専門調査会の上に置かれた7人の委員からなる委員会――での最終審議に向かうのがあるべきdue processのはずだ。それが「透明性」というものである。委員会のHPに公表されている関連法令には、審議の行程に関して、そこまで詳しいルールは示されていないのだが(運営細則みたいなもののレベルではあるのかもしれないが)、少なくとも「意見募集の結果について」など過去の例を見ると、上記のような段取りがふまれているようだ。なのに、なぜ今回は、こんなにも「拙速」なことをするのだろうか?(まぁ、理由は明らかだけどね。)
ちなみに、食品安全基本法の第2章「施策の策定に係る基本的な方針(第11条~第21条)」が定めるリスク評価(食品健康影響評価)などの措置の実施に関する基本的事項を定めた「食品安全基本法第21条第1項に規定する基本的事項」(平成16年1月16日閣議決定)では、「第1 食品健康影響評価の実施(法第11条関係)」の「3 食品健康影響評価の円滑な実施を図るための手順及び手法等(p.4)」の「(2) 食品健康影響評価の実施時」で、パブコメの取り扱いについては、次のような簡単な規定があるだけである。

③ 委員会は、食品健康影響評価に関する専門調査会における結論については、原則として国民からの意見募集を行うとともに、出された意見及びそれへの対応を公表する。

つまり、「公表」はすることとなっているが、いつするのかは書いてないし、これをどういう手続きで調査会や本委員会の審議に反映させるかまでは規定されていないわけだ。
また「第3 情報及び意見の交換の促進(法第13条関係)」が定めているリスクコミュニケーションの進め方については、以下のように、「リスク管理機関(農水省・厚労省)」については、パブコメをすべしという規定があるものの、リスク評価機関である委員会にはない。まぁ、(2)のところに括弧書きしてあるように、この文書ではパブコメ=「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」となっているようだから、リスク管理に関するものとされているのかもしれないが、それでも、リスクコミュニケーションの促進は、リスク評価、リスク管理の全過程で要求されているわけで、下の(1)の最後の段落でも規定されてるように、委員会においても「実施状況を取りまとめ、公表する」ということになっている。

(1) 委員会は、その会議(委員会及び専門調査会)を原則として公開で開催するとともに、委員会の議事録及び提出資料を原則として公開するほか、食品健康影響評価の結果、勧告、意見等について、その内容を公表することにより、国民に対する情報の提供に努める。
 また、食品健康影響評価の結果の公表に当たっては、必要に応じ、評価の開始から結果に至る過程及び評価の結果について、消費者等の理解を促進するよう、わかりやすく解説する。
 このほか、委員会は、その運営について国民の理解を深めるため、適宜、食品健康影響評価、リスクコミュニケーション等の実施状況を取りまとめ、公表する
(2) リスク管理機関は、食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たって、当該施策に関する適切な情報の提供、いわゆるパブリック・コメント手続(規制の設定又は改廃に係る意見提出手続)の実施、意見交換会の開催など、リスクコミュニケーションの促進を図るために必要な措置を講ずる。・・・

とはいえ、やはりここでも、パブコメやリスクコミュニケーションの結果を、どういう手続きで調査会や本委員会の審議に反映させるかまでは規定されていない。(ついでにいえば、リスク管理機関に対する規定と比べて、委員会のは、「国民に対する情報提供」とか「消費者等の理解を促進」とかばかりで、国民・消費者からの意見・情報の提供という「相互性」が薄いものになっていることにも注意。)
いずれにしても、パブコメに対してこんな杜撰な扱いをしてたら、もうそれだけで国民の信頼は失墜してしまうだろう。パブコメする意欲も湧かなくなる。よく霞ヶ関の住人から、「パブコメを募集しても、考慮に値するような質の高いコメントが少ない」というグチを聞くんだが、「せっかくパブコメしても、何も変わらないじゃん」というあきらめを蔓延させていることも、コメントの質を下げる一因なんじゃないのか?(この「あきらめ」は、投票率の低さなど、政治全般にもいえるんだが。)まぁ、食品安全委員会の中の人たちは、少ない人数で大変なんだろうけど、パブコメやリスクコミュニケーションについてのもっと細かいルールも作って、仕事も何らかのかたちでアウトソーシングするなど工夫が必要なんじゃないだろうか。とくに今回のは日米BSE問題がらみという注目を浴びている案件であるだけに、いかにも「圧力に屈しまスた~」てなかんじで、due processを破るのは、委員会の信頼性にとって致命的な結果になるだろう。(まぁ、もはや手遅れという感じもするが。。)

<参考>
藤原邦達さん: (5月3日)BSE問題・パブリックコメント制度は単なる通過儀礼にすぎないのか―意見書制度を整備するために―

<追記>
答申案の了承は、今日の本委員会で予定通り了承されたことを伝える共同通信の記事。

全頭検査緩和容認を答申 BSE対策で食品安全委
 内閣府の食品安全委員会は6日、牛海綿状脳症(BSE)対策の見直しについて審議し、全頭検査の緩和容認を正式に決めた。同日中に厚生労働省と農水省に答申する。・・・・

 同委員会には、一般から約1250件の意見が寄せられ、そのうち約7割が全頭検査の継続を求める内容だったが、科学的な検討を要するような指摘は無く「再審議の必要は無い」(吉川泰弘座長)と判断した。・・・・(共同通信) – 5月6日15時59分更新

つまり、寄せられた意見の多くは、要約しちゃうと「全頭検査の継続を求めます!」の一言に尽きていて、改めて答申案のリスク評価を再検討しなくちゃならない指摘を含んでいなかったので、締め切りから一週間ですべて読んで検討できたってことなのかな?しかし、そうだとしても、プリオン専門調査会をもう一度開くことなく、いきなり本委員会に進むというのは、やはり拙速なんじゃないだろうか。そもそも、科学的な検討に値するような指摘が本当に皆無だったのかどうかも気になるところ。
いずれにしても、寄せられた意見についてはすべて、「概要」として編集することなく、そのまんま公開して欲しいものだ。それに対する専門調査会からの回答が、どれだけ説得的なのか。すでに答申案は了承されてしまったわけだが、そういうことを後から第三者が検討できるように公開しておくことは、こういう不確実性が高く、後々再検討する余地が残っていたり、国民の間で異論が多く納得しづらいような問題では、科学的にも政治的にも不可欠の手続きであるはずだ。委員会事務局は大変かもしれないが、寄せられた意見のコピーをそのままPDF化すればいいのだから、ぜひとも「無編集全公開」をしてもらいたい。

 

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