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日米BSE問題―NOといえた小泉首相

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BSE問題については、先日の続きを書かなきゃいけないんだけど、一昨日夜あたりから本業(とくに原稿執筆と出張)が忙しくなってきたので、もう少し先になりそう。いまも出張先で、とある本の書評を書いているところ。

で、そんなおり、台風情報を、と見ていたNHKのニュースで、先日の日米首脳会談で、大統領選を控えたブッシュ大統領が、案の定、「米国牛の輸入再開をすぐにも」と、しかも「この問題は官僚や科学者に任せられる問題ではない。政治家のリーダシップでこの場で再開決断を」――つーことは、科学的議論や法的手続きもすっ飛ばせってこと――と「政治決着」を小泉首相に強く迫ったところ、我が首相は「輸入再開は科学的に判断されるべき」ときっぱりと断ったのだそうだ。日頃小泉首相には批判的なことばかり書いてるけど、こればかりは見直した!グッジョブ!「NOといえるコイズミ」!

しかし、散々日本の対策を「非科学的」と言い続けてきたのは、どこの国だったろうか?「科学」も「民主主義」も、都合のいい言葉だな。

なお、外務省のHPに掲載されてる会談の概要には、下記のようにあるだけで、「NO」の話は出ていない。

(イ) 両首脳は、できるだけ早期に日米間で牛肉貿易を再開することの重要性につき意見の一致を見た。
(ロ) また、本年4月以来の両国の継続的な努力により、問題解決に向け、相当の進展を見せているものの、早期解決のため、日米は引き続き協力していくこととなった。
(ハ) このため、両首脳は、牛肉貿易再開に係る具体的事項につき、両政府が速やかに協議を行うことを確認した。

で、テキストソースで何かないかとNHK、各新聞社サイトやYahoo!ニュース、gooニュースを見に行ったのだが、今のところないようだ。そのかわり、こんなのを見つけた。

- <BSE問題>島村農相 米国産牛肉の輸入再開に積極姿勢(毎日新聞) (28日1時24分)
- 米国産牛肉輸入「急ぎたい」=島村農水相(時事通信) (28日1時3分)

おいおいおい、と思ったら、こんなのも。

- <BSE対策>新農相、新厚労相とも慎重発言(毎日新聞) (27日22時58分)

それで、「いったいどっちなんだ??」と思って、農水省のHPにある「島村農林水産大臣就任記者会見概要」を見たら、こうあった。(強調筆者)

Q: BSE問題なんですけれども、今、食品安全委員会の諮問に基づいて、リスクコミュニケーションというのを開いておると思うんですけれども、その中で、生産者団体、消費者団体からいろんな意見もあってですね、自治体も含めて、この全頭検査の見直しとかですね、新たな基準に対する不安という声も聞かれるかと思うんですけれども、この新たな基準の見直しについて大臣はどのようにお考えでしょうか。
A: これは国によってですね、国民性もあるのでしょうし、また今までの長い習慣もあるのでしょうが、対応が随分異なるということは、私、この大臣就任の前からいろいろ耳にもし、また我々も関心を持ってきたところであります。そこであまり、これ、何でもかんでも過敏になり過ぎてもあれではありますけれども、何たって食べることでありますから、うっかりそれを食べ続けていたらある日突然健康を冒されたということになるとこれは重大な話になりますから、今まで随分科学的にこれの解明をし、それなりの前進を見ているところですから、1日も早くですね、やはりこの問題の解決を図って、少なくも消費者が変な不安を持たない中に、再び安くておいしい肉をまた食することができるようになったというようなものに、私はしなければいけないという意味では、決して時間の経過をなおざりにしないで取り組みたいと思っているところであります。先般、総理、日米の首脳会談でこれらについて十分話し合いをし、一致をみたようでありますが、それぞれの言い分というものをよく精査する中で対応していきたいとこんなふうに思います。
Q: 米国産牛肉の輸入再開なんですけれども、この目途ですね、例えば、局長級会合とか、専門家レベルの会合を開くというような話もあったかと思うんですけれども、この時間的感覚というのはどのように考えていらっしゃいますでしょうか。
A: アメリカにすれば、ご承知のように、いわゆる大統領選挙が11月にあるわけですから、その前に何かのはっきり解決をみたという結果が欲しいんだろうと思います。ただこれは政治的な問題でなく、やっぱりもっと大事な科学的な、いわば立証と言いましょうか、確信の持てる解決が基本になければいけないわけですから、その辺は更に、精力的にこれに取り組んで、可能な限りこれを早く解決したいと思っております。ただ、聞くところによると、アメリカからの輸出がですね、日本向けというのは、アメリカの輸出の10%、20%を占めるような大きなものでもないので、そんなにアメリカが殺気立った、何か姿勢でいるというふうには、私は今までは聞いてこなかったわけです。ただ今度はその担当大臣でありますから、従前のような部外者の関心というものだけで片付けられませんから、十分これから、この問題、もっと突っ込んでですね、なるほど変わり映えがしたと言っていただけるように努力はしたいなと思っているところです。

まず、これから分かるのは、リスク管理が文化依存的である――実務者にとっては当たり前のことなんだが――という認識と、(実は先の新聞記事でもわかるのだが)基本的に消費者の納得というのを気にかけている姿勢。これは役人からいろいろレクされたからなのか、彼自身の見識なのかわからないけど、大事ですね。

次に、対米関係については、政治的決着でなく科学的検討を前提とすることをちゃんと言っている。もちろん、こういうとき「科学」は諸刃の剣で、「リスクがあるという証拠を出せ」というふうになると消費者の健康保護にとっては厳しいことになる。今のところ、とくに20ヶ月齢または検出限界以下の若い牛のリスクは定量的には不明だというのが食品安全委員会の見解だが、この「不明」を「リスクはとても低い(orない)」という方向で解釈するか、それとも「リスクは高いかもしれない」という方向で解釈するかで、道は大きく分かれる。検出限界以下のものは検査しても無意味なので検査対象から外すとしても、フードチェーンへの異常プリオンの混入をできるだけ減らすために、飼料規制や危険部位除去など、検査以外のリスク管理体制を強化することや、若い牛のリスク、とくに安全委員会も指摘している、少量でも繰り返し異常プリオンを摂取した場合の蓄積効果や、最小発症量に関する解明を進めたり、より感度の高い検査法の開発なども進めていかなければ、消費者の健康保護の観点から不確実性を解釈し、科学を用いることにはならない。そのあたり、どっちに転ぶかはウォッチが必要だが、とりあえず「政治決着はいかんよ」という姿勢は大事。

それと、大統領選云々と、禁輸はアメリカにとっては大したことじゃないという見解は、もしかしたら、大統領選が終われば、ブッシュが勝とうと負けようと、米政権からのプレッシャーは減ると踏んでるような印象を受けるが、どうだろう?ま、いずれにしても、要ウォッチですね。

ちなみに小生のBSE問題についての考え方は、今のところ次のようなものである。まずリスクそのものについては、国内牛に限って言えば、リスクは十分小さく、受け入れ可能だと思う。検査を部分緩和しても他の現在の対策を継続・強化していけば、国内牛によってvCJDに苦しむ人は出てこないだろうとも思う。(ただし米国牛は状況が不明なので、警戒したい。)もともとBSEの人への感染率は非常に低いし、食物起源の致死的な健康被害は、BSEよりはるかに大きいものがほかにもたくさんある。BSEのみにこだわるのは、ちょっとバランスを欠いていると感じる。しかし、同時に、同じ死ぬなら、vCJDは悲惨だなぁと自分事でも他人事でも思うし、ただでさえリスクのある食べ物はほかにもいっぱい――しかも、添加物や農薬ではなく天然の食品成分でも発ガンなどのリスクがあるものはたくさんある――のに、さらにこんな治療法のない厄介な病気のリスクが付け加わるのはいやだよなぁとも思う。その点で、時には神経質すぎるようにも見える消費者団体などの考え方は、個人的に理解できる。

でも、小生にとってBSE問題で一番こだわりたいのは、科学的・法的な筋をちゃんと通して欲しいということ。リスクが小さかろうが大きかろうが、通すべき筋は通して、政治的圧力で捻じ曲げないで欲しいということだ。もしも筋を曲げるようなことをすれば、せっかく新たに作った食品安全行政システムの信頼は瓦解する。それは食肉だけでなく食品業界全体にとっても悲劇だろう。それだけは避けて欲しいし、それは行政の中の人たちも同じ気持ちだろうと信じたい。また、食品安全行政の改革は、日本が不透明な裁量型政治――裁量政治の総てが悪いわけではないが――から透明性のある政治に転換する実験という大きな意義ももつものだと思う。この重要な実験を自ら失敗させることはして欲しくない。BSE問題には、そういう政治的意義もあると考えている。

ま、もちろん、この日米BSE問題には、科学と法の筋論に加えて、国内牛生産者の利害とか、いろいろなスーテクホルダーの利害も絡んでいて、そういうところの筋論(透明性とオープンネス)――そうした利害の擁護が他の関係者から見て受け入れ可能なものかどうかがオープンに吟味されること――も必要なんだが。そういう部分も含めた「納得」づくりのプロセスとしての政治がどう行われるのか、ちゃんと見ていたい。

さて、そろそろ原稿仕上げなきゃ。

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コメント(3)

hirakawa さん、こんにちは。

私もこのニュース見ました。
この件に関してだけは、「小泉首相よ、よくぞ言った」と笑顔が出ました。

「輸入再開は科学的に判断されるべき」この主張を最後まで貫き通してもらいたいものです。

「20ヶ月も30ヶ月も大した違いじゃない!」とかいうかと心配してたんですが、よかったですねー。

ブッシュに返した言葉、ほんと、しっかり守って欲しいですね。

はじめまして

拝見して、私も拙文を書いてみました。トラックバックを送らせていただきましたので、もしよかったら、お読みいただければ幸いです。
また、コメントいただければ大喜びして樹に登ってしまいます。

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このブログ記事について

このページは、hirakawaが2004年9月29日 04:48に書いたブログ記事です。

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