久々にBSE関連のエントリー。
農水省 中国の食肉工場調査へ 安全性、輸入急増受け (産経新聞)
農林水産省などは、日本向けの牛肉輸出が急増している中国で食肉工場の現地調査を近く実施する。工場内の衛生状態などを調べるほか、中国政府とも情報を交換していく。
BSE(牛海綿状脳症)感染牛の確認で一昨年末から米国産牛肉の輸入が停止している影響で、代替品として中国産牛肉の輸入が増加している。加熱処理した中国産牛肉の輸入量は、昨年一-十月で四十トンを超え、すでに前年の十七トンを大幅に上回っている。・・・
今回の調査では、加工処理の仕組みなどを改めて確認するという。
牛丼では松屋が、去年10月から中国産牛肉を使っている。調査するのは当然といえば当然なんだけど、調査するのは加工処理だけでいいのだろうか?もっと前の段階、つまりBSEに関係する牛の育て方(飼料に肉骨粉使ってるかどうか)とか、解体処理の仕方(特定危険部位の処理←してないだろうな)も調査したほうがいいんじゃないだろうか?少なくとも、肉骨粉の使用割合とその生産過程、輸入元――英国などBSE発生国から輸入してないかどうか――くらいは調べたほうがいいんじゃないだろうか。まぁ、リスクの大きさから言うと、O157(これは解体・管理の品質管理だけでなく餌の種類にもよる)とか、加工段階での他の細菌の混入による食中毒のほうが、BSEより優先順位は高いのかもしれないけどね。
続いて今度はアメリカのニュース。
禁輸打開に首脳会談必要 米農務長官、BSE問題で (共同通信)
【ワシントン10日共同】ベネマン米農務長官は9日、牛海綿状脳症(BSE)の発生で停止したままの対日牛肉輸出に関し、日本の農水省が輸出再開を「妨害している」と指摘、事態打開には首脳会談が必要との見解を示した。
ノースカロライナ州で開かれた米農業団体の会合出席後の発言として、ロイター通信が伝えた。・・・
日米は生後20カ月以下の若い牛から貿易を再開する方向で基本合意。だが米国では成育年齢を確実に把握できる体制が整っておらず協議は確認方法をめぐって難航、日本の輸入解禁時期が見通しにくい状況にある。長官の発言は、退任を間近に控え、こうした現状に不満を募らせたため出てきたとみられる。
「日本の全頭検査は非科学的」とさんざんなじっておきながら、首脳会談という「最も上の<政治的>レベル」での「政治解決」を要求するとは、見事なダブルスタンダード。牛の月齢確認もろくにできないという自国の欠点を思いっきり棚に上げて、「日本の農水省が輸出再開を妨害している」なんていうのは、お門違いじゃないだろうか。今年7月に発表された欧州食品安全機関(EFSA)によるアメリカの「地理的BSEリスク(GBR)」の評価結果でも、アメリカのリスクレベルは一つ上がり、過去にBSEの病原体異常プリオンに汚染された肉骨粉が輸入され、それを食べた国内牛がさらに肉骨粉になって汚染・感染が広く広がっている怖れがあること、そうした飼料の規制をちゃんとやらない限りは(つまり現状ではやってない)、状況は極めて不安定であり、今後も感染牛が存在する可能性は高まり続けるとされている。9月の首脳会談のときは、ライス大統領補佐官が「専門家には任せておけない。首脳同士の政治決着を!」と小泉首相に迫ってきたというが、そのとき日本側は「これは科学的に解決しなくてはならない問題」と突っぱねたというが、まもなく発足するブッシュ第二期政権に対して、どこまでふんばりつづけられるのだろうか。
ちなみに、このベネマンさん、農務省(USDA)関連のキャリアも長いのだが、もともとアグリビジネスと強い結びつきのある「政府の中の企業代表」。「フレーバー・セイバー・トマト」という世界初の遺伝子組換え作物を商品化し、その後世界最大の組換え作物メーカー、モンサント社に買収されたカルジーン社の元・重役でもあるし、また輸出拡大のための「貿易自由化」の推進役としても有名らしい(参考)。間もなく農務長官を辞めることになる彼女にとって、上の発言は、そういうアグリビジネス・農業バイオテクノロジー業界への再就職のための布石かもと、うがって見てしまうな。
彼女の企業関連の経歴・コネクションについては、USDAの紹介では見事に省略されている。しかし、アメリカのNGO、メディアと民主主義センター(Center for Media & Democracy)が主宰するDisinfopediaには次のように紹介されている。(それにしても、やはりアメリカのNGOって、こういう情報収集力、高いなぁ。。それに比べて日本・・・と書き始めると長くなるので省略)
Ann M. Veneman
ブッシュ父大統領政権下での米国農務省(USDA)での在職期間と、1995年のカリフォルニア州食糧農業局のヘッドの在職期間の間に、アン・ベネマンはカルジーン社の取締役を務めていた。1994年にカルジーン社は、フレーバー・セイバー・トマトという遺伝子組換え食品をスーパーマーケットの棚に並べた最初の企業になっている。カルジーン社は1997年に、米国の主導的バイオテクノロジー企業モンサン社に買収され、その後モンサント社は2000年に製薬企業ファーマシアの一部になっている。ジョージ・ブッシュの大統領選に12,000ドル以上を寄付したモンサント社は、今年二つのことを求めている。バイオテクノロジー食品に対する表示の義務化を行わないことと、国際市場へのよりよいアクセスである。ベネマンはまた、国際農業・食品・貿易政策カウンシル(International Policy Council on Agriculture, Food and Trade)というカーギル社、ネッスル社、クラフト社、アーチャー・ダニエル・ミッドランド社が作ったグループでも仕事をした経歴がある。
ついでにいうと、ベネマン長官のもとで、「アメリカの牛肉は安全です」と言い続けているアリサ・ハリソン米農務省報道官も、実は全国肉牛生産者・牛肉協議会(National Cattlemen’s Beef Association:NCBA)の元・広報担当者だったりする(参考)。産業界の代弁者が、肩書きを政府代表に変えただけで、そのまんま同じことをしているわけだ。この人のほうは、USDAのプレスリリースにもはっきり書いてある。(潔いなぁ。。)
今月下旬にはブッシュ第2期政権が発足するわけだけど、今度はどんな「華麗なる経歴」の持ち主がやってくるのだろうか。
ひらかわさん、こんばんは。
1月13日の朝日新聞(こちらでは統合版、他ではたぶん前日の夕刊では?)で、ひらかわさんが取材を受けられたであろう記事を読みました。(違ったらごめんなさい)
『安全・安心ブーム 科学の専門知は誰のため』
「安全・安心というロジックが、安全は専門家がつくるもので、素人はそれを一方的に受け入れて安心しなさい、という形で働くこともある。今は過渡期。同じ組織、専門分野の中でも様々な考え方の人はいる」というご指摘、同感です。
様々な考えどころか、同じ分野の専門家が全く対極的な見解を示す場合だってありますし、今の世はマスコミも自分の立場の論調に沿う専門家を利用しますものね。
素人もそれを無批判に受け止める人と、疑いを持って違う見方をしようとする人がいます。
科学のひとつ医学の世界でもあります。
確定した定説でさえも、時代が進めばひっくり返されます。20年以上前に定説として学んだ「病態生理」が、今見ると大きく変わったところがあります。治療法が昔は禁忌とされていたことが、今は効果ありとされたり、昔の治療法がむしろ害とされたり。医学・医療の世界でさえ、時代で常識が変わるのですから・・・
研究成果のどの時点が完結といえるのか、科学的論証による最終結論は神のみぞ知るという気がします。
専門家の世界がそんなわけですから、素人ももう少し自身の問題として受け止めるべきだと思います。「おまかせ」はよくないと言うより、おまかせだけでは自分は守れなくなってきているのではないでしょうか。そういう意識だけでも持つべきだと思うのです。
nanayaさん、こんにちは
ウチは新聞とってないので、まだ自分で実物を見ていないのですが、記事に登場しているのは私です(^^)
「科学的論証による最終結論は神のみぞ知る」というのは、ほんとうにそのとおりだと思いますね。今朝もニュースで、今まではネズミ程度しか哺乳類はいないとされていた白亜紀の恐竜全盛時代に、恐竜をえさにしていた大型哺乳類がいたことを示す化石を発見というのもありました。
昨日も、授業で、エリック・シュローサーの『ファストフードと狂牛病』を題材に、そういう話を学生にしたばかりでした。シュローサーも同書で、BSEというのは、思いがけないことは必ず起こる、科学を絶対視して崇めていては痛い目を見るということを警告する典型的事例だということを書いています。
この点でもう一つ注意しなければならないのは、科学的情報の「伝言ゲーム」ですね。専門家の間というのは、最先端の問題であればあるほど、意見は多様ですし、わからないこともたくさんあります。専門家同士の議論では、そのことはある意味当たり前なのですが、それが、専門外の人々、素人向けに話そうとする場面になると、とたん多様な声が一つになり、わからないことは省略されて、確定した(と信じられている)ことばかりが前面に出てきます。とくに、テレビという回路では、たいてい登場する専門家は一人とか、小数になるので、一部のものでしかない見解があたかも代表的意見のようにみえてしまうことも多いですよね。(健康番組などはその典型ですね。)役人や政治家があいだに入る場合も、同じような伝言ゲームになることが多いです。
イギリスでBSEが最初に見つかり、人への感染が問題になったときもそうでした。当時、BSE問題を扱っていた政府の専門家委員会が出した答えは、「人に移る可能性を示す科学的証拠はない」ということでしたが、その裏には「今後研究を進めれば、そういう証拠がみつかる余地はある」ということも含まれていましたが、これが役人や政治家(大臣)の口から発表されたときには、「危険だという証拠はない。だから安全だ」という主張に飛躍してしまいました。
そのあたり、食品安全委員会のBSEのリスクコミュニケーションは、わかっていないことや、いろいろな可能性についてもはっきり説明しているようで、だいぶ進歩したなぁと思ってます。
素人の側も、そういう飛躍や、「わからないこと・意見のばらつき」の省略に対して、「ちゃうやろ!」、「何いうてんねん」とツッコミを入れていくことが必要ですね。(僕の授業やゼミの教育目標は、「素人のツッコミ力強化」です(^^))
人間が失った「予知能力」
人体埋め込み用IDチップ、救急治療室やクラブに進出 [CNET Japan] ハ…