7.規制政策にかかわる行政府および議会の組織


7.1. 大統領府

 まず行政府・立法府内部では、第一に大統領府において、経済的イシューについては行政管理予算局(Office of Management and Budget: OMB)が、他の一般的な科学技術イシューに関しては、①環境、②国家安全保障と国際関係、③科学、④技術などの部門委員会をかかえる科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy: OSTP)がある。

 とくに重要なのはOMBである。そこでは情報・規制問題局(Office of Information and Regulatory Affairs: OIRA)によって、各規制当局で作成される個々の規則案のうち、各方面に大きな影響をもつものや省庁間調整が必要な重要な案件について、費用便益分析を中心にした事前の規制影響評価(Regulatory Impact Assessments; RIAs)や、既存規則の定期的評価が行われるほか、規制の優先度や省庁間調整のために各規制官庁の年間計画の評価が行われる。なおRIAsは環境保護庁(EPA)や食品医薬品管理局(FDA)など規制官庁内部レヴェルでも行われている。

 評価をめぐって省庁間またはOMBと規制官庁のあいだで論争が生じた場合には、副大統領とその政策アドヴァイザーの助言のもとで大統領が解決を図ることになっている。これらの作業は、大統領令12866号に従うものである。またOMBでは、政府業績成果法(GPRA)によって各規制当局に課せられた五ヵ年戦略計画(3年ごとに見直し)の評価も行われている。

 このような規制政策評価におけるOMBの役割の大きさ、その政策評価機構全体のなかでの中心性・集中性は、レーガン政権時代に確立され、ブッシュ、クリントン政権でも踏襲されたものである。なお、費用便益分析は、共和党が提出し1995年に成立した「リスク評価と費用便益分析に関する法律」によって、必要となる財政規模が大きく影響範囲も大きな規制規則の策定に際して、必ず行うことが義務付けられている。これに対しては、環境保護団体や環境保護庁内部からは、しばしば迅速さが要求される規制政策に対する大きな障害・妨害であるとの批判もある。

 他方、レギュラトリー・サイエンスに関わるところでは、OSTPの環境委員会が、以下の内容をもつ「気候変動」プログラムと「環境品質」プログラムを運営している。


表10 OSTP環境委員会のプログラム

気候変動

環境品質

米国地球変動研究プログラム

地球観測

気候モデル

気候変動の影響

国家気候変動評価

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

エネルギー技術

バイオ・エネルギー

炭素循環と除去

関連する立法と予算

メキシコ湾低酸素血症

生態系報告カード

サケの回復

海洋資源

大気の質および水質

有害物質

生物多様性

外来種および絶滅危惧種

生態系研究

自然災害の低減


 OSTPとならんで重要なのは、国家科学技術会議(National Science and Technology Council: NSTC)である。NSTCは、科学技術にかかわる大統領府内部の調整機関であり、「環境・天然資源委員会」、「国際科学工学技術委員会」、「国家安全保障委員会」、「科学委員会」、「技術委員会」の五つの下位委員会を運営し、とくに省庁をまたがる規模の研究開発プログラムの調整や予算調整を行っている。環境規制にかかわるものでは、環境・天然資源委員会(CENR)に、下記の副委員会や1999年に設けられた「省庁間作業部会」がある。

表11 NSTC環境・天然資源委員会の副委員会と省庁間作業部会

地球変動研究副委員会 (Subcommittee on Global Change Research)

大気の質研究副委員会 (Subcommittee on Air Quality Research)

生態系副委員会 (Subcommittee on Ecological Systems)

生物多様性と生態系情報学作業部会 (Biodiversity and Ecosystem Informatics Working Group)

毒性学・リスク評価副委員会 (Subcommittee on Toxics and Risk Assessment)

環境ホルモン省庁間作業部会 (Interagency Working Group on Endocrine Disruptors)

水銀省庁間作業部会 (Interagency Working Group on Mercury)

自然災害低減副委員会 (Subcommittee on Natural Disaster Reduction)


 大統領府が果たした近年もっとも大きな成果には、先に述べた大統領令12866号「規制に関する計画策定と影響評価」および国家政府改革パートナーシップ(NPR)の報告書『レギュラトリー・システムを改革する』に基づく1993年以来の改革、「リスク評価およびリスク管理に関する米国大統領/議会諮問委員会」の報告書『環境リスク管理の新たな手法』がある(補遺2参照)。

7.2. 議会

 次に、立法府(議会)には、大統領府のOMBとOSTPに対応する組織として、議会予算局(CBO)議会図書館(Library of Congress)議会研究サービス局(CRS)がある。CBOは規制政策の費用便益分析を行い、CRSでは、議会が求めるイシューに関する専門的な報告書を提供している。

 議会には規制政策に関わる委員会があり、公聴会が開かれる。上院では環境・公共事業委員会(Committee on Environment and Public Works)のスーパーファンド・廃棄物規制・リスク評価副委員会(Subcommittee on Superfund, Waste Control, and Risk Assessment)が、下院では科学委員会の国家科学政策研究(National Science Policy Study)が、それぞれ規制政策に関するテーマを扱い、公聴会を開いている。(後者の公聴会記録として、たとえばエネルギー・環境部門の記録を参照されたい。)また、先述のように、これら委員会は、EPAの科学諮問委員会(SAB)からの助言も受けている。

 ただし議会委員会は、先述の規制規則策定の過程で各省庁が行う公聴会と比べると公開性は少ない。(後者は原則として誰でも参加し、意見表明できる。)これは、議会委員会は、委員会の公開性、一般市民や利害関係者の参加可能性を保証する連邦諮問委員会法(FACA)に従う必要のある連邦政府諮問委員会(FACA委員会)から除外されていることを反映している。

 いうまでもなく議会は、ロビー活動を通じて、規制に関わるさまざまな利害関係者が働きかけ、意見や利害が代表され、争われる場でもある。米国環境法の制定は、すべて世論に動かされたものであり、環境保護NGOが世論をまとめ、政党と議会に働きかけることによって促進されたものである。