さきほど卒論ゼミの後、ゼミ生数名と雑談している時、ふと、橋田信介さんの話になった。「奥さんのやせがまんが泣かせるよね」とか、「あんな夫婦になりたい」とかそんな話。
そのなかで、先日報道ステーションに奥さんの橋田幸子さんが出演されて、橋田さんの住んでいたバンコクのマンションの部屋を整理していたときに見つけたという「遺書」が紹介されてたことに話が及んだ。11の我が人生の楽しきことが、飾り気のない簡潔な文でつづられたものだ。
その話になって、いくつか挙げてる中で、次の一節を口にした途端、思わず喉が詰まり、涙が出そうになった。
四谷の堤防で女房とファーストキスをした。
オッサン、あんたカッコよすぎや~。泣かせんじゃね~よぉ。。4月に人質バッシングの件で彼が報道ステーションに出たとき、「オレが誘拐されたらおまえ、どうする?」と奥さんに電話で尋ねたら、「何年あなたの妻をしてると思うの」と返事が帰ってきたという「のろけ話」――とびっきりのやせがまん=ハードボイルドなのろけ話――をしてて、そのときも「このオッサン、ええなぁ」と思ったけど、「遺書」には完全にノックアウト。惚れたよ、オッサン。一緒に逝ってしまった小川さんが橋田さんの弟子になったのは、ジャーナリストとしての彼に憧れただけでなく、人間として、男としての橋田さんに男惚れしちゃったとこもあったのかもしれないなぁと思ったり。。
橋田さんは最初の一撃で頭を打たれ即死だったという。その意識が消し飛ぶ最後の刹那、彼は何を思うことができただろうか。もしも何かがよぎったとすれば、それは奥さんのことだっただろうか。人によるかもしれないが、人間にはどうやら、真に愛する相手に対し、どんなに可能性は低くとも、「必ず帰る」という義務を自発的に――もしくは勝手に――負ってしまうところがあるようだ。生きて帰ることがしばしば軌跡に属する戦場記者として生き続けた橋田さんとその妻幸子さんにとっては、この義務はどうだったのだろうか?もしかしたら、肉体は生きたまま帰らずとも、魂は必ず帰ってくるよ、そんな義務と約束はあったかもしれない。それはきっと果たされたのだろう。そしてまた、魂はいつでも帰ってくるからこそ、肉体を置いて身軽になった橋田さんは、またもやどこかの戦場に行ってるかも知れない。
誰もが何かしら誰かに対して勝手に義務を負っている。そんな誰かたちのちっぽけな義務が果たされるのを邪魔するすべてのものにケリを入れたい。
不覚にも涙が・・
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