遅ればせながら、さっき知ったのだが、なんだか、とんでもない判決が出てしまったようだ(しかも最高裁)。
Monsanto wins Canada seed battle (BBC, May 21)
Monsanto has won a legal battle against a Canadian farmer it accused of growing a form of genetically-modified rapeseed it had patented without paying for it.
モンサント社は、自社が特許を持つ遺伝子組み換えレイプシード を、無断で栽培したとして訴えていたカナダ人農家に対する裁判で勝訴した。
カナダ:GMカノーラ特許紛争でモンサントが農民に勝訴 (農業情報研究所)
カナダ最高裁は21日、サスカチェワンの農民・シュマイザー氏が除草剤耐性の遺伝子組み換え(GM)カノーラの種子に関するモンサント社の特許を侵害したという判決を下した。
問題は、1997年にモンサント社がシュマイザー氏の農場でこのカノーラが栽培されているのを発見したことに始まる。シュマイザー氏はこの種子について、同社と購入契約もしていなければ、必要とされる栽培協定にも調印していなかった。シュマイザー氏は、輸送中のトラックか、近隣の畑から風に運ばれてきた花粉が偶然にもたらしたものと主張したが、モンサントの訴えを受けた下級審は、農場のカノーラ面積の95%が除草剤耐性で、彼がそうと知らずに栽培したとは考えられないと、モンサント社への賠償支払いを命じた。今回の判決は、これを不服とするシュマイザー氏の上訴を受けてのものだった。
遺伝子組み替え訴訟:カナダ農家、最高裁でもモンサント社に敗訴 (Hot Wired)
2004年5月21日 9:44am PT カナダ最高裁判所は21日(米国時間)、農業ビジネス大手の米モンサント社が、自社が特許を保有する遺伝子組み替えカノーラ[食用油をとる菜種の一種]の種を自分の畑に蒔いたとされる農家に対して起こした訴訟で、原告側の訴えを認める判決を僅差で下した。
カナダ最高裁がいったいどういう法理や事実認定に基づいてモンサント社の勝訴を判断したのか、はなはだ興味のあるところだ。上記二つめ、三つめの記事によれば、裁判では、自然的な交雑による意図せぬ混入だったかどうかよりはむしろ、「植物は高等生物で、特許の対象にはなり得ない」というシュマイザー氏の立場と「GM植物そのものではなく、それを構成する遺伝子と改変細胞の特許保護を主張」というモンサントの立場が争われたようだ。
いずれにしても、この判決のもつ意味はあまりに大きい。要するに、まったく意図せぬ自然現象による交雑――遺伝子汚染被害――であっても、農家は、ひとたび企業に訴えられれば、多額な損害賠償金を支払らわなければならず、また汚染でもともと使っていた自分の品種は使えなくなり、代わって、企業のGM品種を毎年買い続けねばならなくなるかもしれないのだ。これは「何を育てるか」という栽培者=農家の基本的権利の否定につながるおそれがある。幸いにも、シュマイザー氏のケースでは、モンサントに対する20万ドルの損害賠償を認めた下級審の裁定は破棄されているが、他のケース、特により生物特許に寛大な法体系の国でも、すべてそうなるとは限らない。
ちなみに同様の訴訟は、北米だけでも500件以上あるといわれている。仮にシュマイザー氏が故意にモンサント社の品種を使っていたとしても、残りのケースすべてがそうであるとは限らない。訴えられれば損害賠償で訴えられるリスクを冒す確率よりも、交雑汚染が起きる確率のほうがずっと高いだろう。とくにシュマイザー氏は有機農家の育種家であり、有機認定されないGM種をわざわざリスクを冒してまで盗用するとも考えにくい。また、このGM種は除草剤耐性品種であり、モンサントが種とセット販売しているラウンドアップ除草剤を一緒に使わなければ、GM種を盗用するメリットは何もない。シュマイザー氏はラウンドアップを散布したことは一度もないと述べているとのことだが、そんなことは販売店等の購入記録を見れば真実が分かるだろう。もしも彼がラウンドアップを使ったことが証明されていないのならば、盗用という仮定には合理性がないのではないだろうか。
いずれにせよ、安全性云々より前に、こんな意地汚い、あこぎな商売をしているから、遺伝子組み換えは嫌われるのである。(ついでにいえば、こういう商売をする企業があることで迷惑してる遺伝子組み換え研究者も多いかもしれない。)
以下、シュマイザー氏自身のウェブサイトと関連サイトである。