数日前のエントリーでも紹介しましたが、昨日(20日)、N.Yで開かれた貧困・飢餓撲滅行動のための世界首脳会議(World Leaders’ Meeting on Action Against Hunger and Poverty)で、フランスのシラク大統領とブラジルのルラ大統領、そしてスペインのサパテーロ首相、チリのラゴス大統領が、ますます貧富の差が拡大するばかりの現在のグローバリゼーションの歪みを正すことを求めるとともに、世界の貧困・飢餓撲滅のために、トービン税(為替取引税)や武器取引税、炭素税などを含む国際税の導入を提案しました。(先日のエントリーでは「国連総会で」と書いたけど、それとは別の会議でした。この会議は、これら4ヶ国の代表とアナン国連事務総長による開催らしい。)
日本のニュースでは、NHKの数行のしか見当たらない(BSではシラクの演説も映してたけど)ので、海外のニュース記事をリンクしておきます。(さすがにLe Mondeは記事が多い。)
- World Leaders Spotlight Gap Between Rich, Poor (AP, September 20, 2004)
世界の指導者が貧富の差に光を当てた - World Leaders Back New UN Drive to Fight Hunger (REUTERS, September 20, 2004)
国連の飢餓との闘いを世界の指導者が支持 - A l’ONU, 110 pays prêts à se mobiliser contre la faim et la pauvreté (Le Monde, 21.09.04 | 14h02 )
国連で110ヶ国が飢餓と貧困に立ち向かうための資金提供 - Paris et Brasilia promeuvent une “éthique sociale de la mondialisation”
(Le Monde. 21.09.04 | 10h34)
パリとブラジリアが「グローバリゼーションの社会倫理」を促進. - Jacques Chirac et Lula veulent un impôt mondial contre la faim (Le Monde | 20.09.04)
ジャック・シラクとルラが飢餓と闘う国際税を求める - Taxes sur les armes, kérosène, flux financiers, bénéfices ou… contributions volontaires : les hypothèses à l’étude (Le Monde | 20.09.04 | 13h35 )
武器、灯油、金融、利潤あるいは自発的寄付に対する課税―研究すべき仮説 - Lutter contre la faim (Le Monde | 20.09.04 | 13h57)
飢餓との闘い(社説)
これらの記事によると、会議には途上国を中心に50ヶ国以上の国の代表者が集まり、さらに同会議後に、「公正なグローバリゼーション(Fair Globalization)の実現」を掲げて国際労働機関(ILO)のスポンサーで開かれた「グローバリゼーションの社会的次元(Social Dimension of Globalization)」に関する会議を経て、50億ドルに及ぶ資金作りのための国際税導入を含むさまざまなオプションを盛り込んだ最終宣言が、110ヶ国によって承認されたという。また、この会議に先立って、国内で専門家委員会を組織して国際税等の検討をさせていたシラク大統領は、これらのオプションは「技術的に現実的で、経済的にも合理的である」と述べたという。
このようにフランスが、途上国や、世界の貧困問題や飢餓問題に取り組み、長年、国際税の導入も求めてきた世界のNGOと共闘するような行動をとる一方で、これに真っ向から水を差したのが、いうまでもなく、米国である。
米国からは、(当然といえば当然だが)ブッシュ大統領はこの二つの会議への招待を断り、代わりにベネマン農務省長官が出たのだが、これまた予想されたことだが、この提案を拒絶し、次のように述べたという。(ちなみにシラク大統領は、これら会議のみ出席して、ブッシュにも会わず、同日夜には帰国したそうな。)
「経済成長が、飢餓と貧困に対する長期的な解決である。」
「報告書は、持続可能な成長に対する実際的なステップにもっと注意を払うべきである。国際税のような外部資源を当てにする枠組みに重きを置きすぎている。国際税は本質的に非民主主義的であり、実施は不可能だ。」
ちなみに、シラク大統領やルラ大統領たちの主張のポイントは、現在の経済のグローバル化における「経済成長」は偏ったものであり、富める国はますます富む一方で、貧しい国はどんどん貧しくなるという歪み――不公正な競争を強いる貿易ルールなど――を正さねばならないということにある。第二の会議のテーマである「グローバリゼーションの社会的次元」という概念も、そういうことを意図しているはずである。そうした不公正・不平等の根本原因に手をつけぬまま単に「経済成長が貧困と飢餓をなくす」と主張するのは、「平和のためには武力攻撃を」といって、罪のない民間人をバンバン殺しまくり、ますますテロリズムへの衝動と混乱を撒き散らすだけの「アメリカの平和」と同じくらい馬鹿げているんじゃないだろうか?(それにしても、国際税を非難する言葉が、言うに事欠いて「非民主主義的」というのには笑える。アメリカの政治家のボキャブラリーには、それ以外のレトリックがないのだろうか?)
他方、こうした米国の発言に対してシラク大統領は、記者会見で次のように反論したという。
「どんなに米国が強大でも、すでに110ヶ国が承認し、おそらく150ヶ国が承認するだろう立場に、いつまでも難なく反対しつづけることはできない。新しい政治的状況が生み出されたのである。」
「利己主義の対価は人類からの反逆である。」
「われわれは、世界の未曾有の富が、最も恵まれていない人々のための、排除ではなく統合の乗り物になるよう保障しなくてはならない。」
「グローバリゼーションに良心を与えるのはわれわれ次第である。」
う~ん、主権が侵害されても一切文句言わず(←沖縄米軍ヘリ墜落事故)、アメリカのケツ舐めしかできないどこぞの属国首相の口からは、絶対に期待できない言葉だなぁ。。(←遠い目)
・・・しかし、ここまでくると、ついついかんぐりたくなるのは、シラク大統領の「真意」。なんで彼は、いわゆる左派でもなく、バリバリの保守なのに、こうも途上国支援問題に熱心なのだろうか?第3世界も含む世界の盟主としてのフランスという地位を狙っているのだろうか?ま、結果的に困っている人が助かれば、彼の個人的な政治的野心はどうでもいいんだが、政策上の裏があったりするのはいやだよなぁ。。
ちなみに先月フランスに出張中に読んだ英紙Guardianの記事に、アメリカの文明評論家ジェレミー・リフキンの新著European Dream: How Europe’s Vision of the Future is Quietly Eclipsing the American Dream (Polity Press)の抜粋要約Daring to dreamがあったのだが、これがなかなか面白いことを言っている。
つまり、かつてアメリカのみならず世界を魅了した「アメリカン・ドリーム」は、21世紀を迎えて陰りを見せつつある一方で、新たな「ヨーロピアン・ドリーム」が立ち上がりつつある。そして、両者の違いはいろいろなところに見出せるが、最も際立っているのは「個人の自由」についての考え方である。アメリカ人にとって自由とは、伝統的に「自立性(autonomy)」と結びついており、「より多くの富を持つようになれば、世界の中でより独立できるようなる」、「独り立ちできればできるほど自由である」というものである。そして「富は排他性をもたらし、排他性は安全をもたらす」。これに対しヨーロッパ人にとっての自由は、自立性ではなく共同性にあり、「所有物(belongings)」ではなく「属していること(belonging)」に関するものだというのだ。
そして、こうも言っている。
アメリカ人は、重要な利益と考えるものを守るために、より軍事力に頼ろうとするのに対しヨーロッパ人は、秩序を維持するために外交を好み、経済援助や平和維持活動を好む。アメリカン・ドリームは深く個人的であり、他の人間たちにほとんど関心がない。ヨーロピアン・ドリームは、より体系的で、この惑星の福祉と結びついている。
もちろんこれは、ヨーロッパが、この新しい夢に恥じない行動をとっているということではない。ヨーロッパも問題ありありなのはいうまでもない。リフキンいわく、「大事なのは、ヨーロッパの新しい世代は、根本的に新しい未来のヴィジョンを創り上げつつある」ということなのだそうだ。つまり、人々に、問題だらけの現状を超えて、未来の行き先を示す新しい規範を生み出しつつあるということだ。
このリフキンの考えと似たような考え方は、少し前に、北大の政治学者で、『戦後政治の崩壊』の著者、山口二郎さんのブログのエントリー「平和と平等は世界共通の理念」でも紹介されていた。8月中旬にイギリスで開かれたグローバリゼーションに関する国際会議――たぶんウォーリック大でやったやつだな――の基調講演で、グローバリゼーション研究で有名なイギリスの政治学者デヴィッド・ヘルドが、20世紀が競争、経済成長、一極主義的軍事力の行使などを基調とするアメリカの世紀であったとするなら、21世紀は平等、公正、人間らしい生活の確保、多国間の協力などを追求する社会民主主義理念を追求するヨーロッパの世紀にしなければならないと主張したのだそうだ。
山口さんも指摘しているが、こういうヨーロッパ中心主義的な見方はちょっと非ヨーロッパ人から見ると鼻につくが、しかし、このヴィジョン自体は、世界が待望しているもの、世界の新しい夢として受け入れられるものではないだろうか?
ところで、日本政府は上記の貧困・飢餓会議、どうしたのだろうか?元レバノン大使の天木直人さんのブログの今日のエントリーによれば、
他方日本はこんな首脳会議などどうでもよいと言わんばかりに、国連代表部の職員を出席させただけでお茶を濁している。
だそうだ(全力で脱力)。(ソースは22日の朝日朝刊みたいだが、ネットにはない。)この「国連代表部の職員」というのがどのレベルの人かはわからんが、先進国で、常任理事国入りを訴えようという国としてはお粗末ではないか?そういえば4年前の社会開発国連特別総会に関する外務省の報告には、トービン税について、こんなくだりがあった。
カナダが提案した「通貨取引税の検討」は我が国、米の反対により削除された。
つくづく恥ずかしい政府だな。
HIRAKAWAさん、こんにちは。
これまで何度かトービン税に関するエントリー拝見して、最近非常に気になっておりました。恥ずかしいことに不勉強ゆえ詳しくは知りませんでした。暇を見つけてはWeb上で調べたりしていましたが、そんな私にはまさにタイムリーなエントリーでした。ありがとうございます。
先だっての「対テロ、EUに軍民混成部隊を」という提案にしろEU主導による利害が絡んでいる可能性はないとはいえませんが、仮に絡んでいたとしてもこのようなビジョンは非常に共感できます。新しい大きな流れになってほしいと思います。それにしてもこの国のビジョンを思うとなんだかため息がでてきます。
「最大の殺人大量破壊兵器とは貧困である」とルラ・ブラジル大統領が演説
http://www.asyura2.com/0406/war60/msg/319.html
Re: 「最大の殺人大量破壊兵器とは貧困である」とルラ・ブラジル大統領が演説
http://www.asyura2.com/0406/war60/msg/320.html
100カ国以上が「飢餓根絶計画」に同意:アメリカへの当てこすり?(エル・ムンド)
http://www.asyura2.com/0406/war60/msg/324.html
http://amaki.cocolog-nifty.com/amaki/2004/09/922.html
ところで私は知らなかったのだが、国連総会の前日の20日に国連本部で「貧困・飢
餓対策の首脳会議」が開かれて約50人もの首脳が参加したという(9月22日、朝日)。
この会議はテロの手に大量破壊兵器が入る事を最大の脅威とみなす米国などに対し、
貧困や疾病といったソフトな脅威を重視する国家元首の集まりで、ブラジルのルラ大
統領が呼びかけフランスのシラク大統領が賛同して実現したものという。対テロ戦や
安保理改革を最優先する国々への異議申し立てといえるものである。なんとフランス
のシラク大統領はこの首脳会議に出席した後、国連総会に出席することなく、ブッシ
ュ大統領の演説を聞かずに、さっさと帰国したという。他方日本はこんな首脳会議な
どどうでもよいと言わんばかりに、国連代表部の職員を出席させただけでお茶を濁し
ている。
↑ 天木直人氏
PPFVさん、はなゆーさん、どうも。
天木さんの記事は、はなゆーさんのとこで見つけたので、先ほどトラバしてみました。
それにしても、
>それにしてもこの国のビジョンを思うとなんだかため息がでてきます。
ほんと、ため息でますね、あのポチには。(ほんとに犬だったら可愛いんだけど。)天木さんが書かれている、小泉首相の国連演説の舞台裏(朝日新聞に出てたやつですが)といい、ヤンキースの始球式の大ブーイング・大ヒンシュクといい、この男は、ほんとに僕ら日本人にとって恥さらしの極みですね。(オマケにブッシュを支持するから、世界にとって大迷惑な粗小ゴミ。)
コイズミ&ブッシュの国連猿芝居よりこっちが遥かに大事
What’s New & Occasional Diaryでのエントリー シラク仏大統領とルラ・ブラジル大統領、国連で国際税を提案 何故ニュースでやらないんでしょう? こちらでも取り上げられています。 天木直人・マスメディアの裏を読む 9月22日 ◇◆ 外遊の合間をみて片手間に開か…
はじめまして、こんばんは
僕の思うところ
シラクの思惑は基軸通貨ドルを脆弱化させ
ユーロの大幅な流通が狙いではないかと思います。
お金がまわるところには利権が付き物です。
旧植民地であり、こと貧困に喘ぐアフリカ諸国、反米の中東
これらに流通するドルをユーロに切り替えさせる利権は大きいと思います。
数百年前は領土を奪い合う争い、今はマネーの奪い合いです。
シラクの思惑はほんとに善意なのか
まーウォッチしておいてください。
大体ヨーロッパ連合っていうのもおかしい集団なんですよね
NATOとは距離を置いた軍隊が創設されるみたいですが
何が脅威としてその様なものが創設されるんでしょうかね?
ロシアのプーチンはベルリンの壁が東に移動してきただけだと
警戒しております。
2度の世界大戦は供にヨーロッパが起爆となっておこっております。
日本は火の粉をかぶらないように警戒しないといけませんね。
では
たろうさん、はじめまして。
なるほど、基軸通貨ドルの弱体化とユーロの拡大ですか。。それはあるかもしれませんね。
政治で表舞台に出てくるものは、何にしても、何かの利害と抱き合わせだからこそ表に出て来るんでしょうから、それくらいのことは考えてるかもしれませんね。
私もちゃんとウォッチしてたいと思います。
単なる憶測ですが、シラクはフランスないし欧州の経済利権のためにトービン税と言っているわけではないと思います。
また、もしトービン税が今予想されている通りEUでまず導入されれば、ユーロは一時的にせよ価値を下げるでしょうし、その後もユーロを経由させることがよぶんな税を徴収されることを示すわけですから、特にユーロの基軸通貨化に益するわけではないでしょう。
実際、先の大統領選挙でも、トービン税に積極的だった左派連合のジョスパンに対して、シラクは経済優先の立場から慎重な姿勢を見せていましたし、フランス議会で投票があったときも共和国連合(=シラク派)の国会議員は基本的にトービン税に反対票を投じていたはずです(詳細は要確認)。
また、武器輸出大国であるフランスに、武器取引税などが有利である理由もないでしょう。
では、なぜそのシラクが心変わりしたかというと、これはそのまま第三世界の支持取りつけのためでしょう(現在シラク政権の支持率はじり貧ですから、国民に耳障りのいい外交政策で人気取り、という側面もあるかもしれません)。
一方、ルラ大統領はかねてからトービン税に積極的ですし、対米包囲網という意味ではキーパーソンです。
また、もし安保理改革が行われるとしたら、日本とドイツ以上にブラジルとインドの安保理入りは確実でしょうから、これらの国と関係を作っておくのはフランスの利益になるはずです。
そのため、今回はフランス側のイニシアティヴというよりは、ルラにシラクが大幅譲歩して見せた、というのが真相だと思われます。
以下、長くなったので、ご面倒ですが
http://skasuga.talktank.net/diary/archives/000086.html
を参照してください。
ブラジル ルラ大統領の影響力
平川さんの「シラク仏大統領とルラ・ブラジル大統領、国連で国際税を提案」のコメント欄、たろう氏のコメントへのコメント(ややこしい)。 長くなったので自分のところのエントリーにしますが、よろしければ先にそっちを読んでください。 単なる憶測ですが、シラク…
最近の「ソースロンダリング」の駄目な例
リベラルな人による政府批判は、俺にとってそれがまっとうに機能すれば、別に悪いことではないとは思いますが、「歪んで伝わっている二次情報」を元におこなうと、政府批判しているほうがまっとうに思われなくなるのでは、ということで。
日本の国際貢献と小泉首相の国連演説
ここ数日、国連総会や飢餓貧困撲滅会議の話題をめぐって、日本政府の態度に批判的なエントリーを書いてきたが、それだけだと一面的なので、自分自身の考察のためにも、日本政府の国際貢献、とくに途上国支援に関する外務省の「外交政策」のページにある情報へのリンクを記…