STS News & Remarks in December 2001

東海大地震と原発震災（2001.12.12）

今夜（12月11日）のニュースで流れた「東海地震、震度６弱以上５２市町村を公表」の報道。東海大地震の想定震源域（西へ移動）の見直しに伴い、内閣府・中央防災会議「東海地震に関する専門調査会」が12月11日に開いた第11回会合で公表したものだが、ここで気になるのは、先月二度にわたる事故を起こしている浜岡原発での「原発震災」（下記関連リンク参照）のこと。

この問題は、東海大地震説の提唱者でもある神戸大教授の石橋克彦さんが、岩波書店の科学雑誌『科学』1997年10月号の連載特集「大震災以後」での論文「原発震災―破滅を避けるために」で訴えたもの（その後同論文は、特集を集めた『大震災以後』に収録されています。論文の要約はこちら）。ようするに、東海大地震の震源域にある浜岡原発で大事故が発生すると、周辺は大地震と原子力事故の二重災害に見舞われるだけでなく、放射能汚染のために救助・救援さえ不可能になるというとんでもない大惨事になるということです。

石橋さんはその後、原発震災について専門家として警告を発するため、朝日新聞の「論壇」などにも投稿したのですが、なぜかことごとくボツにされています。この件は、1999年11月にルポライターの石黒二郎さんという方が『サンデー毎日』に「朝日新聞がボツにした地震学者の『警鐘論文』」という記事を書いていますが、ここにリンクしたものは原発震災を防ごう Home Pageに、ボツにされた石橋さんの投稿今こそ「原発震災」直視をとともに転載されたものですので、ぜひご一読を。（ついでにいうと、ここのサイトには、元原発建設の配管工事のエキスパートで、原発被曝労働者救済センター代表だった故・平井憲夫さんの講演録原発がどんなものか知ってほしい（原発技師のお話）と原発技師と浜岡住民の対話「そんなばかな」があります。こちらも必読です。）

ちなみに原発は、1978年に制定された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」に従って、「活断層を避けて固い岩盤上に建設し、近くの活断層が地震を起こしても耐えられる」、「近くに活断層がない場所でも、マグニチュード(M)6.5の直下型地震に耐えられる」などの条件のもとで作られています（78年以前に建てられたものは当然違います）。ところが、昨年の鳥取県西部地震で、活断層の見つかっていない地域でM6.5をはるかに上回るM7.3の地震が起きたことからも判るように、23年も前に作られたこの指針には、現在の地震学から見て誤りがたくさんあるため、国が主張する原発の耐震性はあてにならないというのが石橋さんの考えです。（なお、今年の6月から国の原子力安全委員会で、最新の地震学の知見を踏まえた見直しが始まってますが、指針は改善されても、すでに稼動してるやつの耐震性がそのまま上がるわけではないのはいうまでもありません。）

で、今回発表された予測によれば、震源の深さは10-30kmで、なんとマグニチュードは最大8.0だそうです。地震のマグニチュードというのは、地震のエネルギーの強さを対数で表したものなので、1.0増えると約32倍にエネルギーが増えることになります。マグニチュードを計算する対数は10を底にしているので、マグニチュードの値をMとすると、地震のエネルギーの値EはE = 10^(11.8 + 1.5M)（10の(11.8 + 1.5M)乗）で計算できるので、M6.5以上の地震のエネルギーが、M6.5のときの何倍になるのかをちょっと表にしたのが下表です。（M = 7.2は阪神大震災のもの。数値は小数点以下3桁めは四捨五入。）なんと最悪状況では、浜岡原発を指針が想定しているものの約178倍の強さの地震が襲うというわけです。もちろんマグニチュードが同じでも、震源の深さや距離によって、地震動の影響度である「震度」は違ってくるので、マグニチュードの比率がそのまんま実際に原発が受ける振動の強さに比例するわけではありませんが、178倍というのはけっこう大事（おおごと）なんじゃないでしょうか。

M	M6.5を基準にしたエネルギー
6.5	1.00
7.0	5.62
7.2	11.22
7.5	31.62
8.0	177.83

なお、耐震性には、マグニチュードのほかに、揺れの加速度や速度とか、揺れの振動周期なんかも関わってきますが、これらも疑問が多いみたいです。加速度（単位はガル）と速度（単位はカイン）については、広瀬隆・藤田祐幸『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』によれば、阪神大震災のときの神戸大学工学部の岩盤上で、上下の揺れの加速度が447ガル、速度では55カインだったが、比較的新しく造られ600ガル、53.9カインまで耐えられる設計の浜岡原発3, 4号機でも、加速度については耐えられるが、速度で見ると耐えられないそうです。同じ地震では大阪ガス神戸の台地上では、加速度が833ガルですから、同じ振動が浜岡原発3, 4号機を襲えば、耐えられません。

また振動周期については、「モノはすべて固有の振動周期をもっている」という事実が大切です。物体に外から振動が加えられたときに、共振して振動する周期が、その物体の固有振動周期ですが、これは物体の大きさなどによって違います。原発というのは、原子炉のほかに、さまざまな大きさの配管とか、いろんなものが組み合わさってできているわけですが、これらがみんな違う固有振動周期をもっている。すると、ひとつながりの配管でも、太さや厚さ、材質によって、ある振動に対して大きく揺れる部分とあまり揺れない部分があったりして、その結果壊れちゃうという可能性もあるわけです。（あるいは地震動は複数の周期の波が重なっているでしょうから、部分によって揺れる周期が違って壊れちゃうという可能性もあります。）

そろそろあと数年でやってくるといわれ、さらにはもしももう少し発生するのに時間がかかれば、東南海地震や南海地震との同時発生の可能性も考えられてる東海大地震。原発震災は、チェルノブイリ事故の災害規模を考えれば、東海地方だけの問題ではなく、日本全体、そして世界にも及ぶ災害です。電力会社も国も、もうつまらんメンツは捨てて、とりあえず浜岡原発は（いま、先月の事故で1号機が止まってることだし、ついでに全機）止めておいたほうが絶対にいいのは明らか。今回の「東海地震に関する専門調査会」は、石橋さんもメンバーに加わっていることですし、なんとか情勢が変わればいいのですが。。。

最後に一つ。石橋さんが東海地震説を発表したのが76年、これを受けて東海地震対策として「大規模地震対策特別措置法」が制定されたのが78年です。そして「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の制定が78年、浜岡原発の1, 2号機は稼動開始がそれぞれ76年と78年です。この事実の意味、わかりますよね？

東海大地震と原発震災関連のリンク

東海大地震と原発震災
東海地震と原発震災
　近づく東海地震
 若狭ネット「地震と原発」
｢原発震災｣破滅を避けるために
 もうひとつの｢想定外｣原子力災害を防ぐには
 原発震災を防ごう Home Page
　石黒二郎「朝日新聞がボツにした地震学者の『警鐘論文』」&石橋克彦「今こそ「原発震災」直視を」
　原発がどんなものか知ってほしい（原発技師のお話）
　原発技師と浜岡住民の対話「そんなばかな」
静岡新聞「東海地震は今」
　「ぬぐえぬ不信感」
　「耐震見直し焦点」
　「割れる耐震評価」
　「根拠欠く「想定外」」
明石昇二郎編『原発震災』（七つ森書館）
東海地震の前に浜岡原発を止めよう祈りのウォークについて
 なごやの反原発きのこの会
　必ず起こる東海大地震、浜岡原発の事故は避けられない！
なまえのない新聞「東海地震と浜岡原発」
国土地理院「東海地方の地殻変動」
Yahoo! ニュース「地震関連情報」

2001年11月の浜岡原発1号機の二つの事故
Yahoo! ニュース「浜岡原発事故」
Yahoo! ニュース「原子力」
静岡新聞「浜岡原発事故」
毎日新聞・科学環境ニュース「物理・化学・原子力」

原子力災害
「原発事故災害サバイバル・ハンドブック」サイト内容の案内ページ
 「チェルノブイリ事故の健康影響」（低線量放射線安全評価情報ホームページ）
京都大学原子炉実験所原子力安全研究グループ
 チェルノブイリ事故とその医学的影響
 原発事故から15年～チェルノブイリからの報告

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東海大地震と原発震災（2001.12.12）

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