先月、ここでも紹介した食品中のアクリルアミドの毒性の問題で、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の食品添加物合同専門委員会JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives)が、「健康に有害な恐れがあり、食品の含有量を低減させるべきだ」と勧告する報告書を公表した。
食品アクリルアミド低減を 国連専門委「有害の恐れ」
【ワシントン6日共同】フライドポテトなど炭水化物が多い高温加熱食品に“副産物”として含まれる化学物質アクリルアミドについて、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同専門委員会は6日までに「健康に有害な恐れがあり、食品の含有量を低減させるべきだ」とする勧告をまとめた。
各国の食品規制当局に対し、大幅に低減させる技術を早急に導入するよう食品業界に促すことを求めている。・・・(共同通信) – 3月7日7時51分更新
WHOによるプレスリリースと報告書(概要)はこちら。
プレスリリース: Acrylamide levels in food should be reduced because of public health concern says UN expert committee
報告書(概要): Sixty-fourth meeting, Rome, 8-17 February 2005 – Contaminants [pdf 287kb]
また報告書のアクリルアミドに関する要約部分については、食品安全情報blogさんが訳して下さっている。
ところで、以前のエントリーでも紹介したように、英国サセックス大学科学政策研究ユニット(SPRU)の食品安全の専門家Eirk Millstone氏は、食品中のアクリルアミドの起源として、高温調理による生成以外に、土壌改良剤として農地で使用されている「ポリアクリルアミド」が、じゃがいもなど農作物に吸収され、それが調理の際に分解しているのではないかと疑っており、調理前の食品の(ポリ)アクリルアミドの含有量も調べるべきだと主張している。しかし上記の報告書をざっと見たところ、この懸念に関する記述は見当たらない。
以下は、上記プレスリリースの拙訳です。
「公衆衛生の懸念から食物のアクリルアミドのレベルを下げるべき」と国連専門家委員会
2005年3月2日| ジュネーブ/ローマ 国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同専門家委員会によって今日リリースされるサマリーレポートは、特定の食品中の非意図的な汚染物質アクリルアミドは、動物でガンを引き起こすことが示されているため、公衆衛生上の懸念があるだろうと警告している。
15カ国からの35人の専門家の委員会によるこのレポートは、、食物中のアクリルアミドを減らす継続的な努力を要求している。
アクリルアミドの神経毒性は、それがプラスチックや素材の生産において工業プロセスで使われる際の高水準での職務上の偶発的暴露の例から知られている。また動物を用いた研究から、アクリルアミドは生殖上の問題とガンを引き起こすことが示されている。
高温調理によって食品中に生成されるアクリルアミド
2002年にスウェーデンの研究によってはじめて、ジャガイモや穀物製品を(120℃より高い温度で)揚げたり焼いたりするときに、比較的高いレベルのアクリルアミドが非意図的に形成されることが示された。食品中のアクリルアミド・レベルが健康に及ぼす影響は不確かであったが、これによって公衆衛生上の懸念が引き起こされた。スウェーデンの研究に続いて、利用可能なデータを検討するために、2002年にFAOとWHOによって特別専門家協議が開催された。その時点で専門家たちは、食品によるアクリルアミドに対する暴露の毒性と健康影響を十分に評価するには、付加的な研究が必要だと結論した。
委員会は、進行中の調査の結果に引き続くさらなる評価を要求
食品添加物に関するFAO/WHO合同専門家委員会(JECFA)は、2月8日-18日に、アクリルアミドと他の5つの汚染物質に関連する想定されうるリスクについて検討するために会合を開いた。委員会は、動物でのテストに基づいて、ガンがアクリルアミドの最も重要な毒性影響であり、この汚染物質を含む食品の現在の摂取頻度での消費は、公衆衛生上の懸念であるだろうと結論した。委員会によると、結論は控え目な評価に基づいている。すなわち、アクリルアミドの毒性メカニズムや、最も関連性の高い動物のデータを人間の状況に比較するのに用いられる仮定、摂取量評価の外挿法について、かなりの不確実性が残されていることに注意しなければならない。
アクリルアミドは、特定の食品、特に、炭水化物が豊富でタンパク質が少ない植物由来の食品を、一般的に120℃以上の高温で揚げたり、あぶったり、焼いたりするときに生成される。データが入手できた国々でアクリルアミド暴露に寄与する主な食品は、ポテトチップス/クリスプ、コーヒーとシリアル・ベースの製品(焼き菓子、甘いビスケット、パン、ロール、トースト)である。
アクリルアミドの量は、料理の温度と時間を含むいくつかの要因に応じて、同じ食品でも劇的に異なる。このため、JECFAの専門家は、アクリルアミドを含む個々の食品をどの程度食べるのならば安全かについて勧告することできないと述べている。
食品中のアクリルアミド・レベルを下げる方法を捜す食品業界
JECFAは、食品業界が、様々な食品でアクリルアミド・レベルを減らす手段を評価中であるという報告をしていることを指摘している。委員会は、食品中のアクリルアミド濃度を下げる努力が続けられるよう勧めている。それとともに専門家たちは、アクリルアミドのレベルを減らすために食品の加工方法を大きく変更する際には、細菌汚染や他の望ましくない化学物質の生成の可能性も含めて、栄養的な品質と安全性がチェックされなければならないと警告している。消費者の受け入れ可能性(acceptability)も考慮されなければならない。
最後に、JECFAは、現在進行中の毒性学的研究の成果が利用できるようになったときには、アクリルアミドの再評価が行われなければならないと勧告している。最も関連性のある長期的研究から得られる結果は2~3年の間に利用できると期待されており、それらの研究は、現在のリスクアセスメントにおける不確実性を減らす助けになるだろう。
こうした評価に基づいてFAOとWHOは、食品中のアクリルアミド・レベルを減らす努力を継続しけなければならないと勧告している。各国の食物安全当局は、関連する食品産業に対し、重要な食品、特にフレンチフライ、ポテトチップス、コーヒー、焼き菓子、ビスケット(クッキー)、パン、ロール、トーストのアクリルアミド含有量を著しく(significantly)下げるために、協働して食品加工技術を改善するよう促さなければならない。
産業界とその他の研究者による初期段階の研究によれば、著しい削減がいくつかの食品で現在可能であると示唆しているようである。得られた知識は、家庭で調理される食品のための指針を開発する際の助けになるはずである。さらに、アクリルアミドに関する最新の利用可能な情報は、健康的な食べ方についての一般的なアドバイスを強化するものである。消費者は、たくさんの果物や野菜を含めて、バランスよく、様々な食品を摂り、揚げ物や脂肪の多い食品の消費を節制し続けなければならない。
<追記>
食品安全情報blogの畝山さんから、当エントリーにトラックバックを頂きました。そのトラバ元の畝山さんの記事「食品中アクリルアミドの由来について」で、「ポリアクリルアミドが脱重合してモノマーのアクリルアミドを生成して食品の汚染源になるという証拠はない」とする実験結果を示した論文の紹介がありましたので、そのアブストラクトの翻訳とともに、ここにも紹介しておきます。(掲載誌はどうやらウチの大学図書館も定期購入しているようなので、明日にでも論文本体をゲットしよう。)
Ahn, Jongsung S; Castle, Laurence. “Tests for the depolymerization of polyacrylamides as a potential source of acrylamide in heated foods,” Journal of Agricultural and Food Chemistry, Vol. 51, No. 23, 2003 (November), p. 6715-6718/American Chemical Society.
要約: この研究は、農業で使われるポリアクリルアミドが、熱による脱重合によって、加熱食品中でのアクリルアミドの生成に寄与する可能性をテストするために行われた。ポリマー(高分子)鎖中および鎖末端での脱重合をテストするために、1.5kDaと10kDaの低分子量のポリアクリルアミドの2つのサンプルが用いられた。それらは、乾燥中の、または乾いた環境で加熱した場合をテストするためにフィルター紙と、脂肪質の多い環境で加熱した場合として料理油に加えられた。加熱の条件は、175℃で15分および30分であった。両方の処方は、レドックス(酸化・還元)活性な金属イオンFe(III)とCu(II)が存在しない場合と存在する場合でテストされ、全てのテストが大気中の酸素の除外なしに行われた。有意なレベルでポリアクリルアミドから自由なアクリルアミドのモノマーへの脱重合を記す証拠は存在しなかった(<0.04%)。実際、低分子量のポリマー中に既に存在しているアクリルアミドの残留レベルは、加熱のもとで50-80%の間であることがわかった。従って、たとえポリアクリルアミドが、その中で育てられる農作物や食品を汚染することになっていたとしても(これ自体は未証明の提案である)、食品の加熱によってポリマーが脱重合して、有意な量のアクリルアミドを生成する証拠はないと結論される。
食品中アクリルアミドの由来について
トラックバック先に食品中のアクリルアミドが環境由来である可能性があるという記載があったので >> ところで、以前のエントリーでも紹介したように、英国サセックス大学科学政策研究ユニット(SPRU)の食品安全の専門家Eirk Millstone氏は、食品中のアクリルアミ…