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「小学生の4割は天動説」~そんなに驚くことか?

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昨日のニュースだが、これって、目くじら立てて指導要領の修正を求めるほどのことか??
もっと大事なことは他にもあるだろうに?

天文知識:小学生の4割は「天動説」 天文台助教授ら調査(毎日新聞 9/21)
小学4~6年生の約4割は「太陽が地球の周りを回っている」と考え、半数以上は月の満ち欠けの理由を理解していないなど、基本的な天文知識を欠いていることが、縣(あがた)秀彦・国立天文台助教授らの調査で分かった。21日から盛岡市で始まる日本天文学会で発表される。縣助教授は「現在の小学生の学習内容は極めて不十分」として、学習指導要領の修正を提案している。

これに対して文科省は、「理解できない段階で単なる知識として教えることが良いことか」と、次のように反論している。(しかしこの記事の記者もアホかも。まだ習ってもいない知識が「崩壊」って何だ!?)

指導要領に問題ないと反論 天文知識崩壊で文科省(共同通信 9/22)
小学生の4割が天動説が正しいと答えるなど天文の知識が崩壊している実態を明らかにした国立天文台の研究者の調査結果について、御手洗康文部科学事務次官は22日の定例会見で「地球の自転や公転についての学習は中学校で、きちんと体系的にすることになっている」と述べ、学習指導要領に問題があるとの見方に反論した。
 御手洗氏は「自転や公転を体系的に理解するのと、単なる知識として地動説を知っているのとは別」と強調。「中学校で観察を行い、天体の動きを理解させている。指導要領の全体構造を見てほしい」と語った。
 さらに御手洗氏は「ただ、知識の問題ならば、日常生活の常識としてどこで教えていくか。家庭や大人との会話などで教えていくという問題を、もっと考えることが必要とは思う」と述べた。

小生も現行の指導要領にはいろんな意味で問題が多いと思ってるが、この件についてだけは文科省に「勝ち」をあげたい。

だいたい天動説的世界観から地動説的世界観への転換って、かの哲学者カントが、自身の認識論の改革の根源性を表現するのに「コペルニクス的転回」という言葉を使ったほど、人類にとって大きな認識の変化である。もちろん、歴史をさかのぼれば、コペルニクスよりもずっと昔から太陽中心説の宇宙観というものはあったが(ただしそれは、経験的empiricalなものというよりは宗教的なものだが)、普通の人間の感覚経験にとっては、静止している大地に対して太陽が東から西に回るのであり、天動説のほうがずっと自然な世界観である。習ってなければ、大部分の子供は天動説を選ぶだろう。実は世界はその反対で、地球が太陽の周りをまわってるというのは、それを真実として受け入れるとすれば、知識として教えられる――悪く言えば鵜呑みにする――か、はたまた精密な惑星の運動の記録データと数学的計算から導きだすなど、いずれにせよ何らかの認識のジャンプをしないといけない。なかには、最初から地動説的世界観をもっている人もいるだろうが、それはいわば想像や思いつきであり、経験的証拠や論理的推論に裏打ちされた「知識(episteme)」ではない。また地動説について習って知っているとしても、なぜそうだと考えられるのか――僕らは太陽系の真上まで行って、太陽の周りをまわる地球の姿を直接見られないのだから、あれこれの事実(これも大多数の人にとっては自分で確かめたものではないが)と推論をつなぎあわせて体系的・総合的に理解するしかない――も理解していなければ、意味のある知識ではない。逆に言えば、今回の調査で「正しく」解答した生徒たちにしたって、どれだけ「理解」したうえでの知識をもっているかは、はなはだ心もとないのじゃないだろうか。

また、惑星や宇宙の他の部分のことを捨象して太陽と地球だけの関係を考えれば、座標系を太陽中心にするか地球中心にするかで、地動説も天動説もどちらも正しくなる。

さらにいえば、この天動説・地動説に関する設問は二者択一だそうだから、学校で習っていないのにもかかわらず、6割の生徒は正解していたことになる。たとえそれが単なる知識だとしても、それは、塾での勉強か、あるいは、御手洗事務次官が指摘している「日常生活の常識として家庭や大人との会話などで教えていく」という営みがかなりうまくいってる証拠じゃないのか?

ま、いずれにしても、小学生の4割が天動説、なんて驚くべきことじゃない。なにしろ習っていないのだから。むしろ、単なる知識ではなく、自分の感覚経験から自ら導き出した答えとしてほめてあげたらどうだろう?それこそ、科学する態度だろう?(まぁ、あてずっぽで答えたかもしれないし、自らの経験から導き出してるかどうかは、別途テストする必要あるけどね。)それと、この点で問題なのは、「『太陽の沈む方角』(東西南北から選択)の正答率が65%」という事実のほうだろう。感覚的経験すら乏しいわけで、これは、「学校で教えていない」とか指導要領の問題ではなく、「日常生活の常識として家庭や大人との会話などで教えていく」という営みすら奪う何かがあるということだろう。

それから、どうせこういう調査をするなら、大人にもやってみたらどうだろう?さすがに天動説か地動説かの設問は正答率が高いかもしれないけど、全体としては、それほど成績がいいようには思わないのだが、どうだろう?(学校の先生を対象にしてみるのも面白いだろう。)まぁ、ウチの学生さんたちを見てると、地動説も怪しいかなとちょっと思うけど。

とはいえ、それでもやはり、「学習指導要領の改正を」なんて叫ぶほどの問題ではないだろう。別に天文の知識がなくたって、生きてくのには困らないし。もちろん、天文学者が、自分の好きなものについて、できるだけ多くの人に知ってて欲しいというのは、心理として理解できるし、まぁ、地動説を知っていたほうが、SF小説や映画を楽しむ上で、あるいは何かの講演会で天文学者のお話を楽しむ上で、ステキなことかもしれない。だけど、まぁ、それは人それぞれ、天文学者以外には趣味の世界のことでないだろうか?

それよりも、指導要領の改正を求めるとするならば、この地上で平和に生きて暮らすためにもっと大事なことは他にたくさんあるだろう。

たとえば、改正(?)の動きが次第に大きくなってきている憲法の問題。このブログでも何度か書いたが、憲法というものが、国民を縛るためのものではなく、国民が国家権力を縛るためのものだという「立憲主義」を、いったいどれだけの有権者が理解しているだろうか?忘れたふりをしてるだけなのか、本当に理解してないのかわからないが、自民党の憲法調査会の連中は、この立憲主義の根本を覆すための「憲法改正案」を準備している。「教育基本法改正」にしても、まだ全貌は明らかになってはいないものの、要はそういう逆立ちした「エセ憲法」のもとで自ら「支配されたがる人々」を作るためのものだといいたくなるシロモノに違いない。それらが立憲主義にも民主主義にも反する重大な反逆行為だということを理解できる大人がどれほどいるだろうか?地動説を知らない子供や大人より、こちらのほうがずっと日本人と世界の人々の未来に関わる一大事であり、立憲主義の意味について、そして、そういう原理原則を大事にし、そこからあれこれの事柄を判断する力を養えるよう――これこそ理科、文科にかかわらず大切な教育の目的だろう――現在の指導要領を改善するよう求めるべきことじゃないだろうか?

ところで、小生の天動説・地動説の「コペルニクス的転回」はどうだったか?その点についてはよく覚えていない。たぶん、小学二年で天文学者になることを夢見た早熟な小生の場合、百科事典か何かでそれを知識として得たのだろう。その代わり、地球が宇宙という空間に浮かぶ丸い星であることを理解した体験は強烈に憶えている。1969年7月、アポロ11号ではじめて人間が月に降り立った時のニュース。そのなかで映し出された地球の姿を見て、「これがみんなが住んでる地球だよ」と母親に教えられたとき、幼稚園児だった小生は「それ(地球が丸いこと)じゃ下側の人が落ちちゃうじゃない」と言い返した。そしたら母親は「大丈夫。地球には引力があって真ん中に引っ張ってるから」と答えた。もちろんすぐには飲み込めない話だったのだが、たぶん「地球の外の宇宙は無重力で」というのも教えてくれたのだろう、しばらく(数分か、数時間か、数日かは思い出せないが)してハタと合点がいった。最初は、引力があっても、「上側」の人は安心かもしれないけど、「下側」の人は、ぶら下がり状態で大変だなとか想像して、なんだか自分まで落ち着かない気分だったのだが、やがて、その「上/下」という意識が消えて、すべてがすんなり腑に落ちたのだ。振り返っていえば、それは、「上/下」というのは、地球の外側から地球を眺めるときでもそのままあてはまるような絶対的な枠組みではなく、地球上のそれぞれの場所ごとに定まる相対的な枠組みだということを理解したのだと思う。それ以来、宇宙に浮かぶ地球の姿を見ても、「下側の人は大変だなぁ」なんて不安に思うことはなくなった。それが小生にとっての「コペルニクス的転回」である。

(追記: 9/24)
圏外からのひとこと(essaさん)のエントリー「地動説は『常識』か?」で、今回の調査にやはり疑問を投げかけているブログを発見。山伏クレムリンさんへのトラックバック元や、その他で見つけたのもいくつか。

以上、まとめてトラバさせていただきました。

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このページは、hirakawaが2004年9月22日 23:26に書いたブログ記事です。

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