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BSE国内対策見直し案―相変わらずマスコミは偏向報道

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昨日の夕方のエントリーでも紹介した農水省・厚労省から食品安全委員会へのBSE国内対策見直し案の諮問だが、マスコミ報道の偏りぶりは相変わらず。もぉ、いちいち引用するのもイヤになるくらい。国内対策の点でも、またそれとの「同等性」を要求されている米国産牛肉輸入解禁条件についても、読者をミスリードするものばかり。

もう一度、見直し案の骨子を引用しておくと

(1)と畜場におけるBSE検査について、牛海綿状脳症対策特別措置法第7条第1項の規定に基づく検査対象となる牛の月齢の改正及び検査技術に係る研究開発の推進
(2)特定危険部位(SRM)の除去の徹底
(3)飼料規制の実効性確保の強化
(4)BSEに関する調査研究の一層の推進

マスコミの報道はほとんど(1)の、しかも検査基準月齢の改正の部分しか注目せず、「基準緩和で輸入再開条件が整う」みたいな書き方をしてる。検査基準に関する食品安全委員会委員の間の意見の相違の存在について触れている点で比較的まともな毎日新聞の「BSE対策:解説 徹底したリスク評価の実施を」にしても、検査基準問題以外の論点には触れていない。

このような焦点当てがなぜマズイのか?まず国内対策についていうと、第一に、BSEを根絶し、牛の間でも牛と人の間でも感染するリスクをなくす根本的な施策は、上記(3)の飼料規制であるが、これはまだ必ずしも徹底されているとはいえず、見直し案は、(1)海外からの飼料輸入段階、(2)国内の飼料販売段階、(3)国内の飼料の使用段階における飼料規制の遵守に係る検査・指導体制を一層強化することが必要であるとしている。これは、検査を緩和した場合はもちろんのことだが、仮に全頭検査を続けたとしても、検出限界以下の感染牛は見逃されるため、いずれにしてもコンプライアンス(法令遵守)の徹底が不可欠である。検査ばかりに注目させる報道は、この最重要のポイントから消費者の目をそらす危険がある。

第二に、牛から人への感染防止策としては、検査が仮に全頭を対象にした場合でも見逃しがあることから、(2)の特定危険部位の除去が最も重要である。そしてこの点については、食品安全委員会の『中間とりまとめ』でも、今回の見直し案でも指摘されているように、と畜の際に、失神させた牛の頭部にワイヤ状の器具を挿入して脳神経組織を破壊することによって、血管内に異常プリオンが入り、食肉部分に入ってしまう怖れのある「ピッシング」が行われていると畜場がまだ多い。いちおう担当官庁である厚労省は、ピッシングを禁止するよう指導しているが、「指導」となっているのは、ピッシングはと畜の際に牛が暴れたりして作業者を怪我させる怖れがあることと、ピッシングを止めて別方法を取るには、設備の改造が必要だからだ。見直し案では、「厚生労働省において、既にピッシングを中止したと畜場での事例を整理して都道府県等に対し情報提供を行い、と畜場におけるピッシングの中止への取組みの指導を推進するとともに、と畜場の現状を踏まえつつ、引き続き中止の方針で検討を進める」としているが、設備変更には当然費用がかかるわけで、そのあたりも含めて、どうやって危険部位除去の徹底を図るのかを注視しておく必要がある。ところがマスコミ報道は、この点についても全く触れていない。

また(1)の「検査技術に係る研究開発の推進」は『中間とりまとめ』でも求められていたことだが、その結果、より高い感度の検査法や生体牛でも検査できる方法が実用可能になった際には、再び、検査基準月齢を下げるか全頭検査に戻るかする――これは人への感染防止だけでなく感染状況の把握、感染源の特定という点でも役立つ――わけで、再びアメリカとの摩擦の種となるだろう。その点についてもマスコミはぜんぜん触れていない。

他方、輸入再開問題については、先日も書いたように、(2)の危険部位除去、(3)の飼料規制(交叉汚染防止)、そして検査による感染状況の把握など、さまざまな点で米国のリスク管理体制には、ズサンなところや疑うべきポイントがたくさんある。感染状況の程度によっては、仮に月齢確認ができるようになって、輸入牛が20ヶ月齢以下だという保証が得られても、それによる人への感染の怖れは無視できない。少しずつでも繰り返し食べつづけた場合の蓄積効果についても「ない」という明確な証拠はない。

もっと注意しなくちゃいけないのは、エキスなど牛の成分を含む加工品のリスクだ。食肉用は20ヶ月以下が大半としても、加工品はどうなのだろう?と畜した牛から取るのだろうから、それらも若い牛の可能性は高いが、たとえそうでも、それには特定危険部位が混ざっている可能性がある。アメリカの定義では、腸と扁桃以外は30ヶ月齢以上じゃないと除去しないからだ。これは、感染した牛ではまず、腸と扁桃に以上プリオンが溜まり、その後しばらくしてから脳や脊髄に溜まるという体内メカニズムについてのこれまでの知見に従うものだが、汚染状況がひどく、若いうちから汚染された肉骨粉に暴露されていれば、若い牛でも脳や脊髄に溜まっている可能性はある。(確率は相当低いだろうけれども。)

いずれにしても、たとえ日本の検査基準が緩和され、米国の月齢確認体制が整ったとしても、日本のリスク管理レベルとの同等性を求める限りは、それらよりはるかにアメリカにとっては乗り越え難い「不確実性のハードル」が存在しているのである。輸入問題の真の争点は、見直し案の(1)よりはむしろ、(2)、(3)にこそあるのだ。その点を全く伝えず、あたかも輸入問題のハードルは検査基準と月齢確認だけであるかのような報道をするマスコミというのは、いったいなんなのだろう?

そして、マスコミがそういう一面的――あまりに一面的――な報道を繰り返すことで、米国牛に懸念を抱いている消費者や消費者団体は、ますます「防波堤」としての「全頭検査ケイゾクー!」ばかりに固執し、国内対策としてより重要な危険部位除去や飼料規制の徹底と、それらの監視・監督体制の強化、そのための費用と人の投入という問題から目をそらしてしまうことになる。「原則緩和だけど、三年間は自治体の全頭検査を全額補助」なんていうおかしな二重基準政策が出てきてしまう。その状態でもしも輸入再開なんかしたら、アメ牛が売れなくて、二重基準を「不当な非関税貿易障壁だ」として、米国がWTOに訴えてくることだってありうる。実際、二重基準の採用は、一面では「消費者の不安を取り除く」とあるが、それはいいかえれば国内生産者保護である(だからこそ自民党農水族も基準緩和に積極的に反対した)。生産者を守ること自体は国家として当然だが、二重基準なんてやり方でやるのは、明らかに過剰な保護措置で不当と見なされても仕方ない。

ちなみにWTOのSPS協定(衛生植物検疫措置協定)では、国際基準より厳しい保護措置を取る場合の立証責任は輸入国側にあり、輸入国は、危険性があることを科学的に立証しなくてはならない。「米国の体制には疑いがある」というだけではダメなのである。(ましてや「消費者の不安対策」なんて理由も認められない。)しかしながら、米国牛の危険性を証明するために必要な米国牛やそのリスク管理体制についてのデータは、日本側が直接調べない限りは、それ自体が疑わしい米国政府のものを使わざるを得ない。しかも、これは、別に二重基準をとらなくても、月齢確認以外の難点を輸入再開条件に掲げるだけでもぶつりかりうる壁でもある。ブッシュが選挙で負けて、ケリーが消費者団体代表を農務省長官にしてくれたり――環境保護庁(EPA)では過去、そういう実績がある――すれば、信頼できるデータを出してくるかもしれないが、ブッシュが再選して、WTOに訴えたりするとどうなるか分からない。日本政府――とくに外務省――は、これを怖れて、月齢確認以外に目をつぶって、非科学的な政治決着を図ろうとしているのかもしれない。少なくとも、まだまだ不十分なリスク評価と予防原則を盾に、罰金を払いながらも、米国からの合成成長ホルモン肥育牛の輸入を長年禁止している欧州連合(EU)のようなことは日本政府には期待できないだろう。

しかし、そうなると、食品安全委員会も含めて日本の食品安全行政の信頼はガタ落ちになるかもしれない。というか、もう落ち始めているのかもしれない。こうなったらリスクコミュニケーション戦略としても、食品安全委員会は、できるだけ早いうちに、月齢確認以外のものも含めた輸入条件のリストを特定し、公開するしかないだろう。もちろん、飼料規制や危険部位除去の安全性について十分な証拠を挙げて示すことができるのなら問題はない。しかし、それらに疑いが残っているのならば、それははっきりと米国に対してもちろん、国民に対しても示さないといけないし、マスコミにもしつこく言い聞かせねばならない。たとえ結果的に、政府が米国(とWTOルール)に屈しても、食品安全委員会が科学的に正当な態度を貫くならば、疑いを残したまま輸入再開を決断した責任とそれに対する非難は、リスク管理機関の厚労省・農水省、そして外務省や政権に留めることができるだろう。それは、食品安全委員会の信頼性を守るという以上に、リスク評価とリスク管理の分離による前者の「独立性」というリスク分析システムの要諦を守り、それを柱とする新しい食品安全行政そのものの信頼性を守ることでもある。これをしくじってしまえば、今後、食品安全委員会がいくら正しいことを主張しても、信用されない恐れがある。それだけは避けなくてはならない。

ふんばれ!食品安全委員会。

(追記1)
以前にも書いたことがあるが、小生は、個人的には、BSEのリスクそのものはそれほど気にしていない。一番気にしているのは、米国の管理・検査体制に対する疑いについて、従米ヘタレ政治決着や、科学的に問題のある貿易ルールによって、科学的・法的な筋が捻じ曲げられることである。

(追記2)
米国牛が大丈夫かどうかの目安のひとつは、それを昨年末までずーっと食べてた日本人の中から、そろそろvCJDが見つかるかどうかだ。国内のCJDについては、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班」クロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランス委員会が調査をしていて、厚労省の厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会に報告しているが、最近の報告の概要によると、今のところvCJDはゼロである。これは、アメ牛は大丈夫ということを示しているのか、それともまだ感染者が潜伏期間にあるだけなのか。どっちで解釈したらいいんだろうか?

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このページは、hirakawaが2004年10月16日 03:05に書いたブログ記事です。

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