国会とは言論の府とよくいわれるが、またもや行われた年金法案強行採決を見たりすると、それは悪い冗談じゃないかという気がしてくる。
しかも昨日のは、野党の質問がまだ残っているのに、質疑打ち切り動議が出されてのもの。
いくら国会法では許されているとはいえ、これって、議員の質問権・発言権を奪うだけでなく、選挙民である国民の知る権利の否定でもある(まぁ、未だに基本的人権としての「知る権利」が憲法その他の法律で明確かつ一義的に定義されていないという問題もあるが・・)。法案の内容が十分に説明され、国民の側も納得してるのに、野党が党利党略で質問を繰り返して時間稼ぎをしてるってのならともかく、説明が不十分どころか、法案の根拠となる定量的データも出さず、「100年安心プランです」の主張の繰り返しじゃあ、学生の発表であっても、即、不可だ。現に世論調査では60%~70%の国民が廃案を求めている。
ちなみに参院審議では、政府案の根幹となっている厚生年金の給付と負担について、いくつかごまかしがあることが明らかになっている。すでにこれらは、一部週刊誌などではだいぶ前から指摘されていた問題だが、最近はテレビのニュース番組でもわかりやすく説明されるようになった。今朝の毎日新聞の社説“「年金」強行採決 「100年安心」誰も信じない”に一部紹介されているので、引いておこう。
政府案は保険料固定方式で、同時にモデル世帯の給付水準は現役世代の平均収入の50%を確保するというのが骨子だが、これがあいまいなのだ。坂口力厚生労働相は、出生率や賃上げ、物価の動向によっては、「給付水準を維持するための財源として保険料引き上げも選択肢のひとつだ」と答弁している。政府案は保険料を段階的に引き上げて18・3%で固定するという内容だが、それより上がるというのでは政府案への信頼は根底から崩れてしまう。
改革法案には「50%の給付水準確保」が明記されているが、それは65歳の年金給付時点のことで、それ以降は50%を大きく割り込んでいく。厚労省がこの試算を出したのは衆院を通過した後だ。しかも、モデル世帯以外の独身者や夫婦共働き世帯では給付開始時点から現役の50%には達しない。
しかもこれらの数字でさえ、今後の経済動向を相当楽観的――ほとんど非現実的というか神風期待みたいなもの――に見積もった場合を前提にしているともいわれている。まじめに年金改革をやろうとすれば、そういう定量的根拠の現実性を検証しなければ意味がない。そのうえ上記のように、都合の悪いことは伏せて、聞こえのいい部分だけを見せるという常套ではあるが姑息なやり方や、与党の「未納議員非公開」。誰もまじめに年金払おうとは思わないよな、これじゃ。
また昨日の委員会での質疑では、コイズミ首相が、年金法案の根幹である「マクロ経済スライド」(人口減等を勘案し実質15%給付削減)を知らなかったことが明らかにされ、質疑打ち切りも、これ以上続いたらもっとボロが出るのを恐れたから、という民主党議員の見方もある。
民主党参議院議員若林秀樹さんの日記より
予想通りとは云え、昨日午後3時過ぎに与党は厚生労働委員会において「年金改正法案」の強行採決を行なった。しかしまさか他の野党の質問時間を残して審議を打ち切るとは予想していなかった。強行採決に変わりはないが、少なくとも事前の理事会で小泉総理に対する野党の発言のチャンスを約束しておきながらそれさえ守らなかったのである。
その理由は民主党山本幹事長の質問に対し、小泉総理の答弁があまりにもひどく、これでは最後まで持ちこたえられないと判断したものと思われる。例えば総理は、本法案の最大の柱であるマクロ経済スライド(人口減等を勘案し実質15%給付削減)を知らなかったのである。さすがに与野党の全委員が唖然としたそうだ。こんないい加減な総理が提案する年金法案には断固反対であり、日本の将来をまかせるわけにはいかない。(後略)
ちなみに朝日の記事「年金法案強行可決の締めくくり質疑 主な首相答弁」を見ると、師匠の無知ぶりがよりはっきり分かる。
山本 総理の口からマクロ経済スライドの説明を。
首相 私はそういう経済の専門家の知識は乏しい。私が答えなければならないのか。
山本 政府案の最大のポイントは保険料の上限固定と所得代替率50%の維持。実現のキーワードがマクロ経済スライド。法案の骨格だ。
首相 私はこの法案の本質は、負担と給付がどうあるべきかだと思っている。なおかつ持続可能な制度にする観点から論議されるべきでないかと思っている。
山本 だから、マクロ経済スライドがそのツール。総理はご存じなく法案を提出したのか。(後略)
もちろん、首相が法案の細かいところまで理解していなければならないわけではないが、年金法案という国の社会制度の根幹を左右する法案については、一番crucialなポイントくらいは押さえていないと政府の最高責任者としてまずいんじゃないのか?もちろん厚労省の役人はブリーフィングをしているだろうが、「丸投げ」がお得意の首相はそれさえ左から右に聞き流しているのかもしれない。
小生的には、低所得者層の負担が大きくならないように、欧米ではよく見られる傾斜方式の消費税――日用品は低率で他は高率にする――を導入して、基礎年金の財源にあて、これに所得に応じた上乗せ分を国民それぞれが払うというのがいいんじゃないかと思うが、どうよ?自民党でも若手議員を中心に税方式のプランを練っているようだし、与党支持者には、来月の参院選や次回の衆院選では、世代交代を促すようにしてみて欲しいものだ。
ちなみに今朝の朝日の記事“年金採決、質疑途中打ち切り 与党も「異例中の異例」 “によれば、「質疑打ち切り強行採決」というのは(当たり前だが)「異例中の異例」 だそうで、過去の例として、02年7月、サラリーマンの医療費の自己負担を3割に引き上げる医療制度関連法案の委員会採決、99年8月の通信傍受法案の委員会採決を挙げている。どちらも国民の負担を増やしたり、人権侵害のリスクを抱えた焦臭いものだったりする。また衆院では「途中で質疑を打ち切るのは近年例がない」(衆院事務局)そうだ。
最後に一つ。ここでちょっと面白いくだりを思い出した。宮台真司氏のブログの5月30日のエントリー「 右翼思想からみた、自己責任バッシングの国辱ぶり」からの引用。(強調筆者。「番組」というのは先週の朝ナマのことかな。このエントリーは全編非常に面白い。「(サヨ的な)日本のNGO運動のナイーブさ」の指摘は、紛争NGOに限らない一般性を持つだけに思いっきり首肯。)
番組で文科大臣に私はこう述べた。教育基本法に愛国心を書け。戦後初めて公教育において「国賊政治家ならびに奸臣これ討ってよし」の「愛国ゆえの謀叛」を堂々教えられると。政府に従うのを愛国と呼ぶヘタレ大臣は凍りついていた(笑)。
まぁ、2・26青年将校や三島由紀夫の立場を肯定するということだが、少なくともわれわれ国民には、政治家に対しては「選挙」という合法的・非暴力的謀反の機会が与えられている。残念ながら地方自治体の首長や議会に対しては認められているリコール権は国会議員に対してはないので、選挙こそ最大の合法的謀反、合法的天誅の機会である。
さぁ全国の愛国者のみなさん、選挙に行こう!