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共謀罪について追記(前)

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一昨日のエントリーで共謀罪――「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)」の改正案の第6条の2で規定――について取り上げた。そこでは反対論/警戒論の観点から書いたのだけど、その後、いくつか、「現実的見解」と思われる見解も見つけたので、リンクしておく。こういうのは、あまり反対論ばかりみていると、「妄想的ハンタイ論(Delusion-Based Objection)」にハマって、問題に対する現実的な「距離感」が狂う恐れがあるので。

これらを乱暴に要約すると、共謀罪で一番懸念されている、暴力団のような犯罪組織だけでなく、一般の市民活動や労働組合まで、処罰対象の「団体」になっちゃうんじゃないの?という問題については、処罰対象の「団体」とその行為の性格についての規定から、とりあえずは心配いらんよということになるらしい。

具体的にいうと、まず法案でいう「団体」とは、組織的犯罪処罰法の第二条が定めている「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるもの」である。したがって、ちょっと飲み屋で友人同士で「あいつ、いてもうたれ」と意気投合しても罰せられたりしない。第二に、処罰対象となる「行為」は、改正法案の第6条の2が示すように、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」または「団体に不正権益を得させ、又は団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるもの」に関する「共謀」(という行為)に限定されている。ここで「団体の活動として」というのは、組織的犯罪処罰法第三条にある「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの」として、という意味であり、「団体に不正権益を・・・」というのも、同法案第三条2で規定されているものである。これらのことが、いちおう法の濫用もしくは拡大適用の「歯止め」になっているというわけだ。

このうち二つめの「行為」に関する点についてもう少し詳しく述べておくと、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」という規定は、裏を返せば、その団体内で犯罪行為の計画が、集団的な意思決定の結果として、相当具体的に出来上がっているということでもあり、この意思決定結果としての具体的な犯罪計画の存在を立証できることが、法の適用の要件になりうるということである。この点について、法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会第2回会議議事録には、次のような説明(法務省担当者によるものと考えられる)がある。

また,組織的な犯罪集団の関与の要件を採用した結果,団体の活動として当該行為を実行するための組織により実行するということの共謀が遂げられるということは,相当具体的な犯罪計画ができておるということと表裏でございます。したがいまして,それが立証できるということは証拠上の合意の存在が確実に認められる場合であるということで,濫用防止といいますか,そういう観点からも十分な歯止めになっているだろうと思っております。

また第1回会議録にも、次のようにある。

共謀罪が成立するためには,単に漠然とした相談程度では足りず,目的,対象,手段,実行に至るまでの手順,各自の役割等,具体的な犯罪計画を現に実行するために必要とされる各種の要素を総合的に考慮して,具体性,特定性,現実性を持った犯罪実行の意思の連絡があることが必要であり,かつ,それで足りると考えられるものであります。

ちなみに、この点に関しては、bewaardさんによる、従来の刑法が対象とする個人=「自然人」と、今回の改正法が対象にしている団体=「法人」との違いに関する議論が重要だ。要するに、個人の意思がそのまま犯罪の実行につながる蓋然性を検証するのは困難だが、団体・組織の場合は、集団での意思決定という客観的に確認可能なプロセスがあり、検証しやすいという違いがあるということだ。bewaardさんは次のように述べている。

更に言えば、自然人と違って法人においては犯意が実行につながるかどうかがデジタルに判定できます。犯罪を行うとの意思決定の後においてそれを撤回する意思決定が行われていればつながりませんし、行われていなければつながります。自然人であればカッとなって犯意を抱いても冷静になったら思い返すということがありますが、法人にはそのような外形から判断不可能な意思の揺らぎはありません。

いいかえると、自然人の場合は、「犯意」の有無で取り締まろうとすると、内心・思想の自由の侵害という問題にも触れちゃうし、それが犯罪の実行につながる蓋然性の検証もできないという問題もあるけど、法人の場合は、複数者の間での意思決定と犯罪計画の作成という「行為」があり、この行為(つまり「共謀」という行為)を「犯罪行為」として定め、その達成を「犯罪行為の実行」と見ることができる、という具合に考えることもできるかもしれない。(この点で、犯罪行為の実行をもって罰するという従来の刑法の論理からの質的飛躍もなくなる。)逆にいうと、法人の場合でも、成員個人が「内心」で考えたり、(具体的な計画以前のことを)漠然と成員間で話し合った程度では、自然人と同様に、思想・信条の自由の侵害という問題や、それらが犯罪行為そのものの実行も、(新たに犯罪行為と定義される)共謀という行為に結びつく蓋然性の高さの検証の困難さという問題にぶつかることになり、共謀罪としても取り締まり対象にすることはできない、ということになるだろう。

ちなみに共謀罪反対論では、「共謀罪は思想の自由など内面の自由を侵す」という主張があるんだけど、上記のロジックから考えると、この批判はあてはまらないということになる。

そんなわけで、法制審議会の議論を素直に読む限りは、共謀罪の適用に対しては、団体性の認定と共謀行為の具体性(具体的な計画の存在)の証明という、まじめにやろうとすればクリアするのが相当に困難な濫用防止の高いハードルがあるということになる。したがって、共謀罪を導入するならば――これは国際組織犯罪条約を批准するならば必然的な選択となる――現実的な歯止め策としては、このハードルをいかに実効的に高く保つかが重要になってくるのではないだろうか。

この点についてbewaardさんは次のように述べている。(ここで「(犯罪の)構成要件を変えるよりも」とあるのは、具体的・明示的に外形的な構成要件を定めちゃうと、たとえば共謀者がみんな暗号か何か使って、直接的な犯罪実行を示す表現を使わないなどして、法の網をかいくぐることが簡単にできてしまうから。)

改善を考えるなら、構成要件を変えるより手続保障、つまり捜査の令状主義につき、裁判所の令状発行の要件を共謀罪に限って厳格化する方が実効的ではないかと思います。・・・裁判所が令状を出す判断を信頼できるのであれば、本件についてはそもそも弊害の心配はいらないわけで、条約と整合的な弊害防止策はいかに違法な捜査活動のリスクを減らすかという観点から検討すべきものとwebmasterは考えます。

まぁ、上記のようなハードルが保たれ、裁判所が捜査令状や逮捕令状の発行要件を厳しく吟味してくれるという条件が守られるなら(また、守られるための何らかの具体的措置が採られるなら)、意外に共謀罪は「切れない刀」なのかもしれない。そう考えてみると、共謀罪反対論が指摘する危険は、大部分杞憂ということができるかもしれない。そうであれば、現実的・実効的問題として問うべきポイントは、bewaardさんが言うように、「違法な捜査活動のリスクを減らすか」ということになるだろう。


そんなわけで、以上のことから、なんとなく安心した気分にもなるのだけど、やはりいくつか疑問が残るのも確かだ。これについては、エントリーを改めて書いてみる。

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このページは、hirakawaが2005年7月10日 16:55に書いたブログ記事です。

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