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エンパワメントとしてのサイエンスカフェ/理科教育

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本日(10日)は、大阪府立柏原東高校で、ジュニア・サイエンスカフェをやってきました。

スピーカーはNPO法人市民科学研究室の上田昌文さん。テーマは、上田さんたち市民科学研究室のメンバーが数年来続けている電磁波問題の調査を下敷きにした「携帯電話って、無害? 有害?」。会場は理科室で、参加者は、柏原東高校の生徒さんたちと、PTAの方、同校の先生方を含めて約20名、サイエンスカフェとしてちょうどいい人数でした。

生徒さんたちは、STS Network Japanで昔から懇意にしていただいてる同校の化学教諭のH井さんが顧問を勤める理科クラブのメンバーの皆さん。

そのなかの一人が司会を務め、はじめに校長先生のあいさつをいただいた後で、25分ほど上田さんがスピーチを行った。それから約1時間半、上田さんを囲んで、活発な質疑応答とディスカッションが続きました。予め質問リストを用意してカフェに臨んだ生徒さんたちも、やや遠慮がちながらも、意見を言ったりして、楽しんでいる様子でした。上田さんも述べていましたが、質問リストには、ちゃんと答えようと思ったら、ウ~ンと唸ってしまう鋭い質問が並んでいます。

生徒さんたちは、ふだん教室ではおとなしく、目立たない子たちが多いんだとか。でも、普段の学校の授業と違って、途中で食べたり飲んだり、聞きたいこと、言いたいことをそのまま口にできるサイエンスカフェ(そして上田さんの人柄)ゆえか、そんなことはありませんでした。

ちなみに理科クラブでは、学校の近くを流れる大和川の水質調査をここ数年行っていて、その結果が理科室の廊下にも掲示されてました。週に3回ずつずっと一箇所で定点観測してるそうで、その成果は、日本化学会が主催している高等学校・中学校化学研究会などでも発表しているそうです。

またこの調査は、文科省の「環境のための地球学習観測プログラム(GLOBE)」推進事業の助成も受けているそうです。GLOBE (Global Leaning and Observations to Benefit the Environment)というのは、「全世界の幼児・児童・生徒、教師及び科学者が相互に協力しながら、全世界の個々人の環境に関する意識の啓発、地球に関する科学的理解の増進、理数教育においてより高い水準へ到達するための手助けとなることを目的として環境観測や情報交換をおこなう、学校を基礎とした国際的な環境教育のプログラム」(GLOBE Program Japan HPより)で、1994年のアースデイに、当時の米国副大統領だったあのアル・ゴアの提唱で始まったものだそうです。その世界中の観測データは、GLOBE Program本家のサイトに集められていて、柏原東高校のページもあります。GLOBEからは、ときどきお礼の手紙も届くそうです。

同校のホームページには、昨年12月に東京で開かれた文部科学省指定事業第4 回「グローブ日本 生徒の集い」参加報告[PDF469KB]も掲載されています。理科クラブの生徒さんたちの立派な姿も写真で収められています。

それで思ったのは、こういう理科クラブの活動や、おそらくは今日のサイエンスカフェのような体験は、生徒さんたちにとって、自分自身に対する自信や誇りにつながる大切な経験なんじゃないかということ。ふつう、理科教育とかサイエンスカフェ(とくに日本版のそれ)というと、科学リテラシーや科学的なものの考え方を身につけましょうとか、理科好き、科学好きの子供たちを増やし、将来理工系の進む生徒や、科学技術を支持してくれる人口を増やそうとか、科学技術に関する教育的・啓蒙的な意図で行われることが多い。今日の生徒さんたちが将来、理工系の研究者やエンジニアになるとは限らないわけだけど、彼らにとっては、科学以前の、もっと大事な経験を重ねる機会になってるんじゃないでしょうか。

必ずしも科学者・技術者の卵としてではなく、自由に考え、自分の思いを口にし、行動できる一人一人の大人、市民になるため――自分にもそういう力があるんだと自信を持てるため――のエンパワメントの機会。とりわけGLOBEのような活動への参加は、高校生でも環境の問題に対して有意義な貢献ができることを示している点で、将来の市民として、大きな自負につながることだと思います。そんなふうに理科教育やサイエンスカフェが機能してるとしたら、かなり素敵なことなんじゃないでしょうか。これは、まさしくH井先生が長年取り組んでこられた理科教育のエッセンスでもあるのですが、僕にとっては、その実際を生徒さんたちの姿を通じて知れたことは、今回のカフェでの最大の発見、収穫でした。そしておそらくはそれこそが、理科教育に限らず、教育全体の一番大切なところなのでしょう。教育再生、教育改革が叫ばれる昨今ですが、改革を唱える人たちには、こういうことが実践されている柏原東高校のような現場をぜひ見て欲しいですね。

そこでふと思い出したのは、先月20日のサイエンスZERO(NHK教育)でサイエンスショップのことが取り上げられたときの眞鍋かをりさんの次のコメント。

こういう試み[*サイエンスショップやサイエンスコミュニケーションのこと]があると、私みたいな文系の人間は、[*科学技術が]すごく身近になるなという感じがしたんですけれども。今ある社会問題って、科学・技術に関連すること、すごく多いじゃないですか。でも、一緒に考えていきたくても、どうしてもなんか蚊帳の外っていう気分もちょっとあるわけですよ。それをやっぱり、こういう現場の最先端の研究をしている人と一緒にコミュニケーションが取れると、私も一緒に考えていっていいんだ、そういう問題に対して関心をどんどん示していっていいんだなっていう、なんか安心感が出てきますよね。

このコメント、サイエンスショップにしても科学コミュニケーション全般にしても、とくに「素人」の側にとっての本質をズバリ突いてると、ウチの同僚たちの間でも好評でした。つまり、科学の知識や考え方が身につくとかそういうことではなく、なによりも、自分も、科学技術やそれに係わる社会問題について議論の輪に入っていいんだという自己肯定感、自分たちも専門家と肩を並べて、社会問題に対して有意義な貢献ができるという自負心をもたらすところから始まる「市民としてのエンパワメント」が大切なんじゃないかということです。

そんな貴重な時間を、今日のサイエンスカフェも提供できていたとしたら、阪大コミュニケーションデザイン・センターがプロデュースするサイエンスカフェとしては、このうえなく成功だったと思います。

また、日ごろから理科クラブの活動を支え、今日のカフェの開催の場を提供していただき、ジュニアサイエンスカフェがもつ、単なる理科教育を超えた可能性を知る機会を与えて下さったH井先生を初めとする柏原東高校の教職員の皆様にも、大変感謝しております。

ちなみに、今日のサイエンスカフェの最後の「まとめ」の言葉として僕は、生徒さんたちの大和川の調査について、それが環境を守るためにどれだけ大切かを話しました。ちょうどディスカッションのとき、電磁波の健康影響でも食品の安全性でも、日本は、疫学調査など地味だけど、リスク評価やリスク管理にとって決定的に重要な地道な定点観測がすごく少ないという話をしていて、それにひっかけて、生徒さんたちの活動の大切さを話したのだけど、終了後の懇親会で、H井先生と、もう一人、T中先生から、「あの言葉を言ってくれて、生徒たちにとってすごくよかったと思う」といっていただいて、自分もすごく嬉しくなりました。実は、「まとめ」で喋ったときは、そんなに深いことは考えてなくて、たまたまカフェが始まる前に廊下で調査結果を見て、いいことやってるなぁと感心したので、言っただけだったのですが、それもまた生徒さんたちにとって大きな励みになっていたとすれば、自分としても、これほど嬉しいことはありません。

柏原東高校では、春以降も、阪大との協働でジュニア・サイエンスカフェを続けさせて頂く予定です。またGLOBEの活動を知れたことは、さらに枠を広げて、高校の理科設備を使って、高校生とその父兄の方たち、地域の人々、そして大学の学生や教員が一緒になって、環境調査などを実施するなど、高・大・地域連携のサイエンスショップを展開する可能性も垣間見せていると思います。次回のジュニア・サイエンスカフェも、また別のサイエンスカフェその他の科学コミュニケーションのイベントでも、参加者の皆さんと一緒に、各々の「市民としてのエンパワメント」につながるような機会を生みだせたらと思います。

<追記>
上田さんもご自身のブログで、今回のジュニア・サイエンスカフェのことを紹介されています。こちらもぜひご一読を。

天神山交響曲: ジュニアサイエンスカフェ

<追・追記>
柏原東高校のHPに、今回のカフェの参加者の皆さんの感想がアップされています。(T中先生が作られた携帯電話用アンケート集計によるものです。)

ジュニア・サイエンス・カフェ参加者の感想

生徒さんたちからは、次に向けてのリクエストもいろいろ出ています。次回も楽しみです。

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このブログ記事について

このページは、hirakawaが2007年2月11日 01:55に書いたブログ記事です。

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