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STS News & Remarks

2001年11月

科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。

E-Mail: hirakawa@kyoto-wu.ac.jp

もくじ

京都議定書合意成立、WTO交渉その他(2001.11.10)

京都議定書合意成立、WTO交渉その他(2001.11.10)

モロッコのマラケシュで開かれていた気候変動枠組み条約第7回締約国会議(地球温暖化防止マラケシュ会議、COP7)が10日、ようやく先進国に温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書の運用ルールに合意し、その法的文書「マラケシュ合意」が採択されました。これで来年はリオ+10(国連環境開発会議・地球サミット2002)での各国の批准、そしてそのための各国国内法整備の動きの加速化が始まることでしょう。

ちなみに前回7月にドイツのボンで開かれたCOP6再開会合でも日本政府は、カナダ、オーストラリア等と会議の妨害に徹しましたが、今回も酷かったようです。ここのところテロ事件/アフガン攻撃(それといわずもがなの自分の仕事)で頭がいっぱいで全然フォローしていなかったのだけど、地球温暖化に取り組む世界300以上の環境NGOのネットワーク気候行動ネットワーク(CAN)が、日々の交渉で最も妨害的な発言をした国に贈る栄えある(?)Fossil of the Day Award(「本日の化石」賞)の総合第1位は日本でした。詳しくは下記のサイトで読めます。

気候ネットワーク
 特設:モロッコCOP7会合のページ
 Kiko(COP7通信)

WWF JAPAN (世界自然保護基金日本支部)
 気候変動枠組み条約締約国会議(COP7)関連情報

全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA: Japan Center for Climate Change Action)
 第7回締約国会議(COP7)に関わる動き/ネゴシエーション・アップデイト

さて、モロッコで京都議定書交渉が終了した一方で、カタールのドーハ(の悲劇はもう8年前)ではWTO(世界貿易機関)の第4回閣僚会議が開かれてます。小生が関心のある農業貿易自由化問題については、アメリカのNGO、FOOD FIRST(食糧・開発政策研究所)が現地からドーハからの最新報告を発信していますが、今回はテロ事件の影響もあってNGOに対する締め付けも強く、大変らしいです。

ちなみにWTO問題、つまり「グローバリゼーション」の問題で、最近小生が関わっている活動に"ATTAC JAPAN設立"、とくにATTAC関西グループというのがあります。ATTACというのは、Association for the Taxation of financial Transactions for the Aid of Citizens.(市民のために金融投機に課税を求める協会)の略で、ル・モンド・ディプロマティーク誌Le Monde Diplomatique)の社主兼編集長であるベルナール・カッセン氏が代表をしているフランスの組織が1998年に生まれ、その後世界各国に急速に広がっている「反グローバリゼーション」の組織です。その目的は、世界を駆け巡る投機的な資本の移動を抑制するために、すべての外国為替取引に対して「トービン税*」という税を課し、これを雇用や福祉、貧困の根絶の資金にしようとするもので、フランス国内だけで、市民や労働者、農民、学者、政治家など25,000人の会員(その他団体会員として市やその地区、郡などもたくさん)を擁しているそうです。他にも、遺伝子工学の社会問題なども含めていろいろなテーマについてセミナーなど学習活動も含めて、運動の広がりを見せているそうです。(ATTACによるWTOカタール会議のレポートはこちら:WTO, Qatar (9-10 Nov)

* トービン税とは、1970年代後半にノーベル賞受賞者のジェームス・トービンが提唱した外国為替取引税。元来は短期的投機による市場の混乱防止を目的としたもので、アジア通貨危機以降、再注目され、さらにその税収を途上国支援や環境保護に利用しようというアイデアがATTACなど反グローバリゼーション運動のなかで浮上してきた。試算によれば、0.1%位の課税率でも年間2,000億ドル近く徴収できる。1992年の地球サミット時に途上国の貧困克服と環境保全の資金には2,250億ドルが必要といわれていた。なお最近では、短期資本移動抑制の観点からフランスやドイツなどEU諸国がトービン税の導入に動き始めている。

それで、今年5月にベルナール・カッセン氏が東京日仏会館の招きで来日した際に、「日本でもATTACを」と呼びかけがあり、元市民フォーラム2001で現在ピースネットの田中徹二さんが中心になってATTAC JAPAN設立に動き出したのが、この夏でした。小生はその第2回のミーティングに行きまして、そこで「関西でも、龍谷大の杉村昌昭さんがATTAC関西グループを作ろうとしているよ」と教えられ、先月13日の第1回の相談会に呼びかけ人の一人として出席しました。ちなみに杉村さんが訳されたATTACの本反グローバリゼーション民衆運動―アタックの挑戦がつい先日発売になり、来週土曜日17日は、その出版記念をかねて第二回のミーティングがあります。残念ながらこの日は、日本科学哲学会年会のシンポジウム「リスク論を考える」で喋んなきゃいけないので小生は不参加ですが、12月か1月のミーティングでは、遺伝子組み換え作物の話をする予定。京都に移り住んできて二年目、ようやく大学外のところでも面白くなってきました。

ちなみにATTACのニュースレターSand in the Wheelの日本語要約版がATTACニュースレター日本語版プロジェクトで読めます。

ところで、その遺伝子組換えですが、実は、さきほどの温暖化条約が批准される予定のリオ+10では、1992年のリオ・地球サミットで一緒に署名解放された生物多様性条約バイオセイフティ議定書(カルタヘーナ議定書)も、批准が目指されています。これは、当初、コロンビアのカルタヘーナで1999年2月22-23日に開かれたバイオセイフティ議定書採択のための締約国特別会議で最終採択される予定だったものが、交渉難航で約1年のびて、2000年1月24〜29日にモントリオールで開かれた締約国特別再開会議でようやく採択されたもので、その後各国が署名し、来年の批准をまっているものなんですが、なんと日本、まだ署名してないんです。なんでも外務省が「他の国々の動向を待ってから・・・」とか待ったをかけているうちに期限がすぎちゃったらしい。議員からも、農水省や環境省、経済産業省など関連省庁に「まだ何日かある。さっさと署名せい!」とハッパかけられたそうなんですが、結局間に合わなかったそうな。

で、現在は来年の批准に向けて、国内法整備のための審議会が各関連省庁で開かれてるとこなんですが、実は小生もなぜか(?)、経産省の産業構造審議会化学・バイオ部会遺伝子組換え生物管理小委員会(長い名前・・)の臨時委員になりまして、その渦中にいる次第です。(10月3日に開かれた第1回会合の資料等はこちら:遺伝子組換え生物管理小委員会(第1回)議事要旨(H13.10.3)遺伝子組換え生物管理小委員会(第1回)議事録(H13.10.3)遺伝子組換え生物管理小委員会(第1回)配付資料(H13.10.3)。なお委員会は、当初はリオ+10で批准予定で、来年1月には審議を終えなくちゃいけない予定でしたが、他国ももう少し後にずれ込みそうなんで、ゆっくり審議できるということになって、何ヶ月か延長されることになってます。)

それで、この委員会での小生の役回りは何かというと、規制システムについて科学技術社会論の立場からいろいろ提言するということです。今までの日本の規制システムというのは、一回ハンコを押したら、どんなに間違いが明らかになっても間違いを認めないという「行政の無謬神話」が支配的で、そのせいであれこれ問題が生じてしまったわけですが、これを改善するにはどうしたらいいか?というのが小生に与えられた課題。要は、環境や健康に関わる科学研究は不確実性が高く、行政の意思決定は「不確実性のもとでの意思決定」にならざるをえないわけで、これを前提に、柔軟で学習能力があり、そしてさまざまなステークホルダーに開かれた規制システムと科学研究システムをどう作るか、とくに「予防原則」の考えを組み込んだ規制システムはどんなものになるかということです。ちなみにこの予防原則は、知識政治学からSTSを考える(1): 遺伝子組み換え作物をめぐるリスク論/規制科学論にも書いてますが、産業界にはすこぶる評判が悪いんです。経産省としても(といってもいろいろな考えの人がいるから、あくまでこの委員会の事務局担当者ってことだけど)、この予防原則アレルギーをなくして、予防原則が組み込まれた規制システムの実質を形づくりたいそうで、今月の21日に開かれる第2回委員会では、早速小生が報告する番がまわってきます。

ちなみに今日東京であった研究会で教えてもらったのだけど、反農薬東京グループで、市民のための『予防原則』ハンドブックというのを最近出しています。これはもともとは北米の「科学・環境衛生ネットワーク(SEHN=The Sciennce And Environmental Health Network)」というグルーブが作ったPrecautionary Principle Handbookだそうで、浜松医科大の渡部和男氏の環境汚染問題にも和訳活動における予防原則があります。実は、これさっきSEHNのホームページで確かめたら、オリジナルのほうは小生は持ってました。去年3月に調査でボストンの環境衛生コンサルタントのNPO、The Center for Environmental Health Studiesを訪問したときに「予防原則に関するNGOのワークショップがあるんだけどいかないか」とそこのスタッフの方に誘われて行った時に配られたものでした。(たぶんあのワークショップもSHEN関係なんじゃないだろうか。)

それにしても、再来週の審議会まであと10日。その間に原稿一つ、学会発表一つ、出張講義一つが入ってる。眠れない夜が続きそう。。。(こんなとこに書いてる場合じゃないな。。。)