ライス米国務長官来日(18日・今日)を控え、さらに米上院に対日経済制裁決議案が提出されるなど、ジャイアン・アメリカのプレッシャーが高まる中で、政府は食品安全委員会の審議が短縮されるように、諮問項目の絞込みをすると決定したという。他方で、米国が求める輸入再開時期の提示は示さない方針を決めているため、せめてもの圧力緩和策なんだろうけど、問題あるなぁ。。
食品安全委への諮問項目絞り込み、政府が審議短縮策
政府は17日、米国産牛肉の早期輸入再開を目指すため、輸入再開の是非にかかわる食品安全委員会への諮問項目を絞り込み、審議期間の短縮を図る方針を固めた。・・・
具体的には「特定危険部位が除去された、生後20か月以内の米国産牛肉がBSE(牛海綿状脳症)に感染している確率」という専門的な判断を求める。審議が難航しそうな問題は「政府間交渉で確認する事項」として諮問から除外する。(読売新聞) – 3月18日3時4分更新
では、どこが問題なのか。手続き論と実体論の両面で指摘できる。
まず手続き論としては、諮問内容の決定手続きの正統性の問題がある。食品安全の国際基準を定めるFAO(国連食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)の合同食品企画委員会(コーデックス委員会)では、リスク評価機関(日本では食品安全委員会)に対して諮問内容を定めたものを、「リスク評価方針(risk assessment policy)」と呼んでいる。2003年7月のコーデックス委員会第26回会合の報告書(Codex Alimentarius Commission, 2003)では、リスク評価方針を「リスク評価の過程の科学的な完全性(integrity)を維持するための、リスク評価における適切な意思決定ポイントで行われる選択肢の選択とその適用に関連する諸判断についての文書化されたガイドライン」と定義し、次のように述べている。
- リスク評価方針の決定を、リスク管理の固有の要素として含むべきである。
- リスク評価に先立って、リスク評価者や他のすべての利害関係者と協議した上で、リスク管理者がリスク評価方針を制定するべきである。この手続きの目的は、リスク評価が系統的で、完全で、偏りがなく、透明性のあるものになるよう保証することである。
- リスク管理者からリスク評価者への指示は、できる限り明確であるべきである。
- リスク管理者は、リスク管理の選択肢の各々を採用した場合に起こりうるリスクの変化を評価するよう、必要に応じてリスク評価者に求めるべきである。
ここに述べられているように、食品安全委員会への諮問内容をリスク管理側、つまり農水省・厚労省や内閣の側で策定すること自体は正当なことである。しかし、その策定は、今回の場合、どれだけリスク評価者や他のすべての利害関係者と協議した上で行われたのだろうか。
また、実体論としては、リスク評価方針の内容は、リスク評価が「系統的で、完全で、偏りがなく」、科学的な完全性(integrity)を維持するものでなければならない。もしも諮問内容が記事が伝えるように「特定危険部位が除去された、生後20か月以内の米国産牛肉がBSE(牛海綿状脳症)に感染している確率」というものだとすると、これには、それ自体、証拠に基づいた検証・審議が必要な、少なくとも二つの未検証の前提が含まれている。特定危険部位(SRM)除去と月齢確認それぞれの実効性だ。このブログでも度々指摘してきたように、これらの実効性は大変疑わしく、特にSRM除去については、現場の食肉加工工場の労働者や検査官の訴えもある。この疑い自体が本来は、食品安全委員会での審議対象にならなければならない。またSRM除去は、日本は全月齢ですべてのSRMを除去し、EUでも腸と扁桃を全月齢、その他は12ヶ月以上で除去することになっているが、米国では現在、腸と扁桃は全月齢で除去するものの、その他の組織は30ヶ月以上でないと除去していない。その理由として米国は、米国の汚染状況は低レベルであるため、感染後期に異常プリオンが溜まる脳や脊髄が、30ヶ月未満で汚染されていることはないということを上げている。そのように「信ずるあらゆる理由を有している」といっている(平成16年7月22日のBSEに関する日米ワーキンググループ報告書6p)。しかし、その信じる「理由」は、少なくとも報告書には示されていない。そもそも汚染状況が低レベルかどうかは、サーヴェイランスの検査が有効に機能しているかどうかにかかっているが、その有効性にも疑問がもたれているのである。
また月齢確認方法については、ある程度議論は進んでいるものの、日本側が求めた追加の統計データの提出を米国は拒否している。やはり疑いは残ったままだ。
これらは、米国側の協力が無い限り、検証に必要な証拠・データの入手も現場査察もできず、まさに「審議が難航しそうな問題」であるが、科学的な検証を必要とするがゆえに、「政府間交渉で確認する事項」として片付けるわけにはいかない。それらの検証なしには、リスク評価を系統的で、完全で、偏りがない、科学的な完全性をもったものにはできないはずだ。しかし、今回の政府の決定が、報道どおりだとするなら、それは政府間交渉に委ねられてしまう。また、これまでの日米協議では、結果の概要や報告書は公開されているが、議事録は公開されていない。どのような理由で、それぞれの結果が導かれたかを外から検証する手段が無く、透明性が著しく欠けているのだ。
もちろん、交渉の中で必要なデータの提出や日本からの査察の受け入れなどを米国に求め、認められれば問題はない。というか、まさに食品安全委員会のリスク評価に必要なデータをゲットすることが、交渉の重要な中身でなければならないだろう。しかし、これまでの経緯を見ると、それも大変怪しい。今年2月24日の衆議院農林水産委員会での民主党・山田正彦議員と島村農水大臣やり取りなんかを見てると、「米国政府は大丈夫といってるから大丈夫」で済まされそうな気配濃厚である。ちょっと長いが、引用しておく(強調筆者。ついでにいうと、山田議員は、メキシコ経由での米国汚染牛の日本への輸入の可能性にも触れている)。
山田委員 …特に一つ、きょうは、皆さん方に資料として出しておりますが、大臣にお伺いしたいのは、アメリカの牛肉の検査、いわゆるパッカーでの検査というのは、BSEの検査も、私に言わせればまさに実際でたらめな検査方法、いわゆるBSEが出ないような検査しかしていないとしか思えないと思っておりますが。
アメリカの全米食肉検査官、これは公務員です。食肉を検査している現場の委員長、評議会の議長と言っていいんでしょうか、ペインターさん、この方から実はアメリカの農務長官あてに抗議書が出た。この資料をつけた部分ですが、これについて仮訳が出ております。その中を詳しく読んでいただければわかるんですが、私からここで言いますと、大臣、よくお聞きいただきたい。
食肉加工場では、従業員は、すべての動物の頭数と三十カ月以上の動物の死骸については正確に識別を行っていない。それはどういうことかというと、その結果、その先の工程では、従業員や政府の担当官は、多数の部位がSRM、危険部位として取り除かれるべきことを知ることができない。いわゆる、末端の工場内においてはSRMを除去するべきだということを知らないんだ、そして高度に危険なSRMそのものが中に入ってきている。これらの高リスク部位が食品供給に入っていますと断定しているわけです。そして、アメリカはメキシコとの間に三十カ月齢以上の牛を輸出することが協定で結ばれておりますが、三十カ月齢以上の家畜由来の内臓等々については、これはメキシコでも今禁止されています。ところが、それについても、この仮訳ですが、ライン上の検査官は、メキシコ向けの加工工場において、定期的にプラント従業員が三十カ月齢以上の内臓を若い牛と同じシュートに送るのを目撃しています。ところが、検査官はこれについていわゆる異議を申すことはできない、これが実態だ。
大臣、どう思われますか。
島村国務大臣 全米食肉検査官合同評議会から、昨年十二月、米国農務省に対し、食肉処理施設における特定危険部位の除去が確実に行われていないことなどを警告する内容の書簡が送られたことは承知しております。
このことについて我が国から照会を行ったところ、米国農務省食品安全検査局から、米国の食肉処理施設ではBSE規制が効果的に守られており、書簡については調査中である旨の回答があったところであります。
山田委員 大臣、それは間違っています。
山内教授の先ほどのフライデーに書いた中にありますが、驚くべきことに米国の農務省にはBSE専門の科学者がいない、日米の専門家会議にも米国側は科学者が入っておらず、行政上のやりとりしかありませんでしたと。
いいですか、この中に検査のことも書いておりますが、二万何千頭か検査したと言いながら、問い詰めたところ、これはでたらめだった、米国側が実際に危ない牛を調べたのは六百頭以下にすぎなかった、そういうことをはっきりと、食品安全委員会の委員である山内教授は言っているわけであります。
そういうことからすれば、アメリカ農務省の言うことだけを信じて、そうですかと言うだけでは、大臣、だめではないのか。当然大臣みずから、こちら日本農水省として調査団を派遣して、向こうも検査官は公務員ですから、そういう検査官の意向も聞きながら実態を調べるという必要があるのではないのか、大臣。明確にお答えいただきたい。
島村国務大臣 昨年、日米の専門家間で行ったBSEに関するワーキンググループで検査頭数の内訳についてただしたところ、BSEが疑われる中枢神経症状を示した牛は六百頭弱であり、ほかに農場での死亡牛や起立不能牛がほとんど占めているとの説明があった。サーベイランスにおいては中枢神経症状牛を中心に行うことが重要ではあるが、死亡牛や起立不能牛の検査も重要な指標となり得ることから、米国のサーベイランスも一定の評価ができると考えている、こういう考え方に立っています。
もう一つ言えば、実体面での問題には、先日、米会計検査院も指摘した飼料規制(フィードバン)の実施体制(コンプライアンス)への疑いもあるが、これもいつのまにか政府間交渉であいまいにされている。これについて日米間では、昨年7月22日のBSEに関するワーキンググループ報告書のなかで、日本は米国の体制に疑いを持っていることや、日米双方のフィードバンの有効性について、将来のサーベイランスの結果に基づいて、引き続き検討していくことを確認している。しかし昨年10月23日の日本政府及び米国政府による牛肉及び牛肉製品の貿易の再開に関する共同記者発表を見ると、SRM除去については全月齢に拡大すると前進があるものの――とはいってもその実効性には相変わらず疑問が残るわけだが――飼料規制はアジェンダから排除されている。その理由は、先に引用した衆議院農水委員会でのやりとりのなかで次のように説明されている(強調筆者)。
山田委員 ・・・アメリカにおいては、飼料規制、例えば牛の肉骨粉については、これを豚や鶏にやっている。豚や鶏にやると、これを仮に肉骨粉にするとプリオンが残る。それを牛が食べて、連鎖は断ち切れない。そして、血漿、血粉、これについては、アメリカはそのまま使用をまだ認めている。そして、私の情報だと、いわゆる東海岸においてはまだ肉骨粉を乳牛にやっている。
そういった飼料関係というのは、これは感染を防ぐ上で非常に重大なことであって、大臣、これについても、当然のことながら、先ほど言ったように国内と同等の基準を求めていくということには変わりありませんか。
島村国務大臣 確かに私も当初、日本とアメリカの差の中で、要するに豚や鶏には肉骨粉が禁じられていない、これは本当に危険がないのかということは関係者に問うたところであります。しかし、米国の肉骨粉規制が御指摘の点で不十分であることについては、昨年七月の日米専門家ワーキンググループなどでも米国に対して指摘をしているところであります。
しかしながら、飼料規制については、BSEの病原体が牛から牛へ伝播することを防止するための措置であって、牛肉そのものの安全性を直接確保するものではない、このため、米国産牛肉の輸入再開の条件として飼料規制までは求めていない、私どもはそういうふうに報告を受けております。
こんなふうに説明しているわけだが、飼料規制を杜撰なままにして、BSE感染の拡大可能性を放置しつづければ、いずれ感染が本当に広がり、若い牛でも高濃度の異常プリオンにさらされる可能性が出てくる。もちろんその場合でもSRMをちゃんと除去できればいいが、その実効性自体が疑わしいわけだ。仮に法令遵守が十分に達成されたとしても、技術的な制度限界により、完全に取りきれるわけではない。汚染レベルとSRM残留率は、食肉のリスク評価に必要なデータであり、それらのデータの前提として飼料規制の実効性の検証が必要なはずなのだ。(そもそも飼料規制を徹底させ、感染拡大の可能性を経てば、そもそもSRM除去や検査の心配もしなくていいわけだし。)
最後にもう一つ、今朝の読売新聞の解説記事を紹介しておく。本来、検査に検出限界がある以上、ある程度――それが具体的に何ヶ月かは議論の余地があるとして――若い牛にも検査をすることには科学的な意義はなく、米国に対して求めるべきは、SRM除去と飼料規制の徹底だったはずだ。(理想的には、さらに、高感度で、生体牛も検査できる方法の早期開発・実用化が求められる。それが利用できれば、SRMを取ることなく、まるごと感染牛を処分できて、より安全だし、手間とコストもかからない。)そうすれば、少なくとも日本の対応を「非科学的」と非難されるような、無用なツッコミを避けつつ、安全確保にとって本質的なところを突いていくことができたはずだ。しかしそうはならず、なぜか全頭検査ばかりがクローズアップされてしまったわけだが、その経緯を読売の記事は、こう解説している。
[解説]BSE検査緩和 輸入再開諮問に向け対応急げ
・・・2003年12月に米国産牛肉の輸入を停止した当初、日本側の要求は「国内と同等の安全対策の実施」だった。牛の飼育頭数が多い米国が全頭検査実施を受け入れる見込みがないことは最初からわかっており、安全面でより重要な、特定危険部位の除去や、汚染防止の徹底などで、「同等の安全性」を求めるのが狙いのはずだった。
ところが、2004年1月26日の衆院予算委員会で、「同等の対策」に全頭検査が含まれるかを繰り返し聞かれた亀井善之農相(当時)は「BSEの検査をやることは当然」と明言。確認を求められた小泉首相も「農水大臣の答弁の通り」と追認した。
この答弁で、全頭検査の呪縛(じゅばく)は強まった。米国での全頭検査の実施がありえない以上、国内対策の見直しから始めるしかなくなってしまったのだ。・・・ ( 2005年3月16日)
う~ん、なんかメチャクチャ。亀井前大臣の答弁とか、いろいろ裏があるのかな(前頭検査ではなく、SRM除去や飼料規制に話を持ってくと、ぶつかってしまう国内の利権の壁があるとか?)。まぁ、全頭検査の呪縛が強まり、そこから逃れられなくなったことは、マスコミの責任も大きいと思うがね。
とにかく、現在の交渉状況から出発するならば、最低限、SRM除去の実効性の検証は、月齢確認方法以上に強く求めていかなければならない。できれば飼料規制も再び交渉テーブルに載せて欲しいが、SRM関係のデータすらえられず、「米国政府が大丈夫といってるから大丈夫」なんてことで済ましたとすれば、「特定危険部位が除去された、生後20か月以内の米国産牛肉がBSE(牛海綿状脳症)に感染している確率」なんていうのは、ただの架空の数字でしかなくなる。そんなもので、輸入再開をしたとすれば、食品安全委員会の信用はメチャクチャ失墜することになるだろう。小泉首相をはじめ、政府の態度は、「これは経済ではなく食品安全の問題。科学的にやります」、「時期を示したり結論を先取りすることはできない。審議次第だから」と、ツッパって見せる一方で、上記の農水委員会の答弁のように、肝心なところで米国の主張を鵜呑みしたようなものになっていて、よくわからない。明日のライス国務長官との会談はいったいどういうふうになるのだろうか。
<おまけ>
一昨日のニュース23でやってたが、米国の酪農家の25%は生年月日の管理をしているため、それを使えば、輸出シェア5%の日本への輸出は十分できるらしい。しかし、政府に対し力をもってる大企業は、管理をしてないので、結果的に「アメリカでは月齢管理はしていない」という主張になり、ただの肉質判別法を月齢判別法として用いるという無理なことをやってくるわけだ。
そういう事実を考えると、BSEの経済問題は、日米間の貿易摩擦というより、大企業・大規模酪農家と小規模酪農家とのシェア争いという米国内問題という面が強いといえるかも。
食品安全委への諮問項目絞り込み
食品安全委への諮問項目絞り込み、政府が審議短縮策
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050318-00000201-yom-bus_all
<font color="#000000">いくら何でもデタラメが過ぎる!</font>
ったく何をビビッてるのか。
「審議が難航しそうな問…
吉野家牛丼のお釣りで安全は買えるのか?
さて、アメリカからの牛肉輸入問題。こちらでずーっと取り上げてきたので、いまさら後には引けないので、継続的に追っかけることにしましょう。
さて、前々からアメリカ議会に出すぞーと「脅し」が来ていた牛肉禁輸に対する「対日経済制裁」決議案ですが、3日の下院議…
使い捨て時代を考える会の岡田です。
いつも拝見していますが、大変勉強になります。
私たちの会では、毎月「会員フォーラム」というミーティングを開いています。毎回テーマを決めて自由に意見交換をする場なのですが、4月のテーマは、「アメリカの牛肉は本当に安全なのか?」というもの。
4月は何かとお忙しいでしょうが、もしも都合がつけばのぞいてみてください。「会員」でなくても参加できますので。
日時:4月7日(木)午前10:30-12:30
場所:使い捨て時代を考える会事務所
下京区仏光寺富小路下る