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STS News & Remarks

2002年2月

科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。

E-Mail: hirakawa@kyoto-wu.ac.jp

もくじ

科学技術とガバナンス: 日本と欧州の動向(2002.2.8)
グローバリゼーションに関する世界世論調査(2002.2.3)
よりによって順子(よりこ)ちゃん!?(2002.2.3)
露骨な「国益(石油企業利権)」追求のブッシュ政権(2002.2.2)

科学技術とガバナンス: 日本と欧州の動向(2002.2.8)

トップページのSTS Events & Informationにもリンクを張っておきましたが、内閣府・総合科学技術会議「平成14年度科学技術振興調整費 新規課題等の募集開始時期について」のプレスリリース(文科省のサイト)が出ています。大元の総合科学技術会議の文書は「平成14年度の科学技術振興調整費の配分の基本的考え方(平成14年1月30日総合科学技術会議決定)」(PDF形式)で、総合科学技術会議の科学技術振興調整費のページにあります。先週の経産省の研究会「社会と技術研究会」で教えてもらったもので、とくに「平成14年度に継続して実施するプログラム」のなかの「1 優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革」の「1−3 科学技術政策提言」が要チェック。

ちなみに科学技術社会論(STS)全般に、欧州委員会の科学技術政策(とくに科学技術と社会)関連のリンクを追加しましたが、上の振興調整費のプログラム枠に表れている日本と同様にあちらでも、近年の科学技術政策のテーマは、(1)政策決定過程への科学的・技術的助言の強化・適切化(政策決定の科学化)、(2)政策決定過程への市民参加(政策決定の民主化)という「科学技術とガバナンス」(ガバナンスのための科学技術/科学技術のガバナンス)が大きな軸になっているようです。きっかけで見ると、欧州は狂牛病への対応の失敗、日本は薬害エイズや原子力事故における科学的基盤と民主化の弱さの経験があります。

ここで「ガバナンス」というのは直訳すると「統治」ですが、近年、日本の政府文書(たとえば旧通産省が2000年3月に発表した「21世紀経済産業政策の課題と展望」)などでは、国民も一緒に参加するという意味をこめて「協治」という訳語を当てていますが、欧州での使われ方も同じです。なお政府が使う「協治」は、国民に参加の権利を認める代わりに「自己責任」を過剰に押し付けてくるネオリベラリズムの表れとして警戒すべき点でもありますが、どうせリスクとチャンスは常に隣り合わせだと、ポジティヴに考えたいとも思います(だからこそ警戒は絶対に怠っちゃいけないし、場合によっては手を引かないといけないのだけどね。個人的には原発の「延命」に関わるようなことはしたくないし)。ちなみに旧通産の文書については、作成した人を個人的に知っていたりする(ついでにいうと、その流れ上にあるのが先の「社会と技術研究会」です)のですが、経産省の中にもいろいろな考え方があり、いわばエンジンとアクセルしかなかった20世紀型の科学技術政策・産業政策とは違って、ハンドルもブレーキもあるものに変えていきたいという流れがあるということは事実です。文科省でも若手で「サイエンスショップ」に強い関心を持っている人がいるそうですし。

それで、科学技術とガバナンスをめぐる政策論の事態の進み具合としては、だいたい欧州が日本の3年先くらいを歩いているという印象があります。ただあちらは15ヶ国集まってることもあって、関わっている研究者の数が日本より断然多い(つーか日本が少なすぎ)ので、日本での政策研究がそのレベルに達するのはとってもキツイです。とはいえ、これも先週の「社会と技術研究会」で議論になったのだけど、少数でもやる気のある人と良いアジェンダがあればできちゃうだろうとも思います。ちなみに欧州委員会研究総局(Research Directrate General)「科学と社会」担当者も、日本と協力体制を敷きたいらしく、つい先頃開始した科学技術振興事業団「社会技術研究イニシアティヴ」研究領域:「社会システム/社会技術論」、とくに「公共技術のガバナンス:社会技術理論体系の構築にむけて」と「開かれた科学技術政策形成支援システムの開発」にコンタクトしてきてたりします。(人手が足りないので、小生は両方に参加してて、来月は引越し作業の合間を縫って、デンマーク行ってきます。)

欧州での動きに関する文書情報は、上のリンク集にもまとめてありますが、ここにもコピーしておきましょう。CORDIS (欧州共同体研究開発情報サービス)「科学と社会」Governance(ガバナンス)にあるものです。

Final report on Democratising Expertise and establishing European Scientific Reference Systems (PDF)
White Paper European Governance (白書)
会議「知識社会における科学とガバナンス」
ガバナンスと専門性:関連文書へのリンク集 重要!!
 IPTS特集号"Science and Governance"
 IPTS特集号"The Provision and Impact of Scientific Advice"

と・こ・ろ・で、総合科学技術会議の科学技術振興調整費のページにある「平成13年度新規実施プログラム」の「科学技術政策提言」(上に述べたのはこれの引継ぎ)の「施策のイメージ」のポンチ絵、全体が意図していることはいいのだけど、問題ありますねー。たぶん作成者(事務局の若い人?)の無意識のところがでちゃったのかもしれませんが、「自然科学・人文科学に亘る広範な研究者の意見」の絵と、「一般社会の意見」の絵を比べてみましょう。とくに後者の絵が酷い。「賢明な専門家」と「騒ぎ立て右往左往する大衆(mob)」という感じでしょうか。ついでにいうと、ウチの細君曰く「絵が男ばっかりじゃない」。よーく見るとネクタイしてなくて、ネックレスしてるふうに見えるのもあるのだけど、まぁマジョリティはオトコばっかりの絵(ノーネクタイ、ネックレスなら、男でもいるかもしれんよね、業界によっては)。これは作成者というより、その絵(MS WORDに入ってるやつです)を描いたデザイナーのジェンダー観が現れてるだけなんでしょうけどね。それをそのまんま使っちゃうのは、やっぱり問題アリでしょう。

さて、明日は、科学と社会を考える土曜講座仲間の名大大学院環境学研究科高野雅夫さん(地球科学)たちのセミナーで、欧州の市民参加型テクノロジーアセスメントの話をしてきます。これからそのプレゼン準備。今日はこのあたりで。

グローバリゼーションに関する世界世論調査(2002.2.3)

先ほどウェブ版の朝日新聞(ウチは紙媒体の新聞はとってない)を見ていたら、面白い記事を発見しました。

日本人はグローバル化に拒否感 25カ国中で最低評価 (2月2日19:44)
 日本人はどうも「グローバル化」に拒否感が強いようだ。ニューヨークで開かれている世界経済フォーラム年次総会(通称・ダボス会議)で1日に発表された世界25カ国の世論調査で、そんな傾向が浮かび上がった。
 調査は主要7カ国を含む25カ国で昨年10〜12月に各1000人を対象に電話で行ったもので、うち19カ国では肯定的な評価が多かった。全体として一昨年の調査より肯定的な評価が増えている。
 しかし、日本ではフランス、スペイン、ロシア、アルゼンチンなどとともに否定的な回答が多かった。「グローバル化が働く者の権利や労働条件、給与をどう変えるか」では「良くなる」が16%で25カ国中で最低。「悪くなる」も67%と経済危機のアルゼンチンに次ぐ高さだった。
 「貧困、ホームレスの改善」「環境への影響」「世界の不公平の解消」でも、グローバル化の効果に最も悲観的な見通しを示した国の一つだった。

いったいどうしてこんな結果になっているのかの理由やサンプルはどうなってるのかはよく分りませんが、とりあえずソースである、世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)のプレスリリース「世界中の人々は、ますますグローバリゼーションを好ましく考えるようになっているが、労働や貧困、環境について懸念している」(People around the World Increasingly Favour Globalization but Worry about Jobs, Poverty and Environment)を探してみました(ちなみにこのサイト、世界中からアクセスが集中しているのかやたら重いです)。

それによればこれの元ネタは、カナダにあるEnvironics International Ltd of Torontoが、各国の調査組織と共同で、9月11日米国テロ以降最初の国際世論調査として、各国1,000人の成人、計25,000人を対象にして行った"GLobal Public Opinion on Globalization"であり、そのExecutive Briefing(PDF1.2MB)には次のような結果がまとめられています。(ちなみに公開されているのはExecutive Briefingだけで、レポート本体はもなんと5,000米ドル[ほんまかいな!?50ドルの間違いじゃないのか?]で有料配布だそうです。またこの調査で「グローパリゼーション」は、商品・サービス・投資の国家間取引の増大を指しています。)

他にも、「貧困の減少」と「企業の役割」に関する結果も記されていますが、そのなかで注目すべきは、上の朝日新聞の記事でも触れられているように、「世界の貧しい人々を助けるため1%増税しようと思うか」という質問に対して、全体平均では、「強く思う」「多少思う」を合わせて約72%がイエスと答えているのに対し、日本は54%で、25ヶ国で下から2番目であること(最下位は韓国の43%。どうした?我等が朋友!)。まぁ、それでも半分以上はいるわけですから、それほど酷い数字じゃないともいえます。フランスも55%、アメリカも63%だったりしますからね。ちなみに全般的に途上国の方が、「強く思う」「多少思う」を合わせたYESの割合が高い(1位はトルコの95%)のですが、その一方で、先進国でもイギリスとドイツがそれぞれ81%、83%、イタリアだと92%がYESになっていますから、ちょっと54%は先進国として少ないかなとも思えます。

なお、この質問では、市民から直接徴収する税金が想定されてるみたいですが、「企業エリートの大規模なカクテル・パーティー」とも揶揄される世界経済フォーラムに対抗して、「もう一つの世界は可能だ」を合言葉に、企業主導の非民主的・反民主的なグローバリゼーションではない市民主導のグローバルな連帯を目指してブラジル・ポルトアレグレで開かれているNGOの会議「世界社会フォーラム」のほうでは、ATTAC(アタック=市民を支援するために金融取引への課税を求めるアソシエーション)ATTAC JAPANからも数名参加)を中心にして、「トービン税」の議論が盛り上がっているはずです。これは、以前にも書きましたが、すべての外国為替取引に対してかけられることによって、世界を駆け巡る投機的な資本の移動を抑制しつつ、途上国の貧困や環境問題を改善するのに必要な資金を作るための税で、税導入による取引量の縮小を考慮しても、税率0.1%で年間2,000億ドル近く徴収できるといわれています。(ATTAC発祥の地であるフランスでは、政府がトービン税導入を世界に先駆けて決定し、ドイツもその後を追おうとしています。)もしも上の調査の質問項目に、トービン税導入の是非が入っていたら、数字はだいぶ違ったものになってたかもしれません。(世界社会フォーラムについては、ATTAC JAPANによるATTACニュースレター日本語訳や、Hot Wired Newsの記事「もう1つのグローバリゼーション」を求める『世界社会フォーラム』でも紹介されています。)

ちなみにEnvironics International Ltd of Torontoでは、調査結果のプレスリリースを世界社会フォーラムに対しても発表していますが、そのタイトルは「世界中の人々が、労働、貧困、環境にグローバリゼーションが与える影響に関する懸念に応えるために、NGOが交渉テーブルについて欲しいと願っている(People around the World Want NGOs at the Negotiating Table to Counter Worries about Globalization's Impacts on Jobs, Poverty and Environment)」となっています。

よりによって順子(よりこ)ちゃん!?(2002.2.3)

田中真紀子前外務大臣の後任がようやく決まりました。現環境大臣の川口順子(よりこ)氏。第一候補の緒方貞子さんは、「家族との時間を持ちたい」「今の仕事から離れるわけには行かない」などを理由に固辞されましたが、当然の判断でしょうね。明らかに、真紀子更迭で失った女性支持者層の回復を狙った「客寄せパンダ」人事ですし(もちろん外交能力の高さという真っ当な理由もあったかもしれませんが)。毎日新聞によれば「何よりも、NGO参加排除問題で更迭騒動になる日本政治の現状には失望感がある。政権が一夜にして高支持率から低支持率に引っくり返るような状況でしょう」とも語ったそうです。

それはともかく、新外務大臣がよりこちゃんというのは、なかなか笑える(?)ものがあります。報道がいずれも、彼女は英語力もあり(エール大学経済学部大学院修士なんだそうな)、交渉力も「タフ・ネゴシエーター」として国際的にも評判だと伝えているように、外務大臣としてはまぁ適しているのかもしれません。でもねー、思い出してしまうんですよね、一昨年11月、昨年7月にそれぞれ開かれた地球温暖化防止の会議(気候変動枠組み条約締約国会議)COP6とCOP6再開会合での、タフ・ネゴシエーターとしての彼女の仕事振りを。(2001年7月分2001年6月分、それとNGOからの評価では、気候ネットワークKikoを参照。)

ここでその経緯を詳しく書いているときりが無いのですが、要するに、森林による吸収源問題や、クリーン開発メカニズムにおける途上国での原発問題などをめぐって、徹底的に経済界寄りの日本政府(=経済産業省のスタンス)の立場を貫き、COP6での交渉決裂と、COP6再開会合での交渉難航をもたらした「世界の抵抗勢力」の一翼を担ったのが彼女だということです。とくに再開会合では、アメリカが議定書交渉から離脱した結果、日本が議定書発効のための最大カードを握った(つまり日本が批准しなければ議定書は死ぬことになってた)ため、これをフル活用して、科学的に全く不合理な森林吸収源についての大幅な譲歩(=後退)を欧州連合(EU)から引き出しました。地球温暖化に取り組む世界300以上の環境NGOのネットワークCANが、毎日の交渉で後向きな発言をした国に与える「本日の化石賞(Fossil of the Day Award)」では、日本はカナダ、オーストラリアなどと並んで常にトップランキングの一角を占めていましたが(交渉離脱前はアメリカもその仲間だったが、離脱後はブッシュ大統領に対して「世紀の化石賞」が与えられた)、初日に一等賞を獲得した日本政府に対してCANは次のようにコメントしています。

「日本は京都議定書を葬ろうとしている」:
今週の日曜日、小泉首相は「我々は合意に到達できないだろう」と日本のテレビショーで発言した。16日、日本政府は、小泉首相の発言に関するプレスリリースを配ったが、その交渉姿勢に変わりがないことを明らかにしただけだった。日本は、COP6再開会合で、京都議定書の発効を目指して、可能な限り最大限の幅の合意に達するよう最善を尽くすつもりだという。いいだろう。それは分った。しかし我々が知りたいのは、どうやって日本がそうするかだ。プレスリリースによれば、日本はCOP6再開会合を成功させるとも言い、他の締約国に交渉では柔軟になるよう求めている。他の締約国に柔軟になれだって? なぜあなた方ではないのか? 今日の吸収源に関する日本の新提案は、ここでの交渉を破壊するものだ。今日の記者会見で川口環境大臣は、「私たちは交渉のプロセスを遅らせる意図はもっていない」と言っている。しかしあなた方はプロセスを遅らせているのであり、それは京都議定書を葬り去ることを意味しているのだ。
また、昨年11月のCOP7でも日本政府の態度は同様に後向きで、化石賞を23個も獲得して堂々の第一位です。NGOの視点から見た日本政府の評価は、上掲の気候ネットワークKikoCOP7報告に詳しいですが、その中からよりこちゃんがらみのところを抜き出しおきましょう。
川口大臣はスピーチで、「ここで仕事を終えなければならない」と述べ、残された時間に精一杯交渉するという強い意思を示した。そして、「全ての国が柔軟性を示すことができるかどうかだけが問題だ」と各国に柔軟な姿勢を求めた。しかしその一方で、批准を考える日本にとって制約の少ない京都メカニズムの利用が不可欠であることを強調し、京都メカニズムに関する部分で日本の主張をのまねば批准はできない、との挑戦的な声明とも受け取れ、後ろ向きの印象を強く与えるものだった。実際、京都メカニズムの利用には上限をつけないことがボン合意で決まっており、川口大臣の言う懸念は、今交渉の論点として残っていることでこだわる問題ではないはずだ。議長テキスト案で日本は全て合意できるはずである。
川口大臣には、柔軟な姿勢が必要なのはとりわけ日本であることを承知して交渉にあたっていただかねばなるまい。
要するに「タフ・ネゴシエーター」というよりこちゃんの国際的評判は、何よりもこの一連の温暖化会議での彼女の「活躍」ゆえのものなのです。そもそも彼女は、元通産官僚ですしね。ちなみに京都精華大学の松尾慎さんの「環境政策論」2001年12月1日の講義録には次のようにあります。(注意: 下記で「COP5」とあるのは「COP6」のことだと思われます。)

 さらに現在の日本政府の意志決定システムという点に関連しては、環境大臣が川口順子という人だということは重視しておく必要がある。実はこの人は、1965年、昭和45年に東京大学を卒業後、当時の通 産省、現在の経済産業省に入っているんですね。通産省に93年までおられた。しかも辞められる前の年、92年には通 産省大臣官房審議官(地球環境問題担当)という立場におられた。生え抜きの通 産省官僚なんですね。ところが93年にお辞めになって、ウイスキー等々で有名なサントリーに入社しておられる。そこで生活環境部を担当していた。これが環境大臣に引き抜かれた直接の原因なんです。昨年7月までサントリーに勤務し、森内閣の時に環境庁長官、民間しかも女性ということで森内閣の一つの看板として入られた。
 去年11月のCOP5、ハーグでの会合ですね。その会議に彼女が登場したときは非常にうけが良かった。国際会議に出てきた日本の環境大臣の中で、初めて英語で交渉できる人だと。しかしCOP5が終わる頃には、彼女の評判はがた落ちだった。その英語力を駆使して徹底的に悪い意味でのネゴシエーションをやったわけです。COP5の場合だと、森林吸収源を大幅に獲得するということで、会議決裂を導いた張本人という風にいわれている。
 「自分が通産省出身だということは影響ない、自分は環境大臣だ」ということを強調しているようです。しかし、やはり彼女のような経歴の持ち主が現在環境大臣だということは、COP6・7の場で経済産業省から派遣された官僚が実際の実権を振るうことにおいて、非常に大きな要因になっていると言えます。
 この意志決定システムのところでは、一応温暖化問題は内閣総理大臣官邸直結の、所轄問題ということと、それを主として担当している官庁が、実は経済産業省と環境省だということ。特に経済産業省が主官庁だということをきちんとおさえておいてください。

まぁ、もちろん、大臣というのはあくまで政府代表ですから、温暖化交渉での後向きの姿勢がそのままよりこちゃん個人の信条と一致しているとは限りません。表に出ているのはあくまでも政府(とくに経産省)のポジションであり、彼女の意思が表れるとすれば、交渉に関して与えられた裁量権の範囲で、どれだけ他国案に対し柔軟であるか(あるいは硬直的でありつづけるか)、そのためにどういう戦術で交渉を行うかというところだけでしょう(それはそれで十分に大きな意味を持っていますが)。そういうわけで、何よりも問題とされるべきは、彼女個人ではなく、彼女にそういう交渉をさせている日本政府のポジションでしょう。とはいえ、逆にそのことは、所詮彼女が力を発揮できるのは、交渉の進め方だけであり、その中身については、予め決められている日本政府(あるいは関連省庁や業界など)のポジションが変わらない限りは、彼女が何かを変えることはないということを意味しています。とりわけ彼女は政治家ではなく(いちおう民間人登用ですから)、しかも元官僚であるという点で、大臣として可能な裁量権の範囲のうち、かなり狭い部分でしか動かず、外交交渉において極めて政府ポジションに忠実で硬直的ないわば「交渉マシーン」としてしか働かない可能性が大です。そしてそれは、おそらく内政面でも同様で、とくに外務省改革という点で彼女に期待できるものはほとんどないように思えてしまいます。要するに、いくら彼女の交渉力が高かったとしても、それはあくまで「スキル」としての交渉力に関してであり、「政治家」としてどれだけ有能か、そして国民の代表者としての政治家として、どれだけ外務省改革に力を発揮できるかは全く未知数で、おそらく官僚文化で育った彼女には、真紀子ちゃんとは別の意味で期待できないと思うわけです。もしかしたら、大臣として素人的であった真紀子ちゃんのほうが、外務省のゆがみを公然と問題化する点で勝っていたのではないかとも思えてしまいます。いずれにせよ、今回の更迭劇で、事態は悪い意味での"business as usual"に戻っただけであり、彼女を「タフネゴシエーターだ」と誉めそやしているメディアの論調はずいぶんお気楽だなぁと思わざるをえません。

露骨な「国益(石油企業利権)」追求のブッシュ政権(2002.2.2)

またまたやってくれましたブッシュ君。露骨というか正直というか、ODA利権を貪る日本の自民党某外交族議員なんか可愛く思えてしまいます(まぁ、ODA利権問題=鈴木宗男問題も世界にとって深刻な問題の一つなんだけどね。これはまた後日)。以下の囲みは、メーリングリストCHANCE ! Forumで流れてきた情報です。

 以前、米国の巨大石油企業ユノカルのコンサルタントとして長年活動を行ってきたしてきたカリルザード(Zalmay Khalilzad)が、米国のアフガン特使として任命されました。彼は、米国議会やその他政府機関に対し、米国石油業界の意向を押し通すために活発な活動を行っていた人物です。

 タリバンの人権侵害が問題となってからも、非常にタリバン寄りの主張を持ち、アフガニスタンにおけるパイプライン建設を進めようとしていました。実際にはタリバン寄り、というよりも、石油利権を守るためにはタリバンの人権侵害など関係ない、という企業の意向を反映しています。ちなみに、1997年以降(これはクリントン政権時)、ユノカルはタリバン政権後も秘密裏に交渉を行っていました。クリントン政権はタリバン政権を批判する一方、パイプライン建設については交渉を続けていたことになります。

 ユノカルは、これまでにもタリバン政権の幹部を米国テキサスに招待し、接待兼交渉を行っています。カリルザードはこの交渉担当でした。

 中央アジアにおける米国の石油をめぐる活動は、80年代初頭から非常に活発に行われていました。カリルザード自信も80年代、レーガン政権時より、米国の政策ついて、強い影響力を行使してきました。ソビエトによるアフガン侵攻時、スティンガーなど、地対空ミサイル等、当時の最新兵器輸出を強く推し進めた1人でもあります?

 今回、彼の任命は国家安全保障理事会を通じたもので、その場合議会の承認は必要なくなります。つまり、彼が過去に関係していた問題について、議会による調査等が行われる可能性は低いと思われます。

   現在のブッシュ政権幹部の多くは、石油業界と繋がりの深い人間です。リチャード・アーミテージ国務副長官もカリルザードと同様、1997年頃からユノカルと契約していた人物です。また、国家安全保障担当大統領補佐官のコンドリーザ・ライスはシェブロン(米国の巨大石油企業。最近テキサコとの合併を発表しました)の役員でした。他にも、ジョージ・ブッシュ大統領、チェイニー副大統領(ハリバートン)、クリスティーン・ホイットマン環境保護局長官(BP-Amoco,エクソン・モービル、シェブロン)、ゲイル・ノートン内務長官(アモコ、エクソン、シェブロンその他出資によるシンクタンク出身)、ドナルド・エヴァンス商務長官(前トム・ブラウンCEO)など、多くのメンバーが挙げられます。

 ユノカルその他の石油企業は、アフガンの情勢が安定化するまでアフガンにおける活動を一時停止することを発表しており、カリルザード任命はアフガンでの新政権に呼応するかたちで米国の新たな石油利権獲得に力を入れているブッシュ政権の意向に基づいた人選であったと思われます。今後、アフガンにおける過去の人権侵害についての真相究明や、石油に関連した環境問題などに対する取り組みなどにも、少なからず影響があるのではないかと思われます。

以下、関連情報へのリンクです。

「大企業はストライク何度許される!?ユノカルの場合」(コーポレイトウォッチ)

国家安全保障担当大統領補佐官のコンドリーザ・ライスが役員を務めていた石油企業シェブロン:
「シェブロンと石油の環境へのインパクト」(コーポレイトウォッチ)

チェイニー副大統領の場合:
「ビルマの人権侵害とチェイニー氏」

ブッシュ政権と石油利権
大阪府立大の森岡正博さんの対米テロ事件報道を相対化するためにで公開。

ガーディアン記事『石油を巡る米国の夢:カブールに欧米派政権が樹立すれば、米国はカスピ海の石油を輸送するアフガンルートを確保できる』

「アフガニスタン戦争と石油利権」by国際問題評論家・北沢洋子さん

防衛庁「カスピ海周辺諸国のエネルギー資源を巡る最近の動向について」

ブッシュ政権と企業とのつながり(ワールドウォッチ・マガジン 2001年7/8月号より)