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これではただの押し売りじゃん

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カナダ産牛肉の輸入再開による国内市場での牛肉価格低下を前にして、アメリカ牛肉産業+政界が焦っている。ほとんど逆ギレ状態。

今日付けの各紙のBSE関連ニュースによると、アメリカの対応はこんなかんじ。(参照:(毎日朝日読売日経Yahoo!ニュースのBSE特集ページ))

  • 米下院のモラン議員(共和、カンザス)ら、農業州選出議員を中心にした超党派の約40名が3日、「日本政府が昨年10月に米国と合意した輸入再開を遅らせ続けるなら、米通商代表は早急に対日制裁を発動すべきだ」とする決議案を提出(ただし政府に対する法的拘束力はなし)。すでに上院でも超党派の議員20人が「日本政府が輸入禁止を早期に解除しなければ、米議会は報復措置を探ることになる」との書簡を日本側に送っている。他方、元農相で現自民党幹事長の武部氏は「米国が時間を決めていつまでにどうしろということについて、押し付けがましい要求は困る」、「全く言語道断な話です。日本に輸出しようとするならば、日本の水準に合わせてもらうということは当然」と批判している(エライぞ!タケベっち)。
  • その一方で、米上院は3日、カナダ産牛肉の輸入再開に反対する決議案を賛成多数で可決。モンタナ州の連邦地裁も2日、輸入再開を差し止める仮処分を決定。米政府は今月7日からの輸入再開を決めているが、議会と司法が牛海綿状脳症(BSE)対策の安全性に疑問を示したことで、輸入再開が遅れる可能性が出てきた。
  • さらに、日米の二国間協議だけでは不十分と考えたのか、在京米国大使館筋は4日、パリで5月に開かれる国際獣疫事務局(OIE)総会で、牛海綿状脳症(BSE)の発生と牛肉貿易の制限を規律する新たな国際ルールを提案する見通しを明らかにした。OIEは貿易関連での家畜伝染病対策の国際基準を作っている機関。米国が提案する新ルールでは、「1、2例のBSE発生が直ちに禁輸につながるべきではない」ということを主張しているという。BSEの発生が少ない場合に牛肉貿易を全面停止できないようにする内容になる見込み。このルールが採用されると、米国産牛肉の輸入を全面的に禁じている日本の立場が極めて弱くなる。
  • そのうえ米国政府は、輸入再開を巡り、米国が求めていた肉質と骨の成熟度による月齢判別方法採用の条件として、日本側が要求した追加データの提出を、「輸入再開の遅れにつながる」として、米国が拒否する意向を示していることが3日、明らかになった。農水省と厚労省の専門家会合は、月齢判別方法の採用について、統計学の専門家から、米国の提出したデータの信頼性に強い疑問が示されたため、「追加的検証または(輸入再開後の)検証が必要」との条件付きで2月8日に容認していた。関係者によると、農水省などが追加データ提出を米国に打診したところ、米国は「これ以上輸入再開を遅らせるつもりか」などと強く反発し、逆に輸入再開の時期的なメドを示すように求めてきたという。(←文字通り「逆ギレ」だな。ちなみに「牛の月齢判別に関する検討会」の第二回の概要によれば、「米国側は、日本側のコメントに対し、必要な追加的情報を提供することとなった」とある。約束違反じゃん。)
  • さらに米政府担当官は4日、都内で記者団と懇談し、日米で合意している「生後20カ月以下の若齢牛限定」の輸入条件について、7月に予定されている条件検証時期に、基準月齢を緩和するよう日本に求める考えを明らかにした。米国のBSE(牛海綿状脳症)検査対象が「31カ月以上」であることから、「30カ月以下」を求めてくると予想されるという。これに対し日本側は、7月の検証時期が、食品安全委員会が「20カ月以下」などの輸入条件を検討する時期と重なる可能性が高いことから、条件緩和の先行要請には応じられないとみられるという。

もう、わがままジャイアン全開です。単純な話、こっちは「客」です。客が食いたくねーって言ってるものを、テメーの不備(後述)を棚に上げて、経済制裁という脅しを振りかざしてまで食わせようとするなんて、とんでもない商売人。ただの悪質な押し売りでしかない。かつての自動車摩擦でもそうだったと思うけど、テメーの技術がないから日本車に負けてるだけのくせに、制裁ちらつかせて経済問題を政治問題にすり替える。「自由貿易」とか「市場原理」が大事といいながら、テメーの都合次第でいとも簡単に市場原理をないがしろにする。それがアメリカの「自由」というやつの正体。そういえばLIVE2005ニュースJAPAN で、制裁決議のニュースを報じてたとき、米国側の記者会見の一瞬の映像で"science-based"がどうとかと聞こえたが、まぁ、要するに日本の規制は非科学的で、科学に基づいてただちに輸入再開すべきだとでも言ってたのだろう。しかし、追加データの提出まで拒否し、経済制裁まで持ち出して科学的な検討をすっとばそうとしているのは、アメリカのほうだ。

ついでにいっておくと、日米の間に横たわっているのは、検査基準に関わる月齢判別法の信頼性に対する疑いだけではない。日本のマスコミは、ほとんど「検査」ばかりに焦点を合わせているけど、検査だけではBSE対策としてはまったく不十分。飼料規制(反芻動物の肉骨粉を牛に与えないフィードバン)と化製処理(反芻動物の材料を加工処理するレンダリングで高温・高圧処理をすること)、特定危険部位(SRM)除去の徹底――これだけでは足りないのではないかという話もあるが――が揃ってはじめて対策は機能する。

そしてアメリカは、欧州連合の地理的BSEリスク評価(GBR)によって、フィードバン、化製処理、SRM除去すべての点で、三段階評価で最悪の"Not OK"、つまり

  • フィードバンがNot OK: 意図的な給与が行われている可能性があるか、牛飼料が交差汚染を受けている可能性が高い。
  • 化製処理がNot OK: 高リスク材料も低リスク材料も化製処理時に133℃・3気圧・20分の加圧処理されていない。
  • SRM除去がNot OK: SRM又は死亡牛が化製処理され、飼料原料として使われている。

と評価され、総合的に見て、対策システムの状況は「極度に不安定」で、感染が広がる怖れは増大しているとされている(参考:米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告。またGBR評価については、今年2月10日の第81回食品安全委員会でも説明されている。資料はこちら[PDF])。またSRM除去については、その杜撰さを指摘する報道や、食肉加工工場の労働者検査官の訴えもあり、それらが果たして例外的なものなのか一般的なものなのかは、何も明らかにされていない(関連エントリー:拙速な米国牛輸入再開を防ぐためのチェックポイント)。ちょっと前に島村農水大臣が「全頭検査は世界の非常識」と国会で発言して物議をかもし、発言を修正するなんてことがあったが、それ以上に非常識なのは、アメリカの飼料規制や危険部位除去体制ではないのだろうか?

それにしても、農水省や食品安全委員会の役人は大変だなぁと思ってしまう。今、安全委で審議中の国内対策の見直しにしても、米国の問題がなければ、さらに米国がジャイアンぶりをここまで押し通してこなければ、相当ラクに進んだだろう。いうまでもなく食品安全委員会の仕事はBSE問題だけではない。他にも手間のかかる難儀な課題、BSEよりはるかに大きなリスクがたくさんある。日本人にとってより大きな問題――いわばパンドラの箱――はコメのカドミウム汚染だという話もある。安全委はBSE問題に関するリスクコミュニケーション意見交換会」を全国行脚で行っているが、それは、行政サイドも具合のいい落としどころが見つかっていないことの現われではないかとも思える。

米国の圧力に屈したようなかたちで輸入再開――ここまでくると、アメリカが適切な政策を施さない限り、これは避けられない――をすれば、消費者の信頼は(再び)地に落ち、消費者団体との間には、昔ながらの対立構図が今後もずっと繰り返されるだろう。かといっていつまでも禁輸を続ければ、米国が本格的に制裁措置をとり、そうなると経産省や外務省からのプレッシャーも大きくなるだろう。また、日本の外食産業の利益も考えなくてはならない。意見交換会では、外食業界のオジサンたちのヤジは大変見苦しいのだが、その裏には業界で働く人たちの生活がある。企業なんだから、いろいろ工夫して米国産に頼らないメニューを開発してよという気もするが、それもコストがかかるし、またそうすることで価格が上がれば、消費減による収益減少につながりかねない。まぁ、個人的には、週に何度も牛のくず肉を食べたいなんていうのはある種の習慣性中毒で、日本には他にも美味いもんいっぱいあるんだし、そちらに重点シフトすれば、外食産業として成り立つような気もするんだが、そう簡単にはいかないんだろうな。でも、基本的に過剰な牛食は、健康負荷だけでなく、環境負荷も社会的負荷も極めて大きいんだし、今の規模よりずっと縮小すべきなんだが。(あと禁輸前の、リスクの高い米国牛肉の在庫――普通は回収・廃棄すべきもの――を「限定販売」とかいって売りまくってる○○屋は何か社会的制裁受けるべきなんじゃないだろうか。せめてタバコのように「米国産牛を食べ過ぎるとvCJDに感染する恐れがあります」と明示して、"Eat at your own risk"ってことで食べてもらうべきだよな。でも、厳密に考えると、輸血や手術時の器具の汚染で他人に感染する恐れがあるから、"your own risk"には留まらないのだけど。)

今日は、農水省付属の研究所からお客さんが来てて、夜も一緒に飲みに行ったのだが、ほんとこの問題は出口が見えないということで話は一致した。来訪の目的は、BSE問題では全然なくて、コンセンサス会議のような参加型テクノロジーアセスメント、もしくはパブリック・コンサルテーションの方法を日本で制度化するにはどうしたらいいかという話だった。その中で話に上ったのだが、ただ意見を聞くだけの意見交換会をいつまでも繰り返していないで、一度ちゃんと、ステイクホルダーに対するコンフリクトアセスメントをやってみたらどうだろうか。その際、「どういう結果を望むか」だけでなく、「こうなるのだけは絶対避けて欲しい」という妥協の限界ラインをそれぞれのステイクホルダー――それぞれ決して一枚岩ではないだろう――に明らかにしてもらう。「こうして欲しい」だけでは、絶対に両立不可能かつ実行不可能な結論が並ぶだけだろうから、まずはそれぞれが望まない結論を並べることで、それぞれのステイクホルダーが忍受・妥協しうる結論の範囲を探し、そこから現実的な落としどころを探すのだ。ここまで対立してたら、どの立場も互いに譲り合わないと、何も実行可能な結論は出ないだろうし。まぁ、できれば、消費者団体と外食産業が、それぞれの最大限の要求ばかりを主張し、反目しつづけていないで、消費者の利益を守りつつ外食産業も生き残れるような方法を一緒に探るような本音トークができるといいのだろうけど、それはあまりに美しい理想像かな。。今やってる意見交換会も、たとえば第20回食品安全委員会プリオン専門調査会の参考資料にあがってる意見のまとめなんかを見ると、いろいろリスク評価や管理に役立ちそうな意見があがってる(日本の対策もまだまだじゃんと思わざるを得ない指摘も多い)ので、続けていくといいが、そろそろ利害調整をやっとかないと、結論は出ないんじゃないだろうか。

<追記>
今日のニュース。生体牛も検査できる方法らしい。

生きたままでBSE判定 血液採取、感染を早期発見
生きている牛の血液を採取し、牛海綿状脳症(BSE)の感染を短時間で調べる装置の開発を、北海道大電子科学研究所の田村守教授(生体分光学)らのグループが進めている。夏ごろまでの完成を目指しており、感染牛の早期発見や、これまで難しいとされてきた若い牛の感染確認に役立つことが期待される。・・・(共同通信) - 3月5日6時12分更新

生体検査はできないけど、手間とコストの大幅削減につながりそうな検査法の開発。

東大・伊藤ハムなど、25分でBSE診断のチップ開発 (日経)
東京大学は4日、東北大学や伊藤ハムと共同で、BSE(牛海綿状脳症)の疑いがある牛を短時間で安価に調べる診断チップを開発したと発表した。検査時間は25分で従来の6分の1に短縮。検査コストも10分の1程度に削減できる。東大などが設立したマイクロ化学技研(川崎市、渡慶次学社長)が、1年以内の実用化を目指す。
 異常プリオンを見分ける抗体を独自開発し、検査に必要な脳の量が微量で済むようになった。検査に必要な試料が大幅に減ったため、ガラス板に掘った狭い溝の中で抗体とプリオンを反応させることが可能になり検査時間が大幅に短くなった。人件費や試薬のコスト削減により、北森教授は「1頭当たりの検査コストは6000円から9000円程度になるのではないか」とみている。 (20:33)

これらにも当然検出限界はあるわけだけど、現行のものより感度は良くなるのかな?実用化までは十分な信頼性のテストが必要だろうけど、コストも手間も省けて、なおかつ生体牛まで検査できるとなれば、国内牛の検査基準の月齢の線引き論議にも大きく影響してくるだろう。(ていうか、当然考慮しないといけないだろう。)ついでに、コストも一部日本が負担してやる――消費価格に上乗せしても微々たるもののはず――から、米国にもこの検査法を導入するよう迫ってみてはどうか。それでも嫌がるとすれば、まぁ、感染拡大の酷さを隠したいってことだな。

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このページは、hirakawaが2005年3月 5日 00:06に書いたブログ記事です。

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