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STS News & Remarks

2002年1月

科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。

E-Mail: hirakawa@kyoto-wu.ac.jp

もくじ

ニュースメモ: NGO排除問題、サイバー犯罪条約(2002.1.31)
行政、NGO、アカデミーについての雑感(2002.1.30)

ニュースメモ: NGO排除問題、サイバー犯罪条約(2002.1.31)

30日のニュースから。

一発目は、やはり外務省NGO排除問題。アフガン復興会議で出席拒否されたNGO「ピースウィンズ・ジャパン」代表の大西氏が、昨年12月のアフガニスタン復興NGO東京会議への外務省からの資金援助中止(こいつも鈴木君がやったといわれてる)の件が毎日新聞12月11日号に報道された後、再三にわたって鈴木君から恫喝された際の「メモ」を発表。(毎日「NGO会見:鈴木宗男氏とのやり取りをメモから再現」)鈴木君は昨年12月以来、4回にわたって、衆院議員会館など東京都内の事務所に大西氏ら同NGOのスタッフを呼び出したそうです。恫喝内容を、ちょっと記事から抜粋しておきます。


《昨年12月14日ごろ、衆院第1議員会館の鈴木事務所で。出席者は大西氏、外務官僚1人》
毎日新聞の記事に対して、鈴木氏は「(外務官僚に)外務省がマスコミにレクチャーしないのはいかん。(大西氏に)NGOもマスコミにちゃんと話しているのか」とただし、大西氏は「(自民党)外交部会でドアが開いていたので、たまたま居合わせた記者が経緯を聞き、その夜に配信している話」と説明。しかし鈴木氏は「なぜこんな記事が出るのか。あいさつにもこないで何だ」としかった。

・・・「あいさつにもこないで何だ」って、いっい何様?

《12月18日午前、千代田区内の事務所で。NGOスタッフ2人、外務官僚3人》
鈴木氏は「あの記事はなんだね。名指しで、いかにもおれが悪者のように書かれて」と不快感を示した。「とにかく、けしからん。国民の税金を集めているのはおれなんだ。税金を使うなら政治を無視してできると思うな」と話し「こんな行儀の悪いNGOへのこれからの支援も考え直さなきゃならんな。今5億8000万もらっているのか。これからは逐一チェックさせてもらうからな。簡単には許しませんよ」

・・・ただのヤッチャンやな。だいたい「国民の税金を集めているのは」国税庁という機関であって、鈴木君という個人ではないのだよ。完全に政治を私物化してるのがよーく分りますね。「国民の税金を払っているのは俺たちなんだ。税金を使うなら国民を無視してできると思うな」。

《12月20日正午前後、同事務所で。NGOスタッフ1人、外務官僚4人》
大西氏がアフガニスタンで自民党だけでなく民主党の議員を案内したことに対し鈴木氏は「外務省は許しているのか。与党が政府なのに、野党も同等に扱うのは許し難い」「新聞の記事はけしからん。NGOが好き勝手に事実と違うことをしゃべっている」などと語った。

・・・「与党が政府なのに、野党も同等に扱うのは許し難い」っていったい何???NGOのこと、ただの子飼いのお使いだとでも思ってるのだろうね。

《1月8日、衆院第1議員会館。大西氏、外務官僚ら》
大西氏が登場している1月3日付毎日新聞の連載記事「テロと国際社会(2)」の「NGO頼み日本外交」との見出しの記事に激怒し「新聞記事なんかでもてはやされてるからって調子にのるな。外務省が何もできないってのはどういうことだ。ふざけるなっていうんだよ」。さらに「おまえが裏で操作して書かせたんだろう」とただした。大西氏は「違います。メディアは自由ですし」と反論した。そして鈴木氏は「NGOってのにはとんでもないのがいる。こんなやつらに税金を出すっていうのはどういうことだ。とりあえず、アフガン会議ではNGOには一銭も金はやらんからな。覚えとけ」と言った。

・・・同じことを、国連機関主催の国際会議の場――たとえば温暖化会議とか、あるいは今年9月のヨハネスブルク地球サミット「リオ+10」――で、公式に言ってみたらどうだろう?NGO関係者だけでなく、他国の政府関係者や、国連関係者からも非難轟々でしょうね。明らかに外交上、こんな田舎政治屋を外務省周りに置いておくのは「国益」に反しますね。ちなみに、今ちょうどブラジルのポルトアレグレで開催されている反グローバリゼーション(=もう一つのグローバル化)のNGO中心の会議「世界社会フォーラム」には、フランス政府の閣僚が6名も参加し、他方、今回はニューヨークで開かれている各国経済政策担当の政府関係者や経済エリートが集う「世界経済フォーラム」には2名しか参加しないのだとか。


きっとこれは事実なんだろうけど、もったいないのは、これが「メモ」だというとこですね。こんなに度々イチャモンつけられてるんだったら、二回目以降はちゃんとテープに録音しておけば良かったのにね。(まぁ、同席していた外務官僚の人とは、それまではずっといい関係だったのでしょうから、こっそり録音するのは憚られたのかもしれませんが。あるいはホントは録音してあるけど、信義にもとるから「メモだけ」ってことにしてるとか?)

もう一つのニュースは、同じく毎日新聞から「通信傍受法の改正も? サイバー犯罪条約批准の課題」。国境を超えて広がるインターネット犯罪に対応するため、欧州評議会が策定作業を進めてきた「サイバー犯罪条約(Convention of Cybercrime)」の批准に向けて、日本国内で通信傍受法の改正(改悪ともいう?)で、当局による監視権限の強化が進む恐れあり、ということ。「欧州人権規約や欧州人権裁判所があり、人権に対する強力な救済機関があるが、日本にはそうしたものがなく、人権についての意識も低い。こうした中で、監視のための法律だけが先行していくことに問題がある」のだそうです。

他にも記事にはいろいろ書かれていますが、とりあえずそこにリンクされている専門家たちのサイトをコピーしておきます。ちなみに、条約の原語は英語ですが、これが日本語訳されるところで、法解釈上のニュアンスに変化が生じることは、一般的にも良くある話で、注意がいるそうです。(条約の仮訳全文は、近いうちに毎日新聞のサイトで公開する予定だそうです。)まぁ、この点は、外交戦略上、自国に都合がいいように解釈するっていう意義もあるんでしょうが、その「国益」がそのまま「国民益」になってるかどうかは、また別の話ですわな、当然。

欧州評議会・サイバー犯罪条約・確定版
夏井高人教授によるサイバー犯罪条約の仮訳
[外務省による仮訳]31日中に更新予定、掲載時にURLを表示[法務省]
サイバー犯罪条約に疑問 弁護士らがシンポ
サイバー犯罪条約、政府が署名決定

行政、NGO、アカデミーについての雑感(2002.1.30)

今日は久々にサイトの更新をしました。Worksの「口頭発表」のところに、「レギュラトリー・システムの科学的正当性と社会的正統性を高めるには」(経済産業省大臣官房政策企画室 & 独立行政法人製品評価技術基盤機構「社会と技術研究会」報告,2002年1月29日,経済産業研究所)と「遺伝子組換作物の何が問題か」(PDF180KB)(ATTAC関西グループ第2回学習会「遺伝子組換作物の何が問題か」,2002年1月20日,スペースAK)を追加。一緒に並べると、ある意味、とても両極端な場所で喋ってるなぁと我ながら思ってしまいました。

アフガン復興会議での外務省+鈴木宗男NGO排除問題で浮かび上がった行政とNGOの関係ですが、もちろん「守旧派」は俄然、しっかりいてはるとしても、基本的には行政はいまや、市民参加、NGOとの協力関係やインターラクションを増大させる方向で動いている(少なくともそういうベクトルがしっかりある)のは確かのようです。昨日の審議会でも、その後の(上の)「社会と技術研究会」でもそういう議論がありました。「信頼性」の確立という面でも、NGO/NPOの専門的能力や独自情報の価値という面でも、これまでのパターナリスティックな行政スタイルではアカンというのは、どうやらイロハのイになりつつあるようです。(外務省の件だって、きっと、予算委員会で苦しい答弁をしていた局長も含めて、実務者レベルではそうなんでしょう。)

ただ、問題なのは、「社会と技術研究会」でも議論になったのだけど、難民支援その他の分野はともかく、こと科学や技術が絡んだ分野では、どれだけ頼りになる専門性を備えたNGO/NPOがあるのだろうか、ということ。もちろん「行政の側が真価を認めない」とか「都合の悪いのは排除」というのはあるだろうけど、故・高木仁三郎さんが「専門的批判の組織化」ということで追求し続けてきた課題の達成度は、今なお低いままなんじゃないか。もちろんかなりの能力を身につけているところはたくさんあるけど、とくにアメリカのグリーンピース(これはもう国際的組織になってますが)やら、自然資源防衛カウンシル(NRDC)やらみたいに、博士の学位を持った研究スタッフを内外にふんだんに抱えた(給料も払える)NGOがいっぱいあって、政府や産業界の専門家とガンガン渡り合ってる状況と比較すると、やはり相当不満足な状況でしょう。ここは僕ら市民の側が、相当がんばんなくちゃいけないところでしょう。(未だNGO/NPOの真価を認めない人々を飲み込むくらいの勢いで。)

第二の問題は、これも「社会と技術研究会」で盛り上がったものですが、アカデミーや大学アカデミズムの「非社会性」があります。これは昨日の報告や審議会の課題であり、小生の研究テーマの一つである「レギュラトリー・サイエンス」(環境・公衆衛生の規制/調整のための科学)に限らず、もう一つの研究テーマ「サイエンスショップ」なんかにもいえることですが、とにかくアカデミズムの市民社会嫌い、政治嫌いは深刻だと思います。とくに日本学術会議の問題は大きい。研究会の委員である米本昌平さんも指摘してたけど、独自の独立した研究調査能力と、研究課題の実践性という点で、先進国のアカデミー組織のなかで学術会議は最低ランクでしょう。ちなみにアメリカの科学アカデミー(NAS)、工学アカデミー(NAE)、医学機関(IOM)を合わせた米国アカデミーの統括組織である全米研究評議会(NRC)なんかだと、常に600以上の研究調査や政策評価のプログラムが運営され、年間200以上の報告書が作られていて、そのプログラム・マネージャーなどを努める学位保持者を含めた専属スタッフが1,200人くらいいたりしますが、これと比べると日本学術会議の状況はとっても情けなくなります。ウェブサイトでの公表資料によれば1949年の設立以来、勧告・要望等が約714件、委員会レベルの報告書がたったの193件です。米本さんが辟易した口振りでおっしゃってましたが、学術会議のメンバーには、「いやしくもアカデミーたるもの、世俗の細々したことにかまけず、原理原則を追求すべし」という考えの方がとっても多いのだとか(思わず「神は細部に宿る」って言葉を知らんのか、とツッコミたくなる)。もちろん、学問というのにはそういう部分がしっかりコアになくちゃいけないんだけど、そればかりじゃねぇ。。。米本さんによれば、そういう理由で、かつての脳死臨調のときも学術会議は無関心を決め込んでいたそうです。また研究会の主宰者である経産省の参事官の塩沢さんという方がおっしゃってましたが、以前に環境ホルモンが問題になり始めた頃に学術会議に諮問を図ったところ、数回会合が開かれただけで、フェードアウトしちゃったそうです。なかには「環境ホルモンみたいな非科学的なものを学術会議で扱えるか」とのたまわった大先生もいらしたとか。で、歴史的にもそんな具合に、とにかくアカデミーとしての社会的責任を果たしてくれないんで、行政改革の一環で、「お取り潰し」という案も出てきたりして、現在、総合科学技術会議学術会議本体それぞれで、学術会議の見直し・再構築が議論されている真っ最中です。なお、米国アカデミーの予算は国から来てますが、ほとんどが、環境保護庁その他の政府機関からの要請に基づいた実践的な研究・評価プログラムに対する助成金として与えられているので、ちゃんと研究しないと干上がってしまう仕組みになってます。それで「日本も多少そういう風にして、脅しをかけたらどうだろう」と述べたのは小生でした。

もう一つ、研究会で話題になったのは、日本でのレギュラトリー・システムそのものに関する社会科学的な研究とその担い手の不足問題。たとえば、かねてより批判の多い日本の審議会の実証的分析とか。環境や人の健康を技術革新の負のインパクトから守り、科学・技術を健全なものにしていくために必要な科学的評価システムの制度・組織をどうするかっていうのは、欧州連合(EU)などでもホットで、STS関連の研究者も多数取り組んでいる課題なんだけど、日本はその研究者の数がとても少ないのです。研究会でも主宰者の塩沢さんから「そういう研究、やってくれる人はどのくらいいますか」と尋ねられても、STSの先輩研究者で研究会の委員でもある小林信一さん(筑波大学 & 文科省科学技術政策研究所)と顔を見合わせて、「二桁いますかね?」(平川)、「実働一桁じゃない?」(小林)という有様。とにかく人手不足。

そういうわけで・・・

求む! 若い研究者

レギュラトリー・サイエンスを社会科学的(社会学、政治学、行政学など)に研究して下さる若手の研究者(大学院生歓迎!)を探してます。お金は、あちこちからふんだんに沸いてきます(本気)。研究課題もたくさんあります。まだまだ前人未踏の研究領域です。ぜひぜひ「この指止まれ!

それにしても、田中外相、野上事務次官、鈴木議員の「痛み分け」「ケンカ両成敗」のような同時更迭(正確には野上・鈴木は「辞任」なので、「更迭」されたのは田中のみ)。ほんと、小泉首相ってどうしょうもないくらい(先日、辻元清美氏がいってたように)上半身はただのパフォーマンス、下半身はどっぷり自民党なんだなぁ、と虫ずが走るほど実感してしまいます。更迭理由も、単に「国会審議を混乱させたから」というような感じになってるし、本来のNGO排除問題も鈴木氏の関与問題も完全にうやむや。補正予算審議を進めたいということなら、「予算審議が終わったら、改めて真実を明らかにする」とするべきなのにそうしないのは、要はちっとも真実なんか明らかにしたくないのだというのが見え見えです。だいたい首相は、NGO排除問題についてはどう考えてるわけ?そこんとこ、マスコミも全然突っ込まず、あの他人事のような、ええかっこしいの気取った語りを垂れ流してるばかりで情けない(う〜む、最近、小泉君に対する批判意識に「生理的嫌悪感」が加わってきてる・・・良くない傾向)。だいたい、鈴木氏が横やりを入れたかどうかに関係なく、問題が表面化した後の彼の「政府に批判的な団体が政府主催の会議に何で出たがるのか」って発言――これって端的に民主主義の否定か、「政府イコール仲良しクラブ」的な幼稚な精神の戯言でしかない――だけで、相当に政治家としての見識も良識も疑わせるのに十分だというのに、それは全く問題になっていない(マスコミも問題にしてない)。それに、結局、野上-鈴木ラインを守ったことで、「族議員」と「腐った外務省」の放置プレーというわけで、小泉内閣最大の課題である「構造改革」が絵に描いたモチ、ただの見せ金でしかないこともバレバレ。なにはともあれ、田中真紀子は、たぶん外務大臣としても、政治家としても(段取り悪いとか官僚の中に味方を作れないとか)素人的なのかも知れないけど、明らかに今回の件では「国民の代表」としての政治家の責務を果たしたのは明らかなのに、まるでそうしたことが「お騒がせ」で悪かったかのようなかたちで更迭されてしまうとは・・・(ちなみに外相としての能力という点については、彼女以外の政治家でもきっとどんぐりなんじゃないだろうか。ただ、他の政治家は、役人の言うとおりにしていてぼろを出さないだけでね)。これでも小泉政権の支持率が下がらなかったとしたら、ほんと日本の政治状況は末期症状ですね。(ちなみにこのままほっとくと、鈴木氏はやがて日本の総理大臣になってしまうという話もある。誇れる総理大臣なんて、物心ついてからいたためしがないけど、そこまで落ちるか?)

追記・・・STS News & Remarksに先日、"A"さんという方からコメントを頂きましたが、まだお返事を書いておりません。そのうちちゃんと書きます。