ケリー候補が敗北を認める―カルト軍事国家・米大統領選

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最大の選挙人20人を抱えるオハイオ州の暫定票の開票を待つことなく、とうとうケリー候補が敗北を認めたことをブッシュに伝えた。米国東部標準時3日午後1時(日本時間4日午前3時)に敗北宣言を公式にするらしい。

Kerry Concedes Defeat; Bush Wins Second Term (Washington Post)
After a long night of silence, Sen. John F. Kerry called President Bush today and conceded defeat in the 2004 presidential election.
A source in the campaign said Kerry would have an announcement at about 1 p.m.

きっと今回も不正――たとえば暗いニュースリンクの「腐り果てた選挙」に書かれているようなこと――がたくさん行われてるのだろうが、それが追究され、結果が逆転する可能性は(前回同様)ほとんどないだろう。
議会選挙のほうも、上院・下院ともに共和党優勢で、バランス・オブ・パワーは完全に崩壊した。
あと4年間、世界にとっての不幸がますます深まるのか。。。


ニュース23でやってたが、今回の選挙では、22%の人が「モラル」を投票理由に挙げ、経済や社会保障、戦争などの理由を抜いてトップだったという。いうまでもなく、そのモラルとは、もっぱらアメリカの保守の最大基盤であるキリスト教福音派=キリスト教原理主義の掲げる価値観のことだ。
今回ブッシュ陣営は、原理主義者の大量動員に的を絞ったことから、日本のニュースでも先週あたりには、これに焦点を当てた特集をやっていた。牧師やらフツーの信者――ほとんどが白人だ――にインタヴューしてたが、どれもこれも吐き気がするものばかりだった。「妊娠中絶絶対反対」を掲げて命の価値を重んじながら、他方で10万人も民間人の犠牲者を出しているイラク戦争については「戦争には犠牲はつきもの」、「戦争はさけられない」、「正義の戦争は神も認めている」とのたまう始末(まぁ、FOXテレビばかり見ててイラクのことなんか知らないし、知る気もないのだろうけど)。仮にヒロシマ・ナガサキのことを聞いても、きっと同じように正当化するんだろうな。教会主催の幼児教室では「神の軍隊」とかいいながら、子供たちが飛行機――たぶん爆撃機のつもりだろう――の真似をしてお遊戯していた。不道徳極まる映像。ほんと吐き気がした。正直、ただのカルト集団にしか見えなかった。(ちなみに大学時代の恩師の一人で、プリンストン神学大学院卒の牧師によれば、アメリカのリベラルな宗教者の間で原理主義者(foundamentalists)は「ファンディ」と蔑称されてるらしい。)
そんな信者たちが、「ブッシュ大統領は神を信じてる」とか「妊娠中絶や同姓結婚に反対してくれる」とか、そんな理由でブッシュを熱烈に支持して投票する。いいかえれば、ますます膨らむ史上最大規模の双子の赤字を抱えた国家財政――それをギリギリ支えているのは日本人のお金――とか、ごく一部の富裕層だけが優遇される一方で、どんどん切り崩される社会保障や教育の問題や、イラク戦争の不正義のことなんかはちっとも考えていない。はっきりいって、ただの思考停止が彼らを支配している。
いったいこの思考停止は何によるものなのか?もともとファンディなんて、そんなもんかとも思うが、やはり911後遺症の一つ、病理的現象なんだろうとも思う。テロのもたらした「恐怖」によって、自分たちの安全以外には何も意識が向かわない。「生存(survival)」を至上の命題に掲げるいびつな生命主義が跋扈する。そして、自分たちの存在を脅かす異質な価値観を極度に嫌い、妊娠中絶反対や同姓結婚反対など単純なスローガン――あるいは白い肌――で同一性を確認できる者同士の集合体の中に「安心」を求める。さらにいえば、そうした連中が形成する多数派から迫害されないよう、マイノリティも過剰に同一化に走り、本来は自分たちこそ最もブッシュ政権的政策によってカモられているにもかかわらず、ブッシュや共和党を支持する。いずれのレベルでも「恐怖」が支配するアメリカ版「支配されたがる人々」だ。
この点で興味深いのは、911の直後、2001年9月13日に米タイムズ紙に掲載されたアメリカ人作家ノーマン・メイラーの電話インタビュー「建物よりもはるかに美しい遺跡」だ。

アメリカは攻撃の精密さに恐怖を覚えた。これがアメリカのような若い国につきもののパラノイアに火をつけるだろう。アメリカでは、自分が生まれた家や病院を見つけるのは至難なわざだ。すべてが変わってしまう。精神的にはどのアメリカ人も、役者のようにして生きている。巡業にでている役者のように、自分が今晩寝る家がどこなのか、わからない暮らしをしているのだ。このためにパラノイアがとても多い。どこかに〈根差している〉という感じがなく、どこから脅威が訪れるか、わからない。だからいとも簡単に想像力が膨れ上がり、化膿してしまう。

カルト的信仰への同一化の衝動や、外部世界への徹底的な無関心は、このような化膿した想像力によって膨らみきった恐怖から逃れるための自己防衛規制なのかもしれない。
もう一ついえば、もともとアメリカ人というのは内向きな人たちでもある。ニュース23でもちょっと触れていたが、アメリカ人のパスポート所持率は14%で、日本人(26%)の半分ちょっとしかない。それだけ外の世界に関心がないのだ。以前にアメリカ人の友人にも同様のことを聞いたことがある。彼が言うには、東海岸や西海岸以外のところに住むアメリカ人にとっては、見渡す限り地平線しか見えず、その向こうに海があり、別の世界が広がってるなんてことは、まったくリアリティがないのだそうだ。彼らの世界観は決定的に内向きなのだ。ついでにいえば、大陸の内側の住人にとっては、東海岸や西海岸に大都市があるということもリアリティに乏しいのかもしれない。(そういえば上記の友人とこの話題を話したのはサンディエゴだったが、彼が西海岸に来たのはそのときが初めてだったといい、彼が住んでいたN.Y.やピッツバーグ、あるいはボストンとの違いに驚いたといっていた。)ちなみに今年の3月、ロンドンに行った時、ホテルが禁煙で、朝食後の一服を寒い屋外でするしかなかったのだが、ある朝一緒に一服していたテネシー州から来たアメリカ人が、「なんだってイギリスはこんなに煙草に厳しいんだ」と文句を言っていたのがおかしかった。ロンドンよりもっと厳しいのはN.Y.だからなのだが、そのことを彼に言ったら「そうなのか、知らなかった」と驚いていた。
もう一つ思い出したが、以前にブッシュ政権が京都議定書から離脱した後、NHKかなにかの温暖化問題のドキュメントで、そうしたブッシュ政権の自国中心的政策を支える自己中心的なアメリカ市民――具体的にはテキサス州民――の家族が登場していたが、これもひどく噴飯物だった。温暖化の主原因とされる二酸化炭素の世界排出量の1/4を排出するアメリカ。そこに暮らす件のアメリカ人家族の広い家には、家族それぞれに温水の出る洗面台があったりして、ふんだんにエネルギーを貪り食うものだった。そんな家の主は、「温暖化によって沈んでしまう島国がある」という話に対して、こうのたもうた。「これは私が努力して手に入れた生活です。他の人の都合で我慢するいわれなどありません。」(この人、沈みゆく島国パラオの国民の前でも同じこといえるのかな?と思ったりした。)
以前にこのブログでも紹介したアメリカの文明評論家ジェレミー・リフキンのEuropean Dream: How Europe’s Vision of the Future is Quietly Eclipsing the American Dream(英紙Guardianの抜粋要約はこちら)によれば、このテキサス州民の考えは「アメリカン・ドリーム」のコアにある「個人の自由」についての考え方をよく体現している。同書は、そうしたアメリカン・ドリームに対抗して、現在ヨーロピアン・ドリームなるものが立ち上がりつつあることを論じたものだが、それによれば、アメリカ人にとっての自由とは、伝統的に「自立性(autonomy)」と結びついており、「より多くの富を持つようになれば、世界の中でより独立できるようなる」、「独り立ちできればできるほど自由である」というものである。そして「富は排他性をもたらし、排他性は安全をもたらす」。これに対しヨーロッパ人にとっての自由は、自立性ではなく共同性にあり、「所有物(belongings)」ではなく「属していること(belonging)」に関するものなのだそうだ。そして、こう指摘している。

アメリカ人は、重要な利益と考えるものを守るために、より軍事力に頼ろうとするのに対しヨーロッパ人は、秩序を維持するために外交を好み、経済援助や平和維持活動を好む。アメリカン・ドリームは深く個人的であり、他の人間たちにほとんど関心がない。ヨーロピアン・ドリームは、より体系的で、この惑星の福祉と結びついている。

こうしたアメリカ的価値観とヨーロッパ的価値観の対比は、フランス在住のアメリカ人スーザン・ジョージの新著『オルター・グローバリゼーション宣言―もうひとつの世界は可能だ!もし…』でもなされている。(京都新聞掲載の同書の拙評はこちら。)ブッシュを支えたファンディ集団を見ると、世界はいま、キリスト教原理主義とイスラム原理主義の「文明の対立」という様相を呈しているように見えるが、実際はむしろ、アメリカ対ヨーロッパという構図のほうがより本質的なのかもしれない。
そうした国際的な政治・経済・文化の対立構造の中で、日本は果たしてどちらに向かうのか。コイズミ政権の政策は明らかに日本をアメリカ型にしようとしている。そして、その国に住むわれわれ日本人は、「自己中」、「内向き」、「支配されたがり」という点では、アメリカン・ファンディに劣らぬ――あるいはそれ以上の――酷さかもしれない。
<おまけ>
911 – 488さんによるhttp://www.udecide.org/ブックレット「投票先を決めていない人のための重要問題―事実とその出典」(PDF)からの抜粋翻訳。ブッシュ政権のこれまでの4年間でアメリカがどうなったかを、さまざまな公式統計をもとに数字で示したもの。これからの4年間で、もっと酷くなるわけだ。

  • 戦争の結果: イラク戦争のコストは当初の見積もりであった500億ドルの3倍に達しており、そして連邦議会予算事務局は2005年から2014年の間に追加コストが3920億ドルになると見積もっている。アメリカの調査団は大量破壊兵器を見つけずに、1991年からイラクが大量破壊兵器を持っていなかったという事を発見した。911独立調査委員会はフセインとアルカイダの間には関係がないという事を示している。イラク戦争では1000人以上のアメリカ人と恐らく10万人のイラク市民が死亡した。そして、イラク戦争は我々の目をオサマ・ビン・ラディンを捕まえるという事からそらさせて、実際には、オサマのテロリスト・ネットワークの発達を加速させた。また、イラク戦争では、同盟諸国は我々に反対し、国連のトップがアメリカにとってイラクと戦争を始めるのは違法なことだと発言した。
  • 雇用と経済: ブッシュが大統領になってから、160万の民間企業の仕事が失われた。そして、これだけの量の仕事が失われたのは1930年代の大恐慌以来である。家の抵当流れは50%跳ね上がり、そして400万人以上のアメリカ人が貧困へと陥り、現在ではその数は3600万人である。しかし、ブッシュ政権は残業手当をもらえる人の数を減らし続け、連邦政府の最低賃金の5.15ドルを各州が止めるのを許す事を提案した。
  • 保健医療: 医療保険が無かったが為に、毎日49人が亡くなっているが、ブッシュが大統領に就任したときと比べて、保険に入っている人の数は630万人減り、入っていない人の数は現在4500万人である。薬の価格はインフレよりも早く、殆ど三倍に達した。しかしブッシュ政権は医療保険に入っていなければ、製薬会社から低価格の薬を買い取れないとする法律を通過させた。 
  • 環境: 3人に1人以上のアメリカ人は汚染された大気を吸っており、1日に200人もの死につながっている。それにもかかわらず、ブッシュ政権のクリア・スカイ法は大気汚染防止法の重要な部分を無効にし、石炭火力発電所からの大気汚染を許している。 
  • 本土防衛: 2万個のコンテナが毎日アメリカに運ばれてくるが、そのうちの5%しか検査を受けない。ブッシュ大統領はコンテナ・セキュリティ法に資金を出すのを拒絶し、テロリストに攻撃を受けやすい15000の危険な化学工場の安全を確保するであろう法律に抵抗した。ブッシュ政権はまた、消防士と一次当事者への資金をカットする事を提案し、警察への資金拠出を半分にカットしている。
  • 財政: ブッシュ大統領は主に、富裕層への税の優遇により、2360億ドルという年次の財政黒字を4150億ドルもの赤字にし、史上最大の国の債務をつくった。 本土防衛、教育、輸送、司法そして環境の予算を合わせたものよりも多くの金を、この債務への利子の支払いは私達に強いる。

ところで、こういう市民団体のデータ収集力というのは、日本は決定的に弱いような気がする。昨年夏にボストンに行った時に、となりのケンブリッジ市のハーバードとMITの中間くらいのところで、イラク戦争反対を唱える地元のおじちゃん、おばちゃんのグループに出会ったのだが、そのときもらったパンフレットにも、ブッシュ政権の政策の問題点を数字で示したデータがいろいろあった。それは、縦横ほんの数百メートルの区域の小さな住民グループだったのだが、それでもそういうデータが集められていた。日本だって、政府の公式統計を使うだけでも、けっこういろいろなことが示せると思うのだが、そういうデータをたくさん集めた市民団体のパンフレットは見たことがない。「主張をデータで裏付ける」、「事実に語らせる」という文化がないのだ。イデオロギーで頭でっかちだったかつてのサヨク運動の弊害かとも思ったりするのだが、どうして日本ではそういう文化が市民のものにならないのだろう?(つーか、年金制度改革論議にも見られたように、政府にもそういう文化はないともいえるのだが。。)
ちなみに以前、市民運動やってる京大法学部の学生に、「ちゃんと統計データを集めたパンフレット作れば?ソースは政府とか、国連や世銀のでも十分意味あるから」といったら、あろうことか、そいつはこういいやがった。「ボク、文系なんで数字弱いんです~。」「英語苦手なんです~。」・・・マジ、キレそうになりましたよ、私は。「クタバレ、糞サヨク!」と本気で思いました(今も思ってる)。その昔、小生の師匠の一人が、「日本共産党を決定的に嫌いになった理由」として、ソ連の水爆に対して「プロレタリアートの水爆はクリーンだ」といいやがったことを挙げていた。それほどではないにしても、上の出来事は、小生がサヨクを毛嫌いする多くのきっかけの一つにはなっている(もちろん一例からの一般化はいけないけどね)。

 

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8件のコメント

  1. 私は音楽が好きなので、音楽に関する話題なんですけど、全米デビューに挑戦した宇多田ヒカルさん、わずか2週でビルボードトップ100から姿を消すと言う、芳しい成果が出ませんでした。さらに日本では700万枚以上と言う記録的ヒットだったファーストアルバムもアメリカでは1万枚にも達しませんでした。理由は何でかな?と、思ったんですが、アメリカの人はほとんどアメリカのポップスしか聞かないそうです。某ワイドショーより。
    この話を聞いてビックリしましたよ。こんな実力ある人が何でだろう・・・?って、思っていたら、アメリカでアメリカのポップス以外の音楽を聴く人はほんの5%しかいないんですよ。アメリカのほうが日本よりも海外の音楽に対して寛容だと思っていたのに・・・。この事実からもアメリカが自国のことにしか目がない状態なのかな?と、思いました。音楽からもアメリカの現実が浮き彫りになっている感があります。

  2. megさん、こんにちは。
    なるほど、音楽でもそういう傾向があるんですね~。
    映画でも同じかもしれませんね。
    なにしろ、いくら本場とはいえ、野球の国内リーグの頂上対決を「ワールド・シリーズ」とか言っちゃう国ですから。(日本だったら「日本シリーズ」なのに。)
    ちなみに映画に関しては、日本のアニメとかホラーは、けっこう人気があるみたいですね。

  3. アメリカ大統領選と’born again Christian’

    大統領選 念力をおくっています。 ブッシュ負けろ… ブッシュ負けろ… ブッシュ負けろ…    懐疑派ブログさんより

  4. ひらかわさん、おはようございます。
    どうしましょう?世紀末です。
    動揺してトラックバックを2つ送ってしまいました。
    お手数ですが下のほうのトラックバックを消してください。

  5. 大統領選が終わって

    ケリー氏が「敗北」宣言、ブッシュ氏の再選が確定
    (以下引用)
    民主党筋によると、ケリー氏は、両候補が最後まで激しく争っていたオハイオ州で自らの勝算の可能性などを見極め、逆転は不可能と判断、敗北を決意した。
    ケリー氏陣営は一時、オハイオ州で約17万…

  6. 詩帆さん、こんにちは
    重複トラバ、修正しておきました。
    しかし、まだ21世紀が明けて4年にも満たないのに、本当に世紀末的状況ですね。というか、まだ20世紀=戦争の世紀=アメリカの世紀が終わってないということかもしれませんが。。(そう考えると新世紀は近い?)

  7. 蘇えった現代のゲッペルス ……ブッシュの参謀「カール・ローブ」

    今から70年前の欧州は第一次世界大戦で破壊され、疲弊した社会の再建に向かっていたのだが、敗戦国ドイツでは一人の南部出身のちょび髭の小男が、政治的な野心を実現させる機会をうかがっていた。そして一つのテロを切っ掛けに展開された「テロとの戦い」という政治キャン…

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