4.規則策定の流れ
ジャザノフによれば、米国レギュラトリー・システムにおけるもっとも典型的かつ包括的な規制規則策定プロセスは、大別して次の三段階からなる行政立法として進められる。
(1) 法定委任(legal mandate)と情報収集
(2) 規制行動の提案作成から最終案提出まで
(3) 利害関係者による訴訟
これら手続きは、行政手続法(APA)に従っている。民主主義社会の基本として、規則策定など行政権力の業務遂行を法によって厳格にコントロールし、手続き的な正当性を確保しようとする姿勢は、米国システムの顕著な特徴である。
4.1.法的授権と情報収集
規制規則の策定は、特定の分野について、省庁側からの策定の申し出があり、法令によって認可されたとき、あるいは法令によって省庁(agency)が策定すべきだと勧告されたときに行われる。
このような法的授権(legal mandate)を経て担当省庁が最初に行うのは、問題の危険事象に関する情報収集である。情報源には、①省庁内部、とくに省庁付属の研究機関(in-house
labs)や関連する国立研究所や、②公表済みの関連文献のレヴューがある。また省庁は、情報収集のために関連分野の研究プログラムを助成することもできる。
4.2.規制行動の提案作成から最終案提出まで
情報収集に引き続いて、省庁内のスタッフと専門家によって、
①省庁によるリスク評価、
②可能な規制手段(リスク管理手段)のオプション(選択肢)に関する研究、
③採択する規則案の選択
を通じて、規則案の提案とその根拠付けが行われる。
この作業に次いで省庁は、規則案を公表し、とくに複雑な規則ならば公聴会を開く。公聴会を経ない場合も含め、最低限、省庁は、案の告知と意見聴聞を行い、パブリックコメントを得ることが、行政手続法(APA)によって義務付けられており(notice and comment手続)、文書資料や、公聴会の記録、関連する情報や出来事の精確な記録などが取りまとめられる。
規則案の公表は、情報公開法(FOIA)に従い、他の法案と同様に、政府刊行物出版局(GPO)の連邦公報(Federal
Register)にて行われている。とくに1993年の同法改正以降は、インターネットでも公開されている。
以上の手続きを経て、最終案が練り上げられ連邦広報に公表されるが、その際、省庁には、公聴会での意見・コメントに対して省庁がどのように対応したかを公式に説明する義務がある。
4.3.利害関係者による訴訟: 科学的・政治的論争解決の場としての法廷
省庁の最終案の科学的妥当性や規制としての有効性、経済的費用便益などについて、利害関係者が不満をもった場合には、交渉・論争は、法廷(控訴裁判所)に持ち込まれ、論争解決がはかられる。この「司法審査(judicial
review)」が、米国規制規則策定の最終段階であり、規則が、科学的に見て恣意的なものでないか、憲法や、規則策定手続きに関する法令と矛盾してはいないかなどが吟味される。控訴裁判所で決着がつかない場合は最高裁判所に上訴される。
このような司法審査を求める権利は、行政手続法(APA)によって定められたものであり、裁判所は、行政庁の決定に恣意、専断、裁量権の乱用、その他法律に従わない行為があると認定された場合には、決定を取り消すことができる。
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