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科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。
E-Mail: hirakawa@kyoto-wu.ac.jp
もくじ
この前の日曜日からデンマークはコペンハーゲンに来ています。
「社会技術研究イニシアティヴ」の研究領域:「社会システム/社会技術論」の研究プロジェクト「開かれた科学技術政策形成支援システムの開発」での海外調査の一環で、「コンセンサス会議」の生みの親であるデンマーク技術委員会(Danish Board of Technology: DBT)とデンマーク工科大学(DTU)のサイエンスショップへのインタヴュー調査が目的です。
DBTのほうでは、今回は主に「シナリオ・ワークショップ」という参加型テクノロジーアセスメントの手法に関するものです。上記研究プロジェクトでは、チーフの若松さん(日本でのコンセンサス会議の仕掛け人)が、東京湾の三番瀬の埋め立て問題の解決にこれを適用しようと考えてまして、そのためのノウハウ等についていろいろ情報を提供してもらうのが目的でした。
細かい話は、そのうちちゃんとレポートにまとめますが、面白かったのは、今回話を伺ったGy Larsen女史がプロジェクトマネージャーとして最近手がけた教育現場へのIT応用に関するシナリオ・ワークショップで使った「シナリオ」。シナリオ・ワークショップでは、予め用意した4つの未来シナリオをたたき台にして、シナリオを批判し、参加者(ユーザー、当該技術の専門家、行政、企業などの代表者)なりの未来ヴィジョンを作る基礎的論点を洗い出す「クリティカル・フェイズ」、この論点を元にヴィジョン案を作る「ヴィジョン・フェイズ」を経て、さらに現実のさまざまな技術的・社会的な制約条件や問題点とこのヴィジョン案をつきあわせ、より具体的で現実的な案を練る「リアリティ・フェイズ」、そして最後に、参加者全員が合意できる行動プランを作る「行動プラン・フェイズ」と進んでいくのですが、今回用意されたシナリオは、2005年のある日の仮想新聞というかたちにまとめられていて、なかなか読みやすそうで、かつインパクトのあるものになっていました。シナリオを書いたのはジャーナリストで、何人かの専門家にコンサルトしたうえで書かれたそうです。ちなみになぜこういう形式にしたかというと、一つはまさに参加者やその他の人々に対する印象を強くするためと、もう一つは、学者にシナリオを書かせると、やたら膨大なものになってしまい、専門家以外には読みにくいものになってしまうからだそうです。
他方、サイエンスショップのほうは、設立のさまざまな苦労や戦略について、とくに協力する教員や学生、大学当局にとってのサイエンスショップの「魅力」のあり方を中心に話を聞いてきました。ここは1985年に多数の教員のイニシアティブで始められたもので、学部・大学院のカリキュラムや学内研究プロジェクトと連動してサイエンスショップのプロジェクトをやってます。都市生態学、有機農業、クリーン生産、障害者用技術などの分野で、周辺地域の住民団体やNGOからの依頼で調査研究や技術開発を、学生が担い手になってやっています。学生にとっては、クライアントとのコミュニケーション能力や、実地的・実際的な問題に大学で習ったことを適用したり、取り組む中で実地に即して新しい知識や技能を身につけることで優れた科学者・技術者としての能力が身につくとのこと。このあたりは先日の北大の技術倫理のシンポ「テクノエシックスの現在」(その時の発表予稿「サイエンス・ショップ---市民をエンパワーする専門性」はこちら)の講演者の一人、三菱化学顧問の小野田武さんも小生の発表で面白がってくれたポイントでした。基本的にはサイエンスショップの意義は市民の専門的支援にあるわけですが、そういう経験をした学生は、企業にとっても欠かせない貴重な人材だということで、いわば「利害が一致」したわけです。「財界の方にもぜひ御宣伝下さい」とお願いしておきました。ちなみに小野田さんによれば経産省で今、インターネットでいろいろな研究者や組織をネットワークし、かつデータベースも乗っけるというようなシステムを準備中で「それにサイエンスショップも便乗したらいいんじゃないか」とアドバイスをもらいました。
さて、こちらも細かい話はいずれ報告を書いてからこちらにもアップしたいと思いますが、一つ印象に残っているのは、相手方がとても熱心に日本での状況についてのこちらの説明を熱心にメモしていたこと。デンマークでは90年代半ばになんたらいう大学運営に関する新しい法律が出来て、学部の統廃合やアカデミックポスト削減、大学の非民主化(Directorによるトップダウン運営)という、どこかの国でもこれから起こりそうな事態が進み、カリキュラムや学内研究プロジェクトと連動した同大のサイエンスショップにさえ、冷たい風が吹いてきてるそうで、ここでも先月書いた欧州委員会の科学・社会局の動き(その「2002年度科学・社会行動計画」には欧州全体でのサイエンスショップ・ネットワークの設立など振興策が書かれている)に加え、日本での動きの情報が、学内でサイエンスショップの意義を正当化するのに大いに役に立つようです。(こちらはこちらで、あちらでのサイエンスショップの話をやっぱり正当化に使うわけですが。ちなみに文科省のなかには若手の人でサイエンスショップに関心のある方がいて、1月も小生のSTSの先輩研究者2人とともに欧州巡りをして、ユトレヒト大学のサイエンスショップにも行ったそうです。今、どこかの大学が「うちでサイエンスショップやります」と手を挙げれば、それなりのお金は出そうな気配だそうです。)
ちなみにデンマーク技術委員会とデンマーク工科大学サイエンスショップの写真を付けておきます。このページは重くしたくないので別ページに掲載します。
最後に、昨日の日経(コペンハーゲン駅のインターナショナル・キオスクで買える)で見ましたが、「トービン税」の発案者である経済学者トービン氏が亡くなられたそうです。ご冥福をお祈りします。以前にもここで書きましたが、トービン税については、フランスのATTACを筆頭に世界のNGOが、97年のアジア通貨危機の原因の一つとされる多国籍資本による投機的短期資本移動を抑制(これがトービン氏自身の元来の動機)しつつ、税収を途上国債務解消や環境問題の解決に使おうとして導入を訴えていますが、2月にニューヨークで開かれた世界の経済エリートの集い「世界経済フォーラム」について先日NHKで放映された特集番組では、三和総研かどこかの所長さん(?)がそのことに触れ、わりとポジティヴに紹介してました。フランス政府はすでに導入を決定しましたが、もしかしたら日本の経済エリートもそのつもりなのかもしれません。もちろんその動機は、途上国救済よりは資本移動のコントロールにあるのでしょうが、けっこうウェブ上にもエコノミストによる解説が散見されます。(経産省の何かの文書でも見たような・・・)