科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。
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もくじ
なんとか、23日午後6時55分、COP6再開会合の合意文書が全体会合で採択されました。これで日本が批准し、京都議定書が来年発効、という可能性が出てきました。しかし、世界はその他の問題も山積み。今日は、ちょっと散発的な感想を・・・
昨日は、もうだめなんじゃないか、日本はまたも合意を突っぱねて、COP7に持ち越し、日本政府お得意の「時間稼ぎ」に走るのでは、と諦めかけていましたが、なんとかプロンク議長案の採択になりましたね。日本、カナダ、オーストラリア、それとロシアが森林吸収でごねたせいで、いくつかの海外メディアが伝えているWWFの弁によれば、第1約束期間終了時の2012年までに先進国全体で、1990年排出量比で5.2%の削減量に対して、実質的な削減量、つまり各国内の経済・産業・ライフスタイルの変革による削減量は約1/3(1.8%)くらいになってしまうそうですが、まぁ、とにかく「ないよりマシ」ということで、シャンシャンというところでしょう。
とはいえ、今後50年間くらいで、50%近く排出量を減らさなければならないわけで、それから見ると、あまりに前途多難ですね。
ちなみに毎日や日経の報道によれば、合意後の会見で、川口順子環境大臣(我が家では「でびる順子ちゃん」の愛称で親しまれている―とはいえ彼女個人の問題ではない)は、「米国とは独立して批准に向けた準備作業が必要だ」と述べ、「これから細目や具体的な数値を詰める。国内的に削減目標を達成できるかの確認作業も必要で、批准に向けた準備を始めていく」と早期批准に前向きの姿勢を示したとのこと。他方、小泉首相は、合意を歓迎しつつも、「合意は直ちに批准を意味しない」とコメントしているそうですから、まだまだ、「日本がキャスティングボード」というカードにあぐらをかいて、わがまま言い続けるのでしょうか。とはいえ、これで批准しなかったら、日本はアメリカ並みの反環境国家というレッテルが確定するでしょうから、さすがに外交上、それは避けるのかな?
それと、「ニュースステーション」で現地特派員のアナウンサーが「日本の戦略勝ち」と形容してましたが、それは違いますね。「日本がキャスティングボード」という「最強カード」にあぐらかいて、ただごね続けただけでしょう。戦略という点では、やっばりEUのほうが上でしょう。結果的には、日本がEUの世界戦略 ―とくにアメリカとの政治的パワーバランスの変容に向けた戦略― にはめられたというのが冷静な見方ではないでしょうか。実際EU環境相Margot Wallstrom氏は、"I think something has changed today in the balance of power between the US and the EU." と述べたそうです(BBC NEWS WORLDの記事"The Bonn deal: Winners and losers")。
EU・途上国サイドと日本サイドでネックになっていたイシューのうち、森林吸収については、前者が「特大バーゲンセール」をしましたが、遵守措置についてはなんとか、削減目標を守れなかった場合の法的拘束力を持った罰則制度の導入については、とりあえず日本の要求を飲んで、先送りになったようですが、「第1約束期間での未達成分を1.3倍に加算して次の機関に繰り越し」というルールは生き残ったようです。
さらに「途上国援助(CDM: クリーン開発メカニズム)に原発を含めることは控える」という点が完璧に守られたこともいいことでした。ちなみに「原発は温暖化対策にならない」というのは、以前にも書きましたが、その理由については、WWFで以前に『気候変動と原子力』というレポートを出していますし、他にも当サイトの温暖化関連のリンク集にあるhttp://hideyukihirakawa.com/links/global_warming_link.html#402のいろいろな文書が参考になるでしょう。
ちなみに、昨日の明け方のNHK BSのニュースでは、「原発ダメ」というEUに対して日本が反論した理由を伝えていましたが、正直、笑ってしまいました。「国内で原子力を積極的に推進している日本としては、CDM事業に原子力を入れられないというのは飲めない」だそうです。何が可笑しいかというと、「国内で原子力を積極的に推進している日本」という国内事情は、本来、途上国援助であるはずのCDMとは何の論理的つながりはないにもかかわらず、これが「理由」として出てくることです。とくに原発持ってるにもかかわらず「CDMに原発」に反対しているEUに対しては何の理由付けにもならないでしょう。ましてやドイツは段階的脱原発を決めていますし、そもそもなぜ日本は未だに原発推進なのかが問題にされてしまうでしょう。まぁ要するに、「国外ではダメとされた原発を、なぜ国内では『温暖化対策』といってやるのか」という日本国内からの突き上げを封じ込める大義名分がなくなってしまうというのが、本音なのでしょうか。
ところで、ずっと以前にも書いたことがありますが、今回の交渉に見られたEUと日本、そしてその背後にあるEUとアメリカとの対立は、決して「環境重視 VS. 経済優先」という図式で割り切れるものでないことには注意しなくてはなりません(といっても、「だから良くない」といってるわけではありません)。確かにEUのイニシアティヴには、「環境重視」は大きなウェイトを占めているのでしょうが、それがEUの政治的アジェンダに組み入れられているところには、EU圏内の産業界の利益がそれとマッチしている、もしくは少なくとも矛盾しないという状況があるからだと考えるべきでしょう。かつてのオゾン層破壊防止のためのフロンガス規制のときは、アメリカがリーダーシップをとり、EUは反対に回っていました。(ちなみにこのとき日本はEU側。つまりいつでも「反対側」にいるのが日本!?) そしてアメリカがリーダーシップをとった背景には、デュポンのようなフロンガス・メーカーが代替フロンの開発に成功し、フロンガス規制がビジネスチャンスになったという状況があったからでした。今回の場合もEUとしては、温暖化防止にいち早く着手することが、世界経済のなかでのEUのパワーアップに貢献しうる(少なくとも着手しないことは長期的には経済的に見合わない)し、そのための技術ポテンシャルもあるという判断を産業界がしているからでしょう。実際、EU産業界と環境NGOによる欧州委員会(European Commision)のEuropean Climate Change Programme (ECCP)の報告書(pdf版)もありますし。
要するにEUと日米の対立には、環境に適合しうる新しい産業経済と、持続不可能な旧い産業経済の対立という面がかなり大きいのではないかということです。日本としては、前者に適応していくのか、それともアメリカと一緒にいつまでも「滅び行く恐竜」に乗っかったままでいるのか、日本の産業界が問われているといえるでしょう。
ところで、今回のCOP6再開会合をめぐっては、並行して開かれたG8サミット、そしてそれに対する(死者を出した)デモ隊とイタリア警察・軍の衝突も話題となりました。ここで浮かび上がってくるのは、やっぱり「グローバリゼーション」がもたらす貧困や環境破壊の問題で、この点についてはEUだろうが日、米だろうが、どれも問題だらけでしょう。この問題については、遺伝子組換え作物(GM作物)の問題との関連で、そのうちここのコーナーでも書こうと思ってますが(*)、今日は、とりあえず、次の一点だけ書きとめておきます。
※(GM作物関連で最近ホットな話題は、国再開発計画(UNDP)の新しい報告書Human Development Report 2001に対する各国NGOからの批判です。これについてはとりあえずグリーンピースのWidespread criticism of UNDP's stance on genetic engineering in its latest reportが問題の有様を簡潔に伝えています。)
それは今回のサミットとCOP6における「NGO」に関する「報道」に対する疑問です。今回、ジェノバとボンには、世界中からたくさんのNGOが集まり、抗議行動や、とくにボンではロビーイングやオブザーバーをしていたわけですが、テレビにしろ新聞にしろ、「NGO」ということで出てくるのは、あのジェノバの町での暴動シーンばかり。なぜなのでしょう?
そこで、あれこれ調べてみましたら、グリーンピース・ジャパンでは「国際会議場周辺で行われている暴力行為についてのグリーンピースの主張」を19日に発表し、次のように述べています。
ほとんどのNGO (非政府組織) や活動家達は、国際的に認識されている諸問題に対して草の根的な運動 (経済のグローバル化による社会的・環境的影響、そして多国間取引と企業等の規制) に地道に取り組み、平和的なメッセージを前向きに出し続けてきた。残念なことにほんの一握りの人々が行う暴力活動は、このような活動家達を隠れみのにして行われているのである。
破壊行為はいかなる解決策を生みだすことはない。そしてその破壊的行為は、NGO、市民社会、そして平和的にデモ活動を行うという、民主社会をも脅かしているのである。
グリーンピースは報道関係者に対して、ほんの一握りの破壊的活動を行う人々が、大多数の平和的かつ前向きに行っているデモ活動を脅かす事のないように、公平かつ公正な報道を行うよう要請する。 メディアはサミットなどの国際会議を報道する義務があると考えるが、それが一方的な報道であってはならない。
また、知人の社会学者、櫻本陽一さんから回ってきた情報によれば、ATTACというフランスのNGOが、"AU-DELA DES RESPONSABILITES DE LA POLICE ITALIENNE: Le G 8 DISQUALIFIE PAR LES EVENEMENTS DE GENES"というコミュニケを発表しています。以下は櫻本さんの翻訳です。
イタリア警察の責任、ジェノヴァの事件が示したG8の姿を糾弾する
ATTACフランスの声明
ヨーテボリは、残念ながら例外ではなかった。そうではなく先例だったのである。7月20日金曜日、ヨーロッパ連合加盟国の警察が、デモ参加者に対して、2ヶ月間に2度目の実弾の発砲を行なった。そして彼は、その実弾によって殺された。加えて治安警察隊員1名を含むさらに2名が重体であり、さらに数十名が負傷した。
数百の組織を結集する協議体であり、ATTACイタリアも加盟する、ジェノヴァ社会フォーラム(GSF)は、このような暴力の激発を防ぐためにあらゆることを行なった。暴力のこの激発は、互いに強め合う3つの要素の結果であり、その責任は、イタリア政府だけでなく、G8の他の諸国の政府が大きく負っている。
1: 先ず第1に、国際的には、多国間機関(IMF、世界銀行、WTO、OECD)、ヨーロッパにおいてはヨーロッパ委員会とヨーロッパ閣僚理事会、そしてG8そのものによって、作られている、そして/あるいは、実施されている政治に対する、各政府の自国内における多数の人々による拒否に対して、各政府が耳をふさいでいることである。
選挙民の誰も、このような政策を適用することについて委任を求められたことも与えたこともけっしてないにもかかわらず、これらの政府は、多国籍企業と金融市場の利益のみに組みして、民営化し、フレキシブル化し、徹底的に「自由化する」ことを目指しつづけている。これらの政府は、それによって、容認することのできない苦悩と暴力を、北においても南においても、社会の大きな部分に対して作り出している。
このような状況の中で、住民がいなくなり、要塞化された街の港に停泊中の船上でのG8メンバーによるジェノヴァ会議は、いずれにしろ、公共の意見(よろん)に対する文字通りの象徴的、政治的挑戦となっていた。
2: 次に、もはやいかがわしい、とさえいうことのできないイタリア警察の振る舞いがあった。彼らは、「ブラック・ブロック」と称する数百の挑発分子による、準備と武装、実行行為に対して意図的に眼を閉じていた。彼らは、しばしば平和的なデモ隊の旗やバッジを、あらかじめ手に入れ掲げていた。
これらの挑発分子が、ヨーロッパの治安警察と関わりがないと考えるものは誰もいない。彼らは、全く規制を受けることなく対人的な暴行と器物損壊を重ねることができた。彼らは、GSFメンバーの組織を襲撃することさえいとわなかった。
これらの挑発分子と彼らに対する警察の泳がせを弾劾しているGSFに、ATTACフランスは賛同する。ATTACフランスは、これらの姿勢が示している、リベラリズム的グローバリゼーションへの反対者を犯罪者かしようとする企てを糾弾する。
3: 最後に、完全に平和的なデモ隊に対して警察は、体系的な威迫、いやがらせを加え、さらには暴力をも振るった。イタリア当局は、GSFに対して、銃器の不使用を約束していた。当局はこの約束を蹂躪したのである。一般的にいって、警察当局が訴えた手段は、行動に対して、GSFに参加していないいくつかのグループによる暴力的な行動に対してさえ、不釣り合いなものであった。ジョエノヴァにおけるイタリア政府の行動に対する弾劾を表明するため、ATTACは、7月21日土曜日に、パリのイタリア大使館前で予定されている、抗議行動への参加を、活動家に呼びかける。
G8会議初日が引き起こした悲劇的な事件、そしてG8会議に参加することを是であると考えていた全政府が免れえないこの事件に対する道徳的責任によって、この惑星の執政役たらんとしていたG8会議は、信頼を失った。尊厳を守る唯一の道は、G8が即座に会議を中断することである。指導者たちは、とりわけ、自らが加担しているリベラリズム的グローバリゼーションという致命的な道――これは新たな衝突を引き起こさざるをえない――の是非を問わねばならない。
ATTACフランスは、共和国大統領と首相に対して、この方向でのイニシャチブを即座にとることを直ちに要求する。ATTACは、情報の提供、教育、そして非暴力的な行動によって、リベラリズム的グローバリゼーションの惨害を明るみに出し、オルターナティブな政治への展望を切り開くことを、うむことなく続けていく。私たちは、G8ジェノヴァ会議が作り上げている嘆かわしい世界の戯画とは異なる世界が可能であると考えている。
ATTACフランス、パリ−ジェノヴァ、2001年7月20日
21日(土)深夜、COP6のプロンク議長(オランダ環境相)が、京都議定書の具体的ルールの核となる「最終的」な議長案を提出しました。すでに昨日報じられていた森林吸収分の(全く非科学的な「抜け穴」容認でしかない)「特大譲歩」として、日本には、当初からの要求(3.7%)以上となる90年排出比で3.9%分を認めるもので、これ以上はもう妥協せずということで、原語では"take-it-or-leave-it proposal"と形容されています。
ロイターの記事"Last-Ditch Push to Save Kyoto Climate Talks"によれば、この「譲歩」について議長は「この実際的な解決は、政治的に実際的なだけでなく、環境保護上の信頼性の基準も満たしている(This pragmatic solution is not only politically pragmatic but meets criteria of environmental credibility)」と述べていますが、なんとか巨大抵抗勢力である日本、カナダ、オーストラリアなどを納得させるための苦肉の策なのでしょう。実際、この案に従うと、当初予定されていた先進諸国による2012年までの実質的な削減量は1/3くらいにまで下がってしまうそうなのですが、それでも議定書そのものが潰れるよりはマシということなのでしょう。その代わり、同じくEUと日豪加で対立していた
とにもかくにもEUは、議長案は当然大いに問題あり、と見ていますが、それでも「他の国が修正案を出さない」ことを条件に、受け入れを表明しています。要するに「もうこれガタガタ言わずに合意しよう」という最後通牒であるわけで、これを日本らが蹴れば、後はアメリカと一緒に国際非難の嵐を受けてもらいましょうということでしょう。EU交渉代表者であるベルギー・エネルギー相オリバー・ドゥルーズ氏は、次のように述べています。(ロイターの記事"With G8 Divided, Battle on to Save Climate Pact"[July 22, 2001 11:17 AM ET]より)
しかし、これが最終的文書ならば、柔軟性の精神と、過去10年われわれは十分に気候変動について話し合ってきたという理由から、EUは受け入れる準備がある。(But if it's a take it or leave it paper, in the spirit of flexibility and because we have talked enough about climate change over the last 10 years, Europe is ready to accept it.)
と、まぁ、EUは、吸収源問題について思いっきり「柔軟性」を発揮したわけですが、ところが日本、カナダ、オーストラリアは、この最終案に対しても昨年の会議と全く同じスタンスに固執しつづけ、「原発やらせろ」、「遵守措置は外せ」と反発しているようです。Mainichi Interactiveの一連の記事によれば、新議長案に対し日本政府は「森林吸収は問題ないが、原子力の利用などは譲れない点で、日本にとっては厳しい内容だ」と受け止めているそうですが、一体どういう点で「譲れない」のか? 譲れないとする、誰もが納得する客観的な理由をそもそも持っているのか、日本政府は説明すべきでしょう。(当然そんなのなくて、ただ原子力業界と経産省、自民党原発族の利益代弁でしかないのでしょうけど。)
NHKで放映されたサミット閉幕後の記者会見で相変わらず小泉首相は、「最後の最後までアメリカが参加できるよう努力する」を繰り返し、「ボンでも川口環境大臣ががんばっている」なんて言ってましたが、日本政府がボンでいったい「何をがんばっているのか」は誰の目にも明らかであるだけに、実に恥ずかしい答弁でした。「温暖化防止対策のためにはアメリカの参加が不可欠」、「アメリカを最後まで説得」なんて聞こえのいい(もうちっとも聞こえも良くないが)言葉を並べても、本音は、要は国内産業(の一部?)を守るため。マスコミでは小泉首相の「対米追従」を批判する論調が多いけど、それは見せ掛けで、要はアメリカを隠れ蓑に使ってるだけ。「議定書はアメリカ経済を損ねるから離脱する」とはっきり言ってるブッシュのほうが「正直」という点でははるかに気持ちいい。(ちなみに昨年の大統領選でブッシュ大統領が勝利したとき、経産省の役人は大いに喜んだという話も聞いたことがあります。もちろんそんな役人ばかりではないのでしょうが。) こんな小泉(所詮は自民党)政権に90%近い支持率を与えている日本の有権者っていったい何? ほとんど、海へとまっしぐらに突き進む「レミングの集団自殺」じゃないでしょうか。
とりあえず、とにかくボンでは最後の交渉が繰り広げられている真っ最中。明日の日本時間でお昼頃には結果が出る予定だそうで、なんとか「奇跡」を祈りたいところですが、たぶん、ダメなのでしょうね。
ちなみにENB @ UNFCCC COP-6bisによれば、現地時間で午後6時半現在、プロンク案には、途上国グループG-77/CHINAも疑義を表明しているようですが、こちらは、プロンク案では、途上国への資金援助の具体的額の決定が先送りになったことに対するものでしょう。ちなみにこの資金援助は議定書ではなく、その上位にある気候変動枠組条約そのものが規定していることですが、既にブッシュ大統領は、この資金援助もアメリカはしないと宣言しています。ただし、資金援助については、年額10億ドルという途上国の要求に対しては、EUも、日本などと同様に「5年で10億ドル」というふうに値切る側に回ってます。途上国(とくにアフリカや小さな島国)こそ、大部分は自分たちの責任ではない温暖化による気候変動の被害を最も受けやすい国々なんですよね。そういう意味で、日本と違って彼らは、プロンク提案に対して反発する正当な権利があるといえるでしょう。とはいえG77/Chinaは、いうまでもなく議定書批准には非常に積極的ですから、とりあえず今回のところは折れるような気がします。そうするとやはり議定書の命運を握り、そして今のところかなりの確度で潰してしまうのは、日本ということになるのでしょう。
ん〜、誰か罷免して、この恥知らず(↓)
「譲歩について、EUから、ある考え方の説明を受けた。柔軟な態度で、会議の進展に非常に貢献する動きであり、私としては高く評価したい。」(川口環境大臣)
この「譲歩」というのは、ボンでもジェノバでも「アメリカが参加できるよう最大限の努力を尽くす」なんて、相も変わらぬ本音丸見えのブリッコ外交でCOP6交渉最大の抵抗勢力の一つに成り下がってる日本政府に対し、昨日EUが「今回の提案は日本に大幅譲歩した内容で、我々にとってはバーゲンセールだ」と述べて提案した「森林吸収4%」という提案のこと。
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)が17日に出した緊急プレスリリース「再開COP6を失敗に導く日加豪シンク提案」によれば、同日、日本が中心になってオーストラリア、カナダと一緒に出した「共同提案」は
- 吸収源活動から生じるクレジット全体への上限(キャップ)は設定しない。
- 各国の国内の「森林経営(Forest management)」の吸収量について、各国の目標達成に必要な削減量などを考慮して、個別の上限を設定する。
というもので、これをそのまま認めると、最大で、1990年の先進締約国の排出量比で12.9%もの吸収量が算入可能となるそうです。議定書の削減目標が90年排出量の5.2%ですから、なんと先進国全体で、2012年までにさらに7.7%も排出していいということになってしまうという、「抜け穴」と呼ぶのも忍びないほどとんでもないシロモノの提案なんですね、日加豪共同提案というのは。
そんなわけで、これを認めたら議定書は「削減」のためのプロトコールではなく、ただの「排出許可証」になっちゃいますから、そこでCOP6プロンク議長が提案したのが、4%まで認めましょうという大幅譲歩。すでに6月に議長は、「3%まで認める」という、もうそれ自体特大の大幅譲歩をしていたわけですから、今回の提案は、それでもゴネゴネしている日本政府に対する最後の「揺さぶり」なんでしょう。はっきりいって、もうなめられきってるとしかいいようがありません。
ところが、日本政府の反応はといえば冒頭の通りです。いったい何様?
で、さらにMainichi Interactiveのニュースによれば、日本政府は「二酸化炭素の削減目標を守れなかったときの罰則の緩和」や「途上国と共同実施するCO2削減事業の対象から原子力発電所を除外しない」などに重点を置いて交渉を進めるとのこと。まさに予想通りですが、これらこそ、吸収源問題とともに、昨年のCOP6決裂要因だったもので、他国には柔軟性や譲歩を求めるくせに、米国離脱によって降って沸いた「議定書発効のキャスティングボード」という立場を悪用して、硬直姿勢を繰り返すばかりなんですね。あ〜恥ずかしい。。。(そしてここでもまたお仲間はカナダとオーストラリア。)
だいたい途上国援助に原発を、なんていうのは、事故や放射性廃棄物の問題だけでなく、核拡散の観点から見ても大きな問題です。原発問題では、インドとロシアも日豪加に賛同してますが、そこでの核兵器問題については、気候行動ネットワーク(CAN)のニュースレターECOの7日20日版の"Nuclear Proliferation and the CDM"で触れられています。またオーストラリアは、実は原発の燃料になるウラン輸出国なんですが、ウラン採掘によるアボリジニの土地の放射能汚染がかねてより深刻な問題になっています。「温暖化対策に原発」なんてことを認めると、そういう危険もますます高まってしまうわけです。
だいたい2050年くらいまでにはCO2排出量は90年基準で50%以上も削減しないと対策として効果がないそうですから、全排出源の1/4でしかない発電などエネルギー転換部門での削減にしか貢献し得ない原発による寄与というのはタカが知れています。そもそも現在使われている原発のタイプは、柔軟な出力調整ができないので、日夜常に一定出力で運転するベース電源にしかならず、日中の需要増には火力などで対応するしかないので、原発だけで全電力をまかなうことは不可能です。さらにいえば、原発を増やすと夜間電力使用量が増え、エネルギーの電力化率(その最たるものが「オール電化住宅」)が上がり、日中の需要量も増えて、省エネとは反対にますますエネルギー大量消費を進めてしまうことになります。仮に出力調整可能な原子炉が普及しても、いずれにしたって、放射性廃棄物処理の問題や、核不拡散上の大問題でもある余剰プルトニウムの問題、それから日本や、環太平洋地域やインド洋周域の地震帯では、大地震による原発事故、それによる震災と放射能汚染のダブル打撃(いわゆる原発震災)という問題もあります。とにかくトータルな視点で見れば、原発は、温暖化対策にとって、メリットは非常に小さくデメリットは巨大というシロモノでしかないのですから、コスト、ベネフィット、リスクを考えれば、全く不合理な選択肢でしょう。にもかかわらず「原発で温暖化対策」なんて言ってるのは、要は国内ではイケイケ時代をとうに過ぎてしまった原子力産業の生き残りのためでしかありません。あ〜情けない。。。
もひとつ情けないというかおマヌケだったのは、ジェノバのG8サミットでの小泉首相。
21日の会合では、とくにシラク仏大統領を先頭に欧州側とアメリカで激烈な論争が一時間半近く繰り広げられたそうですが、そこで小泉首相がいった台詞はやっぱりこの一言。「アメリカが戻って来れるよう最後の最後まで説得を続ける」。あの丸テーブルをはさんで、他の首脳たちを目の前にこれを言ったかと思うとなんともマヌケな光景が目に浮かんでしまいます。これだけ小泉首相がボケてくれたんだから、誰かツッコまなかったのでしょうか? "You do? OK, go ahead!! Here's Mr. President of US!", "It's now to do it!"って。
最後に、こちらは、首相の留守を預かっている福田官房長官の談話(from asahi.comの記事「COP6再開会合での全面合意は困難 福田官房長官」)。ハンセン病訴訟問題ではヒーローだったこの方も、どうやら温暖化問題については無知なのか、それともただの米国同調なのか、こんなことを言っています。
「その先に米国、中国、他の発展途上国が参加できる方向を見つけ出そうと、小泉首相も一生懸命やっている。COP6で、もしまとまらなければ10月のCOP7でまとめようと全力でやっている。みなさんが失望するような結果はもたらさない」
だいたい「中国、他の発展途上国が参加できる方向」をというのは、気候変動枠組条約の根本理念である「共通だが差異ある責任」という原則を完全に無視したもので、カンペキにブッシュ大統領と同じ発想であるわけで、にもかかわらず、そういう方向で「小泉首相も一生懸命やっている」ということは、図らずも日本は議定書を潰したい、アメリカとどこまでも一緒に行きます、という「本音」をもらしちゃったとも受け止められます。(そもそも途上国は、第一約束期間の2008年〜2012年以降は入ってくるわけですし、これを第一約束期間から求めるというのが、ブッシュ大統領のイチャモンです。)
それにしても来週の日曜日は参院選。悪夢は本当にやってくるのか。。。!?
ここしばらく雑誌の原稿(『現代思想』8月号の特集の原稿で「科学・技術と公共空間―テクノクラシーへの抵抗の政治のための覚書き」というやつです)に追われて、更新がストップしてました。他にも締め切り地獄は続いているのだけど、とりあえず・・・
さて、いよいよ温暖化問題の第6回締約国会議再開会合(COP6-b)がドイツのボンでスタートしました。すでにテレビ・ニュースなどでも報じられていますが、この前の日曜日のサンデープロジェクトでの小泉首相の「COP6では合意できない」発言をめぐってEU諸国や途上国(G77 & China)、環境NGOからの批判が相次ぐなかでのスタートでした。
そのうえ今日17日の会合では、日本がカナダ、オーストラリアに働きかけて、さらに目標削減量におけるCO2の森林吸収分の割合を増やす「新提案」なんか出してしまいました。先月、すでにオランダ環境相でCOP6議長のプロンク氏が、日本が批准するように、本来は(基準年である90年の排出量に対する割合で)0.6%分しか認められないはずの吸収量を3.0%まで認める大幅譲歩案を出していますが、さらに日本は、当初からの3.7%にできるだけ近い数値まで譲歩を引き出したいようです。
この「本来の0.6%」というのは2010年までに植林などで人為的に増加した分の森林による吸収量なんですが、日本はこれを、すでにある森全体の樹木の成長による吸収分までカウントせよといってるんですね。ちなみに森林は、成長して光合成によってCO2を吸収し、固定しても、葉っぱが枯れたり樹木自体が枯れたりすることによって再びCO2を排出しますから、積極的に森林面積を増やさない限りは、長いタイムスパンで見ると、ほとんどのCO2が大気と森林の間を循環するだけです。日本政府の主張は、この循環プロセスのなかの排出の部分を無視している全く非科学的なものです。おまけに昨年、IPCC(気候変動政府間パネル)が出した吸収源に関する特別報告書(リンク先は環境庁による仮訳)は、次のように森林が将来的には排出源に変わりうること、また数十年の予測は不確実性が大きいことを指摘しています。
生態系モデルは、全地球における人間活動の間接的な効果(すなわち、CO2 の施肥効果と養分の沈降)により生じる追加的な陸上生態系の二酸化炭素の吸収は森林生態系によって数十年続くが、それもやがて消滅し、森林生態系は排出源にさえなり得るということを示している。この理由の一つは、生態系の追加的な炭素吸収のキャパシティは養分や他の生物物理的な要因に制限されるだろうということである。二番目の理由は、いくつかの種類の植物においては、温度の上昇に伴い呼吸は増大が見込まれるにも関わらず、二酸化炭素濃度が増大し続けてももはや光合成の速度は増大しないと推定されるということである。三番目の理由は、気候変動により生態系の劣化が生じるだろうということである。これらの結論は将来のCO2 と気候変動の現在の吸収源への影響のみを検討したものであり、比較すべき解析のなされていない将来の森林減少や陸上生態系を強化させる行為については考慮していない。生理的な過程による環境適応、気象的な制限、過程の中でのフィードバックに関する不確実性のため、数十年を超える予測は非常に不確実である。
そういうわけですから、温暖化対策をまじめにするとすれば、あてにならない森林吸収分はできるだけ控えめにして、気候変動への人為的要因そのものである産業経済システムのほうを各国の国内対策としてちゃんとやりましょうというのが筋なんですが、ところが国内対策を最小限に抑えたいアメリカ、カナダ、オーストラリア、そして日本は、できるだけ森林吸収分を増やそうとして悪あがきしたのが、昨年のCOP6会議の交渉決裂の第一原因です。(ついでにいうと、これらの国の言うとおりにすると、多くの巨大排出国がさらに排出していいことになってしまい、全然削減にならない。)
そしてまた再開会合がスタートした途端の、日本のイニシアティヴでの「新提案」です。(そんなことでしかイニシアティヴとれんのか!?) だいたい、環境大臣自身が所詮、元通産官僚ですし、いかにもそうなるのは当り前なんですけど、早速、地球温暖化に取り組む世界300以上の環境NGOのネットワークCANが、毎日の交渉で後向きな発言をした国に与える「本日の化石賞(Fossil of the Day Award)」の17日分は、見事日本になってしまいました。以下、そこのコメントです。
「日本は京都議定書を葬ろうとしている」
今週の日曜日、小泉首相は「我々は合意に到達できないだろう」と日本のテレビショーで発言した。16日、日本政府は、小泉首相の発言に関するプレスリリースを配ったが、その交渉姿勢に変わりがないことを明らかにしただけだった。日本は、COP6再開会合で、京都議定書の発効を目指して、可能な限り最大限の幅の合意に達するよう最善を尽くすつもりだという。いいだろう。それは分った。しかし我々が知りたいのは、どうやって日本がそうするかだ。プレスリリースによれば、日本はCOP6再開会合を成功させるとも言い、他の締約国に交渉では柔軟になるよう求めている。他の締約国に柔軟になれだって? なぜあなた方ではないのか? 今日の吸収源に関する日本の新提案は、ここでの交渉を破壊するものだ。今日の記者会見で川口環境大臣は、「私たちは交渉のプロセスを遅らせる意図はもっていない」と言っている。しかしあなた方はプロセスを遅らせているのであり、それは京都議定書を葬り去ることを意味しているのだ。
ところで17日の「本日の化石賞」のノミネート国には、新提案で日本とつるんだカナダが挙がってますが、こちらは、途上国援助の一環である「クリーン開発メカニズム(CDM」のなかに「原発建設を認めろ」という主張のせい。要するに、国内の原発メーカー生き残りのために、「原発輸出」させろ、ということです。そしてこれは、森林吸収源の問題に加えて昨年のCOP6決裂原因の一つとなったもので、日本とオーストラリアもお仲間です。今回の会合の前に行われた非公式会合でもこれら三国は、この点を主張していたそうですから、日本もそのうちすぐに「原発、原発」と言い出すことでしょう。
ちなみに原発に関しては、今月13日に経産省の総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会が報告書「今後のエネルギー政策について」を発表し、相変わらず原発増設を掲げています。実はこの委員会では、自然エネルギー推進ネットワーク代表で、ウチの学部の同僚でもある飯田哲也さんが委員を務めていましたが、もう最初から「脱原発も視野に入れたエネルギー政策の総合的見直し」という線は排除された委員会だったそうで、最終的に飯田さんは、報告書の採択を拒否しまして、その拒否理由が報告書に添付されています(ぜひご一読を!)。なお温暖化対策における原子力発電の問題点については、こちらのリンクをどうぞ。
それから、ここの更新をサボっている間に環境省からは以下の報告書が発表されています。
1999年度(平成11年度)の温室効果ガス排出量について
中央環境審議会地球環境部会「目標達成シナリオ小委員会」中間取りまとめ(H13.6)
中央環境審議会地球環境部会「国内制度小委員会」中間取りまとめ(H13.7)
昨日の新聞各紙のトップをにぎわせた小泉首相とブッシュ大統領の日米首脳会談でのツーショット、思わず80年代の中曽根―レーガン時代を連想してしまいました。なにしろミサイル防衛構想という、かつての戦略防衛構想(SDI) ― スターウォーズ計画 ― の焼き直しみたいのまでありすしね。(ちなみにSDIは宇宙戦艦ヤマトの「反射衛星砲」のパクリだ、と思った日本人は当時数多かったに違いない。)
国会答弁と同様、不良債権問題でも構造改革問題でも、パフォーマンスだけで中身のない話が首脳会談でも繰り返され、しっかり現地のマスコミもそこにツッコミを入れてたようですが、中でもひどかったのが京都議定書の批准問題。(気候ネットワークによる記者発表「小泉首相の京都議定書を巡る米国での発言へのコメント」はこちら。)
「アメリカ抜きの批准は考えていない」というこれまでの立場の表明に留まらず「ブッシュ大統領の決定に日本は失望していない」とまで言っちゃったものだから、(ブッシュ大統領、チェイニー副大統領と同様に石油産業の利益代弁者である)スペンサー・アブラハム・エネルギー省長官は、早速これを政治利用して「日本はアメリカと同じ立場になった」「これで京都議定書は死文化した」と記者会見で語ってしまう始末。
さらに今日は、福田官房長官の記者会見でも、「アメリカが戻れるように議定書修正案も考える」という発言。それって要するに、議定書の数値目標も期限も遵守措置を緩めて、議定書を根本から骨抜きにしようということでしょ?アメリカにとっては、これら議定書の骨組み自体を拒否して、石油産業を守りたいというのが本音なのだから、「アメリカが戻れるように」は「議定書の事実上の死文化」でしかないでしょう。
さらにいえばこの姿勢は、単なる(恥ずかしい)アメリカ追従というだけでなく、結局はアメリカを盾にした(そして「世界のためにアメリカを説得」というヒロイズム気取りの外交ポーズで隠した)「国益」の追求でもあるのでしょう。つまりアメリカをダシにして、もっとEUから妥協を引き出して、日本の削減義務を減らそうという経産省路線のシナリオなのでしょう。ちなみに、IISD (International Institute for Sustainable Development)のニュースレターによれば、先日のオランダでの非公式会合では、そもそもの昨年のCOP6決裂の原因になった森林シンクの問題や、途上国支援(クリーン開発メカニズム:CDM)での原子力発電や植林事業の問題がやはりネックになっていたとか。そしてこれらのイシューで、昨年の交渉時に「もっと森林吸収認めてよ」、「途上国に原発作らせてよ」(つまり、国内では原発建設が滞ってるので「原発輸出」させてよ、という原子力産業の利益代弁)と駄々こねてた国の一つが日本です。(他はアメリカとカナダ、オーストラリア。ただし当時はクリントン政権でゴア副大統領が途上国支援に原発建設を含めることを認めなかったため、原発問題ではアメリカは違う立場。) きっと今回も駄々こねたのでしょう。
ちなみに途上国支援の一環に植林事業を、という話題では、東京電力など日本企業がCDMの一環のつもりですすめているオーストラリアでの植林事業が、かえって森林を破壊し、温暖化の要因を作り出しているというWWF(世界自然保護基金)の報告書"The Clearcut Case: How the Kyoto Protocol Could Become a Driver for Deforestation"がとっても重要だと思います(日本語の解説はこちら)。EUが日本にこれ以上妥協すれば、こういう行為が「地球を護るため」という大義名分を得て、どんどん進められることになるのでしょう。
ところで先週末は、雑誌の仕事で東京に行ってたついでに、東京・青山の地球環境パートナーシップ・プラザで「地球の友・ジャパン」の主催で開かれた全米自然資源防衛評議会(NRDC)のデビッド・G・ホーキンス氏「緊急セミナー『ブッシュ政権と京都議定書―米国の最新事情』」に行ってきました。そのなかで印象に残ったのは、「ブッシュ政権を議定書に戻らせる一番の方法は、EUや日本が先に批准し、(ブッシュ大統領ではなく)アメリカ市民の意識を変えることである。このままずるずる批准を先延ばしにすればアメリカ市民は『やっぱりブッシュ大統領が正しい』『他の先進国が批准してないのに、なんでアメリカが批准しなければならないのか』という考えをますます強めてしまうが、アメリカが孤立すれば『ブッシュ大統領のほうが間違っているようだ』と考えるようになる。そうなれば、ブッシュ政権の『意識』は変えられなくても『行動(behavior)』は変えられる。石油業界も現状維持を断念して動き出すだろう」というホーキンス氏の指摘。当り前といえばすごく当り前の話だと思うのだけど、おもわず納得してしまいました。
そもそも国のような大きな政体レベルでの意思決定というのはいわば「多変数関数」ですから、別に為政者や利害関係者の「意識」そのものを変えて、同じものにする必要はないんですよね。マキャベリスティックに考えれば ― 政治というのは本来的にマキャベリスティックなものですし ― 「意識」は別でも、ある行動をとることが、それぞれの利害関係者固有の基準から見て、それぞれなりに理にかなったもの、得なものとなれば、決定へのベクトルはそろうわけ。ブッシュ大統領についていえば、一方にある石油業界からのサポートも大きいけど、他方で有権者の支持行動の変化は、直接あるいは政党所属の議員を通じて間接的に政権運営に大きな影響を及ぼしてきます。個々の議員レベルで見れば、たとえその議員が環境保護派でなくとも、選挙区での支持が減れば、次回選挙に響き得るので、議会での行動パターンが代わり、その分、大統領府も好き勝手にはできなくなります。現にホーキンス氏によれば議会では、共和党員も一枚岩でなく、ブッシュ大統領のエネルギー政策プランの多くの論点について拒否がなげつけられているとのこと。
日本の外交戦略も、上に述べたような権謀術数で動いてるのでしょうけど、その本音が透けて見えちゃってる分だけ、「最後の最後までアメリカを説得しつづける」なんていう純情ブリッコが気持ち悪い。ちなみに衆議院議員河野太郎氏のメルマガ「ごまめの歯ぎしり」6月29日号によれば、自民党内でもかなり上のほうまで、批准で腹をくくっているとのこと。「そこまで日本は、対米追随か、などと言われたら、外交が持たないという危機感が強い」そうです(そりゃそうだわな)。いったい誰が抵抗しているんでしょうか。(まぁ「対EU外交のためにとりあえず批准はしても、中身は骨抜きに」と考えてる「批准賛成派」も多いのでしょうけど。。。)
それにしても小泉政権の支持率、未だに90%近いって、どうにかならんのでしょうか。おまけに自民党支持率まで上がって、どうやら参院選では自民党が大勝しそうな勢いらしい。歴史の偶然とはいえ、森前政権がことごとく味あわせてくれた「失望」に対する反動での「安易な希望への飛びつき」というあまりにできすぎの構図に、暗澹たる気持ちを抱くのは私だけではないでしょう。。。
なおWWFジャパンの記者発表に「日本は、2010年までにCO2排出量を12%削減できる可能性を持っている−『地球温暖化問題解決のためのWWFシナリオ』より−」という記事がありました。
もう明日の授業の準備もあるのだけど、ついつい拾ってしまったニュースのメモ。
毎日新聞Mainichi Interactiveの今日のニュースによれば、山口県上関町での上関原発建設計画で、中国電力)が経産省に提出した環境影響評価書の全容が明らかになったが、「環境への影響は少ない」とした昨年10月の中間報告とほぼ同内容で、専門家からは「希少生物の調査が不十分で、環境保全に結びつかない」との声が上がっているとのこと。(まぁそうだろうね。)
ちなみにこの「専門家」も含まれているはずの日本生態学会では、今年3月29日の日本生態学会第47回大会総会決議として「上関原子力発電所に係る環境影響評価についての要望書」を発表し、中電の評価書の不十分さ、非科学性を指摘しています。
7月16-27日にドイツ・ボンで開催されるCOP6再開会合に向けた閣僚会議が、日本時間で今日の夕方からオランダのハーグで開かれます。当然ながらbig issueは、すでに米国抜きの京都議定書批准を表明しているEU諸国、ロシア、カナダなどによる日本の説得。すでに、元は0.6%分しか認められていなかった森林吸収分を「3%」まで認めるという超大幅譲歩をされている日本ですが、川口環境大臣は「アメリカを説得できるよう、議定書ルール策定について柔軟な対応を求めていく」とのこと。要するにもっと議定書ルールを甘くして欲しいということでしょうか。(19日の記者会見大臣発言要旨、22日の記者会見大臣発言要旨も参照。)
他方、環境省は昨日、「温室効果ガス排出量削減シナリオ策定調査報告書」(概要をまとめたプレスリリースはこちら)を発表しています。「A1:世界市場主義シナリオ」、「A2:地域・伝統重視シナリオ」、「B1:環境技術牽引シナリオ」、「B2:新地域自立シナリオ」という四つの「日本国シナリオ」で試算したところ、CO2排出量では、2030年で最大50%開きが出るとのこと。具体的には、京都議定書の削減基準年である1990年の排出量を100とすると、「世界市場主義シナリオ(A1)」では144(44%増)、「地域・伝統重視シナリオ(A2)」では114(14%増)、「環境技術牽引シナリオ(B1)」では103(3%増)、「新地域自立シナリオ(B2)」では94(6%減)になるそうです。
この報告書で面白いポイントは二つ。一つは、この試算には、CO2削減など温暖化対策をすることは前提にされていないということで、この点についてプレスリリースでは次のように述べています。
地球温暖化対策が考慮されていない排出量にもかかわらず、このような大きな差が生じるということは、発展のパターンすなわち社会・経済構造改革のあり方によって地球温暖化対策の程度や意味が大きく異なってくることを示唆しています。
今後、20年、30年という長期にわたる地球温暖化対策を論じる場合には、地球温暖化対策だけを個別に議論していくのではなく、我が国がどのような社会・経済構造を志向するのか、その改革の方向は地球温暖化対策の方向性と一致しているのかといった議論を十分に行っていく必要があると考えられます。(太字強調筆者)
これは、温暖化対策に限らず適用可能な実に重要な論点だと思います。
もう一つのポイントは、CO2削減率が最もいい「新地域自立シナリオ(B2)」の経済成長率は2015年までは全シナリオ中で最低だが、その後は「地域・伝統重視シナリオ(A2)」の経済成長率を上回り、また「投資は環境保全を目的とするものが優先され、環境関連産業が伸長し、経済構造の核に環境保全をすえる形で経済の発展も重視するので、A1 ほどではないが高い経済成長率が達成される」と推定している点。
しばしば「環境」と「経済」は相矛盾するものとして対立関係で捉えられがちですが、産業経済の構造・行動次第では、環境も儲かるということ、要するに「何で儲けるか」を考えることがとても大事だということですね。この点では、asahi.comが伝えている循環型社会形成推進基本法に基づく初の「循環型社会白書」の閣議決定(26日)も興味深いです。それによれば、エネルギー・資源の有効利用のための新技術開発などを進めれば、2010年の国内総生産(GDP)は、そうした対応をしない場合を6兆円上回る637兆円になり、環境対策は経済成長を妨げないことが強調されているとか。
最後にもう一つ興味深いニュースを。
Yahoo! ニュースに掲載された時事通信の記事「独政権と電力業界、発電余熱の利用で最終合意=温暖化防止会議控え」によれば、ドイツ政府は25日、CO2排出量削減に向けて、発電で生じる余熱の利用(つまりコジェネレーション)を促進することについて電力業界と最終合意に達したそうで、余熱を地域暖房などに再利用しエネルギー効率を高めることのできる余熱利用型発電プラント設置に対する奨励金支給によって、2010年までに4500万トンのCO2を削減できるとのこと。京都議定書による削減基準年の1990年のドイツのCO2排出量10億1450万トンに対するその割合は4.4%にあたります。またドイツはすでに90年から99年までにCO2排出量が15.4%減って約8億5851万トンになってますが、4500万トンはその5%強にあたります(発電などエネルギー部門の99年排出量3億2975万トンに対するその割合は13.6%)。COP6再開会合に向けて、本来科学的には不確実性の高い森林吸収による削減分を0.6%から3%まで認めてもらったにもかかわらず、「でもまだこれじゃ厳しすぎる」とか駄々をこねてる亡国もとい某国政府とはえらい違いです。それとともに、発電システムをコジェネにしていくだけで、これだけの効果がでてきちゃうという話も驚き。まぁ、長期的には、もっともっと減らさなくてはならないので、これくらいで驚いてちゃいけないのでしょうけど。
ちなみに従来の大型火力と原子力中心の発電では、熱効率が非常に悪く、日本の場合、トータルで70%近くが「廃熱」になってるんですよね。この熱を再利用するのがコジェネレーションで、熱効率は80%以上にもなり得るし、同じアウトプットを得るのに、より少ないインプットですむようになります。いま盛んに電力会社が進めている「オール電化住宅」なんてのは、コジェネレーションを使えば、そのまま熱利用できる「給湯」や「暖房」まで電力でまかなおうとするから、(各家庭の電気代はお得でも)社会全体としては、すっごいエネルギーの無駄使いと不本意なCO2排出にしかなりません。
日本でも、たとえば石川島播磨とかが高性能のコジェネレーションシステムを作ってて、技術ポテンシャルは高いのに、「奨励金支給」とか「電力自由化」「電力買取法」などの政策的仕掛けが不十分なんですよね。日本でも電力自由化にはなってますが、風力発電やバイオマス発電などいわゆる「再生可能エネルギー」が普及しない原因の一つは、ドイツなど欧州と違って、それらの電力を既存の電力会社が買う際の「買い取り義務」がなく、購入価格や購入量を電力会社が絞ってしまうということにあります。また、風力発電は、個々の発電機の電力は不安定でも、広い地域にたくさん作るほどトータルでは安定化するということはドイツなど欧州では実証済みの常識のようですが、日本では「風力発電は風任せで不安定」なんていう「神話」が未だに、政府の審議会レベル(←どういう「レベル」だろう?)でも根強いらしいですしね。環境問題(そして産業政策)で政治が果たす役割の大きさを改めて実感する話です。
ブッシュ大統領は、世界第二位の二酸化炭素排出国であり、今世紀初頭にはアメリカをしのぐと言われている中国が、京都議定書による削減義務を免除されていることを理由に、「議定書は不公平だ、だからアメリカは参加しない」と言ってるわけですが、実は1997年以来、中国では、石炭消費量を減らしたり、効率のいい上質の石炭の普及を図るなどのエネルギー政策によって、GDP(国内総生産)を36%伸ばしながらも、CO2排出量を17%も削減していたそうです。(他方、この間にアメリカは14%も排出量が増えている。)
これはEnvironmental News Service (ENS)の6月15日の記事"China Beats U.S. in Greenhouse Gas Cuts"が伝えているもので、元になっているのは、アメリカの環境NGOの一つ、全米資源防衛カウンシル(National Resource Defense Council; NRDC)の報告書China is Aggressively Reducing Its Carbon Dioxide Emissionsの他、ローレンス・バークレイ国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory; LBNL)、アメリカエネルギー省の報告書や統計。2020年の排出量予測でも、経済成長率が年に5-6%だとしても炭素換算で11億トンで、これは1990年のアメリカの排出量13億トンを下回る量だとのこと。
ブッシュ提案に関する川口順子環境相の記者会見要旨がありました。
んー、言葉を取り繕うだけの「言い訳」としか読めないのは私だけだろうか?
ついでに気候ネットワークの「ブッシュ問題特設ページ」にリンクされていた今日の党首会談での鳩山さんvs.小泉首相のやり取りもリンクしておきます。
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA: Japan Center for Climate Change Action)のサイトに、第6回締約国会議(COP6)に関わる動き/ネゴシエーション・アップデイトというコーナーがありまして、そこのブッシュ問題: ブッシュ発言に関わる各国・各セクターの記者発表資料、声明等には、ブッシュ大統領の声明と、温暖化問題についての「中間報告書」、それに対する各国の反応などへのリンクがあります。
またNGOの気候ネットワークでは、「環境の世紀へ、変えよう! キャンペーン」ブッシュ政権京都議定書離脱問題ぺージが公開されています。
下の記事で触れた川口環境相の記者会見のプレスリリースが環境省のサイトに公開されました(「ブッシュ大統領声明に関する環境大臣談話」)。これを読むと、「ただし、京都議定書には欠陥があると表明し、数値目標に関して直接的な言及もなかったこと、又、具体的な提案がなされる時期が明らかにされていないことは、懸念されるところである」と言ってますから、それほど(思ったほどには)酷い内容ではないようですね。(平沼経産相のはこちら→「平成13年6月12日大臣閣議後記者会見の概要」 )
とはいえ、アメリカ案はあくまで「自主努力」に任せて、「法的拘束力を有する達成期間のある数値目標」を外すところにポイントがあるんだから、「米国が地球温暖化問題の重要性を認識し、各国と協力しながらリーダーシップを発揮するとの姿勢は評価でき、調査研究や技術開発の促進、市場メカニズムの活用など、我が国として協力できる項目もあると考えられる」というのは、やはり欺瞞でしかないでしょうね。
だいたい可笑しいのは、「我が国としては、京都議定書の2002年発効を目指して最大限努力するとの方針に変更は無い」といいながら、決してEUのように「アメリカ抜きでも議定書を批准して発効へ」と宣言しないこと。確かに、「世界の温室効果ガス排出量の4分の1を占める米国が京都議定書に参加することが、地球温暖化対策の実効性を確保し、将来の途上国の参加を促すためにも極めて重要である」とし、「米国が京都議定書発効に向けた交渉に建設的に参加するよう、引き続き強く希望する」というのは正論だけど、EU同様に「たとえアメリカ抜きでもGO!!」という姿勢を打ち出した上で、アメリカの説得を続けるという選択だってできるだろうに。それをしないのは、結局は「やる気がない」か「アメリカの顔色伺い」でしかないということでしょうか。
ところでこのプレスリリースを見に行ったついでに、とっても「虚しい」情報を見つけてしまいました。それは「地球温暖化防止キャンペーン「2002!京都議定書発効」の実施について」というお知らせ。その「概要」と「背景」には、こんなことが書かれています。
概要:
環境省及び全国地球温暖化防止活動推進センターは、本年7月に予定される気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合に向けて、2002年の京都議定書発効の気運を国内において盛り上げるため、キャンペーン「2002!京都議定書発効」を行う。1. 背 景
本年7月に気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合が開催される予定である。本会合では、地球温暖化防止のための京都議定書について話し合われる。国際的な目標である2002年の京都議定書の発効のためには、本会合での国際合意の達成が必要であり、日本国内においても、世論の高まりが求められる。
おいおい、「2002年の京都議定書発効の気運を国内において盛り上げる」っていうけど、「盛り下げている」のはまさに環境省、日本政府でしょ? 「本会合での国際合意の達成が必要」と本当に考えてるんなら、「日本国内においても、世論の高まりが求められる」なんて他人事のように言わないで欲しい。
まぁ、役所ってのはあくまでも「法人」だから、内部にはいろいろな考えの人がいるんでしょう。このキャンペーンを企画した担当者の人は、真剣に上のように思っているのかもしれないけど、法人としては全然違う。
ちなみにこのキャンペーンでは全国11ヵ所でシンポジウムが開かれますが、7月3日は京都でも開かれますね。その日はゼミがあるけど、休講にして、がんばってる(と信じたい)環境省の役人さんにエールを送りに行こうかな。。。
ところで環境省地球環境局のサイトには「平成12年度温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会報告書」というのもすでに公開されてますが、中身を見ると、エネルギー部門での削減シナリオには相変わらず原子力が入っています。それで原発13基新規で建てた場合に、産業や運輸、民生など他の部門も合わせて、高位水準の見積もりで、京都議定書の削減目標(日本は6%減)の基準である1990年排出量から13%減、低位水準で4%減、原発7基の場合はそれぞれ10%と1%なんだそうです。
これに対してEUはどうかというと、一昨日11日、欧州委員会(European Commision)のEuropean Climate Change Programme (ECCP)が報告書(pdf版)を出していることが、Environmental News Service (ENS)の記事"EU Has Twice the Climate Remedies Needed to Hit Kyoto Target"で伝えられていました。このECCPは、EU15ヶ国の産業界やNGOsからの専門家による、さまざまな利害関係者間のコンサルティング・プロセス(multi-stakeholder consultative process)で、報告書では、京都議定書の枠組みのもとで費用対効果の高い温暖化ガス削減のための40の方策の可能性を評価しています。それによると、EUに課せられた1990年より8%減という削減目標の2倍が、費用対効果の高い方策で実現できる見通しが得られたそうです。しかも、日本のように原発増設を温暖化対策には用いていずにこの数字です(上記報告書の"3.2 ECCP WG2 'Energy Supply'"参照)。唯一"nuclear"という単語が出てくるのは、バイオマスエネルギーに関する節の脚注にある"Non Nuclear Energy Program (非原子力エネルギープログラム)"というところだけでした。ドイツでは、昨日2030年までに原発を全廃する合意文書に政府と電力会社が合意したことですし、EUは本格的に脱原発に動いているようです。(しかし原発大国フランスはどうするのかな。フランス一国に原発やらせて、他国はその余剰を買うんだろうか?それともフランスも変わりつつあるのだろうか。)
それにしても日本、いったいどうするんでしょうね。
ブッシュ大統領の訪欧もスタートし、議定書問題は一つの佳境に差し掛かりつつありますが、いやー、日本、相変わらずです。外向きには米欧の板ばさみ、内側では、議定書が誕生したCOP3京都会議直前と同様、環境省と経産省の綱引き模様。
一昨日の記事にも書きましたように、COP6議長でオランダ環境相のプロンク氏が、昨年の会議以来ネックになっていた森林による吸収分を、日本が求めていた3.7%に大幅譲歩して、3.0%にするとしました。Asahi.comのニュース(「日本への譲歩、京都議定書合意のため必要 COP6議長」)によれば、これは完全に日本取り込み用の案だそうです。4月の議長修正案では、森林の吸収量に85%の「割引率」というのがかかり、日本の森林吸収分は0.6%しか認められなかったのに対し、今回は(1)エネルギー効率がよい、(2)国土の半分以上が森林、(3)人口密度が1平方キロあたり300人以上、の3条件を満たせば、ほぼ日本が要求している量にあたる1300万トンまでは割引しないとしたのでした。この条件からも、また森林の吸収量は不確実で削減目標の中に大きく含めるべきではないとしたIPCCの公式見解ともかけ離れていることからも、これはもう完全に日本を狙い撃ち、米欧の間で揺れる日本に揺さぶりをかける政治的カードです。なおプロンク新提案は、すでに国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局のサイトで公開されてます。(Consolidated negotiating text proposed by the President, FCCC/CP/2001/2)(pdf)
で、日本政府の対応ですが、何を考えているのか(それとも何も考えてない!?)、相も変わらずじれったく「ワタシ、(アメリカを)待つわ、いつまでも待つわ」(by あみん)の一点張り。たとえば川口順子環境相は記者会見で、「日本の主張が一部理解された点で前進があった」と評価する一方で、「引き続き米国に参加を求めていく」と語ったそうです(Mainichi, 6/12「京都議定書:米欧が新提案 日本は板挟みで、方針定まらず」。また平沼赳夫経産相も「世界のCO2排出量の4分の1を占める米国が何らかの形で土俵に上がることが大切で、『米国抜き』は現時点では考えていない」と話し、「京都議定書(の枠組みを守ること)を第一義に考えることが重要だが、世界は常に動いている。日米欧が連携できるよう、(議定書に)多少の柔軟性も必要だ」と述べて、京都議定書に柔軟性を持たせても米国の参加を求める考えを示したそうな(Asahi.com, 6/12「京都議定書の発効、『米国抜きは現段階では考えず』」。「平成13年6月12日大臣閣議後記者会見の概要」 )。このうえいったい何をEUから譲歩させたいのか?
ちなみに「森林の吸収分大幅増量」とともに日本が要求した途上国向けのCDM (Clean Development Mechanism)での「原発OK」については、新提案でも「No」(つまり、温暖化対策のための事業と認めない)というEUの方針を堅持してます(FCCC/CP/2001/2/Add.2 (pdf))。ちょっと引用しておきましょう。
Recognizing that Parties included in Annex I are to refrain from using nuclear facilities for generating emission reduction units and certified emission reductions, (斜体部分原文, 赤文字部筆者)
それから昨年のCOP6では、途上国援助にODAを使えることを日本は要求してましたが、こちらはどうなったかまだ分かりません。前者は原発メーカーの「原発輸出」、後者はゼネコンによるODA資金回収と、利権たっぷり、旨みたっぷりですからねー、そのあたりの譲歩も引き出したいのでしょうか。(あと議定書の「遵守措置」に反対、ってのもあったな。)
しかし、「12日朝に開かれた自民党環境部会でも、日本の立場を心配する声が相次いだ。『日本は米とEUの板挟みで、両方の顔色をうかがわなければならない』『米に参加を求めなければならず中途半端だ』。山本公一部会長は『新調停案は明らかに日本の取り込みを狙っているし、米国の独自案は予想よりも強硬でなく、(議定書に戻るかもしれない)含みがある。日本は今後の交渉の行方をよくみなければならない』と慎重だ」(Mainichi, 6/12「京都議定書:米欧が新提案 日本は板挟みで、方針定まらず」)なんて言ってるそうですから、もしかしたら上のような外交判断なんてなくて、ただ右往左往してるだけなのかもしれません。平沼経産相の発言の背景には、「議定書の削減目標が厳しく、『批准しても確実に達成できない懸念』(財界筋)がある」(同上)そうですから、まぁ、要するに「やる気がない」ってことでしょう。
でも環境省内には、「米国の参加を求めて柔軟になりすぎれば、温暖化防止の効果は薄れてしまう。米抜きで発効した方が効果的だ」と話す幹部もいるようですね(同上)。COP3のときと同じで相変わらず「環境省VS.経産省」という構図が浮かび上がってきますが、とはいえ環境省内にだって、たーくさん経産省出向組がいますからね、省内ポリティクスも大変でしょうね。
ついでに言うと川口環境相は、議定書のような義務措置を伴わないアメリカの「代替案」について、「『(排出量取引など)市場メカニズムの活用を前提とした点など京都議定書と共通する内容が多く含まれる』と述べ、『今後どのように具体化していくのか見ていく必要がある』との条件付きながら一定の理解を示した」と言ったそうです(Yomiuri, 6/12「川口環境相、米の温暖化対策に一定の理解」)。おいおい、あの「代替案」のどこが議定書と共通するのよ!? 確かに排出量取引は議定書に盛り込まれてるけど、あくまで国内対策が主で、排出量取引は補助的なものってのが議定書の原則でしょ? それに議定書はそもそも、温室効果ガス削減に「数値目標」を定めることを目的にしているんだから、単に各国の「自主努力に任せる」というブッシュ案は、完全に議定書を否定しているわけ。もう言葉の上辺で取り繕うっていう後向きな姿勢がありありですね。
それで、これにはさすがに日本のNGOも黙ってはいられないということで、気候ネットワークは早速12日に、川口環境相の罷免を求める「緊急プレスリリース」を出しています。一部引用しておきましょう。(彼女も所詮は官僚の操り人形でしょうから、罷免はあくまで象徴的な意味しか持たないのでしょうけど、この前の水俣病裁判上告の件といい、そろそろ責任とってもらいたいよね。)
・・・にもかかわらず、川口大臣が今朝の記者会見にてこの米国提案へ一定の理解を示したことは、日本がまさに京都議定書の死を宣告しようとしているに等しい、非常に嘆かわしい対応で、怒りをぬぐい得ない。これは「日本は批准すべき」とした国会決議に明らかに反している。川口大臣を直ちに罷免すべきである。
・・・
今回プロンク議長の案では、吸収源に大幅な制限を加えることを原則としているにもかかわらず、露骨に日本にだけに特例措置を取るのは、日本が外交上「問題児」扱いされているためである。日本だけが特別扱いされる理由はないにもかかわらず、こうした扱いを受ければ、「日本だけが汚い」との印象を世界に与えてしまう。これを「吸収源で前進があった」と嬉々として評価する日本政府は、世界における「問題児」との自覚が完全に欠如している。日本市民としてこれほど恥ずべきことはなく、断固受け入れられない。
それにしても、ここ数日、この問題ホットになりすぎて困ってしまうなぁ。
ちょうど先々週から講義で温暖化問題取り上げてるとこなんですが、受講生の皆さん、ちゃんとこの日米欧の動き、見ておいてね。
下の記事に関連するニュースが二つ、毎日新聞に出ています。
一つは「<温暖化防止>米が京都議定書の代案発表へ 自主的削減などが柱」。それによると新提案は「各国が自主的に温室効果ガス排出削減に取り組む方式の採用と、排出削減技術の推進を柱」としているとのことで、米国時間(東部かな?)11日午前に正式発表し(あとでCNN、Whashington Postとかを見に行こう)、14日にスウェーデンで開かれるEU諸国との首脳会談で説明するそうな。(ちなみにWashington Post 10日付社説は「対策の実効性のためには法的拘束力が不可欠」と批判しています。)もちろんこれはEUには到底受け入れられない案ですから、記事にもあるように「米国とEUの対立のはざ間で、日本の姿勢が国際的な焦点として浮上」するのは必至でしょう。毎日新聞のもう一つの記事「<温暖化防止>米抜き発効か京都議定書放棄か 決断迫られる日本」は、「米国抜きで議定書発効を目指すか、議定書を放棄するか。地球温暖化防止の鍵を握る日本は、決断の時期を迎えた」と結んでいます。
なお前者の記事では、ブッシュ大統領は、IPCCとは別に日欧などと協力して温暖化問題を研究する「気候変動研究計画」と、米国の大学や研究機関に研究開発資金を提供する「全米気候変動技術計画」に取り組む方針を表明するとのこと。もちろん温暖化の科学には不確実なところがまだたーくさんあって、もっともっと研究しなければいけないというのは本当。でも、この場合の「もっと研究を("more research!!")」ってのは、環境論争では対策や明確な意思決定を先延ばしにする典型的な政治的レトリックなんですよね。「不確実性が無視できないことを前提にしたうえで、どう意思決定するか」というのが、環境政策の基本ですから、実効性のある政策を何ら立てることなく、ただ「もっと研究を」というのは、その基本を外れているわけです。そもそも不確実と言っても、その程度にはいろいろあり、温暖化の科学的知見のなかでもかなり不確実なものもあれば、かなり確実なものもあるわけです。ちなみに米国環境保護庁(EPA)の地球温暖化のコーナーには、温暖化の科学に含まれる「不確実性」について解説したページがあり、冒頭で次のように述べています。
Like many pioneer fields of study, there are uncertainties associated with the science of global warming. This does not imply that all things are equally uncertain. Some aspects of the science are based on well-known physical laws and documented trends, while other aspects range from 'near certainty' to 'big unknowns'.
さらにいえば、科学的知見の確実性がどうであれ、環境問題というのは根本的にはわれわれの社会がどういう未来を望むのかという価値選択を含むものですから、争われているのは、「科学的知見の信頼性」だけでなく、価値の選択、人間社会にとって有意味な未来像の選択、そして正義の問題であり、そこには当然、経済的な利害関係の対立と調停が不可避に前面化してくるはずです。にもかかわらず科学的な不確実性ばかりを強調し、「もっと研究を」というばかりで、政策論争の根本にある価値対立や利害対立を科学の名のもとにカムフラージュしようとする姿勢は、欺瞞でしかありません。まぁブッシュ大統領の場合はあけすけに「京都議定書は米国経済に悪影響を及ぼす」と明言してますから、その点は「正直」なのかもしれません。しかし、経済利害を問題にするならば、具体的に何がどう影響受けうるか、それを最小限に食い止め、かつ温暖化対策に適うかたちで産業を進め、経済を回す方法はなんなのか、という具合に、「持続可能な産業経済システム」を具体的に検討するという方向で考えるのが正しいやり方でしょう。ブッシュ大統領の主張は、結局のところは、ありもしない「絶対的に確実な科学」というフィクションとともに、「経済」というまったく分別されていない概念を盾にとって、(彼の支持層である)特定の業界利益へのコミットメントを覆い隠しているともいえるでしょう。
ちなみに竹内敬二『地球温暖化の政治学』(朝日選書, 1998)によれば、90年時点ですでに、「まず温暖化の不確実性についての研究を」と主張したアメリカと、「科学的に不確実な部分があっても、すぐ行動を」とした欧州諸国との対立があったといいます(同書51頁)。(なおオゾン層保護条約交渉では米欧の立場はこれとは正反対でした。) EUが主張するような考えは、92年の「リオ宣言15条」にも組み込まれているいわゆる「予防原則(precautionary principle)」というもので、気候変動枠組条約の「第3条、原則3」にも「深刻で不可逆的な被害が生じる恐れがある場合には、完全な科学的確実性がないことを(予防的)対策を延期する理由にするべきではない」と書かれています。(EUの予防原則についての考え方は"Communication on the Precautionary Principle"(pdf))を参照のこと。)
さて、「米国抜きか、議定書放棄か」の選択をいよいよ迫られる日本、いったいどう動くのでしょうか?
米国ブッシュ政権による地球温暖化対策のための「京都議定書」からの離脱宣言は、その後、火力発電所の規制撤廃やら原子力発電所の大増設宣言(今後20年間で火力・原子力含めて1900基!!)まで飛び出して、世界各国に波紋を呼んでいます。今年7月にドイツのボンで開催される気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)の第2ラウンドはもちろん、リオ地球サミットから丁度10年後の2002年に予定された京都議定書の発効がかなり危ぶまれているところです。
京都議定書の発効には条件が二つあって、一つが「条約締約国のうち55ヶ国以上が批准する」こと、もう一つが条約の「附属書I」という文書にリストアップされた工業先進国全体の1990年のCO2総排出量に対して、批准した先進国の合計排出量の占める割合が55%以上になる、ということ(環境省「京都議定書発効の要件(議定書25条)」)。
このうちとくに重要なのが、後者の条件。附属書I国全体の総排出量のうち米国が占める割合は、なんと36.1% (当然世界一)。すると残りの国に残されているのは63.9%ですから、批准しない国の排出量合計がマージン分8.9%を上回ってしまうとまずいわけです。それでも欧州連合(EU)は、どうやらプッシュ政権は京都議定書に戻ってくる気はさらさらないようなので、もうアメリカを切り捨てて、来年の議定書発効を目指す方向で腹をくくったようです。果たしてうまくいくのか?
ちなみにEUは15ヶ国全体で、1990年から1999年までに、1990年レベルからすでにCO2排出量を1.6%削減、温室効果ガス全体では4%削減に成功し、議定書で2008-2012年までに達成予定と決められた8%の半分を削減してしまいました(EU greenhouse gas emissions down 4%, more cuts needed (Press release from the European Environment Agency 20 April 2001) )。とくに99年1年間には、2.5%の経済成長を達成しながらも温室効果ガスを2.0%も削減しています。もちろん、削減量と経済成長率の関係は、単純なものではないでしょうが、少なくとも1990年から1999年までに11%も温室効果ガスの排出量が増えているアメリカが「議定書は経済に悪影響を及ぼす」なんていって、交渉から離脱しちゃうのは、EUとしては「何をかいわん」でしょうね。
さて議定書発効条件ですが、とにかく8.9%を上回る国(々)が批准しなかったらアウトなわけです。そこで俄然重要になってくるのが、附属書I国の中でNo. 3の排出量(8.5%)を誇る(?)「日本」の出方。しかし、その反応はあまりに消極的。EUからは「アメリカ抜きでもGO!!」と誘いがかかっているのに、「アメリカが戻らないと議定書の効果がなくなる」というばかりで、一向に日本政府としてどうするのかは見えてきてません。5月20日のCOP6議長でオランダ環境大臣のプロンク氏と川口順子環境大臣との会合でも、EUからの「誘い」を拒否したそうです。先日も気候ネットワークなどNGOが小泉首相と会談したそうですが、彼もやっぱり「アメリカが戻るのを待つ」というのみだったそうな。こういう態度には、アメリカが交渉テーブルに戻る可能性がほとんどありえないことを考えると、議定書発効の決定的カードをもつ国として、EUや途上国との交渉を有利に進めようとする腹を読めなくもないですね。(実際プロンク議長は、森林による吸収分3.7%という日本の主張に大幅譲歩した3.0%OKという案を準備しているとも伝えられてますし。科学的には、IPCCの報告でも森林によるCO2吸収量については不確実性が大きく、将来的には排出源になりうる可能性もあるので、それを吸収源として頼るべきでないとしてますから、これはEUサイドの対米・対日戦術でしかないんでしょうね。)あるいは、よしんばアメリカが戻ることを本当に期待しているとしても、吸収源の「大幅水増し」やら「途上国支援に原発を」と主張しつづけて、昨年11月のCOP6を混乱させ、COP6第2ラウンドを開かざるを得ない原因を作った国の一つが日本ですからね。アメリカは昨年の時点では、ゴア副大統領がCOP6直前にWWF(世界自然保護基金)に応えて「原発はクリーンでも再生可能でもない」といったので、「途上国支援に原発を」は言ってなかったけど、ブッシュは違います。日本同様に使用済み核燃料の再処理までやると言い出してるそうですから、日本としてはアメリカに戻ってもらって、一緒に、というか矢面に立ってもらって、日本の交渉ポジションを護って欲しいのでしょうかね。
ところが、この世界を敵に回したアメリカと、京都議定書が生まれたCOP3議長国であったにもかかわらず議定書発効に対するブレーキ役となってる日本それぞれの政府のお膝元で、ここ数日ちょっと面白い動きが出てきました。
一つは、全米科学アカデミー(NAS: National Academy of Science)が、ブッシュ大統領の命を受けて作成した「温暖化の科学」に関する報告書Climate Change Science: An Analysis of Some Key Questions(こちらも参照:NAS NEWS - Leading Climate Scientists Advise White House on Global Warming)。ブッシュ大統領は3月に議定書離脱を宣言する際、「地球温暖化に関する科学は不確実性が大きい」、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告は、CO2削減に熱心な特定の国々にゆがめられているのではないか」という疑念を示していました。そこで、IPCCの温暖化の科学の検証をNASに命じたわけですが、ところがその報告書は、「温暖化の原因のうちどれくらいが人為的なものなのかは相変わらず不確実性があるが、温暖化は事実であり、その主要な原因は化石燃料の燃焼によるCO2排出であることは間違いない」という具合に、IPCCの報告を裏書してしまったのです。まぁ、考えてみれば、温暖化の科学でのアメリカ科学者の貢献というのは昔からずっと大きいですからね、IPCCとNASの報告がそれほど食い違うはずはないわけです。プッシュ大統領は、まさかNASが自分に都合のいい報告書でも書いてくれると期待したのでしょうか。
それで、この報告書に対するブッシュ政権の対応はというと、まぁ、「ありがち」なものです。Yahoo! News Global Warmingで拾った記事Bush to Act on Global Warmingが伝えている大統領スポークスマンAri Fleischerの発表によると、まずは(しらじらしくも)NASの見解は受け入れているようですが、二点で、レトリカルにブッシュ政権の立場を維持しようとしているように見えます。一つは、「温暖化の原因の一部が人間活動であることには疑いはない。問題はどれくらいの割合が人間活動なのか、である」という具合に、あくまでも「不確実」なところを強調しようとする姿勢。これは、温暖化問題に限らず、不可避的に不確実性の大きい環境科学・環境政策では常にみられるレトリックで、たとえば日本の水俣病でも、国(当時は通産省、その後の裁判では環境庁(省))は、(1)原因は水俣湾産の魚介類の摂取、(2)原因はチッソの排水、(3)原因はある種の有機水銀という具合に、徐々に原因に関する知見の絞込みが進んでいっても、ひたすら「それでは原因物質を特定したことにはならず、規制はできない」と、ひたすら「証拠基準」を(「対策に必要な科学的根拠」という観点からは)無用なまでの吊り上げを行い、逃げつづけました。今回のブッシュ政権の対応もこれと同じです。
もう一つのブッシュ・レトリックは、「温暖化の原因の一部が人間活動であることには疑いはないが、責任はすべての国がもっている」といって、相変わらず「途上国も先進国同様に責任を負わない議定書は認めない」という立場を貫き、世界最大の排出国という事実とそれゆえの責任の大きさには頬かむりを決め込んでいること。これは、「共通だが差異ある責任」という気候変動枠組条約の基本原則を端的に否定するものでしかありません。
さて、次に日本ですが、こちらは、先日8日に開かれた環境省の中央環境審地球環境部会の合同懇談会で報告された国立環境研究所と京都大のグループによる研究(毎日新聞6月8日「米抜きの議定書発効でも効果 国立環境研など試算」など)。これは京都議定書を(1)米国も参加して発効、(2)米国抜きで発効、(3)不発効の3通りのシナリオのもとで、世界のCO2排出量と、日本などのGDP(国内総生産)への影響を試算したもの。それによれば、2100年の全世界のCO2排出量は、1990年に比べて「不発効」で81%の大幅増になり、米国参加の発効だと24%増にとどまるが、米国抜きの発効でも48%増に抑えられることが分かり、有効性が示されたといいます。また米国抜きの場合は、先進国間でCO2排出量を売買する排出量取引で、CO2の価格が下がるため、日本が同じ削減努力をしても、2010年における日本のGDPへのマイナス影響は、米国参加の場合の0.14%より小さい0.07%だそうです。
そんなわけで、「アメリカ抜きでは効果がない」ことを理由に、「アメリカが交渉に戻るよう説得を続ける」というポジションを主張してきた日本政府の足元も崩れてきました。実際、8日の合同懇談会では、「米国の参加、不参加にかかわらず日本は予定通り批准すべきだ」との意見が大勢を占めたそうです。
ちなみに同懇談会では、上記試算をした国立環境研究所の委員からも「米国の不参加を口実に世界が対策をとらなければ温暖化に拍車がかかる。米国抜きでも何らかの手を打たねばならない」と発言があったそうです。研究者が政策オプションまで踏み込んで発言するのは、実は(とくに日本では)けっこう珍しいことで興味深いことですが、真剣さが伝わるエピソードです。(それともこの委員は事務方なのかな?)あと、この懇談会は、ウチの学部の飯田哲也さんが、自然エネルギー推進法ネットワーク代表ってことで、気候ネットワークの代表、浅岡美恵さんとともに出席していたはず。本当は、小生はその日は別件で東京出張の予定だったので、ついでに傍聴してこようかとも考えてましたが、傍聴申し込み期限がすぎててアウト。
いずれにせよ見逃せない地球温暖化交渉。今週15日にブッシュ大統領は、「産業界の自主努力」を主軸とした(つまり削減目標を達成できなくても政府の責任にならない)議定書の代替案(!!)を携えてEU首脳部と会うという。いったいどんな結果になるのでしょうか。
※ なお「温暖化の科学の不確実性」については、本学部の前田佐和子教授のレジュメやエッセイがとても勉強になると思います(とくに「地球温暖化の科学論」)。ぜひご一読を。