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美しき同床異夢?―米国産業界が温暖化対策に動き出す

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『不都合な真実』の日本公開から3日後、そのなかでゴアが訴えている未来への希望を後押しするかのような明るいニュース。

<温室効果ガス>10年で1割削減を 米大企業が勧告発表
 【ワシントン木村旬】米国の大企業10社と環境団体は22日、地球温暖化を防止するため、今後10年間で二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを最大10%削減する目標の義務付けなどを求める勧告を発表した。米ブッシュ政権は削減目標の義務化に反対しているが、産業界にも削減目標を求める動きが広がってきたことで、同政権に対する圧力となりそうだ。
 勧告に名を連ねたのは、電機・金融大手ゼネラル・エレクトリック(GE)、化学大手デュポン、建設機械大手キャタピラーなど。ブッシュ政権は「削減義務化は米経済に打撃を与える」と説明してきたが、勧告は「気候変動への取り組みはエネルギー利用の効率化に向けた技術革新などが必要で、米経済にも好機だ」と強調している。
 勧告は、温室効果ガスの排出権取引などの活用で、ガスの排出量を今後15年間に現行から10~30%減などと段階的に削減し、2050年には20~40%の削減を義務付けるよう求めている。(1月23日11時5分配信 毎日新聞)

この勧告に名を連ねた企業と環境NGOは、United States Climate Action Partnership (USCAP)という団体を立ち上げ、そのメンバーは以下の通り。

  • Alcoa
  • BP America
  • Caterpillar Inc.
  • Duke Energy
  • DuPont
  • Environmental Defense
  • FPL Group
  • General Electric
  • Lehman Brothers
  • Natural Resources Defense Council
  • Pew Center on Global Climate Change
  • PG&E Corporation
  • PNM Resources
  • World Resources Institute

日本でも有名なゼネラル・エレクトリック(GE)、デュポン、リーマンブラザーズや、エネルギー関連企業も参加している。また、英国企業であるBP(ブリティッシュ・ペトリウム)は、2000年から社内での排出権取引制度を実施し、かなりの実績を上げている会社でもある(BPの排出権取引システム)。USCAPプレスリリースによると、10社合計の時価総額は7,500億ドル以上、4つの環境NGOの総会員数も100万人以上だという。

そして、USCAPが掲げる政策の原則は、以下の6つ。

  1. 気候変動のグローバルな次元に対し責任を持つこと (Account for the global dimensions of climate change);
  2. 技術革新のインセンティヴを創り出すこと (Create incentives for technology innovation);
  3. 環境効率的になること (Be environmentally effective);
  4. 経済的な機会と強みを創り出すこと (Create economic opportunity and advantage);
  5. 不釣合いに被害を受けているセクターに対してフェアであること (Be fair to sectors disproportionately impacted);
  6. 早期の行動は報われるということ (Reward early action).

中心的な政策提案は、政府が温室効果ガスの総排出量(総排出枠)を定め、それを個々の主体に排出枠として配分し、個々の主体間の排出枠の一部の移転(または獲得)を認める「キャップ・アンド・トレード」型の排出権取引制度の導入であり、その他も含めて、次のような報告書が公開されている。

United States Climate Action Partnership (USCAP)
報告書: A Call for Action(PDF- 623 KB)

report_thumb.jpg

これで本気でアメリカが動き出したら、スゲーなぁ。。

「2050年には20~40%の削減」なんて、ハッタリとも見えるけど、これだけの企業が言うってことは、それなりの現実的な裏づけや見通しもあるんだろう。米国政府の政策にも大きな影響力を持つシンクタンクWorld Resources Institute (世界資源研究所)も加わってるし。報告書にも書かれているように、企業側としても、積極的なビジネスチャンスを見出し、「対策が遅れると、その分、将来に急激な削減を迫られかねない」(読売新聞の記事より)という考えも強いのだろう。

他方、Environmental DefenseNatural Resources Defense Councilは、米国を代表する大手環境NGOで、長年、環境問題で企業や政府を相手に訴訟などで戦い続けてきたところ。USCAPに参加する企業サイドが生半可な覚悟であれば、連帯を組んだりはしないだろう。

また、上記のプレスリリースによると、TIME magazine、ABC News、スタンフォード大学が最近行った世論調査によると、85%の米国人が、「温暖化はおそらく(probably)起きている」と考え、さらに88%が「温暖化は将来世代を脅かす」と考えているという。このあたり、ゴアが続けてきたスライド講演や『不都合な真実』の効果だけでなく、カトリーナを初めとする現実の気候変動の脅威を実体験してることが影響してるのだろう。あとは、ほんと、ゴアが『不都合な真実』で言った様に、「政治家たちの決断」を待つだけといったところか。

そんなわけで、いよいよ超大国アメリカが重い腰を上げつつあるわけだけど、対してその「同盟国」日本はどうなんだろう?英国では、90年代末に、財務省からの依頼を受けた英国産業連盟(The Confederation of British Industry)のマーシャル会長が、気候変動税や国内排出権取引制度など、積極的な温暖化対策の政策パッケージを提案し(「マーシャルレポート」)、国内CO2削減目標20%(1990年比)を掲げた政府の気候変動プログラムの基礎になったりしたけど(参考:環境省中央環境審議会地球環境部会の英国気候変動政策調査報告書)、CBIの日本のカウンターパートにあたる経団連は、CBI/英国政府、今回のUSCAPが提案するキャップ・アンド・トレード方式の排出権取引制度や、気候変動税のような環境税の導入には大反対している。

たとえば、日本経団連タイムス No.2840 (2006年12月12日)の記事「若林環境相との懇談会開催~環境行政のあり方で論議」では、次のように述べられていて、どうも後ろ向きな感じが否めない。(そのためか、日本の国内排出権取引は、「自主参加」と排出枠の「自主設定」に基づく擬似的キャップ・アンド・トレード方式に留まっている。)

「環境税については、石油価格がここまで高くなり、国民、企業は重い負担感を持っている上、効果が期待できないことから反対である。個々の企業の排出量に対するキャップ・アンド・トレード制度は、企業統制そのものであり、中国等への生産移転が進めば地球規模での温暖化防止に逆行する恐れがある」

日本の産業界は今のところ、世界トップの省エネ技術や、自動車でもハイブリッド車や低燃費車の技術があるし、またそのために、更なる温室効果ガスの削減の「のびしろ」が少ないともいわれてるけど、すでに動き出してるEU諸国や、これから動き出しそうなアメリカを相手に、このままの状態で、どこまで優位を保ち続けられるのだろうか?アメリカも産業界が温暖化対策にシフトし、政府もそれを後押しするとなれば、国際競争上、アメリカやヨーロッパに利益のある何らかの「グローバルスタンダード」を、環境基準その他で打ち出してきて、日本だけ(つーか、中国やインドと一緒に?)グローバルマーケットの蚊帳の外ってことになりはしないか、ちと心配ではある。

またエネルギー源の転換にも不安がある。米国は、ブッシュ政権としても、エネルギー安全保障上の問題もあって、脱石油依存を進め、バイオエタノール利用の拡大を進めつつある。これに対し、日本のような狭い国土では、バイオエタノールの生産はほとんど期待できないという話を、バイオの専門家に聞いたことがある。となると、やはり(従来どおり)原発増設ってことになるのかもしれないけど、それはそれで核廃棄物(核のゴミ)という厄介な問題がある。(ついでにいえば、アメリカがバイオエタノール生産を拡大するということは、その分、食糧生産を減らすわけで、食料輸入大国の日本は、食糧安全保障の問題も立ち上がってくる。)

ちなみに経団連の「温暖化対策 環境自主行動計画2006年度フォローアップ結果概要版」によれば、フォローアップ調査に参加した日本の産業・エネルギー転換部門35 業種の2005 年度のCO2 排出量は、1990年比で「0.6%減少(2004 年度比で0.3%増加)となり、2000 年度から6 年連続で目標をクリアしている」とのこと。

だけどその一方で、環境省の「2005年度(平成17年度)の温室効果ガス排出量速報値<概要>」(PDF187KB)によれば、日本全体としては、2005年速報値で8.1%(1990年比)も増加してるのも事実。京都議定書で日本に課せられた削減数値目標は、1990年比マイナス6%だから、目標達成のためには、2012年までに14.1%も削減しなければならない。民生部分はもちろん、産業界も今以上に努力しないといけないのは明らかだが、税や規制に頼らないで企業の自主的取り組みだけでどこまでできるのか。日本企業のポテンシャルの高さは信じたいけど、それがちゃんと活かされるかというと、かなり不安だったりする。

今回、USCAPに連帯した企業と環境NGOの関係は、多分に「同床異夢」と呼ぶべきものなのだろう。企業が乗ってきたのは、やはり儲けにつながるという計算があるからに違いない。しかし、そういう同床異夢こそ、環境政策を現実化し、ひいては環境と経済をバランスさせる一番現実的で強固な絆(alliance)であるはずだ。また企業としても、同じ損得計算でも、短期的なものではなく、長期的な「持続可能な損得計算」に変わりつつあるのだろう。日本でもそうした「美しい同床異夢」や持続可能な損得計算ができるかどうか。かなり難しそうに思うのは悲観しすぎだろうか?

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