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STS News & Remarks

2001年7月

科学・技術と社会に関わるトピックを中心に、ニュースの紹介や寸評、思いつき、覚書きを綴るコーナーです。内容について御意見、ご教示、情報の御提供、お問い合わせがありましたら、ぜひメールをお寄せください。

E-Mail: hirakawa@kyoto-wu.ac.jp

もくじ

反省しない人々その1 (2001.7.26)
議定書合意案採択、そしてグローバル化・・ (2001.7.24)
世界の抵抗勢力ニッポン (2001.7.23)
You Fuckin' Shameful/Shameless Jap! (2001.7.22)
COP6再開会合スタート: 日本は早速「本日の化石賞」受賞 (2001.7.18)
世界の迷惑コンビ「ロン&ヤス」関係再来か!? (2001.7.03)

反省しない人々 (2001.7.26)

はじめに、見出しとは関係なく、一昨日の記事で触れた「メディアによるNGOの扱い」についてつけ加え。

NGOに対するメディアの認知不足?

国内外の報道全体を通じて、ジェノバでの破壊行動ばかりが目に付いた今回のG8サミット+COP6ですが、よーく見てみると、国内と海外ではどうも大きな違いも見えてきます。小生がチェックしているBBC、Whashinton Post、Reiterなどいずれも、温暖化関連のほとんどの記事では必ず、WWFやグリーンピース、Friends of Earthなど名だたる環境NGOのコメントがあったり、写真でもドクロのブッシュ君や、カウボーイハットでドル束右手に、左手でアジア系の女の子(我らが順子ちゃんのことか?)の口をふさぐテキサス・ブッシュ様などコスプレや、あるいは合意にわき上がり思い思いの衣装で踊るNGOメンバーの姿がだいたい半分くらいを占めているのだけど、日本のメディアの記事はもともと写真が少ないし、記事本文でもNGOからのコメントは海外メディアと比べるととても少ないようでした。日本の場合も、グリーンピースやWWFなどの国際NGOの支部や、気候ネットワーク地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)のような日頃から活発に温暖化問題で研究や広報・普及活動をしている国内NGOが現地に行っているというのに、なぜか扱いが小さすぎます。確かに気候ネットワークの浅岡美恵さんのコメントを載せている記事もあるにはありますが、海外と比べると少なすぎ。

確かに、社民政権主体で、「緑の党」のような政治勢力の影響力がある欧州と比べると、日本のNGOと政策決定者の距離が離れているのは事実で、それには政策決定者の側の問題や、あるいはNGOの側の力不足もあるだろうけど、やはりメディアのNGO認識が旧すぎているのではないかとも思ってしまいます。実際、どうなんでしょうね、マスコミ関係者としては?

懲りない「産業界」?

さて今日の本題です。

議定書の合意が成立して二日以上が経過しましたが、今日になってロシアが、二酸化炭素の森林吸収分をもっと認めろとごねて、24日に予定されていた運用ルールの採択が延期になってしまうというハプニングもあったり、ボンで「アメリカ抜きの批准」を示唆した順子ちゃんと違って相変わらず純一郎君はあいまいな態度をとり続けていたりして、まだまだ予断を許さない状況です。

そんななか、日経新聞の記事で日本の産業界の評価がいくつか報じられていましたが、思わず顔をしかめてしまうものでした。まぁ、一口に「産業界」といってもいろいろで、なかには温暖化対策に積極的かつ実質的に取り組むことで利益を上げられる業種や(同じ業界内でも)企業があるでしょう。とはいえ、環境の変化に適応できない(あるいは適応の意思を持たない)いわば「滅びゆく恐竜」は、長期的には見込みのない見通しに期待したり努力したりするもののようです。

一つは電力業界の「排出削減につながる選択肢は多いほどありがたい」というコメント。つまり、森林吸収や排出権取引制度によるロシアからの排出枠購入による「削減」のことを指しているのですが、これはほとんど論理のすり替えでしかありません。森林吸収については、森林は長期的に見れば、温暖化の影響による森林破壊でむしろ排出源に変わるだろうというIPCCの予測や、そもそも森林杞憂し有料がどれくらいかを定量的に確定しようとしても不確実性が大きすぎる(CO2排出そのものによる実質的な削減量に比べて、誤差幅が大きすぎて、削減したかどうかが検証できない)などの欠陥があります。そもそも現在の森林が維持されたとしても、その吸収ポテンシャルを、化石燃料の燃焼による排出量が上回っているからこそ、大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けてきたわけですからね。(「森林吸収」というものが温暖化対策にとってどんな意味を持っているかについては後ほど書きたいと思います。)つまり、森林吸収は実質的な削減にはならないわけです。いいかえれば森林吸収分による「削減」とは、各国に割り振られた「目標削減量」を産業システムの改善やライフスタイルの変革などによる国内対策によって達成しなくてはならない「実質的削減量」の削減だといったほうが正確なのです。

他方、排出権取引は、排出枠の販売が金になれば、実質的な削減へのイニシアティブとなって効率よく削減が達成されるという理由で導入されたものですから、取引が実質的な削減を誘導しなければ、これまた各国に割り振られた目標削減量のうちの実質的削減量の削減にしかなりません。そしてロシアの場合、90年代の経済の衰退によって排出量が90年代に激減したおかげで、いわばタナボタ的に手に入った「削減達成量」(いわゆるホットエアー)があるので、これを売買するだけでロシアは大きな利益が得られる可能性が高いので、そのままでは実質的な削減につながる見込みは当面ないといっていいでしょう。というわけで電力業界の「排出削減につながる選択肢は多いほどありがたい」というコメントは、正確には「目標削減量のうちの実質的削減量の削減につながる選択肢は多いほどありがたい」といいかえるべきなんですね。

もう一つ顔をしかめざるをえないのは、「森林吸収の大幅算入が受け入れられたのは歓迎できる」という、海外で大規模植林を計画中の日本製紙連合会の小林正夫会長のコメントです。これは、途上国で植林事業を実施した場合に、その森林の二酸化炭素吸収を1%まで削減実績に算入していいというルールに対するもの。ここで植林が、本当の意味で森林の拡大につながるものであれば、実質的な削減に貢献しうるのですが、ところがこの植林事業を行うのは「製紙連合会」です。そーするとどうなるかというと、あくまで植林で作られる森林は、商業的価値をもったものであり、成長の早いユーカリのような樹木のみからなるモノカルチャー的な森林になる可能性大です。しかもユーカリは、土壌から急速に栄養素を奪い、その生育サイクルの数倍の時間である数十年という短期間に土地を荒廃させてしまいますので、全然持続的ではなく、長期的には排出量を増やします。また既にWWFの調査報告書"The Clearcut Case: How the Kyoto Protocol Could Become a Driver for Deforestation"(日本語の解説はこちら)が、東京電力等によるオーストラリアでの植林事業について報じているように、こうした植林は、天然林を伐採して行われる可能性もあり、温暖化対策にならないどころか、生物多様性の破壊によって生態系や、そこに住む人々の生活基盤を破壊したり、住人を強制移住させたりといった生態的・社会的な暴力を伴って行われる危険がかなりあります。

温暖化対策に限らず、環境問題の対策・解決を企業がビジネスチャンスとすること自体は全く問題はないし、むしろ大事なことですが、「間違った儲け方」は繰り返して欲しくないですね。

産業界について書いたら、経済産業省のことも書かねばなりませんが、それはまた後ほど。(けっこう酷いです。こちらも。気になる人は、ぜひ気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合 (閣僚会合:概要と評価)をお読み下さい。あきれてしまいます。)

議定書合意案採択、そしてグローバル化・・(2001.7.24)

なんとか、23日午後6時55分、COP6再開会合の合意文書が全体会合で採択されました。これで日本が批准し、京都議定書が来年発効、という可能性が出てきました。しかし、世界はその他の問題も山積み。今日は、ちょっと散発的な感想を・・・

とりあえず窮地は脱した?

昨日は、もうだめなんじゃないか、日本はまたも合意を突っぱねて、COP7に持ち越し、日本政府お得意の「時間稼ぎ」に走るのでは、と諦めかけていましたが、なんとかプロンク議長案の採択になりましたね。日本、カナダ、オーストラリア、それとロシアが森林吸収でごねたせいで、いくつかの海外メディアが伝えているWWFの弁によれば、第1約束期間終了時の2012年までに先進国全体で、1990年排出量比で5.2%の削減量に対して、実質的な削減量、つまり各国内の経済・産業・ライフスタイルの変革による削減量は約1/3(1.8%)くらいになってしまうそうですが、まぁ、とにかく「ないよりマシ」ということで、シャンシャンというところでしょう。

とはいえ、今後50年間くらいで、50%近く排出量を減らさなければならないわけで、それから見ると、あまりに前途多難ですね。

ちなみに毎日や日経の報道によれば、合意後の会見で、川口順子環境大臣(我が家では「でびる順子ちゃん」の愛称で親しまれている―とはいえ彼女個人の問題ではない)は、「米国とは独立して批准に向けた準備作業が必要だ」と述べ、「これから細目や具体的な数値を詰める。国内的に削減目標を達成できるかの確認作業も必要で、批准に向けた準備を始めていく」と早期批准に前向きの姿勢を示したとのこと。他方、小泉首相は、合意を歓迎しつつも、「合意は直ちに批准を意味しない」とコメントしているそうですから、まだまだ、「日本がキャスティングボード」というカードにあぐらをかいて、わがまま言い続けるのでしょうか。とはいえ、これで批准しなかったら、日本はアメリカ並みの反環境国家というレッテルが確定するでしょうから、さすがに外交上、それは避けるのかな?

それと、「ニュースステーション」で現地特派員のアナウンサーが「日本の戦略勝ち」と形容してましたが、それは違いますね。「日本がキャスティングボード」という「最強カード」にあぐらかいて、ただごね続けただけでしょう。戦略という点では、やっばりEUのほうが上でしょう。結果的には、日本がEUの世界戦略 ―とくにアメリカとの政治的パワーバランスの転換に向けた戦略― にはめられたというのが冷静な見方ではないでしょうか。実際EU環境相Margot Wallstrom氏は、"I think something has changed today in the balance of power between the US and the EU." と述べたそうです(BBC NEWS WORLDの記事"The Bonn deal: Winners and losers")。交渉過程を見たって、森林吸収について大幅譲歩した「これ以上の修正は認めない最終案(teke-it-or-leave-it proposal)」を最初に出して粘り、そのうえで遵守措置についてもう一つ譲歩したことによって、日本を二つの譲歩を蹴るという大業をせねばならないという状況に追い込んだわけですしね。「大きな譲歩を引き出せた」「満額解答」なんて喜んでいるのはただの阿呆です。

「原発」はなくなった!!

EU・途上国サイドと日本サイドでネックになっていたイシューのうち、森林吸収については、前者が「特大バーゲンセール」をしましたが、遵守措置についてはなんとか、削減目標を守れなかった場合の法的拘束力を持った罰則制度の導入については、とりあえず日本の要求を飲んで、先送りになったようですが、「第1約束期間での未達成分を1.3倍に加算して次の機関に繰り越し」というルールは生き残ったようです。

さらに「途上国援助(CDM: クリーン開発メカニズム)に原発を含めることは控える」という点が完璧に守られたこともいいことでした。ちなみに「原発は温暖化対策にならない」というのは、以前にも書きましたが、その理由については、WWFで以前に『気候変動と原子力』というレポートを出していますし、他にも当サイトの温暖化関連のリンク集にあるhttp://hideyukihirakawa.com/links/global_warming_link.html#402のいろいろな文書が参考になるでしょう。

ちなみに、昨日の明け方のNHK BSのニュースでは、「原発ダメ」というEUに対して日本が反論した理由を伝えていましたが、正直、笑ってしまいました。「国内で原子力を積極的に推進している日本としては、CDM事業に原子力を入れられないというのは飲めない」だそうです。何が可笑しいかというと、「国内で原子力を積極的に推進している日本」という国内事情は、本来、途上国援助であるはずのCDMとは何の論理的つながりはないにもかかわらず、これが「理由」として出てくることです。とくに原発持ってるにもかかわらず「CDMに原発」に反対しているEUに対しては何の理由付けにもならないでしょう。ましてやドイツは段階的脱原発を決めていますし、そもそもなぜ日本は未だに原発推進なのかが問題にされてしまうでしょう。まぁ要するに、「国外ではダメとされた原発を、なぜ国内では『温暖化対策』といってやるのか」という日本国内からの突き上げを封じ込める大義名分がなくなってしまうというのが、本音なのでしょうか。

「<EU = 環境派> VS. <日・米 = 経済派>」か?

ところで、ずっと以前にも書いたことがありますが、今回の交渉に見られたEUと日本、そしてその背後にあるEUとアメリカとの対立は、決して「環境重視 VS. 経済優先」という図式で割り切れるものでないことには注意しなくてはなりません(といっても、「だから良くない」といってるわけではありません)。確かにEUのイニシアティヴには、「環境重視」は大きなウェイトを占めているのでしょうが、それがEUの政治的アジェンダに組み入れられているところには、EU圏内の産業界の利益がそれとマッチしている、もしくは少なくとも矛盾しないという状況があるからだと考えるべきでしょう。かつてのオゾン層破壊防止のためのフロンガス規制のときは、アメリカがリーダーシップをとり、EUは反対に回っていました。(ちなみにこのとき日本はEU側。つまりいつでも「反対側」にいるのが日本!?) そしてアメリカがリーダーシップをとった背景には、デュポンのようなフロンガス・メーカーが代替フロンの開発に成功し、フロンガス規制がビジネスチャンスになったという状況があったからでした。今回の場合もEUとしては、温暖化防止にいち早く着手することが、世界経済のなかでのEUのパワーアップに貢献しうる(少なくとも着手しないことは長期的には経済的に見合わない)し、そのための技術ポテンシャルもあるという判断を産業界がしているからでしょう。実際、EU産業界と環境NGOによる欧州委員会(European Commision)のEuropean Climate Change Programme (ECCP)報告書(pdf版)もありますし。

要するにEUと日米の対立には、環境に適合しうる新しい産業経済と、持続不可能な旧い産業経済の対立という面がかなり大きいのではないかということです。日本としては、前者に適応していくのか、それともアメリカと一緒にいつまでも「滅び行く恐竜」に乗っかったままでいるのか、日本の産業界が問われているといえるでしょう。

でも、忘れちゃいけない「グローバリゼーション」の問題

ところで、今回のCOP6再開会合をめぐっては、並行して開かれたG8サミット、そしてそれに対する(死者を出した)デモ隊とイタリア警察・軍の衝突も話題となりました。ここで浮かび上がってくるのは、やっぱり「グローバリゼーション」がもたらす貧困や環境破壊の問題で、この点についてはEUだろうが日、米だろうが、どれも問題だらけでしょう。この問題については、遺伝子組換え作物(GM作物)の問題との関連で、そのうちここのコーナーでも書こうと思ってますが(*)、今日は、とりあえず、次の一点だけ書きとめておきます。

※(GM作物関連で最近ホットな話題は、国再開発計画(UNDP)の新しい報告書Human Development Report 2001に対する各国NGOからの批判です。これについてはとりあえずグリーンピースのWidespread criticism of UNDP's stance on genetic engineering in its latest reportが問題の有様を簡潔に伝えています。)

それは今回のサミットとCOP6における「NGO」に関する「報道」に対する疑問です。今回、ジェノバとボンには、世界中からたくさんのNGOが集まり、抗議行動や、とくにボンではロビーイングやオブザーバーをしていたわけですが、テレビにしろ新聞にしろ、「NGO」ということで出てくるのは、あのジェノバの町での暴動シーンばかり。なぜなのでしょう?

そこで、あれこれ調べてみましたら、グリーンピース・ジャパンでは「国際会議場周辺で行われている暴力行為についてのグリーンピースの主張」を19日に発表し、次のように述べています。

ほとんどのNGO (非政府組織) や活動家達は、国際的に認識されている諸問題に対して草の根的な運動 (経済のグローバル化による社会的・環境的影響、そして多国間取引と企業等の規制) に地道に取り組み、平和的なメッセージを前向きに出し続けてきた。残念なことにほんの一握りの人々が行う暴力活動は、このような活動家達を隠れみのにして行われているのである。
破壊行為はいかなる解決策を生みだすことはない。そしてその破壊的行為は、NGO、市民社会、そして平和的にデモ活動を行うという、民主社会をも脅かしているのである。
グリーンピースは報道関係者に対して、ほんの一握りの破壊的活動を行う人々が、大多数の平和的かつ前向きに行っているデモ活動を脅かす事のないように、公平かつ公正な報道を行うよう要請する。 メディアはサミットなどの国際会議を報道する義務があると考えるが、それが一方的な報道であってはならない。

また、知人の社会学者、櫻本陽一さんから回ってきた情報によれば、ATTACというフランスのNGOが、"AU-DELA DES RESPONSABILITES DE LA POLICE ITALIENNE: Le G 8 DISQUALIFIE PAR LES EVENEMENTS DE GENES"というコミュニケを発表しています。以下は櫻本さんの翻訳です。

イタリア警察の責任、ジェノヴァの事件が示したG8の姿を糾弾する

ATTACフランスの声明

ヨーテボリは、残念ながら例外ではなかった。そうではなく先例だったのである。7月20日金曜日、ヨーロッパ連合加盟国の警察が、デモ参加者に対して、2ヶ月間に2度目の実弾の発砲を行なった。そして彼は、その実弾によって殺された。加えて治安警察隊員1名を含むさらに2名が重体であり、さらに数十名が負傷した。

数百の組織を結集する協議体であり、ATTACイタリアも加盟する、ジェノヴァ社会フォーラム(GSF)は、このような暴力の激発を防ぐためにあらゆることを行なった。暴力のこの激発は、互いに強め合う3つの要素の結果であり、その責任は、イタリア政府だけでなく、G8の他の諸国の政府が大きく負っている。

1: 先ず第1に、国際的には、多国間機関(IMF、世界銀行、WTO、OECD)、ヨーロッパにおいてはヨーロッパ委員会とヨーロッパ閣僚理事会、そしてG8そのものによって、作られている、そして/あるいは、実施されている政治に対する、各政府の自国内における多数の人々による拒否に対して、各政府が耳をふさいでいることである。

選挙民の誰も、このような政策を適用することについて委任を求められたことも与えたこともけっしてないにもかかわらず、これらの政府は、多国籍企業と金融市場の利益のみに組みして、民営化し、フレキシブル化し、徹底的に「自由化する」ことを目指しつづけている。これらの政府は、それによって、容認することのできない苦悩と暴力を、北においても南においても、社会の大きな部分に対して作り出している。

このような状況の中で、住民がいなくなり、要塞化された街の港に停泊中の船上でのG8メンバーによるジェノヴァ会議は、いずれにしろ、公共の意見(よろん)に対する文字通りの象徴的、政治的挑戦となっていた。

2: 次に、もはやいかがわしい、とさえいうことのできないイタリア警察の振る舞いがあった。彼らは、「ブラック・ブロック」と称する数百の挑発分子による、準備と武装、実行行為に対して意図的に眼を閉じていた。彼らは、しばしば平和的なデモ隊の旗やバッジを、あらかじめ手に入れ掲げていた。

これらの挑発分子が、ヨーロッパの治安警察と関わりがないと考えるものは誰もいない。彼らは、全く規制を受けることなく対人的な暴行と器物損壊を重ねることができた。彼らは、GSFメンバーの組織を襲撃することさえいとわなかった。

これらの挑発分子と彼らに対する警察の泳がせを弾劾しているGSFに、ATTACフランスは賛同する。ATTACフランスは、これらの姿勢が示している、リベラリズム的グローバリゼーションへの反対者を犯罪者かしようとする企てを糾弾する。

3: 最後に、完全に平和的なデモ隊に対して警察は、体系的な威迫、いやがらせを加え、さらには暴力をも振るった。イタリア当局は、GSFに対して、銃器の不使用を約束していた。当局はこの約束を蹂躪したのである。一般的にいって、警察当局が訴えた手段は、行動に対して、GSFに参加していないいくつかのグループによる暴力的な行動に対してさえ、不釣り合いなものであった。ジョエノヴァにおけるイタリア政府の行動に対する弾劾を表明するため、ATTACは、7月21日土曜日に、パリのイタリア大使館前で予定されている、抗議行動への参加を、活動家に呼びかける。

G8会議初日が引き起こした悲劇的な事件、そしてG8会議に参加することを是であると考えていた全政府が免れえないこの事件に対する道徳的責任によって、この惑星の執政役たらんとしていたG8会議は、信頼を失った。尊厳を守る唯一の道は、G8が即座に会議を中断することである。指導者たちは、とりわけ、自らが加担しているリベラリズム的グローバリゼーションという致命的な道――これは新たな衝突を引き起こさざるをえない――の是非を問わねばならない。

ATTACフランスは、共和国大統領と首相に対して、この方向でのイニシャチブを即座にとることを直ちに要求する。ATTACは、情報の提供、教育、そして非暴力的な行動によって、リベラリズム的グローバリゼーションの惨害を明るみに出し、オルターナティブな政治への展望を切り開くことを、うむことなく続けていく。私たちは、G8ジェノヴァ会議が作り上げている嘆かわしい世界の戯画とは異なる世界が可能であると考えている。

ATTACフランス、パリ−ジェノヴァ、2001年7月20日

まだまだ抵抗続けるニッポン (2001.7.23)

21日(土)深夜、COP6のプロンク議長(オランダ環境相)が、京都議定書の具体的ルールの核となる「最終的」な議長案を提出しました。すでに昨日報じられていた森林吸収分の(全く非科学的な「抜け穴」容認でしかない)「特大譲歩」として、日本には、当初からの要求(3.7%)以上となる90年排出比で3.9%分を認めるもので、これ以上はもう妥協せずということで、原語では"take-it-or-leave-it proposal"と形容されています。

ロイターの記事"Last-Ditch Push to Save Kyoto Climate Talks"によれば、この「譲歩」について議長は「この実際的な解決は、政治的に実際的なだけでなく、環境保護上の信頼性の基準も満たしている(This pragmatic solution is not only politically pragmatic but meets criteria of environmental credibility)」と述べていますが、なんとか巨大抵抗勢力である日本、カナダ、オーストラリアなどを納得させるための苦肉の策なのでしょう。実際、この案に従うと、当初予定されていた先進諸国による2012年までの実質的な削減量は1/3くらいにまで下がってしまうそうなのですが、それでも議定書そのものが潰れるよりはマシということなのでしょう。その代わり、同じくEUと日豪加で対立していた

については、日豪加の要求を退けるものになっています。吸収源で譲歩した上に、さらにこれらまで認めたら、議定書はなんら法的拘束力のないただの「努力目標」でしかなくなり、また昨日書いたような原発のさまざまな問題、リスクを高めるのを許すものになってしまいます。

とにもかくにもEUは、議長案は当然大いに問題あり、と見ていますが、それでも「他の国が修正案を出さない」ことを条件に、受け入れを表明しています。要するに「もうこれガタガタ言わずに合意しよう」という最後通牒であるわけで、これを日本らが蹴れば、後はアメリカと一緒に国際非難の嵐を受けてもらいましょうということでしょう。EU交渉代表者であるベルギー・エネルギー相オリバー・ドゥルーズ氏は、次のように述べています。(ロイターの記事"With G8 Divided, Battle on to Save Climate Pact"[July 22, 2001 11:17 AM ET]より)

しかし、これが最終的文書ならば、柔軟性の精神と、過去10年われわれは十分に気候変動について話し合ってきたという理由から、EUは受け入れる準備がある。(But if it's a take it or leave it paper, in the spirit of flexibility and because we have talked enough about climate change over the last 10 years, Europe is ready to accept it.)

と、まぁ、EUは、吸収源問題について思いっきり「柔軟性」を発揮したわけですが、ところが日本、カナダ、オーストラリアは、この最終案に対しても昨年の会議と全く同じスタンスに固執しつづけ、「原発やらせろ」、「遵守措置は外せ」と反発しているようです。Mainichi Interactiveの一連の記事によれば、新議長案に対し日本政府は「森林吸収は問題ないが、原子力の利用などは譲れない点で、日本にとっては厳しい内容だ」と受け止めているそうですが、一体どういう点で「譲れない」のか? 譲れないとする、誰もが納得する客観的な理由をそもそも持っているのか、日本政府は説明すべきでしょう。(当然そんなのなくて、ただ原子力業界と経産省、自民党原発族の利益代弁でしかないのでしょうけど。)

NHKで放映されたサミット閉幕後の記者会見で相変わらず小泉首相は、「最後の最後までアメリカが参加できるよう努力する」を繰り返し、「ボンでも川口環境大臣ががんばっている」なんて言ってましたが、日本政府がボンでいったい「何をがんばっているのか」は誰の目にも明らかであるだけに、実に恥ずかしい答弁でした。「温暖化防止対策のためにはアメリカの参加が不可欠」、「アメリカを最後まで説得」なんて聞こえのいい(もうちっとも聞こえも良くないが)言葉を並べても、本音は、要は国内産業(の一部?)を守るため。マスコミでは小泉首相の「対米追従」を批判する論調が多いけど、それは見せ掛けで、要はアメリカを隠れ蓑に使ってるだけ。「議定書はアメリカ経済を損ねるから離脱する」とはっきり言ってるブッシュのほうが「正直」という点でははるかに気持ちいい。(ちなみに昨年の大統領選でブッシュ大統領が勝利したとき、経産省の役人は大いに喜んだという話も聞いたことがあります。もちろんそんな役人ばかりではないのでしょうが。) こんな小泉(所詮は自民党)政権に90%近い支持率を与えている日本の有権者っていったい何? ほとんど、海へとまっしぐらに突き進む「レミングの集団自殺」じゃないでしょうか。

とりあえず、とにかくボンでは最後の交渉が繰り広げられている真っ最中。明日の日本時間でお昼頃には結果が出る予定だそうで、なんとか「奇跡」を祈りたいところですが、たぶん、ダメなのでしょうね。

ちなみにENB @ UNFCCC COP-6bisによれば、現地時間で午後6時半現在、プロンク案には、途上国グループG-77/CHINAも疑義を表明しているようですが、こちらは、プロンク案では、途上国への資金援助の具体的額の決定が先送りになったことに対するものでしょう。ちなみにこの資金援助は議定書ではなく、その上位にある気候変動枠組条約そのものが規定していることですが、既にブッシュ大統領は、この資金援助もアメリカはしないと宣言しています。ただし、資金援助については、年額10億ドルという途上国の要求に対しては、EUも、日本などと同様に「5年で10億ドル」というふうに値切る側に回ってます。途上国(とくにアフリカや小さな島国)こそ、大部分は自分たちの責任ではない温暖化による気候変動の被害を最も受けやすい国々なんですよね。そういう意味で、日本と違って彼らは、プロンク提案に対して反発する正当な権利があるといえるでしょう。とはいえG77/Chinaは、いうまでもなく議定書批准には非常に積極的ですから、とりあえず今回のところは折れるような気がします。そうするとやはり議定書の命運を握り、そして今のところかなりの確度で潰してしまうのは、日本ということになるのでしょう。

You Fuckin' Shameful/Shameless Jap! (2001.7.22)

ん〜、誰か罷免して、この恥知らず(↓)

「譲歩について、EUから、ある考え方の説明を受けた。柔軟な態度で、会議の進展に非常に貢献する動きであり、私としては高く評価したい。」(川口環境大臣)

この「譲歩」というのは、ボンでもジェノバでも「アメリカが参加できるよう最大限の努力を尽くす」なんて、相も変わらぬ本音丸見えのブリッコ外交でCOP6交渉最大の抵抗勢力の一つに成り下がってる日本政府に対し、昨日EUが「今回の提案は日本に大幅譲歩した内容で、我々にとってはバーゲンセールだ」と述べて提案した「森林吸収4%」という提案のこと。

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)が17日に出した緊急プレスリリース「再開COP6を失敗に導く日加豪シンク提案」によれば、同日、日本が中心になってオーストラリア、カナダと一緒に出した「共同提案」は

  1. 吸収源活動から生じるクレジット全体への上限(キャップ)は設定しない。
  2. 各国の国内の「森林経営(Forest management)」の吸収量について、各国の目標達成に必要な削減量などを考慮して、個別の上限を設定する。

というもので、これをそのまま認めると、最大で、1990年の先進締約国の排出量比で12.9%もの吸収量が算入可能となるそうです。議定書の削減目標が90年排出量の5.2%ですから、なんと先進国全体で、2012年までにさらに7.7%も排出していいということになってしまうという、「抜け穴」と呼ぶのも忍びないほどとんでもないシロモノの提案なんですね、日加豪共同提案というのは。

そんなわけで、これを認めたら議定書は「削減」のためのプロトコールではなく、ただの「排出許可証」になっちゃいますから、そこでCOP6プロンク議長が提案したのが、4%まで認めましょうという大幅譲歩。すでに6月に議長は、「3%まで認める」という、もうそれ自体特大の大幅譲歩をしていたわけですから、今回の提案は、それでもゴネゴネしている日本政府に対する最後の「揺さぶり」なんでしょう。はっきりいって、もうなめられきってるとしかいいようがありません。

ところが、日本政府の反応はといえば冒頭の通りです。いったい何様?

で、さらにMainichi Interactiveのニュースによれば、日本政府は「二酸化炭素の削減目標を守れなかったときの罰則の緩和」や「途上国と共同実施するCO2削減事業の対象から原子力発電所を除外しない」などに重点を置いて交渉を進めるとのこと。まさに予想通りですが、これらこそ、吸収源問題とともに、昨年のCOP6決裂要因だったもので、他国には柔軟性や譲歩を求めるくせに、米国離脱によって降って沸いた「議定書発効のキャスティングボード」という立場を悪用して、硬直姿勢を繰り返すばかりなんですね。あ〜恥ずかしい。。。(そしてここでもまたお仲間はカナダとオーストラリア。)

だいたい途上国援助に原発を、なんていうのは、事故や放射性廃棄物の問題だけでなく、核拡散の観点から見ても大きな問題です。原発問題では、インドとロシアも日豪加に賛同してますが、そこでの核兵器問題については、気候行動ネットワーク(CAN)ニュースレターECO7日20日版"Nuclear Proliferation and the CDM"で触れられています。またオーストラリアは、実は原発の燃料になるウラン輸出国なんですが、ウラン採掘によるアボリジニの土地の放射能汚染がかねてより深刻な問題になっています。「温暖化対策に原発」なんてことを認めると、そういう危険もますます高まってしまうわけです。

だいたい2050年くらいまでにはCO2排出量は90年基準で50%以上も削減しないと対策として効果がないそうですから、全排出源の1/4でしかない発電などエネルギー転換部門での削減にしか貢献し得ない原発による寄与というのはタカが知れています。そもそも現在使われている原発のタイプは、柔軟な出力調整ができないので、日夜常に一定出力で運転するベース電源にしかならず、日中の需要増には火力などで対応するしかないので、原発だけで全電力をまかなうことは不可能です。さらにいえば、原発を増やすと夜間電力使用量が増え、エネルギーの電力化率(その最たるものが「オール電化住宅」)が上がり、日中の需要量も増えて、省エネとは反対にますますエネルギー大量消費を進めてしまうことになります。仮に出力調整可能な原子炉が普及しても、いずれにしたって、放射性廃棄物処理の問題や、核不拡散上の大問題でもある余剰プルトニウムの問題、それから日本や、環太平洋地域やインド洋周域の地震帯では、大地震による原発事故、それによる震災と放射能汚染のダブル打撃(いわゆる原発震災)という問題もあります。とにかくトータルな視点で見れば、原発は、温暖化対策にとって、メリットは非常に小さくデメリットは巨大というシロモノでしかないのですから、コスト、ベネフィット、リスクを考えれば、全く不合理な選択肢でしょう。にもかかわらず「原発で温暖化対策」なんて言ってるのは、要は国内ではイケイケ時代をとうに過ぎてしまった原子力産業の生き残りのためでしかありません。あ〜情けない。。。

もひとつ情けないというかおマヌケだったのは、ジェノバのG8サミットでの小泉首相。

21日の会合では、とくにシラク仏大統領を先頭に欧州側とアメリカで激烈な論争が一時間半近く繰り広げられたそうですが、そこで小泉首相がいった台詞はやっぱりこの一言。「アメリカが戻って来れるよう最後の最後まで説得を続ける」。あの丸テーブルをはさんで、他の首脳たちを目の前にこれを言ったかと思うとなんともマヌケな光景が目に浮かんでしまいます。これだけ小泉首相がボケてくれたんだから、誰かツッコまなかったのでしょうか? "You do? OK, go ahead!! Here's Mr. President of US!", "It's now to do it!"って。

最後に、こちらは、首相の留守を預かっている福田官房長官の談話(from asahi.comの記事「COP6再開会合での全面合意は困難 福田官房長官」)。ハンセン病訴訟問題ではヒーローだったこの方も、どうやら温暖化問題については無知なのか、それともただの米国同調なのか、こんなことを言っています。

「その先に米国、中国、他の発展途上国が参加できる方向を見つけ出そうと、小泉首相も一生懸命やっている。COP6で、もしまとまらなければ10月のCOP7でまとめようと全力でやっている。みなさんが失望するような結果はもたらさない」

だいたい「中国、他の発展途上国が参加できる方向」をというのは、気候変動枠組条約の根本理念である「共通だが差異ある責任」という原則を完全に無視したもので、カンペキにブッシュ大統領と同じ発想であるわけで、にもかかわらず、そういう方向で「小泉首相も一生懸命やっている」ということは、図らずも日本は議定書を潰したい、アメリカとどこまでも一緒に行きます、という「本音」をもらしちゃったとも受け止められます。(そもそも途上国は、第一約束期間の2008年〜2012年以降は入ってくるわけですし、これを第一約束期間から求めるというのが、ブッシュ大統領のイチャモンです。)

それにしても来週の日曜日は参院選。悪夢は本当にやってくるのか。。。!?

COP6再開会合スタート: 日本は早速「本日の化石賞」受賞 (2001.7.18)

ここしばらく雑誌の原稿(『現代思想』8月号の特集の原稿で「科学・技術と公共空間―テクノクラシーへの抵抗の政治のための覚書き」というやつです)に追われて、更新がストップしてました。他にも締め切り地獄は続いているのだけど、とりあえず・・・

さて、いよいよ温暖化問題の第6回締約国会議再開会合(COP6-b)がドイツのボンでスタートしました。すでにテレビ・ニュースなどでも報じられていますが、この前の日曜日のサンデープロジェクトでの小泉首相の「COP6では合意できない」発言をめぐってEU諸国や途上国(G77 & China)、環境NGOからの批判が相次ぐなかでのスタートでした。

そのうえ今日17日の会合では、日本がカナダ、オーストラリアに働きかけて、さらに目標削減量におけるCO2の森林吸収分の割合を増やす「新提案」なんか出してしまいました。先月、すでにオランダ環境相でCOP6議長のプロンク氏が、日本が批准するように、本来は(基準年である90年の排出量に対する割合で)0.6%分しか認められないはずの吸収量を3.0%まで認める大幅譲歩案を出していますが、さらに日本は、当初からの3.7%にできるだけ近い数値まで譲歩を引き出したいようです。

この「本来の0.6%」というのは2010年までに植林などで人為的に増加した分の森林による吸収量なんですが、日本はこれを、すでにある森全体の樹木の成長による吸収分までカウントせよといってるんですね。ちなみに森林は、成長して光合成によってCO2を吸収し、固定しても、葉っぱが枯れたり樹木自体が枯れたりすることによって再びCO2を排出しますから、積極的に森林面積を増やさない限りは、長いタイムスパンで見ると、ほとんどのCO2が大気と森林の間を循環するだけです。日本政府の主張は、この循環プロセスのなかの排出の部分を無視している全く非科学的なものです。おまけに昨年、IPCC(気候変動政府間パネル)が出した吸収源に関する特別報告書(リンク先は環境庁による仮訳)は、次のように森林が将来的には排出源に変わりうること、また数十年の予測は不確実性が大きいことを指摘しています。

生態系モデルは、全地球における人間活動の間接的な効果(すなわち、CO2 の施肥効果と養分の沈降)により生じる追加的な陸上生態系の二酸化炭素の吸収は森林生態系によって数十年続くが、それもやがて消滅し、森林生態系は排出源にさえなり得るということを示している。この理由の一つは、生態系の追加的な炭素吸収のキャパシティは養分や他の生物物理的な要因に制限されるだろうということである。二番目の理由は、いくつかの種類の植物においては、温度の上昇に伴い呼吸は増大が見込まれるにも関わらず、二酸化炭素濃度が増大し続けてももはや光合成の速度は増大しないと推定されるということである。三番目の理由は、気候変動により生態系の劣化が生じるだろうということである。これらの結論は将来のCO2 と気候変動の現在の吸収源への影響のみを検討したものであり、比較すべき解析のなされていない将来の森林減少や陸上生態系を強化させる行為については考慮していない。生理的な過程による環境適応、気象的な制限、過程の中でのフィードバックに関する不確実性のため、数十年を超える予測は非常に不確実である。

そういうわけですから、温暖化対策をまじめにするとすれば、あてにならない森林吸収分はできるだけ控えめにして、気候変動への人為的要因そのものである産業経済システムのほうを各国の国内対策としてちゃんとやりましょうというのが筋なんですが、ところが国内対策を最小限に抑えたいアメリカ、カナダ、オーストラリア、そして日本は、できるだけ森林吸収分を増やそうとして悪あがきしたのが、昨年のCOP6会議の交渉決裂の第一原因です。(ついでにいうと、これらの国の言うとおりにすると、多くの巨大排出国がさらに排出していいことになってしまい、全然削減にならない。)

そしてまた再開会合がスタートした途端の、日本のイニシアティヴでの「新提案」です。(そんなことでしかイニシアティヴとれんのか!?) だいたい、環境大臣自身が所詮、元通産官僚ですし、いかにもそうなるのは当り前なんですけど、早速、地球温暖化に取り組む世界300以上の環境NGOのネットワークCANが、毎日の交渉で後向きな発言をした国に与える「本日の化石賞(Fossil of the Day Award)」の17日分は、見事日本になってしまいました。以下、そこのコメントです。

「日本は京都議定書を葬ろうとしている」
今週の日曜日、小泉首相は「我々は合意に到達できないだろう」と日本のテレビショーで発言した。16日、日本政府は、小泉首相の発言に関するプレスリリースを配ったが、その交渉姿勢に変わりがないことを明らかにしただけだった。日本は、COP6再開会合で、京都議定書の発効を目指して、可能な限り最大限の幅の合意に達するよう最善を尽くすつもりだという。いいだろう。それは分った。しかし我々が知りたいのは、どうやって日本がそうするかだ。プレスリリースによれば、日本はCOP6再開会合を成功させるとも言い、他の締約国に交渉では柔軟になるよう求めている。他の締約国に柔軟になれだって? なぜあなた方ではないのか? 今日の吸収源に関する日本の新提案は、ここでの交渉を破壊するものだ。今日の記者会見で川口環境大臣は、「私たちは交渉のプロセスを遅らせる意図はもっていない」と言っている。しかしあなた方はプロセスを遅らせているのであり、それは京都議定書を葬り去ることを意味しているのだ。

ところで17日の「本日の化石賞」のノミネート国には、新提案で日本とつるんだカナダが挙がってますが、こちらは、途上国援助の一環である「クリーン開発メカニズム(CDM」のなかに「原発建設を認めろ」という主張のせい。要するに、国内の原発メーカー生き残りのために、「原発輸出」させろ、ということです。そしてこれは、森林吸収源の問題に加えて昨年のCOP6決裂原因の一つとなったもので、日本とオーストラリアもお仲間です。今回の会合の前に行われた非公式会合でもこれら三国は、この点を主張していたそうですから、日本もそのうちすぐに「原発、原発」と言い出すことでしょう。

ちなみに原発に関しては、今月13日に経産省の総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会が報告書「今後のエネルギー政策について」を発表し、相変わらず原発増設を掲げています。実はこの委員会では、自然エネルギー推進ネットワーク代表で、ウチの学部の同僚でもある飯田哲也さんが委員を務めていましたが、もう最初から「脱原発も視野に入れたエネルギー政策の総合的見直し」という線は排除された委員会だったそうで、最終的に飯田さんは、報告書の採択を拒否しまして、その拒否理由が報告書に添付されています(ぜひご一読を!)。なお温暖化対策における原子力発電の問題点については、こちらのリンクをどうぞ。

それから、ここの更新をサボっている間に環境省からは以下の報告書が発表されています。

1999年度(平成11年度)の温室効果ガス排出量について
中央環境審議会地球環境部会「目標達成シナリオ小委員会」中間取りまとめ(H13.6)
中央環境審議会地球環境部会「国内制度小委員会」中間取りまとめ(H13.7)

世界の迷惑コンビ「ロン&ヤス」関係再来か!? (2001.7.03)

昨日の新聞各紙のトップをにぎわせた小泉首相とブッシュ大統領の日米首脳会談でのツーショット、思わず80年代の中曽根―レーガン時代を連想してしまいました。なにしろミサイル防衛構想という、かつての戦略防衛構想(SDI) ― スターウォーズ計画 ― の焼き直しみたいのまでありすしね。(ちなみにSDIは宇宙戦艦ヤマトの「反射衛星砲」のパクリだ、と思った日本人は当時数多かったに違いない。)

国会答弁と同様、不良債権問題でも構造改革問題でも、パフォーマンスだけで中身のない話が首脳会談でも繰り返され、しっかり現地のマスコミもそこにツッコミを入れてたようですが、中でもひどかったのが京都議定書の批准問題。(気候ネットワークによる記者発表「小泉首相の京都議定書を巡る米国での発言へのコメント」はこちら。)

アメリカ抜きの批准は考えていない」というこれまでの立場の表明に留まらず「ブッシュ大統領の決定に日本は失望していない」とまで言っちゃったものだから、(ブッシュ大統領、チェイニー副大統領と同様に石油産業の利益代弁者である)スペンサー・アブラハム・エネルギー省長官は、早速これを政治利用して「日本はアメリカと同じ立場になった」「これで京都議定書は死文化した」と記者会見で語ってしまう始末。

さらに今日は、福田官房長官の記者会見でも、「アメリカが戻れるように議定書修正案も考える」という発言。それって要するに、議定書の数値目標も期限も遵守措置を緩めて、議定書を根本から骨抜きにしようということでしょ?アメリカにとっては、これら議定書の骨組み自体を拒否して、石油産業を守りたいというのが本音なのだから、「アメリカが戻れるように」は「議定書の事実上の死文化」でしかないでしょう。

さらにいえばこの姿勢は、単なる(恥ずかしい)アメリカ追従というだけでなく、結局はアメリカを盾にした(そして「世界のためにアメリカを説得」というヒロイズム気取りの外交ポーズで隠した)「国益」の追求でもあるのでしょう。つまりアメリカをダシにして、もっとEUから妥協を引き出して、日本の削減義務を減らそうという経産省路線のシナリオなのでしょう。ちなみに、IISD (International Institute for Sustainable Development)のニュースレターによれば、先日のオランダでの非公式会合では、そもそもの昨年のCOP6決裂の原因になった森林シンクの問題や、途上国支援(クリーン開発メカニズム:CDM)での原子力発電や植林事業の問題がやはりネックになっていたとか。そしてこれらのイシューで、昨年の交渉時に「もっと森林吸収認めてよ」、「途上国に原発作らせてよ」(つまり、国内では原発建設が滞ってるので「原発輸出」させてよ、という原子力産業の利益代弁)と駄々こねてた国の一つが日本です。(他はアメリカとカナダ、オーストラリア。ただし当時はクリントン政権でゴア副大統領が途上国支援に原発建設を含めることを認めなかったため、原発問題ではアメリカは違う立場。) きっと今回も駄々こねたのでしょう。

ちなみに途上国支援の一環に植林事業を、という話題では、東京電力など日本企業がCDMの一環のつもりですすめているオーストラリアでの植林事業が、かえって森林を破壊し、温暖化の要因を作り出しているというWWF(世界自然保護基金)の報告書"The Clearcut Case: How the Kyoto Protocol Could Become a Driver for Deforestation"がとっても重要だと思います(日本語の解説はこちら)。EUが日本にこれ以上妥協すれば、こういう行為が「地球を護るため」という大義名分を得て、どんどん進められることになるのでしょう。

ところで先週末は、雑誌の仕事で東京に行ってたついでに、東京・青山の地球環境パートナーシップ・プラザで「地球の友・ジャパン」の主催で開かれた全米自然資源防衛評議会(NRDC)のデビッド・G・ホーキンス氏「緊急セミナー『ブッシュ政権と京都議定書―米国の最新事情』」に行ってきました。そのなかで印象に残ったのは、「ブッシュ政権を議定書に戻らせる一番の方法は、EUや日本が先に批准し、(ブッシュ大統領ではなく)アメリカ市民の意識を変えることである。このままずるずる批准を先延ばしにすればアメリカ市民は『やっぱりブッシュ大統領が正しい』『他の先進国が批准してないのに、なんでアメリカが批准しなければならないのか』という考えをますます強めてしまうが、アメリカが孤立すれば『ブッシュ大統領のほうが間違っているようだ』と考えるようになる。そうなれば、ブッシュ政権の『意識』は変えられなくても『行動(behavior)』は変えられる。石油業界も現状維持を断念して動き出すだろう」というホーキンス氏の指摘。当り前といえばすごく当り前の話だと思うのだけど、おもわず納得してしまいました。

そもそも国のような大きな政体レベルでの意思決定というのはいわば「多変数関数」ですから、別に為政者や利害関係者の「意識」そのものを変えて、同じものにする必要はないんですよね。マキャベリスティックに考えれば ― 政治というのは本来的にマキャベリスティックなものですし ― 「意識」は別でも、ある行動をとることが、それぞれの利害関係者固有の基準から見て、それぞれなりに理にかなったもの、得なものとなれば、決定へのベクトルはそろうわけ。ブッシュ大統領についていえば、一方にある石油業界からのサポートも大きいけど、他方で有権者の支持行動の変化は、直接あるいは政党所属の議員を通じて間接的に政権運営に大きな影響を及ぼしてきます。個々の議員レベルで見れば、たとえその議員が環境保護派でなくとも、選挙区での支持が減れば、次回選挙に響き得るので、議会での行動パターンが代わり、その分、大統領府も好き勝手にはできなくなります。現にホーキンス氏によれば議会では、共和党員も一枚岩でなく、ブッシュ大統領のエネルギー政策プランの多くの論点について拒否がなげつけられているとのこと。

日本の外交戦略も、上に述べたような権謀術数で動いてるのでしょうけど、その本音が透けて見えちゃってる分だけ、「最後の最後までアメリカを説得しつづける」なんていう純情ブリッコが気持ち悪い。ちなみに衆議院議員河野太郎氏のメルマガ「ごまめの歯ぎしり」6月29日号によれば、自民党内でもかなり上のほうまで、批准で腹をくくっているとのこと。「そこまで日本は、対米追随か、などと言われたら、外交が持たないという危機感が強い」そうです(そりゃそうだわな)。いったい誰が抵抗しているんでしょうか。(まぁ「対EU外交のためにとりあえず批准はしても、中身は骨抜きに」と考えてる「批准賛成派」も多いのでしょうけど。。。)

それにしても小泉政権の支持率、未だに90%近いって、どうにかならんのでしょうか。おまけに自民党支持率まで上がって、どうやら参院選では自民党が大勝しそうな勢いらしい。歴史の偶然とはいえ、森前政権がことごとく味あわせてくれた「失望」に対する反動での「安易な希望への飛びつき」というあまりにできすぎの構図に、暗澹たる気持ちを抱くのは私だけではないでしょう。。。

なおWWFジャパンの記者発表に「日本は、2010年までにCO2排出量を12%削減できる可能性を持っている−『地球温暖化問題解決のためのWWFシナリオ』より−」という記事がありました。