『なぜ世界の半分が飢えるのか』で有名なスーザン・ジョージの新著『オルター・グローバリゼーション宣言』の書評を京都新聞に書きました。
日本では「反グローバリゼーション」「反グローバリズム」などネガティヴなイメージの付きまとう呼び方をされる今日の世界的な社会運動の連帯は、海外では「オルター・グローバリゼーション(Alter-Globalization/altermondialisation)」――もうひとつのグローバル化――とも呼ばれています。これをさらにスーザン・ジョージは「グローバル・ジャスティス運動」(世界的に正義を求める運動)と呼んでいます。それが目指す「もうひとつの世界」とはいったいどんな世界なのか、それはどうやったら実現できるのか。ぜひご一読を。
書評:スーザン・ジョージ『オルター・グローバリゼーション宣言―もうひとつの世界は可能だ!もし…』
(杉村昌昭・真田満訳、作品社、2004年、¥2,100)
理想主義と現実主義は対立するものだとしばしば考えられている。本書の著者はこの常識に挑戦し、彼女が長年取り組んできた反グローバリズムまたはオルター(もう一つの)・グローバリゼーション運動と呼ばれる世界的な社会運動が目指す「もう一つの世界」という理想に、実現のリアリズムを与えようとしている。
この運動をグローバル・ジャスティス運動とも呼んでいるその参加者たちが求めているのは、見たことも聞いたこともない夢物語ではない。すでに私たちが世界人権宣言のような言葉で表し、部分的にであれ大きな成果を伴って実現してきたものである。具体的には課税、再分配、民主的参加、社会連帯と公共サービスに基づく欧州型の福祉国家社会の価値や制度、実践を指し示している。
しかしながら現在、すでに現実の一部でもあるこの理想を世界中で食い破ろうとするものがある。規制緩和、民営化、構造改革の名のもとで経済効率と企業利益を最優先し、福祉国家的な国家の調整的役割を最小化してすべてを市場原理やむきだしの競争原理に委ねていく米国流の新自由主義的グローバリゼーションだ。その結果は、大企業の収益や株価が上昇する一方で広がる失業や非正規雇用の増加、地域経済の衰退、所得格差の拡大、医療、年金、教育など公共サービスの質低下と個人負担の増大、そして私たちの生存と豊かさの基盤である自然の破壊など、今日世界と日本のあちこちで誰もが直面している問題の束である。各国の政策や世界貿易機関(WTO)など国際機関のルールが押し進めるこの世界的変化は、人生を生きるに値するものにする私たちの権利をことごとく打ち砕こうとしている。
「もし私たちが~ならば」の表題で始まる本書の各章は、こうした現状を打ち開き、奪われつつあるものを取り返すための問題の見通しと目標、知識と戦略、そして希望を与えてくれる。「何をやっても変わらない」とあきらめる前にまず手にとって欲しい本である。
(京都新聞2004年10月10日10面)